「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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短めのを2話にしたかったのですが、
本文1000字制限にかかったので、今回は一話に2話分を入れました。


第67話 『こなかったら許さない⁉』

木々のあいだを埋めるように密集していたゴブリン達がバラバラと散開し、叫び声を上げて走りはじめる。

 

「スペスっ! はやく逃げないとっ!」

 アルマはそう言ってスペスを見たが、スペスはしばらく考えてから言った。

「やっぱり、ボクはもうちょっと後から行くよ」

 

「さっき逃げるって言ったじゃない!」

 アルマは声を上げた。

 

「ここにいたら危ないのよ!」

「わかってる……」

 落ちついた声でスペスは言った。

 

「でも、もう少しだけこの戦いを見ていきたいんだ。絶対にあとで行くから、アルマはタッシェと先に行っててくれ!」

 

 スペスはそう言うと、首にしがみついていたタッシェを無理やりにはがし、アルマに預ける。

 

 

 嫌がるタッシェが『オニイチャ!』とのばした手を、スペスは『ごめんね』とやさしく払いのけた。

 

 声をあげて泣くタッシェを抱きしめて、アルマは戸惑いぎみにスペスを見る。

「どうして来ないなんて言うの⁉ ねぇ……いっしょに逃げましょ?」

 

「行かないだなんて言ってないよ。ただ、もう少しこの戦いを見たいんだ。

 アールヴ(ここ)の人たちがどこまで戦えるのか。

 悪魔(むこう)の、特にあのデカいのが、どのくらい強いのか」

 

「そんなの見なくていいわよっ! ねぇ、逃げましょう! そんなことして、死んじゃったらどうするのよ!」

「大丈夫だよ。ボクはまだ死ねないんだ」

 そうスペスは言った。

 

「――ボクはアルマを村に帰して、その胸を触らせてもらうんだからね。死んじゃったら約束が果たせない。だから必ず行くよ!」

 真剣な顔で言うスペスに、アルマは悔しそうに目を伏せた。

 

 言い合っている間にも、ゴブリン達のあげる声が近づいて来る。

「来て……くれるのよね?」アルマが訊く。

「もちろんだよ」スペスが答えた。

 

「わかった……!」

 アルマは、泣きじゃくるタッシェを抱えて、うなずいた。

「そのかわりっ、絶対に来てよっ! こなかったら許さないからねっ!」

 

「わかってるっ! それじゃあ!」

 短く手を振り、スペスはアールヴ達の方へ駆けていった。

 

 見送りながら唇を噛んだアルマは、くるりと向きを変え、スペスと反対へ走りだす。

 肩から身を乗りだしたタッシェが、何度も後ろへ「オニイチャ!」と叫んでいた。

 

 

 

第68話 『早く来てよね……⁉』

 

「たしかこのあたりだったはず――」

 

 集落の外れまでやってきたアルマは、きょろきょろとあたりを見まわす。

「どれだっけ? タッシェ?」

 

 尋ねてはみたものの、かかえられたタッシェは、ずっと泣きじゃくっていた。

 

「そうよね……」とアルマは首を振る。「わたしだってそうしたい気分だもの……」

 重い息をつきながら、近くの家の扉を開ける。

「ここは……違う?」

 

 中を見たアルマは扉を閉めると、つぎの家へと向かいながら、あやすように声をかけた。

「大丈夫よ、お兄ちゃんはきっと、あとで来てくれるからね――」

 そして自分に言い聞かせるようにつぶやく。

 

「だってスペスは言ったもの……わたしを守るって。言ったんだから。必ず村に返すって。そうじゃなかったら、わたしだって――」

 

 思わずうつむきそうになった顔を上げ、アルマはつぎの扉を開く。

 

「あった……これよね?」

 

 アルマが覗いた薄暗い小屋には、土間にいくつかの箱や樽《たる》が置かれていた。

 すばやく中に入ったアルマは扉を閉め、背中をなでながらタッシェが落ち着くのを待つ。

 そうするあいだにも、遠くからは、叫び声となにかがぶつかるような音が聞こえてきた。

 

「お兄ちゃんが来るまで隠れていなきゃいけないのよ……だからお願い。ね、タッシェ?」

 抱きしめてそう言うと、ひっくひっくとベソをかいていたタッシェが、こくりとうなずいた。

 アルマは微笑んで、タッシェをそっと下におろす。

 

 のそのそと隅のほうへ歩いていったタッシェが土に手をつくと、土が沈みはじめ、暗く狭い穴ができた。

 タッシェはしゃくりあげながら、もぞもぞと穴へ入っていく。

 

 アルマも、置いてある箱で手早く周りを隠し、あとを追って穴に入った。

 

 

 下までおりると、四つん這いなら通れるほどの横穴につながっていて、手前に袋が置いてあった。開けてみると、水と食料だった。

 

 袋のとなりに座りこんでいたタッシェが、また声をあげて泣き始める。

 外の音が遠くなった穴の底では、タッシェの泣き声だけが強く響いていた。

 

 アルマも、暗いなかでじっと座りこむうちに、行ってしまったスペスの事を考えてしまい、鼻にツンとくるものを感じる。

 

 それでも、こぼれそうになる涙をなんとかこらえたアルマは、じっと上を見あげた。

「早くきてよね……スペス」

 願いを込めてつぶやいた穴の上には、薄暗い天井だけが見えていた。

 

* * * * * * *

 

 その頃――

 始まったアールヴと悪魔との戦闘は、アールヴの優勢で進んでいた。




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離れ離れになるふたり。スペスは来れるのか⁉

それでは次回、
第69話 『戦況を変えた一撃⁉』
で、お会いしましょう!
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