「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第86話 『気分が高まっちゃっただけかもねっ⁉』

「い、いいわよ……」

 アルマは、コホンとひとつ咳をした。

 

「わ、わたしね……、スペスのこと……………」

「う、うん……」

 

「ス、スペスのこと……だ、だいすキライ!」

 いい笑顔だった。

 

「間違いない……本物のアルマさんだ!」

 スペスのその言葉に、こらえきれなくなったアルマが、ぷっと吹き出した。

 

「あはは……」とスペスも笑う。

「こんなやり取りも、ずいぶん久しぶりな気がするね」

 

「そうね――」とアルマはうなずく。「生まれる前にやって以来よね」

「そんな前には、やってないし、できないし、会ってもいない」

 

「あら? 今いるのが本当に三百年前なら、生まれる前なんじゃないの?」

「ああ……それはたしかに、そうだね」

 

「でも――もしできるなら。生まれたあとにも、またやりたいわね」

「できるよ。きっと」

「うん!」

 

「でもさ……、充分に戦えるのはわかったけど無理はしないでよ。死んじゃったら、生まれたあとには、できなくなるからね」

 

――自分のことは棚に上げて、人のことばっかり……。

 そう思ったアルマはスペスを見た。

 

「あら、知らないの? わたしは死なないのよ?」

 と悪戯(いたずら)っぽく笑う。

「――だって……スペスが守ってくれるんでしょ?」

 

「そうだね……そうだったよ」

 スペスは、複雑そうな顔でうなずいた。

 

 そんなスペスを笑いながら、アルマは『だからね――』と言う。

 

「スペスがわたしを守るなら、わたしはスペスを助けるわ。どれだけ怪我をしたって治してあげる。だから――」

 確認するようにもう一度スペスを見た。

 

「ふたりで一緒に村に帰りましょ! わたしとスペスのふたりで、よ!」

 スペスは、ちょっと驚いた顔をしたが、すぐにうなずいた。

 

「わかったよ。必ず帰ろう。ボクとアルマのふたりでだ!」

「うんっ」とアルマは、嬉しそうに微笑んだ。

 

「よしっ! それじゃあ行こうか。ここからだと、どっちに行くのがいいのかなぁ――」

 そう言って周りをうかがい始めるスペスの背中を、

 アルマはまだ、じいっと見つめていた。

 

「ねぇ――」

 と声がして、

 

「えっ?」

 と、振り向いたスペスの口に、そっとアルマの唇が押し付けられる。

 

 おどろいたスペスは、ふさがれた口でなにか言おうとしたが、首のうしろをアルマに押さえられて、すぐに大人しくなった。

 

 石にかけられた魔法の灯りに照らされて、ふたりは口づけをしあい、夜の森がしずかに包みこんでいた。

 

 

 

 やがて口をはなし、ふたりはぎこちなく離れた。

 

「イヤ……だった?」アルマが訊いた。

「イヤじゃ……なかったよ」スペスが答えた。

「そっか……」とだけ、アルマは言った。

 

 スペスが腑に落ちない顔をする。

「なんでなのかを訊いてもいい?」

 

「んーっ? なんで、かー?」

 アルマは急にニマニマして、嬉しそうにスペスを見た。

 

「なーんで、なんだろうねっ?」

「いや、ボクに聞かれても……」

「そうよねぇ~」とアルマは笑う。

 

「でーも、わたしにもよくわかんないっ! なんとなく、〝キスくらいいいじゃない〟って思ったからかなぁ~? あーでも、もしかしたら、ただ気分が高まっちゃっただけかもねっ!」

 

「そんなことで、ボクの初めてを奪ったのか……」

「いいじゃないの、それぐらい……」

 とアルマは口を尖らせた。

「わたしだって初めてよ?」

 

 それで何も言えなくなったスペスに、アルマは明るい声を出す。

 

「よぉし、それじゃあっ! スッキリしたことだし、行きましょうか!」

「ま、まってよ……ボクは全然スッキリしてないんだけど⁉」

 

「残念だけど、わたしはアルマに化けてるオーガだから、わからないっ!」

「いまさらっ⁉」

「まあまあ、いいからいいからっ!」

 と、アルマはスペスを置いて歩きだす。

 

「あっ、ほらっ、あっちから戦ってるような音がしてくるわよ。はやく行きましょ! さぁさぁ、しゅっぱーつ!」

 

 機嫌よさそうにそう言うと、

「ま、待ってよー」

 と、スペスがあとを追いかけた。




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やったぜアルマ! 勝ち誇れ!

それでは次回、7章 決戦⁉
第87話 『やるだけやってみる⁉』
で、お会いしましょう!
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