会談から数日が経った頃、サイエンス国全体が暗い雰囲気に包まれていた。なぜならサイエンス国初代指導者であるループ・フォン・ロマノが病気で亡くなったのである。享年58歳。
ループの葬儀はアレクの意向により国葬で行われ多くの国民が告別式に訪れループの死を悲しみ涙を流していた。葬儀にはアレクはもちろんループの妻であるマリアやアルフレート、アッバース家に嫁いだループの長女であるマーガレット、傘下の貴族達、ループと縁があった科学者や技術者が大勢参列した。
他国からは誰1人も参列しなかったがループが亡くなった4日後に魔王からお悔やみの文がギガンテス経由でロマノ家に届いた。
ループの墓はユハン・サイエンスの墓から10メートル離れた場所に建てられた。ループが亡くなった2年後にループの妻であるマリアも病気で亡くなりループと同じ墓に入ることになる。
ループが亡くなったあとアレクは自分の後継の事を考え始め、自分の息子である「ライト・フォン・ロマノ」がロマノ家次期当主であることをサイエンス新聞で大々的に宣伝しさらに「サイエンス国副指導者」にも任命した。だがライトはまだ10歳だったため政策を決定する権限は一切なく実権はこれまで通りアレクが持ち続けた。この時アレク34歳。
アレクはサイエンス国の対外関係の見直しも始め、まず前々から決めていたループが魔王軍と結んだ決まりの破棄を決定、魔王軍幹部ギガンテスに破棄の旨を書いた手紙を送った。しかしギガンテスとは文通で一応の交流は残しておいた。都市連合との同盟関係はこれまで通り維持された。
この頃、魔王軍と人類の戦争は会談で決定された総攻撃が行われておりちょうど過渡期に差し掛かろうとしていた。サイエンス国はこの総攻撃に兵士を一兵も出さなかったものの莫大な資金援助(有償)と支援物資を送りこの総攻撃を後押しした。
この総攻撃は見事に大成功をおさめ魔王軍幹部を3名討ち取り、2名の魔王軍幹部に重傷を負わせさらに北西部にあった魔王軍の拠点を壊滅させることにも成功した。
魔王軍はこの人類の総攻撃によって大損害を被った。しかしそれは人類側も同じであり多くの人がこの総攻撃で亡くなった。この戦争が始まってからもう既に8年近く経過しており魔王軍と人類お互いにこれ以上の継戦が厳しくなってきていた。
これをアルフレートから定期的にくる文通の報告で知ったアレクは三大超大国である神聖帝国と都市連合、アルフス王国、魔王軍幹部ギガンテスに「我が国が仲介するのでここらで講和しませんか?」との旨を書いた手紙を送った。」
これを受け取った3ヶ国は戦争に参加している各国の代表や冒険者ギルドの会長、大魔法使いマギアを交えて話し合いこれ以上の継戦は国民のことを考えると厳しいこと、何より戦後サイエンス国に借金の返済もしなくてはならない国家が多いことも重なり総攻撃が大成功に終わった今がこの戦争の落とし所だろうという結論に至り人類側は講和に合意した。
一方ギガンテスから報告された魔王は講和には大反対で戦争を継続するつもりであったもののギガンテスから「先の人類の総攻撃によって我が軍は大損害を被り多数の幹部が倒され士気も大いに低下しました。これ以上戦っても我々に勝機はありません。今回は我らの負けかもしれません、しかしまたいつか戦争を仕掛け今度こそ我らが勝つようにすればいいのです。それまでの辛抱です。魔王様、講和しましょう。」と言われ魔王は手に持っていたアレクの手紙を炎で灰にしたあと「..........わかった、お前とジュランが交渉役のテーブルにつけ、くれぐれも奴らに侮られるのではないぞ。」と言った。
こうしてお互い一応合意したことにより講和の話し合いが行われることとなった。講和交渉の場所はサイエンス国のスキエンティア宮殿で行われることが決まった。
人類側はマギア(帝国魔法教会名誉会長)とデュラム(冒険者ギルド会長)、ブッフェ、(神聖帝国帝国宰相)、ユジュイ(都市連合議会議長)、ヴォロンウェ(アルフス王国大臣)を全権大使として派遣した。
魔王軍側は魔王軍幹部ギガンテスとジュランを全権大使として派遣した。
両者はスキエンティア宮殿の大広間で顔を見合わせた。そこには一切穏やかな雰囲気は無く殺気だけが漂っていた。両者は用意された席に座ると早速講和条件を話し合い始めた。
人類側が魔王側に提示した講和条件は以下の通りである。
1.これまでの戦争で捕虜にした人間を無条件で解放すること
2.本拠地がある南東部以外の魔王軍拠点の放棄
3.街への襲撃の停止
4.お互い不可侵条約の締結
5.賠償金の支払い
6.魔物達の統制
人類側の条件を聞いたギガンテスとジュランは断固として聞き入れない姿勢を貫き特に2と5の要求には断じて応じないとの一点張りだった。6の要求は「我々の管理下にない魔物もいるので難しい、なので3の要求も難しい。」と言った。
そんな魔王側の講和条件は以下の通りである。
1.世界各地にあるダンジョンの破壊及び攻略の中止
2.魔王軍の幹部達に掛けられている懸賞金の解除
3.討ち取った魔王軍幹部の遺体の引き渡し
4.南東部周辺にお互い非武装地帯を設ける
1と2の要求を冒険者ギルド会長のデュラムは大反対の意を示し「こんなことをされたら冒険者たちの生計が成り立たなくなってしまうではないか!」と幹部に言い放ったがギガンテスは「そんなこと我々には関係ない。」と言った。
1日目の話し合いは平行線を辿り講和案はまとまらなかった。2日目からの話し合いではお互い戦争再開だけは何としてでも回避したかったためお互いが提示した講和案を照らし合わせながら妥協点を探し始めた。
纒めるのに2週間ぐらいかかったが魔王と人類の戦争の講和案が無事まとまった。内容は以下の通り。
1.お互い捕虜にした人間や魔物の無条件の解放
2.一部の魔王軍拠点の放棄
3.魔王軍幹部の遺体の引き渡し
4.国家間での不可侵条約の締結
5.非武装地帯の設置
6.一部の魔王軍幹部の懸賞金解除(ギガンテスとジュラン)
7.人類の魔王側への賠償請求の放棄
この内容で講和案が完成した。2週間にも渡ったこの話し合いでお互いの全権大使は酷く疲れ果てた。魔王軍幹部のギガンテスとジュランは話し合い終了後すぐに魔王のいる魔王城へ帰って行ったが人類の全権大使たちは数日間サイエンス国で休息を取った後に帰国することにした。
帰国日の早朝、大魔法使いマギアがロマノ家館を訪れアレクに「ユハンの墓参りがしたい。墓まで案内してくれないか?」とお願いしてきた。アレクはマギアの突然の訪問とお願いに内心驚いたもののマギアをユハンの墓まで案内した。
ユハンの墓前に着くとマギアは墓石を暫く見た後、目を瞑り黙祷を捧げた。黙祷を終えたマギアはアレクの方に身体を向き直し話しかけた。
「アレク殿、貴殿はこの国を将来どのような国にするつもりなんだ?」
「突然な質問ですね、どのような国にですか?そりゃもちろんこの国に住む国民全員が幸せに暮らせる国にするつもりです。」
「.........アレク殿はこの国がなぜ建国されたかのかは知っているのか?」
「ええ、父から教えられました。ユハン・サイエンスが夢見た《魔法》が存在しない国を作る為とあとその国の指導者を最終的には《AI》?とユハンが言ってた物にする為と教わりました。」
「AI?なんだそれは?1000年以上生きていたが今初めて聞いた言葉だな。」
「AIについては僕も詳しいことは何一つわかりません。ただわかっているのはそのAIは人工知能?なるものを持っていてその知能は人間を遥かに超える知能を有していることぐらいですかね。」
「人間を遥かに超える知能を有している.....謎の存在だなAIというものわ。」
「ですがそれはあくまで僕の父がユハンの夢を継いで進めていたことです。少なくとも僕は父が繋いだユハンの夢を継ぐ気はありません。もっとも僕の後は全くわかりませんが。」
「.......そうか。」
「他に何か聞きたいことはありますか?」
「いや.......もう特にない。案内してくれてありがとう。」
「いえいえ、これくらいお安い御用です。またいつでもお待ちしておりますよ。」
「ああ、またいつかな。」
会話が終わったあとマギアはユハンの墓に背を向けて歩き出した。アレクはそんなマギアの歩く背中を暫く眺めたあとマギアを追って歩きだした。
大魔法使いマギアがサイエンス国を訪れたのはこれが最初で最後であった。
この日には人類側の全権大使たちはそれぞれの国に帰国し纏めた講和案を議会や皇帝に提出した。
講和案はその後各国家で承認され魔王も承認したため無事人類と魔王軍との間に講和条約が結ばれ9年近く続いた人類と魔王軍の戦争は一旦集結することとなった。
戦争終了後世界各国は国土の復興や経済回復に力を入れサイエンス国は各国に復興支援を施し復興を手助けした。
戦争が集結したことによりサイエンス国に来ていた避難民もそれぞれの母国へと帰って行った。だが母国には帰らずにそのままサイエンス国に定住することを決めた避難民も一定数いた。
サイエンス国は定住すると決めた避難民に定住手続きや戸籍に登録をさせたりしたため戦争終了後の数ヶ月間は主に地方の役所が忙しくなった。
それから3年後、アレクは頭を悩ませていた。悩みの原因はサイエンス国副指導者「ライト・フォン・ロマノ」である。
ループが亡くなったあとアレクによってサイエンス国副指導者に就任したライトは父アレクと一緒に政策を考えたり地方に出向いて現地の役員と話しコネクションを築いたりして真面目に仕事をしていたのだがライト自身元々政治に興味がなかったのもあり就任してから僅か2ヶ月後には既に仕事に対する意欲をなくし趣味の絵描きや読書、日本人避難民から教えて貰った詩や和歌作りに没頭していた。
アレクはライトの政治へのやる気のなさを嘆きマーガレットの旦那であり側近のユリウス・アッバースやメイドたちに「息子のライトは自分の趣味に走ってどうやら政治には興味がないらしい。あれが将来ロマノ家当主、ひいてはサイエンス国指導者になるのが不安で仕方がないよ。」とよく愚痴を吐いていた。
その愚痴を聞いていたメイドの内の1人がこのことをライトに告げ口したがライトは「父上の不安は当然のことだと思うよ。私ももし自分の息子が今の私のような感じだったら不安しかないし。まぁ、かと言って今の自分の状況を変えようとは微塵も思ってないけどね。」と言った。
アレクは何とかしないといけないと思ってはいたもののライトはまだ13歳で当主や指導者になるのは先の話のため今はハマってる趣味に没頭させてやろうと決めた。
しかしそれは叶わなかった。アレクが新たに開発された銃の試射会に参加しその銃を撃とうと引き金を引いたが銃が反応せずもう一回引き金を引いた瞬間に銃が爆発。
その爆発した破片がアレクの身体に直撃、アレクは地面に倒れてしまった。現場は大混乱に陥りすぐに医者が駆けつけ治療を開始したものの破片は内臓の奥深くまで入っており取り出すことができなかった。
アレクはその傷が原因で亡くなった。享年38歳。
かなり遅くなって申し訳ございません。次話はおそらく8月下旬か9月上旬になると思います。