「えっ金原くん上福岡なんだ?めっちゃ近場じゃん」
「そう。まさかの隣っていうね」
「マジか、すげぇ」
「私もそれ聞いてすごくびっくりした」
入学式を無事に終えた俺はクラスメイトとして久しぶりに再会した柊奈と、その柊奈が転校先で1番最初に仲良くなったという隣のクラスになった黄村と一緒に駅の連絡橋を歩いていた。
「俺からすれば黄村くんと柊奈が近くに住んでたってほうが衝撃だったけどね」
「あー確かに、多分オレも金原くんの立場だったらめちゃくちゃ驚くよ絶対」
俺にとっては数時間前までは全く想像もしていなかった、小学生のときの友達とその友達の3人で駄弁りながら歩く入学式の後の放課後。別に高校デビューをしたいとかそんな気持ちはあんまりないけれど、思わぬ形で高校に入学して早々にこうやって友達(約1名まだ距離感的には微妙だが)と放課後を送っている優越感にも似た楽しい感覚と、“6年ぶり”と“初めまして”の2人と一緒にいてどんな話をしたらいいかイマイチ分からない不安に似た緊張感が半々で押し寄せてくる。
「ていうか昼どうしよう?」
こんな感じで少しだけ変な緊張を味わいながら歩く俺と、初対面の人にも全く壁を作らずフレンドリーな
「(昼・・・一応今日は多めに持ってはきてるけどあんまり金は)」
「昼かぁ・・・って言ってもお財布的に“サイゼ”か“マック”かな」
「じゃあ私は“クレモ”のマックで」
気持ち多めの所持金を入れた財布のことを呑気に考えているうちに、柊奈と黄村の“ふじみ野組”で昼を食べる場所が勝手に決まる。
「桂くんは?」
「あー、俺この辺あんま詳しくないからマックでいいよ」
もちろん最初からこの2人にどこで食べるかは任せているから、マックだろうとサイゼだろうと不満はないし、何なら“その辺”かコンビニ辺りにしてくれても別に良かったくらいだったから、本心的には助かった気分だ。
「私と連希もそんなに遊びに来てるわけじゃないから気にしなくていいのに」
「てか俺も“財布的な意味”でマックがいい」
理由は黄村と同じく、“お財布”の事情だ。そもそも大抵の人がバイトをしているわけじゃなく家から出るお小遣いでどうにかしているパターンの新一年生の懐事情的には、きっとこれぐらいが限界だろう・・・知らないけど。
「“財布的な意味”ってなに桂くん?」
「いや何でもねえ」
「あれじゃない?おれが“お財布的に”って言ったから」
「なるほど」
「黄村くんも黄村くんで詮索すな」
そんなこんなでイケメンの黄村と同じ理由でマックを選んだことを柊奈と黄村から軽く弄られつつも、俺は“ふじみ野組”と一緒に連絡橋で繋がっている駅前のビルの中を通り抜けて、“クレアモール”という駅前から一直線に続く歩行者天国の商店街に入る。
「(にしてもいつ来てもめっちゃ人いるなここ・・・)」
前にこの場所を歩いたのは3週間前の卒業式のあと、同じクラスでそこそこ仲が良かったやつに誘われる形でそいつのグループと一緒に2時間くらいカラオケをしたりゲーセンでプリクラを撮ったりしたときで、あの日も平日の昼過ぎぐらいの時間なのに並んで歩くと邪魔になるくらい人通りが多かった。俺の地元も場所によっては人通りが少ないわけじゃなかった気がするけど、正直こことは比べられない。
「そういえば桂くんってクレモは来たことある?」
「ここは何回かあるよ。何なら3週間くらい前についこないだまで通ってた中学の卒業式終わりにクラスの男子半分くらいで集まってカラオケとかしてた」
「うわ~それめっちゃいいじゃん」
その理由は一目瞭然で、ちょっと見渡せば俺の地元にはない店もあって賑わいが全然違うのが目に見えてわかる。別に地元も栄えてるところはまあまあ栄えてはいるつもりだけど、ここの賑わいを知ってしまったら少し寂しく感じてしまう。偏見でしかないかもしれないが、これが“首都圏”と“山の向こう”の違い・・・なんだろうか。まあ、地元の程よく田舎な感じもあれはあれで良いんだけれど。
「柊奈とかは卒業式のあととかにどっか行ったりしてた?」
「私たちのクラスは池袋だったよね連希?」
「そう」
「池袋?マジで?」
「大マジ。けど行ったのはラウワンだからあんまり池袋に行った意味はなかったんだけどね」
「ほとんどノリだったよねあれ?とりあえず池袋で遊んどこうみたいな」
「あーね、だってあの辺とかだったら全然普通に遊びに行けるし」
「何なら“池袋は埼玉県の植民地”って言われてるくらいだからね」
「植民地とか歴史の教科書に載ってるような時代の話だろ」
「ごめん桂くん。いま私が話してることは冗談だから安心して?」
「分かったうえでツッコんだつもりなんだけど俺」
会話から置いてけぼりにされそうになって冗談のつもりで柊奈無理やりツッコんでみたら、真に受けられて一瞬だけ変な空気になった。といっても柊奈は初めて会ったときから空気を読んで気を使うよりかは自分が中心になって好き勝手やるタイプだったから特に不満はない。
“「じゃあ今日から柊奈と“友達”になろうよ。桂くん」”
逆に周りの言っていることを深く気にしない性格だからこそ、周りと自分を気にし過ぎて孤立していた俺はそんな
「ははっ、桂くんは小っちゃいときから真面目だよね」
「今のどこに真面目な要素があった?」
「だって誰がどう聞いても冗談なのに結構マジな感じでツッコんでくるから」
「いやだって一人くらいツッコむ奴がいたほうがいいよなって思ったからさ」
ツッコミ不在で置いていかれる前にツッコミ役を買って出た俺を、“真面目だ”と言って柊奈は微笑む。
「そーいうところが真面目だって言うんだよ桂くん」
「ハイハイ真面目で結構」
「あ、桂くんが拗ねた」
「拗ねてねぇっつの」
正直言うとこんなふうに人をツッコむような立ち位置はそんなに得意じゃないけれど、
「本当に仲いいんだね。2人とも」
微笑み揶揄う柊奈に真面目にツッコみながら人知れず時間を忘れかけていたところに、柊奈を挟んだ左側を歩く黄村のどこか嬉しそうな声が届く。危ない、あとちょっとで“イケメン君”も一緒にいることを忘れて空気も読まずに柊奈とばかり話そうとするところだった。
「うん、だって桂くんは連希と同じで“友達”だからね。ね?」
「(ね?じゃねーよ・・・)・・・まぁな」
黄村の一言に、柊奈は少しだけ恥ずかしがる俺を道連れに自信満々にそう答える。にしても柊奈のやつは、よくこういうことを恥ずかしげもなく堂々と言えるものだと感心すら覚える。俺だって直接言わないだけで心の中ではそう思っているけれど、いざそれを言葉にしようとすると恥ずかしくなって言えなくなる。
「なに照れてんの桂くん?」
「いや照れてねぇし」
「あははっ」
中途半端に恥ずかしがったことを見抜いた柊奈から軽く手で肩を軽く叩かれ、その様子を微笑ましそうに黄村から見守られるように俺はこの2人と一緒にマックの中へと入る。
「あ、そうだ。連希と桂くんは部活とかどうするか考えてる?」
「まず柊奈は?」
「私は中学で吹奏楽やったから、高校はそれ以外の部活にしようって思ってる」
「なるほど、高校に入ったら新しいことに挑戦する的な感じ?」
「まーそんな感じって言えたらカッコいいんだけどほんとのこと言うとちょっと飽きてきた」
「飽きたんかい。てか吹奏楽やってたんだ?」
「うん。でも思った以上に練習キツいし顧問が超厳しかったから、その“反動”でちょっと」
「あぁ、そういう系ね(よくわからないけどこれは今は触れないほうがいいやつな気がする・・・)」
そして各々でセットを注文してちょうどよく空いていた窓際のテーブル席に座り、軽く話し合って俺と黄村が隣同士、そして俺の正面に柊奈が座る席順で頼んだハンバーガーとセットを食べながらどの部活に入るかを話題にして軽く盛り上がる入学式の後の昼下がり。そういえば親父のやつがマンションを出る前に“友達の1人か2人でも作って何か食ったり遊んだりして時間潰してもいい”と言っていたけど、昨日の翔太が電話で言っていた“ワンチャン”といい、こういう偶然が重なっていくとあの2人には“予知能力”でもあるのかと言いたくなる。
「連希は?」
「オレはとりあえず幾つか仮入部して一番自分に合いそうなところを探そうって思ってる」
「おぉ、いいじゃんそれ」
多分、というか絶対にありえないことだろうけど。
「いいっていうか、柊奈にはもう言ったことあるけどオレって幼稚園のときからずっと何をやっても3日坊主みたいな飽き性でさ、中学にいたときもやりたいって思えるような部活がなかったから帰宅部だったし」
「へぇ~、なんか見た感じは運動部とかに入ってそうなのにな。背も高いし」
「それ、みんなからもたまに言われる」
「でもスポーツ自体はめっちゃ出来るじゃん連希って」
「まぁ、“めっちゃ”ってほどじゃないけど一応ね?」
「一応って謙遜してるけどこの前やったクラスマッチのバスケで誰よりもシュート決めてるからねこの人?」
「あ~なんか分かるわそれ。見るからにバスケとかバレーやったら強そうだし(あと背が高いし)」
「いやいやただのマグレだってあれは」
「マグレじゃなかったら2連続でブザービートなんて無理でしょ」
「ブザービートってあのブザービートのこと?」
「うん、きっとそう」
「えっヤバくね?」
「そうだよ。だからヤバいんだよこの“帰宅部”は」
「本当はブザービートじゃなくて“ブザービーター”って言うんだけどねお二人さん・・・」
なんてことは置いておくとして、話題は部活の話で盛り上がる。今更だけど、俺もどの部活動に入るかは今の時点では全く決めていない。
「けどさ、そんなにバスケが出来るんならバスケ部入ればいいのに」
「そもそも運動部の空気がなんか合わないんだよね。別に身体動かすことは嫌いじゃないけど、キツい思いまでしてやろうってオレは思えないからさ」
「あー確かに運動部は大抵キツイからな、俺もすげぇそれわかる」
「って言ってるけど桂くんは普通にスポーツやってたけどね?」
「そうなんだ?」
「小2から小6までだけど体育教室通ってた」
「へぇ~、4年も続けてたって凄いじゃん」
「ただ続けてたってだけだから大したことないよ」
「確かユニホックだよね習ってたの?」
「そう」
ちなみに俺は小2から小6の終わりまで体育教室に通ってユニホックを教わっていたが、あれは翔太が一緒に習っていたから俺もやっていたというだけでガチ勢というわけではなかったから、俺も運動部のあの空気自体はそんなに好きじゃない。
「なにそれ?」
「えっとどう説明すればいいんかなアレ・・・・・・あーそうだ、ホッケーは分かる?」
「ホッケー・・・うん、何となく」
「本当にざっくり言うとアレの“もどき”・・・みたいな感じ」
「あー・・・うん。おれにはよく分かんないスポーツだけど凄いじゃん」
「ごめん黄村くん、説明がド下手で」
「結構マニアックだから説明難しいよねーあれ。私はやったことないからなおさら分かんないけど」
そもそもユニホック自体、隣に座る“スポーツ万能説”のイケメンには上手く伝わらない程度にはマニアックなスポーツなのだが。
「でもオレから見ればやりたいことを続けられてる時点で金原くんも柊奈もすごいなって本当に思うよ・・・・・・だから3日坊主で何にもしない分際が続けもしないで文句言ってるのもどうなのかなってぶっちゃけ思い始めてるから、高校こそはちゃんと最後まで続けられるものを探そうって、オレは本気で思ってる」
と、小6までやっていた習い事を明かした俺と中学で吹奏楽をやり切った柊奈のことを、通路側の席に座る黄村がセットで頼んだファンタを飲みながらやや大袈裟に褒めて、自分の決意を語る。
「黄村くん・・・・・・めっちゃ良いこと言うじゃん」
「・・・そうかな?」
「さすがイケメンは違うわ」
「だから大袈裟だって金原くん・・・」
この瞬間、俺は黄村という男が外見だけでなく中身までもが“イケメン”だということを確信した。同時に隣に座るイケメンに何とも言えない敗北感のようなよく分からない感覚が襲ってきたが、これは気のせいだろう。
「じゃあ最後は桂くんだね?」
「何が?」
「この流れだと部活に決まってんじゃん」
「・・・あぁ、そうだな」
なんて油断していたら、テーブルを挟んだ正面に座る柊奈が話の続きを始める。流れ的に絶対に来るだろうなとは分かっていたけれど、完全に油断していて全く答えを考えていなかった。
「俺も黄村くんと一緒かもな?とりあえず自分に合いそうなところ探して、的な」
数秒だけ考えて、それっぽい答えを出してみる。実のところ俺も俺で
「運動部とかには入らないの?スポーツやってたじゃん」
「あれは同じクラスで仲が良かったやつがやってたから続けてたってだけで、別にスポーツが好きってわけじゃないよ俺は」
「そうだっけ?その割には体育とかそこそこ成績良くなかった?」
「たまたま体育教室に通っていたからってだけだよ。中学上がったら全然ダメ」
「あら勿体ない」
言われたら何回でも言うけれど、俺が体育教室を4年も続けられたのは一番の親友だった翔太がいたからであって、俺自体は物心がついたときから体育とか運動系は基本的に好きじゃない。
「そうだ、金原くんは中学のときはどんな部活してた?」
「あ~、私もそれ気になる」
隣に座る黄村が思いついたように個人的に“あんまり触れて欲しくない”ところに触れて、柊奈も釣られてそれに乗る。言うまでもなく俺の中学時代のことを何も知らないこの2人は、何にも悪くない。
「・・・帰宅部だよ。何か合うところがなかった」
「えっ、じゃあ連希と一緒じゃん」
“あんまり触れて欲しくない”と言葉にすると結構シリアスになるけれど、要するに中学のときはこれと言ってやりたいと思えるような部活がなかったから帰宅部になってどこにも入らなかったことを卒業してから人知れず軽く心の中で後悔しているというだけの話だ。
「まぁ本当のこと言うと、1週間だけパソコン部入ってすぐ辞めた感じなんだけどさ」
「1週間で辞めたんなら何で入ったし」
「とりあえず何か部活入っておかないと“ナメられる”って思ったんだよあん時は」
「それでパソコン部って逆にナメられない?」
「言いたいことは分かるけど偏見が酷くね柊奈?」
更に掘り下げて厳密に話すとどこかに入っておかなければと思って“一瞬”だけパソコン部に入っていたけれど、今思えばあれは完全に血迷っていた。決してぐうの音も出ないほどのド偏見を返してきた柊奈とは違ってパソコン部を馬鹿にする気は全くないが、後々になってそう感じてしまうくらいにはあの空気が俺には合わなかった。もちろん辞めたら辞めたで
「けど、今回ばかりは俺も本気で部活やろうって思ってる・・・まだ何にも決めてないけど」
だから俺も黄村と同じというわけじゃないけれど、割とその辺は本気のつもりだ。
「ははっ、もうそれ2人して決意表明みたいになってるじゃん」
「ほんとそれな」
結果的にどうしたいかというより決意表明のようになってしまった俺と黄村を、柊奈は微笑ましそうに笑いながらツッコむ。気が付くと、入学式前と後のような微妙な距離感はなくなっているように俺は感じていた。
「・・・って忘れかけてたけど来週いきなりテストあるじゃん!」
「あ~、そういやホームルームで先生言ってたわそれ」
「何だっけ?数学と英語だっけ?」
「そう。クラス決めのやつ」
「いやだるっ」
「そうだ、せっかくみんな教科書揃えたしここで軽く勉強しとく?」
「ナイスアイデア連希」
「いや待て、よく考えたらどうせやるのって中学で習ったことの復習だから教科書読んでもあんまり意味なくね?」
「あ~、言われてみれば」
「ていうかまずスクバがパンパンな桂くんは教科書出したらもう戻せなくなるでしょ?」
「うるせぇわ」
「まず何で高校でやる最初の授業がいきなりテストなんだって話だよね?」
「うん、私なんか受験終わってから1秒も勉強なんてしてないからヤバいわ」
「けど上手く行き過ぎて“成績良い”とこいくのもそれはそれで嫌なんだけど」
「うわ~それもめっちゃわかる」
“「そしたらタクローが走ってきたタイミングでちょうど相川が教室の扉閉めてさ、タクローが思いっきり扉んとこに顔面ぶつけてw」”
“「うわ~あったなそれ」”
“「マジで腹よじれるくらい笑ったわアレ」”
“「何なら桂にも見せてやりたかったくらいだよなアレ?」”
“「えっ、金原ってアレ知らないっけ?」”
「で、どうするこのあと?」
“「ごめんそれ知らないわ。俺こっち転校してきたの3年からだし」”
“「うっわーマジかそうだったわ」”
“「なんかごめんな勝手に俺らだけで盛り上がっちゃって」”
“「いやいや全然良いって、話聞いてるだけで面白いし・・・」”
「とりますぐそこのゲーセンでも行ってみる?ただ昼食って帰るのもつまんないし」
というよりかは、こうやって周りと同じテンションで他愛もない話ができることが、もう慣れない環境に馴染むために無理をする必要はないんだと思えて、俺は素直に嬉しく思う。
「いいね賛成」
「おれも」
「じゃあ決まりだね」
「で、行くのはいいけど何やる?」
「それは着いてから決める感じでいいんじゃない?」
「せっかくだからプリクラはやっとこうよ。こうやって3人揃ってるからさ」
こうして入学初日から新しい友達が増えた俺は、“ふじみ野組”とすっかり打ち解けて放課後を満喫した。