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「
小4の夏休み。両親の都合で県外に引っ越すことになった幼馴染のあいつが、引っ越す前の日に俺を近所の小さな公園に呼び出した。
「まず“フィート”ってなに?聞いたことないんだけど?」
「なんかフィートっていう長さの読み方も世の中にはあるらしいよ。意味は“センチ”とか“メートル”と同じなんだって」
「へぇー、詳しいな」
「松本にいるおじいちゃんがそーいう感じの仕事してたから、
「“そーいう感じ”ってどんなだよ?」
その日は台風一過で雲一つないくらい晴れていたのと、あいつと2人して公園のブランコに座っていたことは覚えているけれど、あのとき公園であいつとどんな会話をしたのかは、もう大雑把にしか覚えていない。
「じゃあ桂くんに問題です。“10フィート”はどれくらいの長さでしょうか?」
「は?急に聞かれてもわかんないし・・・・・・1メートルとか?」
「残念。でも惜しいかも」
「ヒントくれヒント」
「えぇーもうちょっと自分で考えなよ~」
「はぁマジかよ・・・・・・じゃあ10センチ」
「・・・ファイナルアンサー?」
「・・・ファイナルアンサー」
「・・・・・・・・・残念っ」
「わかるわけないじゃんこんなん」
そもそもなんであいつがわざわざ俺だけを呼んだのかも、いつの間にか思い出せなくなっていた。
「正解知りたい?」
「・・・柊奈の好きにすれば?」
だけど、“10フィートの長さはどのくらい”というクイズをあいつが俺に出してきたことだけは、どうしてかわからないけれど今でも鮮明に覚えている。
「正解は・・・・・・“届きそうで届かない距離”、だよ」
2015年_4月2日_
♪~_
「(・・・
自分の部屋で明日から通う高校の入学式への支度をしていたら、勉強机の上に置いていたスマホが鳴って画面を見ると、一番の“親友”からLIME電話がきていた。
『よぉ桂、お久しぶりぶり』
電話に出るや、いきなり翔太はふざけた感じで話してきた。何というか、こいつの第一声を聞いただけで何だか面白く感じる。
「翔太じゃん。正月んときに俺が
そんなこいつの名前は
“「もう、これで何度目なのよ
翔太とは今でこそ親友と呼べるほど仲が良いけれど、初対面のときはそういう翔太の馴れ馴れしいところが気に食わなくて、ちょっかいを出されては何回も喧嘩してその度に担任に怒られて、終いには席替えで一番遠い席にさせられたこともあった。けれど10月にやった音楽発表会が終わったあたりからなぜか急に一周回って滅茶苦茶仲良くなった。それからは互いの家で頻繁にゲームとかをしたり学校終わりにグラウンドで翔太が集めた仲間と一緒にキックベースとかをしたり、翔太からの誘いで体育教室に入って一緒のチームでユニホックの大会に出たりもして、最初の仲の悪さが嘘みたいに俺たちは仲良くなった。と言っても、こいつの悪ふざけに俺もよく付き合っては一緒にバカをやってたから、仲良くなっても担任からは相変わらず“仲良く”怒られていた。もちろん“一線”を超えるようなことはしてないから今となってはそれもまた“いい思い出”だ。
「で、なんで電話?」
『いや、こないだ合格祝ったときって俺ら互いにメッセだけだったじゃん。なんかそれって物足りなくね?って思ってさ』
にしても翔太ってやつは小1でクラスが同じになって初めて話したときから声が低くなったこと以外は基本的に何にも変わらないから、ただ話してるだけでも面白い。でも、学校に行けば毎日話してたやつと気まぐれな電話でたまにぐらいしか話さなくなると、その度に高かった翔太の声が大人みたいになっていくのを直に感じて、不意に気分が“センチ”になる。
「別に俺はそういうのはいちいち気にしないから大丈夫だけど」
『ホントは超嬉しいくせに?分かるぜ俺には』
「残念ながらそれはねぇ」
センチになるかどうかは知らないが、変化を感じているのは翔太もきっと同じなんだろう。
『ったくせっかく“声”で話してるってのに寂しいこと言うなよ~。俺はただ、埼玉に転校したお前にちゃんと友達ができてるか、“親友”として心配してるだけだってのに』
「普通にいるわ。ってかそれ合格祈願で善光寺行ったとき翔太に話さなかった俺?」
『え、マジで?全然覚えてねぇ』
「覚えてないくせによくそれで人に寂しいこと言うなよとか言えたな」
『マジごめんて桂~だからそんな怒んなって』
“「埼玉に行っても、俺は2組とこの学校で経験した思い出は絶対に忘れないし・・・みんなのことはずっと仲間だって思ってるから」”
『そういやあれからもう1年経つんかー』
「あれって何?」
『桂が
「あー、言われてみればそんな経つのか。受験でその辺のことすっかり忘れてたわ」
『それな~・・・にしても終業式んときに中山から“最後にクラスのみんなに一言”って無茶ぶりされたお前のスピーチ、いま思い出してもカッコいいわマジで』
「スピーチ?わりぃ覚えてねぇ」
『“埼玉に行っても、俺は2組とこの学校で経験した思い出は絶対に忘れないし・・・みんなのことはずっと仲間だって思ってるから”・・・ってやつ。忘れたとは言わせねぇよ?』
「・・・うっわマジで“黒歴史”のやつじゃんそれ」
『“黒歴史”とか言うなよオイ、普通にウケてただろ』
「今からでもタイムリープして戻りたいぐらい恥ずいわ」
中2の終わり、俺は親父の転勤をきっかけに生まれ育った長野を離れて、大叔父が住んでいる浦和から程近い上福岡というところに引っ越した。どっちにしろ転校することにはなるけれど隣町にいる父方のじいちゃんの家か諏訪にある親戚の家に預けてもらうという話になったこともあったが、それぞれの事情を考えた結果、俺は中3というタイミングで親父の転勤に付き合う形で転校することになった。
『でどうよ?友達できたか?』
「普通にできたわ2度も言わせんな」
『じゃあ彼女は?』
「いるわけねぇじゃん」
『うわぁ、ドンマイ』
「ドンマイってそういう翔太はいるのかよ?」
『いないんだなこれが』
「だろうな」
『シンプルに酷ぇなお前』
こんな具合に翔太からは要らぬ心配をされているが、半端なタイミングで転校することになった俺はこっちでも気の合う友達ができて、修学旅行に文化祭とド定番なイベントを経てすっかり新しい環境にも馴染めて、普通に転校先の中学の1年間も楽しめた。ただし彼女はこっちに来てもいないままだけれど、それに関してはお互い様だ。
『でもぶっちゃけ“カワイイ”女子はいるしない?』
「なんか久々に聞いたわその方言」
『方言?』
「こっち来てから一回ツッコまれたことあるけど、“
『マジで!?あれ標準語じゃねぇの!?』
「大マジ。俺もそれ知らなくて最初ビックリしたわ」
あと今となってはどうでもいいことだが、埼玉に引っ越してきて何気に一番びっくりしたことは“~しない”が標準語じゃなくて長野の方言だったことだ。どうやら翔太もそれは全く知らなかったみたいで、絵に描いたように“?”ってリアクションをされた。
『そんなことよりそっちにも“カワイイ”女子はいんの?』
「何か前も聞かれた気がするなそれ」
『んな細かいこと気にすんなって。で、いんの?』
「はぁ・・・まー、いなくはない」
『そん中で好きな女子は?』
「何でそうなるんだよ?」
『だってカワイイ“
「彼女できたことねぇやつが恋愛語んな」
『ハハッ、言っとくけどお前もな』
「そうかもな」
ひとまずは方言の話はここまでにして、翔太から“めんどくさい”質問が来たからとりあえず俺は“NO”を言い続けてこの話題を終わらせることに集中する。確かに翔太の言う通り、転校先の中学のクラスにも当然“可愛い”と思う女子はいたけれど、“可愛い”と思ったからといって、それで“好き”になるかと言われたらそうはならないのが俺だ。
『・・・そういや桂、柊奈とは会えた?』
「・・・急になんで柊奈の名前が出てくるんだよ?意味分からん」
電話に出てから幾分か経って時間を忘れ始めたところで、電話の向こうから随分と懐かしい名前が聞こえてきた。
『いやいや意味分からんは分からんっておい、柊奈だよ
「いや、柊奈のことは覚えてるよ。小4のときに転校した」
名前を聞いて思い出したとかじゃなくてずっと頭の片隅で覚えている、翔太と仲良くなる前から仲が良かった小4まで同じ学校の同じクラスにいた幼馴染の名前。
「で?柊奈がどうしたって?」
『じゃなくて柊奈とは会えたかって聞いてんだよさっきから。だって同じ埼玉だろ?』
“「桂くん・・・柊奈、8月に引っ越すことになった」”
「・・・あぁ、そういやあいつ埼玉に引っ越してたな」
『覚えてなかったんかい』
「仕方ねぇだろ小4のときのことだし」
たださすがにあれから5年以上も経つと、翔太に言われないと細かいことは思い出せなくなるくらいには
“「ごめん・・・気持ちは嬉しいんだけどそんなことすると
そうなった理由は、俺が“柊奈の気持ち”を汲んだからだ。そのせいで完全な音信不通になってしまったのは、もう言うまでもないが。
「というわけで残念ながら会えてないよ」
『そんな冷てぇこと言ってないで会ってやりゃどうだ?せっかく同じ埼玉だし』
「同じ埼玉にいるから会わないといけないって発想が意味分からんわ」
『いやいや埼玉は狭いから余裕で行けるっしょ』
「お前いま埼玉県民全員を敵に回したぞ」
『ハッ、地元が
「住めば埼玉も都だわ」
もちろん“今何してるか”全く気にならないかと言われたら、こうやって話題になればふと気にならなくもない。けど、だからってせっかくだから会いたいとまで俺は思わない。
『まぁいいや、ちっさいときから引っ込み思案だった桂のことだから会ってないだろうなとは薄々思ってたよ俺』
「あぁ、分かってくれたらいい」
『いやそこは言い返してくれよ桂!じゃないと俺がシンプルに悪口言ってるみたいになってんじゃん!』
「別に俺は悪口だなんて思ってねぇよ。だってほんとのことだから」
『ホントお前って昔っから変なところで我が強いよな』
なぜなら俺は、小さいときから基本的に1人とか本当に気の合う友達とこんな感じで1対1とか小人数でいるときのほうが気分が落ち着く、いわゆる翔太みたいな“クラスのおもろいやつ”とは正反対の“内向的”な
「にしても翔太って結構そういうところ気にするタイプだったんだな」
『当たり前じゃん。こう見えて俺って優しいから』
「お前が優しいのは知ってるけど自分で言うなよ」
だから例えば翔太からあいつのことで何か言われたとしても、気になりはするけど“今さら会っても特に話すことがないし、どこに住んでるかも思い出せないあいつの住んでるところを探して会いに行くのはストーカーみたいで嫌だし、ていうかめんどくさい”という気持ちになって、何もしないのがこの俺だ。
『つっても桂ってさ、柊奈とすげぇ仲良かったよな?』
「確かに仲は良かったけど言うほどか?」
『言っとくけどクラスの連中の中で“付き合ってんじゃね?”って噂されるぐらいには仲良かったぞお前ら2人?』
「・・・あー、なんかすっげぇ遠回しに
『そういや同じクラスになったときアイツからめっちゃいじられてたよな桂って』
「ははっ、ほんとそれな・・・何だかんだで滅茶苦茶良い奴だけど航大のああいうとこだけはマジで勘弁してくれって思うわ」
『桂に代わって俺がアイツにそう伝えとくか?』
「いやいい。別にもう何とも思ってないし」
『ハハッ、ったくホントお前って優しいのか冷たいのかわかんねぇな』
「勝手に言ってろ」
とはいえ、翔太の言う通り俺はあいつとも結構仲が良かったのは紛れもない事実だから、会うのが嫌だと思うようなことは一度もない。さすがにただ友達として普通に話したり一緒に帰ったり俺の住んでたところにあいつが遊びにきたってだけで“付き合ってる”と思われたのは心底大袈裟だなと思ったけれど、俺にとってあいつは今でも大切な友達だっていうのは変わらない。
『でもよ、もし柊奈に会えるなら会いたいっしょぶっちゃけ?』
「そりゃあ・・・柊奈に会えたら嬉しいっちゃ嬉しいとは思ってるよ、正直」
それにしても、どうして翔太はいきなりあいつの話をし始めたのかが分からない。きっと普段から何も考えないでノリだけで生きているようなこいつの
『それかワンチャン・・・高校が同じだったパターンで思わぬ再会なんてしちゃったりしてな』
“「・・・ほんとはもっとずっと“ここ”にいたかったんだけどね・・・」”
「さすがにそれは漫画だわ」
『いやいやジョークだよジョーク』
「つまんな」
『もー謝るからそんな怒んなって桂~』
絶対に“ワンチャン”の可能性も感じられない親友の下らぬジョークに、容赦なく本音をぶつける。特に意識なんてしてなかったけれど、俺が通うことになる高校の試験会場であいつの姿を見た覚えはないし、合格発表のときにもそこにあいつはいなかったから、それは絶対にない。
『ま、とりまこうやって声聞いてる限りだとちゃんと
「どういう意味だよそれ」
『ずっと心配してたんだよ。あんまり自分から進んで何かやるみたいなタイプじゃないお前のことをよ』
絶対にないと思っているけれど、翔太のジョークでほんの一瞬だけ“ワンチャンそうなったらな”って、俺は思ってしまった。
『でも良かったわ・・・それが余計な心配だったって分かってよ』
「良いこと言ってるみたいな感じだけど正月のときに全く同じこと話してるからね俺ら?」
『マジか、何かごめん』
「もう2回目だからツッコむ気力も起きねぇよ」
本当の本当に“ワンチャン”でしかないけれど、それを願ってしまった。もし会えたとしても、何も話せるようなことなんてないのにあいつのことを想像してしまった。
「けどありがとな・・・最初はいきなり電話きて“どうした?”って思ったけど、翔太の声聞けてなんか俺も安心したわ」
『おいおい急にどうしたらしくねぇ』
「人が結構マジで感謝してんのにお前は・・・」
そんな漫画みたいなことなんて、“ジョーク”の世界でもワンチャンぐらいしか起きないっていうのに。
『嘘だよ桂。俺もお前と話せてすげぇ楽しいわ』
「何だよさっきから大袈裟だな」
『それはお前もだろ』
「ははっ、確かに」
ただ、翔太の言ったことを鵜呑みにするわけじゃないけれど、そこそこ本気で“いまのあいつ”に会ってみたいと・・・俺は思った。
『じゃあな桂、明日からの高校生活頑張れよ』
「翔太もな」
『あと
「分かったよ」
『ついでに帰れたときにはまた2組のやつ何人か集めてなんかやろうぜ』
「うん、いいねそれ」
『じゃあ元気でな、桂』
「おう、またな」
翔太からの電話は、本当に“あっという間”に切れた。
「(20分も喋ってたのか俺・・・)」
何気なくLIMEの通話時間を見たら、20分も経っていた。