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「ねえ?なんでおれのこと無視するの?」
人は誰でも、どうしても隠しておきたい秘密、無かったことにしたい過去というものを、大なり小なりはあれど必ず1つは持っている。
「リョウタくんから連希くんとはあんまり喋らないほうがいいって言われた」
小4の頃、それまで毎日のように学校が終わった後に遊んだりしていた一番仲が良かった友達が、急によそよそしい態度をとるようになった。気になって問いただしてみたら、こんなことを言われた。
「どうして?」
「連希くんは僕と違って“普通の人”じゃないから」
“普通の人じゃない”。この言葉が意味するものが何なのか、オレはすぐに分かってしまった。どんな習いごとも3日坊主で長続きしなかったオレが、小学校に上がったときに飛び込んだ芝居の世界。
「・・・そうかな?」
「だって連希くん、テレビ戦士になって宇宙人と戦ってるじゃん」
「うん、そうだよ。でも今は違うじゃん」
その世界でオレは超が付くほどの売れっ子・・・までは行かないけれど、最初に受けたオーディションでいきなり合格したことがきっかけで“テレビ戦士”の一員としてテレビに出るようになって、CMとかにもいくつか出演したり、端役ながら朝ドラにも出させてもらえたおかげで、そこそこ人気な子役になれた。
「違わないよ。僕は普通の人で、連希くんは芸能人。何が違うの?」
大人の人たちが僕たち子どもにカメラを向けて、監督さんの掛け声を合図にカメラの前で自分じゃない誰かを演じる。その姿がテレビに映ると、次の日にはクラスどころか学年中のヒーローになれた。お遊戯会とか、ピアノの発表会なんかじゃ絶対に見ることができない景色。何をやっても3日坊主だったオレはすっかり芸能界っていう選ばれた人しかいない世界の虜になって、将来の夢が戦隊モノのヒーローっていう漠然としたものじゃなくて、俳優さんという明確な
「てかさ、連希くんと遊んでるところ見られると僕もいじめられるから・・・だからごめんね」
だけどオレが学校のヒーローだったのは最初だけで、周りの友達からの視線が憧れから少しずつ嫉妬に変わっていくのと比例して、俺の周りから友達は1人、また1人と離れていって、ついには一番仲が良かった友達も離れていった。テレビの中では相変わらずテレビ戦士の一員としてみんなと力を合わせて地球に悪さをする宇宙人をやっつけても、学校に行けば悪口を言ってくるかつての友達に何一つ反撃できず、言い返すこともできない臆病ないじめられっ子。そのくせテレビに出てる自分は今日もテレビ戦士に課されたミッションを必死に表情とテンションを取り繕ってこなしていく。だんだん、テレビに映る嘘をつく自分が気持ち悪く見えてきて、嫌いになった。
「ごめんねって・・・・・・なんだよ・・・」
テレビ戦士の中には、オレ以外にも学校でいじめられたりしている同い年の女の子もいた。だけどその子は“女優になって大成功して、絶対にみんなを見返してやる”と、誰よりも撮影に本気で取り組んでいた。その子の姿を見たオレは、“自分はヒーローになんてなれない”ことを子供心ながらに理解してしまった。普通の世界から向けられる敵意の視線でとっくに心が折れていたオレには、失ったものを糧にして自分を奮い立たせる気力なんて残っていなかった。心で泣いて顔で笑ってその場しのぎに自分を誤魔化すことだけで、精一杯だった。そうやって無理やり自分を誤魔化していたら、やっと好きになれたものが好きになれなくなった。
「・・・おれは・・・・・・ただカメラの前に立つのが好きだから、やってただけなのに・・・」
こうしてオレは、小4の3月でテレビ戦士を卒業するのと同時に子役をやめて、学校も県境をまたいだ向こう側にある学校へ転校した。
4月10日_
「金原、テストどうだった?」
「可もなく、不可もなくって感じかな」
俺の高校生活は、始業式が終わって授業も始まりだして数学と英語のクラス分けテストも終わって、あっという間に1週間が経った。
「じゃあ金原はきっとレベル高いクラスに行けるな」
「何で?」
「可もなく不可もなくって、悪くはなかったってことじゃん」
テストが終わった後の昼休み。一緒に昼を食べた同じクラスの
「マグレで良い点取ったせいで一番レベル高いとこになるのだけは嫌なんだけど」
「まじそれ。ちなみに俺は“オワタ状態”だから無問題さ」
「いや、マジで“オワタ”な状態だと追試になるんだけどね?」
「それぐらい知ってるよ。マジで終わってたらこんなテンションで話してないし」
「ならいいんだけど・・・」
そして1週間が経って、俺には柊奈と隣のクラスの黄村以外にも友達と呼べるクラスメイトができた。こっちに引っ越して
「そういや金原って白間さんと小学校一緒なんだよな?」
「おう、そうだけど」
「普段話したりしねえの?」
もちろん生まれ育った地元は同じだけど対照的な“
「話すことは話すよ。LIMEも交換してるし」
「へぇー、そうなんだな」
その様子を自分の席から俺は横目で見つめて視線を熊谷に戻す。
「でもあんまり金原が学校で話してるところって見たことないんだけど俺」
「話さないわけじゃないんだけど、何ていうか話すことが特になかったら同じクラスでもしょっちゅう話さなくねって感じ」
「あーなんかわかるわそれ。学校から帰るときとか部活んときは喋るけど学校にいるときはあんまり喋んなくなるパターン。俺もそうだった」
「マジで?熊谷ってそういうの全然気にしない感じだと思ってた」
「まぁ俺の場合は向こうがすげぇ無口なやつだったパターンだけど」
とりあえず熊谷が意外と話が分かるやつで助かったことはさておきで、久しぶりに柊奈と会えたからといって今まで会ってなかった時間を埋めるように学校でもいつも一緒に共通の話題で盛り上がったりなんて真似はしない。というより、仲が良い幼馴染がみんな毎日毎時のように仲良くくっついているとは限らないし、逆に一周回ってあんまり話さなくなるのもそれはそれで幼馴染ってやつだ・・・と、勝手に俺は思っている。
“「ねぇ桂くん。柊奈にもその本貸してくれない?」”
「(というより・・・小学生のときと比べて
仲良くなったグループの女子たちと楽しそうに何かを話している柊奈を見て、俺がよく知っていた頃のこいつの姿が頭の中で薄っすらと浮かんで消える。思い返すとあの頃の柊奈は、男女の壁とかそんなものは関係ないって感じでよく男子に混ざって遊んだりしているようなやつで、良くも悪くも距離感が近いところもあった。そう考えると柊奈はしばらく会わないうちに人との距離感の取り方とかが、思春期的なものを経たことで何というかより女子らしくになったというところだろうか。
「(まだ自分の
入学式の日に黄村もいれた3人で寄り道しながら帰ったときは何だかんだで変わらないなと思っていたけど、こうやって女子たちだけで盛り上がっているこいつの姿を見ていると、子どもっぽかったはずの柊奈がもの凄く大人になったような気になる。別にこれがショックということではないし、こうやって誰かと幸せそうに笑ってる表情をただ見れるだけで俺は嬉しいのだけど。
「・・・さっきから何ボーっとしてんだ金原?」
「ん?いや、何でもねえ」
「ぶっちゃけ白間さんのこと見てたろ?」
「見てないっつの」
熊谷から声をかけられて、無意識に柊奈のほうを見ていた視線を真後ろの席に戻す。俺としたことが、完全に熊谷の存在を忘れて柊奈のほうを見ていた。いくら視線の先にいるのが俺のことを良く知ってる幼馴染だとしても、これだと俺が“可愛い女子をついガン見してしまうキモい男子”も同然だ。と、すぐに自意識過剰な被害妄想に逃げようとする、心が“こっち側”な俺の悪い癖。
「まぁいいや。それより今日から仮入部期間じゃん」
「・・・あぁ、そういえば」
「部活とかどうするよ?」
そんなことより俺の通うアサ高は今日から仮入部期間が始まって、いよいよ部活動が本格的に始まっていく。
「俺かぁ・・・」
「さては決まってねえな?」
「それな」
もちろん俺は、まだどこにするかとかは何も決まってない。それどころか、今日から仮入部期間だってこと自体を忘れていた。
「熊谷は?」
「とりまバスケかサッカー」
「何で?」
「歓迎会でやってた勧誘ネタが面白かったから」
「それって1ヶ月で嫌になって辞めるパターンじゃね?」
「て思ったけどまともにバスケもサッカーもやったことねえからぼちぼちと色々回って決めるわ」
「熊谷って行き当たりばったりなのかちゃんと考えてるのか分かんないよな・・・」
現時点で決めてるのは、特に運動部が駄目とか文化部が駄目とかでもない。かと言って入りたいと思える部活がないわけじゃなくて、何かしら入っておきたいというところ・・・要するに、何も決まってないってことだ。
「ま、最悪どこにも入らないで帰宅部って選択も無きにしも非ずだけどな。バイトできるし」
「いや、何かしらには入ろうとは思ってるよ俺も・・・」
確か入学式のときに黄村と良い感じに意気投合して本気で部活に打ち込むみたいなことを言ったけれど、あれはどっちかというとその場のノリに流されて変なテンションになって言ってしまったようなもので、1週間も経てばご覧の通り相変わらずの様だ。
“「今回ばかりは俺も本気で部活やろうって思ってる」”
「何も決まってないけど」
けれどもあの2人を前に堂々と言ってしまった以上、もう引き返せない悪循環。これでどこにも入らずに帰宅部になったら間違いなく馬鹿にしたり悪い意味で揶揄ってくるようなやつは幸運にも俺の周りにはいないけど、あれだけ決意表明みたいなことを言っておいてどこにも入らないのは自分の中ではダサいと思うから、何かしらは始めるつもりではいる。
「だったら尚更、俺みたいに色んなとこ回って決める感じでいいんじゃね?本入部まではまだ1ヶ月ぐらいあるし」
「・・・ありがとう。とりあえずそうしてみるわ」
それに中学でそういうのから一度逃げていたから、これでも一応部活は本気でやろうとは最初から心に決めている。
「熊谷ってさ・・・結構優しいよな」
「そうか?俺からすれば困ったときはお互い様ってぐらいのことだけどな?」
「・・・ぶっちゃけ満更でもないでしょ?」
「ははっ、それな~」
こうして後ろの席に座る熊谷から優しく背中を押される形で、俺の部活動探しはスタートした。
キーンコーンカーンコーン_
「(・・・のはいいけど、マジでどこにしよう)」
どの部活に入るかを考えていたらあっという間に今日の授業が終わって、放課後になった。案の定、まだどこに行くかは決まっていない。
「金原、俺いまからバスケ部のとこ行くけど一緒にいくか?」
「あー、俺はいいかな。適当に別のとこ行ってみる」
「そっか、面白い
「おう」
とりあえずな感じのテンションでバスケ部に行くという熊谷を教室から見送り、俺もまた支度を済ませて席から離れる。まだどの部活にするかは決まっていないが、当然これは帰り支度とかではない。
「ねぇ柊奈はどこいくか決まった部活?」
教室を出ようとしたところで、通りすがりに柊奈たちの女子グループの会話が右耳に入ってくる。そういえば柊奈のやつはどこの部活に入るんだろう・・・と、少し歩くスピードを緩めて通り過ぎるフリをして耳を澄ましてみる。
「ん~、演劇部とか」
「演劇?」
「うん。だって歓迎会のショートコント?みたいなのが面白かったからさ」
「へぇ~」
「でも柊奈が演劇部ってちょっと意外」
「そうかな?」
柊奈が演劇部か・・・あんまり想像がつかないな・・・
「あ、桂くんおつかれ」
「!?・・・おう、おつかれ」
と、さり気なく聞き耳を立てながら通り過ぎようとしたところで急に声をかけられて、思わず驚きながら柊奈のほうを振り向くと、通りすがりの俺を見つめる4人の視線が一気に降りかかる。
「ぁははっ、何ビックリしてんの?」
「いや、急に声かけたから」
にしても、男子はともかく女子から一斉にこうやって目を向けられると何故か緊張する。しかも柊奈が仲良くなった女子グループは何と言うか完全に“陽”って感じだから、余計に苦手だ。もちろん嫌いって意味じゃないけれど、“嫌な予感”がする。
「ねぇ、金原くんって部活どこにすんの?」
「えっ俺?」
「もしかして金原くんも演劇部?」
「いや、何で」
「てゆうか金原くんってひなっちと小学校一緒だってホント?」
「ちょっ、まだ俺何も言ってない」
その嫌な予感が当たって、完全に“あっち側”のグループのペースに飲まれる。柊奈と仲が良いって時点でこの女子グループのみんなが良い人そうなのは分かるけど、物心がついたときからの人見知りにとってこのノリが続くのは、正直ちょっとしんどい。
「お~い桂くんが困っちゃってるからこの辺にしとけよみんな~」
その様子を見ていた柊奈が、揶揄い半分で笑いながら他の3人を優しく止める。本当にただ明るいだけじゃなくて普通に優しいこいつのこういうところは、友達になったばかりのときからほとんど変わらない。
「ごめんね金原くん。ぶっちゃけうるさかったでしょ?」
「ううん、全然」
「ウチらがウザかったらウザいって言っていいからね?」
「あぁうん、俺は全然大丈夫だから」
柊奈の一言で質問攻めしてきた周りの女子は手のひらを返すように俺に向けて軽いノリな感じで謝る。ノリは軽いけど、俺に向けられる目と和やかな空気でそれが悪意はなくて本当に悪いって思ってるのはすぐに伝わったから、むしろこっちが謙遜するぐらいの気持ちで受け取る。
「そうだ。桂くんって部活どこにするか決まった?」
この流れでさり気なく“さようなら”に持ち込もうとしたタイミングで、柊奈が“禁断の質問”を聞いてきた。
「・・・ぶっちゃけまだかな」
「ふ~ん、そっか」
ここでそれっぽい嘘をついて場を撒けるほど器用じゃない俺が馬鹿正直に決まってないことを伝えると、柊奈はどこか意味深そうなリアクションで頷く。このリアクションがどういう意味なのか、“幼馴染”という言葉が過去形になるくらいにはこいつと離れ離れになっていた俺には読み取れない。
「じゃあ、俺はこれで」
「金原くん。マジでワンチャン演劇部にしようかなって思ってたりする?」
「ちょっと
適当にそれらしい返しをして教室を出ようとしたところで、女子グループの1人の
「どうして?」
「だって桂くんが演劇やってる姿なんて1ミリも想像できないし」
「それは柊奈も一緒じゃない?」
「これでも私ってドラマとかは好きな俳優さん目当てで観たりするから」
「歓迎会のやつが面白かったからって言ってなかったっけひなっち?」
「それはそれ、これはこれ」
俺が演劇部・・・そして柊奈も演劇部・・・どっちも全然想像がつかないし、今まで考えたこともなかったな・・・・・・
「まぁ・・・一応演劇部も、ちょっとだけ考えてみるよ」
「・・・・・・え、マ?」
「じゃあまた」
俺は何を言っているのか・・・と、去り際で口からこぼれた自分でも思っても見なかった言葉に動揺して、早歩きで廊下を歩く。どうして俺はつい数分前まで頭の中で思ってすらもいなかった
「(・・・逆に今までやったことのないことを始めてみるのも、案外いいかもな)」
そのどちらなのかどちらでもないかは自分でも分からないが、どこに向かうでもなく廊下を歩いていたらいつの間にか心は満更でもないような気持ちになっていた。
「(って、本当に行ってどうする俺)」
そして気が付いたら、中央棟の3階にある演劇部の活動場所の1つでもある第一視聴覚室の前まで歩いていた。一体なんで視聴覚室を目指して歩いて来たのか、はっきり言って覚えていない。
「(人の声が聞こえる・・・)」
普段どこでやってるかは興味がなかったせいであまりよく聞いていなかったから完全に勘だけれど、何人かの人の声がする感じからしてどうやら演劇部の今日の活動場所はここで合っているみたいだ。ただ、何で俺がここに来てしまったのか、自分でもまだよく分からない。
「(・・・女子が多いな)」
視聴覚室の扉の向こう側から微かに聞こえてくる声からして、ここの演劇部は女子の比率が多いみたいだ。そういえば歓迎会のときに出ていた部員の人も、女子ばかりだった気がする。まあ、別に周りが女子ばかりで男共がほとんどいないっていうのは仕方ないしそれが悪いってことじゃないのだけれど、やっぱり初見だと好奇心よりも食わず嫌いが勝ってしまうのが、“こっち側”の俺だ。
「(・・・やっぱ今日は大人しく帰るか。別に今日決めるようなことじゃないし)」
結局すぐ目の前まで来たところで急に気持ちが冷めて、かといってもう他のところに行けるほど時間の余裕もなくなって、このまま家に帰る意思を固めて“来た道”を引き返す。
「あれ?金原くんじゃん」
「・・・黄村くん?」
視聴覚室から背を向けるように振り返ったら、目の前に黄村が立っていた。