(っ、あ、アイザック様は何を言って……?)
完全に寝耳に水な少女の言葉にラインハルトは狼狽える。しかし、そんなのお構い無しに少女は跪くラインハルトの襟元をガッとその小さな手で掴むと少女らしからぬ怒気を含んだ低い声で言った。
「まさか知らないとは言わせないぞ……あの後、お前たち騎士団が金を払わなかったせいで俺がどんな大変な目にあったか……!!そもそもそれが原因で元々いたギルドから追い出されるし、今のギルド長が肩代わりしてくれなかったらあと少しで治療費で出来た借金のせいで鉱山で働くことになっていたかもしれないんだぞ!よくもまあ俺の前に顔を出せたものだ……ええ!?」
「っ、あ、アイザック様……そ、そんな……騎士団がそんな不義理なことをするはずが……そ、そうだ!お金ですか!?お金ならいくらでも私が払います!だから、どうか怒りを……」
「金の問題じゃない!いいか?これは信用の問題なんだよ!本来だったらお前の顔に拳を一髪食らわせてやるところだが……はあ。まあ、いい。いいか?二度と俺にその顔を見せるなよ。……いこう、ザザ。」
「お?お、おう……って、ちゃっかり俺の事を呼び捨てにしてんじゃねえ!」
「痛っ!……い、いいだろう名前くらい……」
「よかねえ!」
「っ!アイザック様!お待ち下さい!どうか私の話を聞……っ!」
そう言い捨ててラインハルトに背を向けて歩いていく少女……いや、アイザックのかなり小さくなった背中にラインハルトは必死に声を掛けるが、アイザックはラインハルトの声を無視して歩いていく。当たり前だ。知らなかったとはいえ、冒険業を生業とするもの達にとっては禁忌中の禁忌とも言える『依頼料の踏み倒し』を騎士団はしたのだ。よりにもよって、散々こき使い、馬鹿にし、囮にしたにも関わらず、身を挺してラインハルトの事を守り、代わりに毒竜を倒した功労者である彼に。そんな事をされればどんな聖人も怒るに決まっているし、アイザックが己に二度と顔を見せるなと言うのも仕方ないとラインハルトは理解出来た。だが……理性で理解出来ても感情では到底飲み込むことは出来なかった。だって、この三年間ずっと片時も忘れたことがなく、それこそ想うあまり彼の姿絵や彼が使用したと言われる武具防具の数々を買い集めて、それを自室に飾っているところを弟妹に見られてドン引きされるくらいに……強く尊敬し敬愛し憧れていた人間に自分が一切関知していなかったことで怒りを買っていて『二度と顔を見せるな』とまで言われたのだ。
とても正気ではいられなかった。
だから――……
「
気付けばラインハルトは青年と少女に向かい、人に対して放つ事を固く禁じられている対魔物用の『魔法』を放っていたのだ。