「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第92話 『断れぬ頼み⁉』

 二人を抱えて走りながら、アルマは空を見た。

 

 メイランが来るとしたら、赤い月が高く昇った頃だからだ。

 だが、見上げた空に、赤い月はまだ山から顔も出していなかった。

 

 

 しばらく走ったあとで、トロルから充分に離れたことを確認したアルマは、応急処置をするために二人を下ろした。

 

 傷の具合を確認すると、隊長は何か所も骨折をしていたが、治療をすれば助かりそうだった。

 

 一方でイオキアは、おそらくトロルの蹴りを直撃で受けたのだろう、背中に酷い打撲痕があり骨格が見てわかるほど変形していた。

 裂けた脇腹からは血がながれ続け、いくつかの内臓が潰されている可能性があった。アルマはすぐに、イオキアの治療にかかった。

 

――これは……、助からないかもしれない。

 魔法をかけながら、アルマは思った。

 

 もし助かったとしても、高度な魔法の治療を受けなければ、歩けないほどの後遺症が残ることは確実だった。

 それでもアルマは、いまできる治療に専念した。

 

 

 やがて腹の傷がふさがり出血は止まったが、アルマに傷ついた内臓を再生するような魔法は使えなかった。せめて、と思い《痛み止め》をかけると、イオキアの目がうっすらと開いた。

「アルマ……さん? ここは……?」と弱々しい声で訊く。

 

「怪我したお二人をトロルから離しました。痛みますか?」

「……彼女は?」

 

「怪我をしていますが無事ですよ。イオキアさんのおかげです」

「そうですか……ありがとう……ございます」

 礼を言うイオキアの声は抑揚がなく、まるで力が感じ取れなかった。

 

「スペスさん……は?」

「いまは、トロルを足止めしています」

 感情を出さないように、アルマは言った。

 

「そう……ですか。では私に……これ以上……の治療は……いり……ません」

「いま治療をやめたら、死んじゃいますよ!」

 アルマは声を上げた。

 たとえ最終的にそうなるとしても、今は治療をすべきだった。

 

「いいんです……、私は……助からない……でしょう」

「そんなこと言わないでください! 生きようとしてください!」

 

「すみ……ません」と言うイオキアの声が小さくなっていく。「もし……わがまま……聞いてもらえる……なら……さいご……彼女と、話を……させてくだ……い」

 

 そう言われて、アルマは迷った。それでも結局、イオキアのその頼みを断ることはできなかった。

 

「わかりました……いま隊長さんを治しますから、すこしだけ待っていてください。まだ、いかないでくださいね」

 声をかけてイオキアの治療をやめ、すぐに隊長にとりかかる。

 

「アルマさ……りがとう……ござい……あとは……私たちは……おいて、スペスさん……ところ……行ってくだ……。スペスさ……を助け………」

 

「わかったから…………もう、しゃべらないでっ‼︎」

 アルマが声を荒げると、イオキアはそれきり何も言わなくなった。

 

 隊長を治す途中、アルマは静かすぎるイオキアを何度も見た。そのたびにイオキアの胸はまだゆっくりと上下していた。

 

 アルマは、いざとなったら無理にでも隊長を叩き起こそうと思いながら、懸命に治療をつづけた。




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一方その頃、スペスの闘いは!

次回、
第93話 『スペス対トロル⁉』
で、お会いしましょう!
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