科学国家「サイエンス国」   作:コラーゲン 

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サイエンス国の歴史
建国の父 ユハン・サイエンスの人生


突然だが異世界にも当然ながらたくさんの国家や組織が存在する。王国やら共和国やら魔王軍やら色々だ。だが科学技術等は殆ど我々の暮らす世界の中世ヨーロッパら辺とさほど変わりはない。

 

だが今から紹介するこの国家は違う。

 

その国家の国名は「サイエンス国」。「サイエンス」を日本語訳すると「科学国」になる。正直言ってあまりにも安直すぎる国名だ。

 

国名である「サイエンス」はこの世界にいる1人のある科学者の名字からとられたものだ。

 

この国はその国名の名の通り科学技術が他国と比べて遥かに傑出した国となっている。

 

その科学技術は我々の暮らしてる世界よりも高く車や飛行機は自動運転が当たり前であり第一次〜第三次産業の殆どが自動化された機械で作業が行われている。

 

国家管理の元、各地に設立された国立科学・軍事研究所や国立技術所は日々更なる技術進歩に邁進している。

 

軍事技術も科学技術と同様に傑出しており陸海空軍の兵器も全て自動化、主力である兵士は人間ではなく全て兵士型アンドロイドが担っている。

 

何故この国がそこまで科学・軍事技術を他国と比べて傑出させることができたのか?

 

それを説明するにはこのサイエンス国が建国されるまでの経緯を話さなければならない。

 

まずサイエンス国が建国される50年前、後にサイエンス国が建国される場所には「スキエンティア」という都市国家が存在した。この国が後々建国されるサイエンス国の原型となる国家である。

 

この国は魔法研究よりも科学研究の方に力を入れており魔法研究を優先する他国からしてみれば少し異端な国家であった。

 

少し説明するとこの世界はサイエンス国が覇権国に上り詰めるまで魔法が科学より優れているという考え方が主流であり科学研究は少数派だったのである。

 

しかしスキエンティアは科学研究に何よりも力を入れ国家予算のおよそ21%を科学研究に当てていた。魔法研究はその半分以下の5%しか当てられていなかった。

 

さらにスキエンティアは魔法派の国民には「魔法紋章」、科学派の国民には「科学紋章」の着用を義務付けていた。割合で言うと3:7である。

 

しかしここで勘違いしないでほしいのがスキエンティアはあくまで分けてただけでどっちの国民であっても優遇したり冷遇したり等の優劣政策は行っていない事をここに説明しておく。

 

そんなスキエンティアにはこんな噂が存在した。この国の聖地である「科学の森」の奥にある広い平野にポツンと立っている巨大な門が別の世界と繋がっておりスキエンティアはその別世界から科学技術を提供してもらっているという噂である。

 

この噂の出どころはハッキリしていなく殆どのスキエンティア国民はその噂を本当だと信じていなかった。実際にそれを確かめようとした者もいたが科学の森には政府関係者以外立ち入れないように警備が24時間体制で敷かれていた。

 

そんな国に「サイエンス国建国の父」と後世で呼ばれる男が住んでいた。

 

男の名前は「ユハン・サイエンス」、この男の名字であるサイエンスが国名に使われたのである。

 

後にサイエンス国建国の父と呼ばれるようになる彼だが彼自身がサイエンス国を建国した訳ではない。建国したのは彼の弟子であったループ・フォン・ロマノ(ハプスルン)である。

 

サイエンス国建国の父と後世で言われているのだからユハンの家系は当然科学派だと思うだろうがユハンの家系は科学ではなく魔法派であった。

 

ユハンの父であるアルザス・サイエンスはスキエンティア魔法学校中等科の教員を務めており母のクララ・サイエンスはスキエンティア魔法研究所の研究員であった。

 

そんな魔法派の両親を持ったユハンは魔法に興味を持たない訳がなくユハンは将来魔法使いになることを志していた。

 

そんなユハンの考えが変わるのは彼が13歳の時に神聖帝国が引き起こした「スキエンティア戦争」のときである。

 

神聖帝国は前々から魔法研究よりも科学研究に力を入れているスキエンティアのことを快く思ってなく例の噂の件も鑑みスキエティア侵攻を決めた。

 

しかし神聖帝国はそれだけでは侵攻の大義名分にはならないため侵攻を決めた数日後ある事件を神聖新聞で大々的に掲載した。

 

それはスキエンティアの科学紋章をつけた国民が神聖帝国の国民を殺害したという事件とスキエンティアでは魔法と科学を支持する国民間で優劣政策が行われているというものである。

 

殺害事件は神聖帝国がでっちあげた真っ赤な嘘でありスキエンティアで優劣政策等の類が行われていなかったのは先ほど説明した通りである。

 

しかしこの内容は神聖帝国国民を一気に打倒スキエンティアに突き動かし国際社会からの支持を取り付けることに成功した。

 

もちろんスキエンティア政府は外交官を派遣しこれは事実ではないとすぐに釈明したが元々国際社会で孤立気味だったスキエンティア政府の言い分をどの国も聞かなかった。

 

そして神聖帝国は外交官をスキエンティアに派遣しもしこの最後通牒を呑まないなら1ヶ月後に侵攻を開始すると言った。

 

最後通牒の主な内容は以下の通りである。

1.スキエンティア政府は科学研究に関する一切の研究をやめること。

2.神聖帝国及び世界魔法教会主導による「科学の森」調査の許可を認可。

3.科学関連の施設を全て破壊し魔法研究に専念すること。

4.今までの科学研究の資料をこちらに引き渡すこと。

 

もちろんこの最後通牒をスキエンティア側が受け入れる訳なく突っぱねた。1ヶ月後神聖帝国は言った通りスキエンティアに攻め込みスキエンティア戦争を始めた。

 

スキエンティアに攻め込んだ神聖帝国軍は各地にある科学研究所を次々と破壊しながら侵攻しその途中で発見した科学よりの村々で略奪を繰り返した。

 

ユハンたちサイエンス家はスキエンティアの首都である「スキエンティア」で暮らしておりユハンたち家族は神聖帝国軍に自分たちは魔法派の国民であることを示す魔法紋章を見せたら何もしてこないだろうと考えていた。

 

実際神聖帝国軍は魔法研究所は一切破壊せず魔法紋章を着用している国民や掲げている村には手を出さなかった。

 

しかしそれを知った科学派の国民や村々も魔法紋章を着用したり掲げるようになったため進軍を続けていた神聖帝国軍も「これはおかしい」と途中から思うようになり魔法研究所以外は破壊や略奪をすることを決めた。

 

そんなことも知らずにユハンたちは他国に向けて避難を開始しており首都か約10km離れた魔法派の村で一旦休息のため滞在していた。

 

そこで首都スキエンティアに向かって進軍する神聖帝国軍と出くわした。ユハンたち含め村人は魔法紋章を掲げ自分たちは魔法よりの国民であることを示した。

 

それを見た神聖帝国軍は立ち止まった。すると神聖帝国軍は何やらコソコソと話し合いを始めた。ユハンたちはその様子を遠くから懐疑そうに見守っていた。

 

それから数分後に神聖帝国軍は進軍を再開した。しかしその歩みは首都スキエンティアではなくユハンたちのいる村の方であった。

 

このあとの結末を思えばこの時点でユハンたちは逃げ出すべきだったがユハンたちは逃げ出さずもしかしたら遠くて見えていなかったのかもしれないと思い今度は1回目よりも大きく魔法紋章を掲げた。

 

だがその魔法紋章を掲げた瞬間神聖帝国軍の方から魔法の詠唱が聞こえてきた。普段から魔法と関わっていたため彼らがどんな魔法を詠唱しているのかその場にいる全員がすぐに理解できた。

 

そしてユハンたちは急いでその場から逃げ出そうとしたがその瞬間地面が大きな爆発音を上げユハンたちを吹き飛ばした。

 

神聖帝国軍は爆裂魔法をユハンたちに向けてお見舞いしたのだ。その後も神聖帝国軍は爆裂魔法をユハンたちに向けて浴びせまくった。

 

次々と村人たちは爆裂魔法によって黒く焼け焼死体となった。それが何分続いたかわからないが気付けばユハン以外全員焼死体となっていた。ユハンももちろん無傷ではなく左上半身と右脚に酷い火傷を負った。村は爆裂魔法によって跡形もなく吹き飛ばされた。

 

この時にユハンは魔法の圧倒的な力を思い知ったのである。ユハンは魔法によって破壊されていく建物、死んでいく村人、絶望に満ちた人の顔を生涯忘れることはなかった。

 

この出来事がきっかけとなりこれ以降ユハンは魔法使いになりたいとは二度と思うことはなく逆に魔法や魔法使いに対して強い恐怖心を抱くようになった。

 

ユハン達がいた村を壊滅させた神聖帝国軍はその後唯一生き残っていたユハンを捕縛し、再び首都スキエンティアに向けて進軍を再開した。

 

捕縛されたユハンは後方の陣地まで輸送されそこで簡易的な治療を受けたあと神聖帝国軍に随伴していた奴隷商人に引き渡され奴隷市場へ流されることとなった。

 

奴隷市場に流されたユハンを追って行く前にスキエンティアがどうなったか先に説明させていただく。

 

侵攻を受けたスキエンティア政府は首都手前で建てた要塞で一矢報いるつもりであったが魔法大国である神聖帝国の前では要塞は紙屑同然であり爆裂魔法や雷魔法などであっさり破壊され首都の陥落をあっさりと許してしまった。

 

首都を陥落させた神聖帝国軍はスキエンティアの政府指導者層、科学者達を軒並み捕縛した。戦後帝国魔法教会の名の下に彼らに極刑判決を言い渡し帝国魔法教会の中庭で処刑された。

 

スキエンティアの聖地であった「科学の森」は戦後帝国魔法教会の調査チームが調査したあと森林を全て火炎魔法で焼き払い、建っていた門を爆裂魔法で跡形もなく破壊した。

 

調査結果の資料は帝国魔法教会の保管庫で厳重に保管された。

 

スキエンティアにあった科学研究所は全て破壊され科学研究の資料も焼却されたが逃亡に成功した一部の科学者が研究資料を持って国外逃亡したため完全に無くなることはなかった。

 

都市国家スキエンティアの領土は戦後、当時の神聖帝国皇帝の親戚であり神聖帝国内で超大な権力を握っていた「ロマノ家」に譲渡された。しかし殆どの土地が神聖帝国軍によって略奪され魔法で不毛な土地にされていた。

 

不毛な土地を譲渡されたロマノ家は戦後この領土の再興に莫大な費用と時間を割くことになりさらに後継者問題等が重なって没落し神聖帝国内になった領土を全て喪失し最終的に譲渡されたスキエンティアの領土だけがロマノ家に残った。

 

しかし逆にこれが功を奏したのか元スキエティア国民は領土再興に力を入れるロマノ家を新たな指導者として認めロマノ家もその国民の支持を背景に神聖帝国の貴族から独立貴族になった。

 

神聖帝国の名だたる貴族達はロマノ家の没落ぶりに嘲笑し自分達もああはなりたくないと笑いものにした。しかしこの時の皇帝も貴族たちもまさかこのロマノ家が後にサイエンス国を建国するとは夢にも思っていなかっただろう。

 

スキエンティアがどうなったか話し終わったところでユハンに視点を戻そう。

 

奴隷市場に流されたユハンは火傷をしているのもあり労働力の塊である若い男性であるにも関わらず中々売れなかった。

 

数日経ってもユハンが売れないことに苛ついてきた奴隷商人はユハンに八つ当たり等をするようになった。ユハンは日に日に弱くなり生きる希望を失っていった。

 

そんなある日ユハンを買いたいという男性が現れた。火傷を負っていて奴隷としては欠陥品である彼を買いたいとは物好きな奴もいるもんだと奴隷商人は思ったが売れ残っていたこともあり格安でユハンを男性に売った。

 

この男性に買われたことがユハンの人生の転換点の1つとなる。

 

ユハンを買いたいと言った男の名前は狭間広域、名前を見て貰えばわかる通りこの男は日本人である。

 

狭間広域は別世界で何らかの原因で死亡し、転生によってこの世界に来た日本人でありこの世界ではちょっと名の知れた奴隷王の男であった。

 

狭間はユハンのような売れ残っている奴隷を買い自分の元で教育を受けさせ将来自立できるようにする活動をしていたのである。

 

狭間に買われたユハンは馬車に乗せられ狭間が暮らす館まで輸送されることになった。馬車で館に向かっている途中でユハンは寝てしまい起きた時には既に館のベッドの中にいた。

 

ユハンがベッドから起きたのを確認した狭間はユハンの火傷の治療をすることにした。医師達の懸命な治療の甲斐あって大事には至らずに済んだが火傷跡は身体に残ることになった。

 

治療を終えたユハンは夜遅かったのもありその日はまた寝ることとなった。久しぶりにふかふかのベッドで寝れたユハンはすぐに眠りに落ちた。

 

次の日の朝、起きたユハンは狭間に館の案内をされた。狭間に館を案内されて行く中でユハンは昨日は気が付かなかったがやたらと胸が大きいメイドや獣人・エルフ等の異種族のメイドが館に沢山いることに気づき少し不思議に思った。しかしまだ完全に疲れが取れていないのもあり特に狭間に指摘しないことにした。

 

館の案内終了後、ユハンは狭間と一緒に朝食を共にした。久しぶりのまともな食事にユハンは無我夢中で食らいついた。時折ユハンが涙を流したりがっつき過ぎて喉に詰まらせたりと色々あったが狭間とメイド達はその様子を笑顔で見守りながら朝食を食べた。

 

朝食終了後、狭間はユハンにこの館でやるべき事を教えた。最初は何を命令させられるのかわからなかったユハンは深刻そうな顔で狭間を見つめていた。しかし狭間から家事などはメイド達がやってくれるのでしなくていいこと、君はここで悠々と暮らしてほしいことを伝えた。

 

ユハンは最初それを聞いて理解できなかった。ユハンは狭間が自分を労働力として雇ったと思っていたからである。ユハンはすぐに狭間に「じゃあなんで自分を買ったんだ?」と質問した。狭間はそこで自分が行なっている活動をユハンに教えた。

 

狭間に活動内容を聞きユハンはますます理解ができなくなった。そんな活動をしても狭間にはメリットが一切なくむしろデメリットしかなかったからである。

 

ユハンは狭間になんでその活動をするのかを聞いた。聞かれた狭間は「この私の活動で少なくとも救える命があるからだよ。驚くかもしれないが今この館でメイドとして働いてる彼女たちも全員元々君と同じ奴隷だったんだよ。」とメイド達の方を見ながら答えた。

 

狭間の回答を聞いたユハンはメイド達のほうをばっ!と振り向いた。メイド達は振り向いたユハンを見ながら笑顔で微笑んでいた。それを見たユハンは納得したようなしてないような変な感覚に陥った。

 

暫くメイド達を見ていたユハンだが狭間の方に向き直り「わかった。」と言った。自分の方に向き直ったユハンに狭間は「君は将来何になりたい?」と聞いた。昔のユハンなら魔法使いと自信満々に答えたが全てを失った今のユハンには将来の夢なぞなかった。

 

「......ない。」数分間の沈黙の後ユハンから発せられたのはこの言葉だった。それを聞いた狭間はう〜んと唸ったあと「ならさまざまな分野の知識を君に身につけさせよう。知識を学ぶ内に君の将来の夢も決まるだろう。」と提案した。

 

何も目標の無かったユハンは狭間の提案を受け入れた。しかし勉強は来週からと決め勉強が始まるまではユハンにこの館での生活に慣れさせることとなった。

 

まず館でのルールを教えられ夜11時以降は一切狭間とメイド達の部屋には近づかないように全員に念押しされた。最初は何故かわからなかったユハンだが数年後察することになる。

 

礼儀作法や社交ダンスなども教えられた。狭間の館では国のお偉いさんや貴族の方々が集うパーティや懇親会がよく催された。そこでしっかりとユハンという存在を売り込むためにユハンの人としての質を高めようとメイド達が中心となって猛特訓させられた。

 

おかげでユハンは完璧な礼儀作法、ダンス技術を身につけパーティや懇親会で令嬢などとダンスをし貴族間でそこそこ有名な青年となった。

 

ユハンが館に来てから1週間が経ち勉強が始まった。ユハンは科学、文学、農学、哲学、歴史学、生物学、物理学、経済学、医学、数学、魔法学などを狭間によってつけられた各分野の専門家庭教師達から教えられた。(魔法学は魔法の決まりや歴史などの座学、実技の魔法はユハンが絶対に学びたくない!と猛抗議したためなくした。)

 

ユハンは頭の要領が非常に良くほとんどの分野の知識を暗記し特に魔法学に関しては他の追随を許さなかった。ユハンの魔法学の出来を見た狭間の勧めによりユハンが16歳の時に「魔法学高等化教員試験」を受験し見事1発合格、父アルザスと同じように魔法学教員の資格を獲得した。

 

2年後には魔法学の最難関試験である「魔法大学院魔法学専門教授試験」を受験、これにもユハンは1発合格を果たし魔法学専門教授資格を獲得した。この試験で1発合格を達成したのは現在に至るまでユハンただ1人である。

 

しかしユハンは反対に科学の成績はすこぶる悪く1番科学に力を入れていたにも関わらず15歳からずっと「科学者認定試験」を受験したが全て不合格に終わっている。

 

魔法学に精通しているユハンを見た狭間は彼が19歳の時に神聖帝国にある「神聖魔法大学院」で魔法学専門の教授として働くことを提案した。魔法学にここまで精通しているユハンなら魔法大国である神聖帝国でも大いに活躍できると踏んだのと神聖魔法大学院にちょっとしたコネがあったからである。

 

しかしその狭間の提案をユハンは「絶対に神聖帝国では死んでも働きたくない!!」と言って断固拒否した。さらにユハンは狭間に将来は科学者として生きていきたい旨を話した。

 

しかし得意な魔法学方面の道に進まず苦手な科学方面の道に進もうとしているユハンを見て狭間は不思議に思った。

 

そこで狭間はユハンになぜそこまで神聖帝国で働きたくないのかを聞いた。ユハンはそこで初めて自分が体験したことを全て狭間に話し、神聖帝国は自分をどん底に叩きつけた張本国で被害者の自分がなんでそんな国のために働かなきゃならないのかと怒りながら話した。

 

しかし話を聞いた狭間はユハンに同情の言葉を述べるわけでもなくただ「でも君は科学者に向いていない。」と面と向かってはっきりとそう言い放った。

 

それを聞いたユハンは何か言い返そうとしたが何も言い返せず下に俯いた。それが事実であったから。ユハンも薄々感じてはいたのである、自分は科学者に向いていない事を。

 

ユハンは酷く落ち込みその日は無言で自分の部屋に戻り数日部屋から出てこなかった。酷く落ち込んだユハンの様子を見た狭間は少し自分の元の世界について教えることにした。

 

狭間はユハンの部屋を訪れ自分は元々この世界の住民でない事、神の転生によってこの世界に来た事、元いた世界には魔法は一切存在しなくて科学技術が凄く発達している世界だと説明した。

 

最初ユハンはこれは狭間が自分を励まそうと嘘の話をしているんだと思い込み聞き流していたがふと狭間の耳たぶを見た。

 

ユハンはこの館で狭間と暮らしていく内に狭間が嘘を言う時に耳たぶを触る癖があるとわかったからだ。しかし狭間は一切耳たぶを触っていなかった。

 

それを見たユハンは狭間の言っている事は本当の話なのか?と未だに半信半疑であったが身体をベットから起こし狭間の話を真剣に聞き始めた。

 

聞き慣れない言葉がたくさんありユハンは狭間がいたと言う元の世界が気になり始め途中から詳しく聞き始めた。

 

さらに話を聞いていく中で狭間は元の世界では「AI」を開発する会社で働いていたことを話した。ユハンはAIがなんなのかわからず狭間に詳しく聞いた。

 

狭間によるとAIは人間が開発した人工知能であり狭間の元いた世界ではAIが目覚ましい発展を遂げてきていることを話した。

 

この話を聞いてユハンはここで生涯の夢を決めたのである。将来この世界にも魔法が一切存在しない国を建国しその国の指導者をAIにすることに。

 

そうと決まったユハンは早速狭間にAIはどうやって開発するのかと聞いた。聞かれた狭間は困った。この世界にはAIを開発するための資源も技術もまだなかったからである。

 

しかしどうしても教えてくれとお願いしてきたユハンの頼みは断りきれず教えることにした。

 

狭間は一応ユハンにAIの開発方法を教えたがわからない単語ばっかり出てきてユハンは全く理解ができなかった。

 

ユハンは今すぐ理解するのは諦め長い年月を掛けて少しずつ理解することにし狭間が言った開発方法をメモ書きにして残すことにした。

 

ユハンは約8年間狭間の元でお世話になっていたが21歳の時に狭間広域の元から離れて結局狭間が提案した神聖魔法大学院で魔法学専門教授として働くことを決めた。

 

神聖帝国で働きたくないという気持ちは相変わらず変わっていなかったがいつまでも狭間の館にいるわけにもいかないので神聖帝国で働くことを渋々了承した。

 

狭間のコネとユハンの類稀なる魔法学の知識により「神聖魔法大学院魔法学専門教授採用試験」自体は余裕で合格し採用された。採用されたユハンは神聖帝国の首都「マギア」に移住した。

 

ここで神聖帝国について紹介しておこう。神聖帝国はこの世界に存在する三大超大国の1つであり魔法研究を国策として奨励している。国策として奨励してるのもあって神聖帝国の魔法技術はこの世界トップクラスであり昔魔王軍に苦しめられていた人類を救った「大魔法使いマギア」の祖国でもある。

 

神聖帝国は「世界魔法教会」の委員長国であり魔法に関する諸政策を最終的に決める権利を持っている。

 

さらに皇帝が存在しているが「世襲皇帝制」ではなく有力貴族たちが投票して決める「選挙皇帝制」を採用している。

 

神聖帝国についてはこれぐらいにしてユハンに戻ろう。

 

首都マギアについたユハンはまず神聖帝国国民は絶対に参加しなければならない「帝国魔法教会」に参加、次に「魔法大学院魔法学専門教授」として魔法を信奉するという契約書にサインして皇帝に謁見、ユハンは当時の神聖帝国皇帝である皇帝ノートン1世から期待の旨を言われ神聖魔法大学院魔法学専門教授として働くことを許可された。

 

こうして魔法学専門教授として働き始めたユハンであったが元々魔法に興味を持っていたため教えること自体は全然苦じゃなかった。

 

講義の質もよく生徒たちからの評判も高かった。しかし魔法は絶対に習得しようとせず魔法実技を教えている教授から「なんで魔法は習得したくないんだ?」と聞かれた際にユハンは「魔法が怖いから。」と答えている。

 

そんな毎日をおくっていたがユハンが23歳の時に帝国魔法教会に突然呼び出された。呼び出されたユハンは何事かと思ったが実は帝国魔法教会の名誉会長に就任している大魔法使いマギアがユハンと面会したいと言い出したのである。

 

ユハンは魔法使いではなくただ魔法大学院で魔法学を教えているだけの専門教授と話がしたいなんて変な魔法使いだなと思いながら向かった。

 

こうして大魔法使いマギアと面会を果たしたユハン、その時にユハンはマギアが人間ではなくエルフだと初めて知った。マギアがユハンを呼び出したのはこれから世界魔法教会で「世界共通魔法遵守法」の改正をするのだがそこに提出する改正案が魔法学の観点から見て問題がないか調べてほしいというものだった。

 

ユハンはなんでそんな大仕事に自分が選ばれたのかわからずマギアになんで自分を選んだのか聞いた。

 

マギアによるとどうやら今まで行われた「魔法大学院魔法学専門教授試験」の合格者の中でユハンが1番得点をとっていたかららしい。

 

ユハンはマギアに頼みを断りきれず結局渋々受け入れ確認した。改正案には特に問題はなくユハンはこのままでいけると進言した。この改正案は世界魔法教会で無事可決された。

 

この一件でユハンは神聖帝国中で名の知れた魔法学専門教授となった。さらに帝国魔法教会から「名誉教授」の称号を与えられた。しかしユハンは未だに科学者になることを諦めきれておらず神聖帝国では禁止されている科学の勉強を自宅でこっそり継続していた。

 

そして25歳の時に他国で秘密裏に「科学者認定試験」を受験、ユハンはこの受験で合格することに成功し科学者としての資格を獲得した。ユハンは長年なりたかった科学者になれたことに喜んだ。

 

でもそのことは誰にも話さずにユハンは神聖帝国で働き続けた。だがユハンが28歳の時ユハンは皇帝ノートン1世に呼び出された。

 

科学者になったことが遂にバレたと思ったユハンは神聖帝国から逃げようとしたが皇帝の使いが自宅まで迎えに来ていたため逃げれなかった。

 

しかし皇帝から呼び出されたのは科学者になったことがバレたからではなくユハンに是非自分の家の教育係になってほしいというお願いだった。

 

皇帝ノートン1世はもし教育係になってくれるのであればユハンに破格の給料と専用の屋敷を与えるとまで約束した。

 

正直断りたかったユハンだったが皇帝の命令に逆らったら自分がこの後どんな目に遭うかわからなかったので渋々了承した。

 

宮殿から家に帰る途中でユハンは自分の人生の重要な決定をする時大体渋々了承してるなぁと思いながら帰った。

 

その後ユハンは神聖魔法大学院の魔法学専門教授を辞め、現皇帝を輩出しているルードヴィング家の教育係となった。

 

教育係となったユハンはルードヴィング家の子どもたちに自分が今まで培ってきた知識を教えた。

 

貴族の家で働くようになったユハンは貴族たちの晩餐会などにも出席するようになりそこで人脈を築くことに成功する。ここでユハンは秘密裏に自分と同じく科学の研究をこっそりしている仲間を見つける。

 

しかし他の貴族たちもユハンを教育係として欲しがりユハンを何度もルードヴィング家から引き抜こうとした。だがその度にユハンは断った。

 

それでも諦めきれなかった貴族たちは皇帝ノートン1世に抗議、仕方なくノートン1世はユハンに貴族専用の子供教室を開くように命令、ユハンはルードヴィング家の教育係でありながら多数の貴族の子供たちにも勉強を教えるようになった。

 

その教えていた子供の中にサイエンス国を建国するループ・フォン・ハプスルンの姿があった。ループは神聖帝国内にたくさん存在する弱小貴族の内の1つであるハプスルン家の子供である。

 

ループは魔法より科学に興味がある子供であった。ユハンはそれを教えている内にわかった。なのでユハンは特別にループを自分の屋敷に招きそこで科学の勉強をひっそりと教えた。

 

科学を教わっている時のループの顔は希望に満ち溢れており子供教室の時と比べると別人のようであった。こうして段々ユハンとループの師弟関係が築かれていくのである。もちろんこのことは秘密でありループも誰にも喋らなかった。

 

ユハンはループに狭間に教えてもらった別世界のことやAIのことも教えた。ループはその話を聞いて感銘を受けていた。そんな生活を送る内に4年の歳月が経ちユハンが32歳の時にある論文を発表した。

 

論文の題名は「魔法のこれからの展望と科学の未来」

 

この論文には魔法はこれからもどんどん発展していくだろうがそれと同じように今は神聖帝国で禁止されている科学も発展しいつかは魔法にも匹敵するようになるだろうと書かれている。

 

この論文に神聖帝国と帝国魔法教会は激怒、ユハンの名誉教授の称号と魔法教員資格・魔法大学院魔法学専門教授資格を剥奪、ルードヴィング家の教育係をクビにし、開いていた子供教室を閉鎖、逮捕の命令を下した。

 

ユハンの教育をうけていた貴族の子どもたちは帝国魔法教会の元で矯正教育を受けることになり皇帝ノートン1世もユハンの件で責任を取らされ廃位された。

 

しかしユハンはこの時既に神聖帝国からいなくなっており逮捕は叶わなかった。なぜユハンがこの論文を発表したのか現在もわかっていない。

 

ずっと科学が抑圧されていることに嫌気がさしたのか?それとも神聖帝国から出ていくための仕業だったのか?それはユハンにしかわからない。

 

神聖帝国から出たユハンは自分の故郷に戻りこじんまりとした家を購入、そこで科学の研究に没頭、狭間に教えてもらったAIの開発方法の実現に向けて動き出していた。

 

この頃からユハンは偽名を使うようになり表向きでは画家のブルトン・チャウルズと名乗るようになる。

 

ブルトンと改名してからも神聖帝国内にいる科学仲間やループ、恩師の狭間とは手紙で交流を続け神聖帝国の状況を逐一教えてもらっていた。

 

ユハンは研究の傍ら滅亡したスキエンティアのことも調べ例の噂の件を知り科学の森へと向かった。ユハンが向かったとき科学の森は誰でも入れるようになっており森林は回復している途中であり木々もあまり大きくなかった。

 

奥まで行ってみたが門らしき建物はなく爆裂魔法によってできた大きなクレーター

だけがそこには残っていた。そのあとユハンはある村に立ち寄った。その村は村とは言えず大量のクレーターと墓石が残っていた。そこでユハンは父と母、亡くなった村人たちに数分間黙祷を捧げた。

 

スキエンティアについてさらに調べていく内にユハンは一部の科学者が研究資料を持って国外に逃亡したことを知った。ユハンはこの科学者たちと接触を図り築き上げたコネをフル活用しなんとかその科学者たちを発見した。

 

最初こそ警戒されたが科学の話をしていく内に打ち解けもうその科学者たちが高齢だったのもありユハンがその科学研究の資料を全部貰うことができた。

 

その資料を調べた結果噂は本当だったことをユハンは知った。そこには見なれない

言葉でいろいろ書かれており科学者たちにこれは日本語という言葉で書かれていると教えてもらった。

 

日本語と聞いてユハンはこの世界に転生で来た日本人である狭間に手伝って貰おうと思い研究資料を持って狭間の館に向かった。

 

ユハンの突然の訪問に狭間は驚いたがユハンを快く迎え入れてくれた。館には昔と変わらずメイドたちもいたが小さい子供も住んでいた。ユハンは狭間が奴隷を買ったんだと思い「また奴隷を買ったのか?」と聞いたが狭間は「いや、この子は俺の子供だよ。」と言ってユハンを驚かせた。

 

狭間とお互いの近況を喋ったあとユハンは資料を狭間に見せこれは一体何の資料なのか解読してもらった。狭間は2〜3時間かけて全ての資料を解読してくれた。

 

そこには狭間の元いた世界の産業革命の源である蒸気機関のことや銃、車、飛行機、船、PC、AIのことなどが書かれておりさらに開発する手順や必要な資源のことが事細かく書かれていた。

 

ユハンはそれを見て聞いて自分の生きている間にAIを開発をするのは無理だなと確信してしまった。ユハンは当初の方針を変えAIを開発する前に産業革命を建国した国で起こさせ科学技術を少しずつ上げていき最終的に人間の知能を遥かに超えるAIを開発してそのAIに国を任せる方針に変えた。

 

ユハンは早速建国しようと動くのだがユハンは貴族でもなんでもなく自分の住んでいる土地は都市国家スキエンティアではなく「独立貴族ロマノ家」が所有する領土の1つでしかなかった。

 

ユハンは自分の代で建国できないと確信し、後世に託すことにした。その託す人物がループ・フォン・ハプスルンであった。

 

ユハンは手紙でループに自分の夢を話しその夢を引き継いでくれないかと頼んだ。ループはその申し出を承諾した。

 

その後のユハンは自伝の執筆と科学書の作成に集中し40歳の時に自伝「私は科学を信じた」を完成させた。その翌年にユハンは心筋梗塞で亡くなった。41歳の若さであった。

 








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