『毒竜アニス』
三年前、王国北部。周りを小高い山々に囲まれた長閑な街アニスに突如として現れた毒竜は一夜にしてアニスの街を破壊と虐殺の限りを尽くした。辛うじて街から逃れることが出来た住民からその一報を聞いた王国は事態を重く見て、王国直属騎士団に緊急の討伐命令を下し、騎士団ではすぐさま討伐部隊が組まれた。騎士団の中でも猛者ばかりが集められた討伐部隊。当時ただの騎士の一人だった私は討伐部隊に集められた騎士達を見てすぐ事態は収束すると思っていた。……が、事態は我々が思っていた以上で深刻で、第一陣として送った討伐部隊の八割が毒竜との戦闘で死亡。残りの生存者も生きたまま皮膚が、肉が、骨が、徐々に溶けていくという……どんな魔法も薬も効かない解毒不可能な悍ましい毒によって必死の治療虚しく次々と命を落としていった。
そうして第一陣の討伐部隊が壊滅し、騎士団が動揺と混乱の真っ只中にある中で間を置かずに第二陣の討伐部隊が組まれた際に急遽冒険者ギルドから助っ人としてやってきたのが、伝説級冒険者……いや、当時白銀等級だった冒険者アイザックだった。しかしながら当時の騎士達の多くは主に平民で構成された冒険者という存在に対して差別感情を持っており、かく言う私も冒険者に差別感情を抱いていた騎士の一人だった。だから今にして思えば馬鹿げていると思うが、どうしても冒険者であるアイザック様が討伐部隊に加わるのが許せず、第二陣の討伐部隊長であった副団長に猛抗議をしたが、
『ラインハルト君。君の気持ちもよく分かるよ。だけどね、ほら第一陣がああなってしまっただろう?だからあまり行きたがらない騎士たちも多くてね……私も本当は冒険者なんて盗賊崩れを部隊に入れたくないけどこのままだと任務遂行に支障が出るからどうしても必要なんだ』
と、敢え無く抗議を却下されてそのまま冒険者を加えた討伐部隊はアニスへと出発した。だが、そんな経緯ゆえか討伐部隊の騎士達のアイザック様への扱いはお世辞にも良いとは言えず、本来なら彼にも渡されるべき支給された食糧を渡さないのは当たり前で、騎士たち本人が持たなければいけない荷物を『これも依頼の内容に入っている』と嘘をついてアイザック様に全員分の荷物を持たせたり、本来ならば交代でしなければいけない夜間の見張りも連日連夜アイザック様にだけやらせたりなどなど……今思い出すとあまりの非礼の数々に死んでしまいたくなるような事をアニスに着くまでの道中私含め騎士たちは全てアイザック様にやらせていた。