しかし、アイザック様の上半身は紫の毒液に濡れており、肉が灼け溶ける音と思わず鼻を塞ぎたくなるような強い異臭が私の鼻をついた。どう見ても明らかに毒液から私を庇ったアイザック様の姿に私が絶句しているとアイザック様は荒い息を吐いて言った。
『ったく、とんだ依頼だぜ。散々こき使われて飯だって王都を出てからまともなもん食ってねえのに一人で毒竜を倒さないといけないなんてよ……』
『! な、なにを言っている!ただの冒険者風情が一人でこの魔物を倒すなんて無理だ!私の事は良い!早く逃げろ!!』
『何言ってんだ騎士様よ。アンタみてえな若い騎士見捨てられるわけねえだろ。それに……今逃げたところであのトカゲを倒さない限り、この毒は解毒できないしな』
『なっ……!?』
『まあ、つっても前に同じような毒……いや呪いを受けたことがあるってだけで本当にあいつを倒したところで解毒出来るかって保証はねえんだけど……ま、そうなった時はギルド長に葬式が挙げられるくらい追加の依頼料を払っておいてくれよ?』
『ま、待て……!そんな無謀なっ……!!』
制止する私に向かい、アイザック様は不敵ににやりと笑うと自身の武器である大剣を構えて迫り来る竜に向かっていった。……あまりにも無謀な行動。きっと彼も先に散っていった仲間と同じ運命を辿るのだろう。
(くっ、すまない……!貴様の勇気、決して無駄にはしない!)
そう思っていた。だからアイザック様の言葉を自尊心が高い騎士を逃がす為に言った嘘(方便)だと思った私は震える足を叱咤し、アイザック様に背を向けて逃げようとした。が、それが嘘ではなく本心から言った言葉だとドチャ!と粘着質な音を立てて、空から切断された毒竜の首が青い血を散らしながら目の前に落ちてきたことにより私は理解する。
『なっ……!?』
『す、すまねえ!ちょっと体が思うように動かなくてそっちに飛んじまった!大丈夫だったか?』
『だ、大丈夫だが……そんなことより!これは貴様がやったのか!?』
『お、おう……?俺だけど……?』
『そ、そんな信じられない……!一体どんな手段を使って倒したんだ!?』
『え?いや、普通にこの剣を使って普通に切っただけだけど……』
『ただの剣だけで!?そんな魔法も使わずに一人で倒すことなんて可能なのか……貴様は……いや、貴方は一体何者なんですか……?副団長は冒険者ギルドから呼んだ数合わせの助っ人と言っていましたが……』
『え?俺?ああ、そういや真面目に自己紹介してなかったっけ。……俺の名前はアイザック。ギルド「銀の弓」から来た銀等級冒険者アイザックだ』
『銀等級冒険者、アイザック……』
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「そんなアイザック様がなぜ……」
今も鮮明に残る記憶を頭に浮かべながら呟くラインハルト。彼の強さを知っているがゆえギルド長の言葉がまだ信じられなかった。しかし、ギルド長の様子を見る限り、嘘をついているようには見えず……とすれば、誰かがアイザック様をわざと罠に……
「……ハァ。ここで色々考えてても仕方ありません。直接アイザック様本人に聞いた方が早いかもしれませんね……」
そう呟いたラインハルトは踵を返し、賑やかな街の中心街へと足を向けた。