「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第82話 『唸る風と、光る剣先⁉』

 アルマは、地面を蹴ってオーガに飛びかかった。

 

 適切に《強化》が効いたアルマの踏み込みは、さっきよりも数段速く、

 手にする木剣の切っ先が、オーガに向かってまっすぐに光跡をのこす。

 

 それを迎え撃つオーガは、またしても平手を打った。

 

 だがこちらも、先ほどとはまるで違う。

 腰から全身のひねりを効かせた、あらん限りの平手打ちだった。

 唸る風が、アルマに向かって流れていく。

 

 そして、先に攻撃が届いたのは、またしてもオーガのほうだった。

 

 オーガは今回もアルマが近づくのを許さず、丸太のように太い腕を叩きつける。

 だがアルマも、一度受けたオーガの攻撃が自分よりも長く遠い事など、とっくに理解していた。

 

――ここっ‼︎

 と、脚を思い切り踏みこんで前への勢いを殺したアルマは、身体をひねり、横から迫るオーガの腕へと向きを変えた。

 

 そのままアルマは、身体を倒しながら木剣を振りおろし、目の前に迫る平手を全力で打ち返そうとする。

 

「でぃあああぁぁぁぁぁっ‼︎」

 とアルマが咆え――

 オーガの腕とアルマの木剣が、激しくぶつかりあった。

 

 唸る風と、光る剣先。

 暴力と、死力。

 純粋な力と力の勝負は、一瞬で決着した。

 

 

 大きく足を踏み出して、倒れんばかりに体を倒したアルマの木剣が、ひかりの弧を描いて地面まで振り切られる。

 

 その剣に叩き返されたオーガの腕は、来たとき以上の速度で後ろへと弾かれ、轟音とともに壁に打ちつけられた。

 

 身体より後ろまで持っていかれた腕に、オーガの肩がゴキンッと鳴り、力と力がぶつかりあった手首のあたりは、グチャグチャに潰されていた。

 

 ゆっくりと身体を起こしたアルマが、オーガを睨みつける。

 

 目があったオーガは慌てて向きを変え、入ってきた穴に向かって走りだした。

「……逃がさないっ!」

 

 後を追いかけたアルマの木剣が、逃げるオーガの腰に叩きつけられ、バキボキと骨を砕く音がする。

 無様に倒れて地面を転がったオーガが、その最期に見たものは――

 

 自分の頭に振りおろされる一筋の光だった。

 

 

 

 オーガにとどめを刺したアルマは、木剣を投げ捨てて、タッシェに駆け寄った。

 

「タッシェ……っ!」

 急いで抱えあげると治癒の魔法をかける。オーガの真っ青な血に染まったアルマの手が、ひかりを発してタッシェを包みこんだ。

 

 口から血を流しながらも、タッシェには意識があったようで、うっすらと目をあけてアルマを見ていた。

 

「……ごめんねっ、ごめんねぇぇっ!」

 アルマが声を上げた。

「わたしがっ……もっとちゃんと戦えてたらっ……こんなことにっ……ならなかったのに! ほんとうにっ…………ごめんねぇっ!」

 

 魔法をかけながら、アルマはくりかえしタッシェに謝った。ほどけたアルマの髪がタッシェにかかり、ぼろぼろとこぼれ続ける涙がタッシェを濡らす。

 

 焦点の合わない目で、タッシェはアルマの指を弱々しくにぎった。

「ダアィ……ジョブ」

 そう言って笑おうとしているようだった。

 

「ごめんねっ! ごめんねぇぇぇっ!」

「ダアィジョ……」

 言いかけて、タッシェはゆっくり目を閉じた。力を失った手がアルマの指からするりと落ちる。

 

「タッシェっ‼」

 アルマは息をのんでタッシェを見た。

 だが、タッシェの胸はちいさく上下していた。ただ意識を失っただけのようだった。

 

 全身の力が抜けたアルマは、息を吐いてもう一度タッシェを見る。

 傷はすでにふさがり、血も止まっている。呼吸は早いが安定していた。ひとまずの容体としては大丈夫にみえた。

 

「アルマさん、ありがとうございます……」

 長老が壁に寄りかかるように座っていた。

 

「あ、ごめんなさい! 長老さんもすぐ!」

 アルマは、タッシェをかかえて長老のところに走る。

 

 長老も、骨折や打ち身をいくつも負っていたが、すぐに命に関わるものは無さそうだった。アルマはタッシェをかかえたまま、長老にも応急手当をする。

 

「お見事でした……」

 治療を受けながら、長老が言った。

「いえっ、そんなことありません……」

 アルマは小さく答える。

 

「――わたしがもっとちゃんと考えて、動けていたらっ。最初からもっと勇気があればっ、長老さんもタッシェもっ……こんな怪我をしなくても済んだのにっ!」

 腕の中のタッシェを見て、アルマの声がつまった。

 

「そうだとしても、です」

 静かな声で長老は言う。

「貴女がいなければ、私もタッシェも生きてはいなかったでしょう。それは――貴女が勇気を出して行動した結果ではないのですか?」

 

「でもっ……うぐっ、でもっ……」

 嗚咽するアルマに、長老は言った。

 

「いつも上手くできる人など、どこにもいませんよ。貴女はあきらめずに動き、たとえ最善でなかったとしても立派に結果を出しました。ましてや、あのオーガを、お一人でです。それは、誇っていいことですよ」

 

「ぐずっ……ぞ、ぞうでじょうか」

 アルマは鼻をすすりながら訊く。

「無論です。貴女が此処にいてくれて、本当に良かったです」

 

 長老はそう言ったあと、いえ、と言い直した。

 

「貴女方が、ですね。ですから、もう泣かないでくださいな」

 長老はそう言って、アルマのほどけた髪を、そっとなでた。

 

 

 〝貴女方〟という言葉を聞いて、アルマは、スペスが言ったことを思い出す。

 

『〝その過去〟と、ボクらがいる〝この今〟は同じじゃないんだよ。

 だって、ボクらがいるんだから。

 だからさ、〝未来(これから)〟がどうなるかはわからないけど……ボクが何かをすれば、結果はぜったいに同じ事にはならない。そうボクは思ってる』

 

 

――わたしたちがここに来たことには意味があるの? もしも結果が変えられるなら、なにが出来るの?

 

 長老に髪を撫でられながら、アルマはうつむき考える。

 

――ううん、きっとそうじゃないんだ……。〝いま〟わたしがどうしたいか、なんだ……。

 

 そう考えたアルマは、スペスがここを出て行った理由がわかった気がした。

 涙はいつのまにか止まっていた。

 

 勢いよく頭を上げてアルマは言った。

 

「長老さん!」

 髪をなでていた長老は驚いて手を引いたが、何も言わずにアルマの言葉を待ってくれる。

 

「わたし、行ってきます!」

 アルマは迷いのない声でそう言った。




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隠れることをやめ、穴から出る事を決意したアルマ!

それでは次回、
第83話 『わたし、行ってきます⁉』
で、お会いしましょう!
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