主人公クロキがレーナに召喚されたら?というifです。
第一話
眩い光から解き放たれ
道着に竹刀といった明らかに剣道場にいるはずの少年は古代や中世を思わせる建物の中にいた。
状況が掴むことができずに周囲を探ると
獅子の如き美男子――
長く美しい黒髪の少女――
亜麻色の柔らかい雰囲気を纏った少女――
長髪をツインテールにした少女――
小柄かつ溌溂な様子を見せる少女――
メイド服を纏い、鋭い雰囲気を放つ少女――
高飛車な性格をした偉そうな少女――
―――そしてクロキの想い人の少女――
全員、クロキの苦手とする人物たちだった。
△▼△
彼等もまた混乱しているようで仲間内であれこれ話しており、クロキのことなど気づいてもいなかった。
そうこうしていると不意に凛とした声が響いた。
「ようこそ、異世界の方々。私の名はアルレーナ。貴方達を歓迎します。」
声のする方を向けば、思わず息を飲んでしまう程の美女がいた。
男も女も関係なく絶句し、空間が静寂で包まれる。
そんな中、女は言葉を続ける。
「この世界には光の神であるエリオスの神々、闇の神であり人類を滅ぼさんとするナルゴルの神々が存在します。私達エリオスの神々はこのナルゴルの神々によって滅ぼされようとしています。……どうか武器を取り、私達を救っては下さいませんか?」
「ああ、アルレーナ。俺に任せてくれ。君の願いは俺が叶えよう。」
誰もがレーナの話についていけない中、面食いなレイジが周りと相談もせずに即決でレーナの言葉に首を縦に振った。
非常に締まらないが、彼等全員の進路が決定することになったのだ。
しかし、流石にしっかり者との定評のあるチユキがレイジの決定に待ったをかける。
「待って、レイジ君! 話をよく聞かずに決めるのはよくないわ! それにレーナ! 私達は戦いなんて知らない唯の高校生です! 早く元の世界に返して頂戴!」
チユキの言葉は想定外だったのかレーナは少し困った顔をする。
その後、何か思いついたのか微笑みを浮かべながら一つの提案をした。
「なるほど、確かにその反応は当然です。……ではついて来て下さい。貴方達自身の力を知ってもらいましょう。」
▼△▼
レーナに連れられてクロキ達が向かったのは大きな広場だった。
其処には騎士らしき恰好をした男や、武装した美女たちがいた。
「それでは模擬戦を始めましょう。……そうですね、貴方から行きましょうか。」
そう言ってレーナはレイジを指名する。
指名されたレイジは自信満々に進み出る。
「おう、分かったぜ。……そういえば自己紹介がまだだったな。俺はレイジ!
美女から剣を受け取ったレイジはよく通る大きな声で自身の名を名乗る。
異世界の人々や彼に好意を持つ少女たちはレイジの行動に感嘆の声を上げるが、残りの面々は呆れた表情を隠しもしなかった。
(本当にどこからこの自信が出てくるんだ?)
クロキも呆れた表情を顔に出す。
だけどそれを口にすることは無い。
悔しい事だがクロキはレイジが強いことを知っているからだ。
しかし、同時に自分たちの身の程は十分に弁えている。いくら才能があろうが訓練を積んだ
だからこの時、確かに少年は心の中に仄暗い笑みを浮かべていただろう。
才気溢れ、自信一杯のいけ好かない男が屈辱の泥を浴びる光景を幻視したからだ。
―――だからこそレイジが騎士に完勝した瞬間、クロキは大声で「馬鹿な!!」と叫んでしまった。
普段あまり大声を出さないため、幼馴染であるシロネも驚く程だった。
しかし、衝撃を受けたのはクロキだけでなく少女たちも同様だった。
結局、全員が広場で自分たちの力を試すことになった。
その結果、ある者は魔法の力に目覚め、またある者は特殊能力を宿していた。
身体能力も格段に上昇しており、自分たちが唯の学生であったことが嘘のような程だった。
△▼△
全員の能力の確認を終えた後、クロキ達は大部屋を貸切って話し合いをしていた。
議題は今後について。
その後、レーナから聞いた話を纏めるとこうだった。
この世界は人類は信仰するエリオスの神々と魔物が信仰するナルゴルの神々によって治められている。
太古の昔よりナルゴルの神々と眷属は豊かなエリオスの支配地を狙い戦争を起こしていること。
実際にゴブリン族やオーク族が軍勢を率いて幾つもの国を滅ぼしており、人類は滅びの一歩前までいったことがある。
最近になってナルゴルの神々の動きが怪しく、エリオスの神々を滅ぼそうと予測できたため対抗手段として異世界から戦士を召喚したということ。
ナルゴルの神々の首領である黒炎の魔王モデスを討伐することで異世界人は帰還することができるということ。
証拠として書物や、魔法の鏡による映像を見せられた。
その結果として正義感の強いシロネや地震の力を確認し、レイジの取り巻きに当たる少女たちは魔王討伐に賛成する方向へ舵を切っていた。
一方で慎重な意見を持っていたのがクロキとチユキだった。
「レイジ君、いくら何でも危険すぎるわ。今からでも断りに行くべきよ。」
「……水王寺さんの言う通りだ。幾ら何でも危ない。僕等は戦いなんて知らないんだ。それに態々僕等が手を貸す理由なんてない。」
二人は揃ってレイジ達を諫めるが、レイジは聞く耳を持たない。
「確かにチユキ、俺達は戦いなんて知らない。でも知って行けばいい。幸い俺達は"力"がある。何とかなるさ。それにシロネ、虐げられている人がいるなら助けなきゃいけない。そう思うだろう?」
(アンタが助けたいのは美女や美少女だけでしょうが……。そして無視したわね、シロネさんの幼馴染のこと。)
(どうせ男は助けないんだろうな……。そして自然に無視されたな、僕。)
「……うん、レイジ君の言う通り困っている人は助けた方が良いと思う。」
「シロネさんの言う通りですわ。困っている人を助けるのは当然のこと。何も可笑しいことではありません。」
二人の言葉にチユキとクロキは言い返すことができず、話し合いで何かが変わることは無かった。
結局、彼女等の意見が決め手となり彼等は魔王モデスを討伐することに決まったのだ。
▼△▼
広く、豪奢な装飾が施された一室で女神アルレーナは悩んでいた。
悩みのネタは召喚した異世界人の二人――チユキとクロキだった。
レーナは美しい。
この世界で最も美しい女神の三柱に選ばれるくらいには美しい。
流石に周りの関係を考慮して謙遜するが、内心では自身の美しさに絶対的な自信を持っていた。
故に召喚された者を自身の美貌で魅了し、言いなりにできると思っていた。
しかし、二人はレーナの美貌に屈さず、それどころかレーナの神意に反する行動を取った。
このままいけばレーナの望みが達成されないかもしれなかった。
「それは駄目よ、絶対に許されない。」
レーナはそう呟き、拳を握りしめる。
「貴方達には魔王を倒してもらう。――そして忌々しき我が分身を回収してもらわねばならないのですから。」