「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第84話 『会いたかったよ、アルマ⁉』

 すっかり空も暗くなったころ――

 立ち並ぶ木々のあいだを、光がひとつ、あわただしく揺れながら動いていた。

 

 光の持ち主であるアルマは、ハアハアと息をはずませながら走る。

 後ろからは、十体ほどのゴブリンが追いかけていた。

 

「なんで、こんなに集まってくるのよー!」

 走りながらアルマはひとりで叫んでいた。

 

 防御よりも攻撃、手数よりも一発の威力で勝負するアルマは、同時に大勢を相手にしたくなかった。

 とはいえ、走り回っているうちに、ゴブリンは一体、また一体と増えていく。

 

「ええいっ、こうなったら相手をしてやるわ! オーガにくらべりゃあんた達なんて、とっぴんしゃんよ!」

 

 訳のわからないことを言いながら、追手のほうへ振り向くが、奇声を上げて走りくるゴブリンたちのさらに後ろに、まだ遠いがオーガの姿が見えた。明らかに、アルマへ向かって来ていた。

 

「やっぱ無理ーっ!」

 そう叫ぶと、くるりと向きをかえ、アルマは、再び走り出す。

 

 木々のあいだをめちゃくちゃに走りつづけていると、急に声が聞こえた。

「こっちだ! アルマっ!」

 姿は見えなかったが、スペスの声だった。

 

「スペスっ? どこなのっ⁉」

 アルマは、走りながら叫んだ。

「こっち!」

 

 また声がした。斜め前からだった。

 アルマはそちらへ向けて、さらに走る。

 

「いいぞ、そのまま!」

 声を頼りに進んでいくと、木々の向こうの草むらに、しゃがんでいるスペスが見えた。

 

「スペスっ……!」

 感情があふれて駆け寄ろうとしたアルマに、スペスの声が飛ぶ。

「こっちじゃない! あそこに立って!」

「えっ……?」

 

 スペスは、すこし離れた、地面の高い場所を指す。

 なんのことかわからずに戸惑ったアルマだったが、すぐに言われたところまで走る。

 

「こ、このへん?」

「違うっ! もう少し後ろ! そう、そこで剣を高くあげてっ! 視線を上に誘導するんだっ!」

「は、はいっ!」

 意味はわからなかったが、アルマは言われたとおりに木剣を高々と頭上にあげる。

 

 あたりを照らす明るさに目が慣れてしまい、暗闇から迫ってくるゴブリンの位置が分かりにくくなったが、近づいて来ているのは間違いなかった。

 

 ヒュッと音がして、スペスの振ったムチが離れた木の根元に、巻きついた。

「そう……そのまま、そうしててくれよ」

 木の陰に隠れたスペスが、アルマの方を見る。

 

 近くに来たゴブリンの集団が、アルマを見つけて一斉に駆け寄った。

「せーのっ!」

 タイミングを計っていたスペスが思い切りムチを引く。

 

 ピンと張られたムチに足を取られて、走ってきたゴブリンの何体かが倒れ、さらに何体かが、倒れた仲間にぶつかって転がった。

 

「えいっ!」

 とアルマの光る木剣が振りおろされ、間一髪で仲間を飛び越えたゴブリンが叩き飛ばされる。

 アルマはもうひと振りで重なり合う二体を、さらにひと振りで起き上がろうとした一体を叩き潰した。

 

 見ると、スペスも転がったゴブリンの首にナタを打ちつけて、二体をしとめていた。

 一瞬で六体もの仲間がやられたゴブリンは、急におよび腰になり、散り散りになって逃げていく。

 

「よしっ!」とスペスが声を上げた。

「スペス……」

 もう一度スペスに出会えて、アルマは胸がつまりそうになる。

 

 だが――

「あかりっ!」

 叩きつけるようにスペスが言った。

 

「えっ……?」

 とアルマはまた戸惑う。

 

「早くっ、《灯り》を消してっ!」

「あっ、はいっ……」

 アルマはあわてて、木剣にかけた魔法を消した。

 

「よしっ、そしたら……こっちだ!」

 スペスはそう言うと、アルマの手を引いて歩き出し、すこし離れた茂みに入ってしゃがみ込む。

 

「オーガが近づいてきてるよ――だから、ここに隠れてやり過ごそう」

「うんっ」

 嬉しそうにうなずいて、アルマもしゃがんだ。

 

 

(ねぇ……)と、小声でアルマは訊く。

(前みたいに、匂いで見つからないかな?)

 

(……あのオーガってのは、ゴブリンほどは鼻がきかないみたいだよ)

 スペスが小声で返す。

(そのかわり、夜でもよく目が見えるみたいだから、さっきみたいに灯りなんかつけたら、来てくれって言ってるようなものだよ)

 

(あー、だからあんなに追いかけられたのね……。気づかなかったけど、失敗だったわ……)

 

(でも、そのおかげで、また会えたよ。アールヴの人たちも灯りをつけないからね。すぐにアルマじゃないかって思ったんだ)

 

(そうなの……? なら結果良しね、さっすがわたし!)

(でも、もうやらないでよ)と、スペスは笑いをこらえる。

(そんなのわかってるわよ……)

 口を尖らせたアルマに、スペスが訊いた。

 

(ソレ、どうしたの?)

(なにが?)

(髪の毛、ゴブリンにでも食べられちゃった?)

 

(やめてよ……気持ち悪い。これは邪魔だったから切ったのよ。あ、もしかして変かな?)

(変じゃないよ)

 とスペスが首を振る。

 

(アルマは、短いのも良く似合うね)

(そう? まあわたしって、なんでも似合っちゃうからね……ふふっ)

 とアルマは短くなった髪を振る。

 

(うんうん、アルマなら、つるっ禿(ぱげ)になっても、きっと良く似合うよ)

(それは嬉しくないわね……)

(そうなんだ……)

 とスペスは意外そうな顔をする。

 

(それにしても、さっきのアルマはすごかったね、ゴブリンをあんなに倒すなんて、急にどうしたの?)

(そりゃあそうよ、だって――)

 

 アルマが得意げに言いかけると、スペスが手で止めた。

(しっ……、オーガが来たよ)

 ふたりがさっきまでいた辺りで、ガサガサと音がする。

 

(よくみえないわ……)

 アルマは茂みの隙間から目をこらしたが、暗い森のなかではぼんやりとしか見えなかった。

 

(そのうち目が慣れてくるよ。今日はよく晴れてるから、赤いほうの月が出てくれば、もっと見えるようになるはずなんだけど――)

 

(そうね……)

 とアルマが上を見ると、木々のあいだから見える空には、幾百の星が輝いていた。

 

(とにかく、あいつが諦めてどこかに行くまで、ここでやり過ごそうよ)

 スペスが言った。

 

(ねぇ、あのオーガなんだけど……)

 アルマはオーガを眺めながら訊く。

(まだわたし達に気づいてないし、他に仲間もいないみたいでしょ。今なら倒せるんじゃない?)

 そう言ったアルマを、スペスは驚いた顔で見た。

 

(そうかもしれないけど、アレをふたりで倒すのは厳しいと思うよ?)

(このまま逃して長老さんのところへ行ったりしたら大変だもの――大丈夫よ、わたしにまかせて!)

 アルマは力強く言い切った。

 

 スペスはもっと驚いた顔をしたが、揺るがないアルマの顔に、『よし、わかった』とうなずいた。




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やはり、スペスがいると頼もしい感じがしますね。

それでは次回、
第85話 『ふたりのコンビネーション⁉』
で、お会いしましょう!
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