なぜなら街の中心街を抜けた先にアイザックの魔力の気配を感じるからだ。中心街は昼時ということもあり、多くの人々でごった返していた。
(……相変わらず賑やかですね。三年前まではよくここで強盗やスリを捕まえていましたが、毒竜アニス討伐後は副団長になったせいか下っ端の仕事はほとんどやらなくなりましたからね……)
そう思いながら活気溢れる街並みを眺めながら足早に中心街を歩いていた時。
「ああ、さっきのお兄ちゃんじゃないの。それでアイザックさんには会えたのかい?」
不意に聞こえてきた声に足を止め、声のした方向を見るとそこはどうやら主に野菜を扱う店のようで店の店主らしき恰幅のいい女は客であろう青年に親しげに声を掛けていた。
「先ほどはありがとうございました!……でも、残念ながらアイザックさんには会えなくて……」
「あら、それは残念だったねえ。まあ、あの人も忙しい人だからね」
「ええ、どうやらそうらしいみたいで……でもアイザックさんには会えませんでしたが、アイザックさんの娘さんには会うことが出来てアイザックさんが帰ってくるまで家で待っていて良いと言われて!今はお礼に娘さんにご飯を作る為に買い出しにきていて……」
「アイザックさんに娘さん?いやアイザックさんに娘がいたなんて聞いたことなかったけど……ははっ、アイザックさんも隅に置けないねえ」
「あはは、そうですね!……あっ、店主さんそこの玉ねぎ一つ貰えますか?」
「ん?これかい?」
「はい!それです!」
「……」
はたから見ればよくある客と店主の会話。騎士団長であるラインハルトがわざわざ足を止めて盗み聞きする価値もない会話だ。しかし、「アイザックの娘」という単語とさらに客の顔が騎士団長である自分にとって見覚えのある顔だとしたら話は別。
(アイザックの娘?おかしい……アイザック様は確かご結婚されていなかったはず。それにあの男……確か指名手配されている五年前に北部の村々を荒らし回っていた盗賊団の残党に顔が似ている気が……ここ数年目撃情報がないと思ったらまさかこんなところに隠れていたとは……)
頭に記憶している指名手配書の顔と照らし合わせながら青年を見ていると、
「じゃあ僕はこれで!」
「ああ、気を付けるんだよ」
と言って買い物を終えたらしい青年が店から離れた。その紙袋を抱える後ろ姿にハッと我に戻ったラインハルトが「そこの茶髪の男止まれ!」と叫ぶとびっくりした顔をした青年が振り返った。