「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第75話 『お願いだから⁉』

「う、うそでしょ、なんでよ⁉」

 意味がわからず、思わずアルマは立ちあがった。

 

「んー、ボクらが無事に帰るためには、やっぱり、あいつらに勝たないとダメな気がするんだ」

 支度をつづけながら、スペスは言う。

「だって――あいつらが勝ってそのままココに居座ったら、あの神殿のあたりは調べられなくなる」

 

「それならせめてっ、メイランさんが来てくれるまで待てばいいじゃないっ!」

「ダメだよ……」とスペスは首をふった。

「それだとアールヴの人達に、かなりの犠牲が出ちゃう。ヘタをしたら全滅に近いくらいの……」

 

「そうかもしれないけどっ、だからってスペスが行ってどうなるのよ!」

 アルマは、どうにかしてスペスに思いとどまらせようと説得する。

 

「いまから行っても、どうにもならないわよっ。コレは、とっくに起こった事なのっ。

 三百年後にここのひと達は……、もう、いなくなっていたんだから……。スペスが行ったからって、何も変わらないじゃない……」

 

「そうだけど、そうじゃないんだよ」

 スペスが落ち着いた声で言った。

 

「確かに、〝その過去〟にボクらはいなかった。アールヴとメイランさんとの接点もなかったはずだ。でも――〝その過去〟と、ボクらがいる〝この今〟は同じじゃないんだよ」

 

 ――だって、ボクらがいるんだから。

 そうスペスは言った。

 

「だからさ、〝未来(これから)〟がどうなるかはわからないけど……、ボクが何かをすれば、結果はぜったい同じ事にはならない。……そうボクは思うことにした」

 

 静かにスペスは語る。

 

「ボクは……ボクらがリメイラに帰るために、そして、アールヴの人たちが滅ぼされないように、今できることは、やっておきたい」

 

「そんなことを言ってもっ!」

 アルマは、支度を続けるスペスの服にしがみついた。

 

「いま行ったら、死んじゃうかもしれないのよ! あの化け物に殺されて、食べられちゃうかもしれないのっ!

 これが……わたし達が会える……、最後になるかもしれないんだよっ!」

 

 アルマの大きな声が、穴のなかに残響をのこす。

 

「大丈夫だって。ボクは死なないよ」スペスは言った。

「ボクは、アルマをリメイラ村に帰さなきゃいけないからね」

 

「そんなの、もういいからっ!」

 アルマは叫んだ。

 

「そんなの、もういいのっ! お願いだからここにいてっ!

 わたしを……置いて行かないで! わたしを……ひとりにしないでよ……お願い……します」

 

 スペスにすがりつき、その瞳をじっと見る。

「ごめん……」とスペスが言った。

「――ボクだって、アルマを置いて行きたくはない。でも、長老さんやタッシェを、この先ひとりぼっちにもしたくないんだ。もし助けられるなら、ボクは……アールヴを助けたい」

 

「嘘……つき」

 目を伏せてアルマは言った。

「スペスはわたしを守ってくれるんじゃ……なかったの?」

「ごめん……」

 スペスが言うと、しばらく沈黙がながれた。

 

「わかったわよ」

 うつむいたまま、アルマは言った。

「勝手にどこだって行けばいいじゃない! スペスはバカなんだからっ! 知ってたわよ!」

 

「ごめん……」

 また――スペスがあやまった。

「いいわよ……」下を見たまま、アルマは言った。

 

「スペスは、頭が悪くて常識が欠けていて、言うことがつまんないし、無益で役にも立たないけど、ついでに言うならスケベで約束も守れない事ぐらい……知ってたわよ!」

「なんでいま、言い直したの……?」

 

「頭が悪くて常識が欠けていて、言うことがつまんないし、無益で役にも立たないし、ついでに言うならスケベで約束も守らないけど――

 いつもスペスは何かに一所懸命なのよね……それはよく知ってるから……」

 

 だから……もう止めない。

 けどっ――

 顔を上げたアルマは、涙をあふれさせながら、潤んだ声で精一杯に言った。

 

「無茶してもいいっ! 怪我をしてもいい! わたしが治してあげるっ! だからっ……お願いだからぁっ! 絶対に死なないでぇぇっ!」

 

 泣きながらそう訴えるアルマを、スペスは無言で引き寄せ、抱きしめた。

「わかった。ボクは死なない。無茶なこともしない。約束するよ」

「嘘……つき」

 頬を濡らしたアルマも、腕を回してスペスを抱きしめる。

 

 そのままふたりは、しばらく無言で抱きあった。

 

 やがて、スペスがそっと手をゆるめると――ふたりはすこしだけ離れた。

 お互いの顔を見つめあうふたりの唇が、僅かな灯りに照らされて、吸い寄せられるように近づいていく。

 

「あの……スペスさん」

 突然近くから声がして、ふたりはパッと勢いよく離れた。




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また寸止めか⁉
すみません、もう少しだけ待ってください。(土下座)

それでは次回、
第76話 『お好きなんですか⁉』
で、お会いしましょう!
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