七夕の夜が来た。影時間の開始と同時に特別課外活動部は全員が作戦室に集合し、ペルソナを召喚した風花を見つめている。その中には幾月もいる。先月の満月ではなぜか連絡がつかなかったのだが、今日はいる。
「見つけました! 市街地に大型のシャドウ反応! 場所は白河通り沿いのビルです」
程なくして、ルキアの探査に反応が出た。大型シャドウが満月ごとに現れることは、既に皆に周知されている。一応今までは仮説の段階だったが、今日の出現にて裏付けが取れたわけである。
「白河通りか。なるほどねえ……」
出現場所を聞いた幾月は、意味ありげな笑みを浮かべた。満月が近づくごとに影人間は増えていくのはいつものことだが、今月に限っては男女の二人一組で発見されるケースが多い。その点から幾月は察したのであろう。
もっとも幾月が今日のシャドウについてたった今理解したのかどうかは、微妙なところである。月に一度の出現周期のみならず、シャドウが町のどこに出現するのかも、事前に知っていた可能性はある。例えば十年前の事故の際に散らばったシャドウが飛んで行った方角とか、タロットカードの解釈などを根拠にして。しかし――
(どうかな……)
湊は少し悩んだ。幾月は満月について、元々どの程度理解していたのか。先月8日は幾月とは『前回』も『今回』も連絡がつかなかったが、もし満月の周期をあらかじめ知っていたならば、それは不自然だ。しかし全く気付いていなかったと言い切ることもできない。
満月、死神、そしてニュクス。これらの真実を幾月はどこまで知っていて、どこから先を知らないのか。『前回』見聞きしたことからだけでは、判断はなかなか難しい。特に11月4日の死の直前の言動を思い返すと、本当に分からなくなる。だから『今回』は幾月が寮を訪れる度に注意しているのだが、これまでのところ裏側は何も見えていない。例えば今の表情からも、嘘を吐いている様子は伺えない。コミュニティで磨いてきた『愚者』の観察力をもってしても、である。
確かなのは、私怨によって目が曇っているのではないことだ。幾月の顔を見ても言葉を交わしても、湊に怒りや憎悪は湧いてこない。内心は全く穏やかでいられる。そしてそれである為、思考は簡単に切り替えられる。
(本当に、大した役者だ。まあ、どうでもいいけど……)
『今回』の4月以来、何度もそうしてきたように、湊は幾月に関する思考を途中で打ち切った。黒幕を放置するわけにはいかないが、今この場ではシャドウを優先すべきである。そうして意識の向ける先を幾月から作戦室の他の面々に移すと、ちょうど微妙な空気が漂い出したところだった。
「……そういうことか」
「ああ、ホテル街ね」
今日のシャドウについて、美鶴も察したようである。そして順平も察しただけでなく、口に出して言ってしまった。それを聞いて、ゆかりは嫌そうな顔をした。
「何か今日は嫌な予感がする……。行くのやめようかな……」
(大当たり)
湊は内心でゆかりに同意した。実際のところ、ゆかりの予感は正しいのである。まさしく女の勘という奴である。
この日の前から、湊はメンバー編成に少々悩んでいた。『前回』はゆかりとホテルの一室に放り込まれて、事の寸前まで行ってしまったのだ。今にして思えば、あれはゆかりが自分を意識する原因の一つであっただろう。ゆかりと特別な関係にならないようにする為には、あれが起きないように仕向けたい。もちろん美鶴とも起きないように。それには男三人だけで行くのが確実である。だが『前回』は、ここで順平が――
「こらこら。どんな予感か知らないが、理由もなく外れることはできないぞ。編成を決めるのは有里だ」
「分かってますよ……」
(おや……)
意外にも、順平ではなく真田が口を挟んできた。上級生に窘められる格好になったゆかりは、口を尖らせつつも大人しくしている。そして順平は黙っている。
『前回』はこの時に順平が余計なことを言った為にゆかりが頑なになり、前線入りを予約されてしまったのだった。だが『今回』はそうならなかった。魔術師のコミュニティの影響で順平が大人になっているからか、或いは星のコミュニティの影響で真田が戦いに真剣になっているからか。はたまた予約などと言えるほど『今回』は甘くないことを、ゆかりも理解しているからか。
いずれにせよ、これなら三人だけで前線に出ることも可能である。だがそれはそれで問題がある。
「山岸、今日は一体だけか?」
「待ってください」
本当は聞くまでもないことであるが、敢えて聞いた。すると風花は目を閉じ、探査を再開した。すると割と早く答えが返ってきた。
「あ……大きな反応が二つあります!」
作戦室がざわついた。先月の満月では二体同時だったから、今月もそうなる可能性は当然あった。だから数そのものに驚いてざわついているのではない。シャドウに脅威を感じているのだろう。少々不貞腐れた感のあったゆかりの表情にも、緊張感が強く表れている。そしてそれは他のメンバーも同様である。表情に変化がないのは、湊と幾月くらいである。
「今日は五人で行きましょう」
そんな幾月を目の端で確認してから、湊は美鶴に向けて言った。
「そうだな……大物が二体だ。全戦力を傾けなければ、対抗できないかもしれない。分かった、五人で行こう。山岸はここからサポートを頼む」
風花のサポート能力は、階数が200を超えるタルタロスのどこにいても届くほどだ。タルタロスの外でも、寮にいながらにして町中どこにでも届く。だからこの場所からでもサポートは可能である。
そうして作戦が開始された。前線メンバーの全員が武器と召喚器を改めて確認し、風花と幾月を残して作戦室を出た。
男三人だけの編成にしなかったのは、単に戦力的な問題があるからである。事が起きるのを防いだところで、力不足でシャドウに負けたら何の意味もなくなってしまう。実戦と事のどちらが重要かなど、考えるまでもない。
そして四人ではなく五人で向かうことにした理由は、三つほどある。最大の理由は、五人での戦いを試したいからだ。
二つ目の理由は、四人編成では自分とゆかり、もしくは美鶴が組にされてしまうと推測しているからである。と言うのも、『前回』は自分、ゆかり、真田、順平の四人で向かい、ゆかりと組にされたのだった。同じメンバーで行けば確実に同じ組み合わせになるだろうし、ゆかりの代わりに美鶴を入れても駄目だと思われた。『前回』は美鶴とも特別な関係になってしまったことを思えば、そうなる可能性はかなり高い。ちなみに『前回』真田と順平の二人に何があったかは聞いていない。聞きたくもないことである。
そして三つ目の理由は――
(運次第だな)
五人編成だと、男が一人余ることになる。運が良ければ自分が余りになるだろう。或いは順平辺りが一緒になって三人で、となるかもしれない。あの状況でも二人きりでなければ、ゆかりが自分を意識する可能性は低くなる。また運悪く『前回』と同じになっても、余った人(多分順平だ)を煽って軽く茶化してやれば、冗談のネタにしてしまうこともできるだろう。湊は何とか上手くやっていこう、くらいの気持ちでいた。
普通の夜の時間であれば、白河通りは派手なネオンサインに彩られた賑やかな場所である。しかし電気の消える影時間では至って静かなものだ。ただ象徴化した通行人の棺桶を見ると、ちょっと微妙な気分にもなる。と言うのも、どれも二つ一組で並んで立っているからだ。棺桶を人間の姿に置き換えて考えると、勝負の前の緊張感を削いでしまいそうになる。だから皆の先頭に立っていた湊は急ぎ足で歩いた。
そうして五人は目的のラブホテル、幾月に言わせるとアミューズメントホテルのシャン・ド・フルールに辿り着いた。ホテルの名前はフランス語で花畑を意味する言葉である。喫茶店やケーキ屋にありそうな名前だが、『頭の中がお花畑』という表現も世の中にはあるくらいだから、考えようによっては適切なネーミングかもしれない。
「では行きましょうか」
五人がホテルに入ると、廊下をうろついているシャドウに早速出くわした。ただし大型ではなく、タルタロスにも出現する小粒なものだ。
「狭いですから、落ち着いていきましょう」
湊は皆に注意を促した。五人で戦うのはこれが初めてである。『前回』からタルタロス探索でも満月でも前線に出るのは三人か四人だったし、『今回』もそうしてきた。
その理由は二つある。人数が多すぎると、リーダーとして全員に目を配るのが難しくなることが最初の理由だ。そしてタルタロスは概して通路が狭く、五人以上になると道が混雑して戦力を上手く活用できなくなる恐れがあるのが、二つ目の理由である。
だがそうした消極的なことは、いつまでも言ってはいられない。これから日を経るごとに戦いは激化する一方となるのだ。『前回』より遥かに手強い『今回』のシャドウに立ち向かう為には、五人以上での戦いもできるようにならなければならない。手数は多いに越したことはないのだ。
もちろん人数が多くなれば、それだけ自分たちの抱える弱点も多くなる。しかしだからと言って、戦術の幅を自分で狭めていては進歩がない。リーダーの作戦と指揮でカバーできることもあるのだから、ものは試す必要がある。そして今日の戦いは、実は多人数の指揮を試すのに適した条件が揃っているのである。
群がるシャドウを蹴散らしながら、湊たちはホテルの三階まで走り抜けた。ホテルの廊下はタルタロス同様に狭いが、現れるシャドウは数が少ない。そしてその種類も既に皆がタルタロスで戦った経験のあるものばかりなので、効果のない攻撃を仕掛けてしまう恐れも少ない。よって初の五人による戦闘は、危なげなくこなすことができた。
『そこの部屋から、大きなシャドウの反応があります。気をつけて!』
三階の最も奥にあるスイートルームのドアの前で、風花から通信が入った。先頭に立っていた湊は一度振り返って、メンバーに視線を素早く走らせた。皆が一様に引き締まった表情でいる。場所のいかがわしさに影響されることなく、皆が適度な緊張感を保っている。それを確認してから、ドアノブに手をかけた。
「行きましょう」
法王の間と銘打たれた部屋に突入した。部屋の中央には、はち切れんばかりの巨体を小さな椅子に無理矢理めり込ませるようにして座っている、人間の姿のシャドウがいた。左右に十字架、と言うより紙で作った人形のようなものを配し、背後にはサンゴのような奇怪な頭部と人間の女の体を持った怪物を立たせている。五番目の大型シャドウ、ハイエロファントだ。
場所からすれば、見た目は比較的まともである。だがそんな些細なことは誰も気にしない。もっと気になることが、湊を除く誰にとってもあるからだ。
「一体しかいないのか? 山岸、もう一体はどこだ!?」
眉根を寄せながら部屋を見回した美鶴が、少々高くした声を通信機に向けた。
『済みません……。建物のどこかにいるはずなんですが、反応が弱くて、はっきり捕えられないんです』
返答はすぐに返って来たが、美鶴を満足させるものではなかった。
「ぬう……」
「バラバラに出てくるなら好都合です。もう一体の探知は後回しでいい! こいつの解析を頼む!」
湊は美鶴を制し、通信機越しに風花に指示を出した。もう一体のシャドウ、ラヴァーズはハイエロファントを倒した後に出現することは、『前回』の経緯から分かっている。そして風花に解析を指示したのは一種のアリバイで、本当はするまでもない。だから結果が出る前に他のメンバーにも指示した。
「前衛は左右に真田先輩と順平、攻撃は打撃のみ! 桐条先輩は僕と中衛、攻撃は魔法中心! 岳羽は後衛で防御と回復に専念しろ! 攻撃はしなくていい!」
「え、それでいいの?」
「人数が多いから、やり過ぎると同士討ちの危険がある!」
ゆかりは疑問を口にしたが、湊はそれも制した。ハイエロファントは電撃を多用する為、それに弱いゆかりは極力攻撃させない方がいいのだ。風花の解析は未だ終わっていないので、そのことは言えないが。
「行くぞ、順平!」
「うっす!」
真田が最初に動いた。人形の十字架をかわしてシャドウの左側面へ飛び込み、左右のパンチを叩き込んだ。続いて順平が右側面から接近し、大剣で斬り付けた。
「私も行くぞ!」
更に続いて美鶴がペルソナを召喚し、氷結の魔法を放つ。狙いはシャドウの正面である。それを見届けて、湊は内心で頷いた。
(よし。やっぱりこれだけ広い場所なら、人数を有効に使える)
この部屋はホテルの他の部屋と比べて倍以上に広い。五人の人間と大型シャドウが居座っていてはさすがに見た目には狭く感じるが、それでもタルタロスの通路などに比べればずっと広い。よって複数のポイントから、波状攻撃を仕掛けることが可能になる。手数は多いに越したことはない。よって今後も特に満月の戦いでは、五人以上で臨む方針で行くべきだと湊は思った。
だが敵も黙ってはいない。椅子に座ったまま唸りを上げ、それと共に周囲の空気が帯電を始めた。
「岳羽、気をつけろ!」
湊がそう叫んだ一瞬の後に、影時間の緑の空気が炸裂した。特別課外活動部の前衛から後衛まで、瞬きする間に白い稲光が駆け抜けた。ハイエロファントが得意とする、電撃の魔法である。
「うわっ!」
「ぐっ……!」
『今回』のシャドウの攻撃は、いずれも恐るべき破壊力を秘めている。電撃をまともに受けた順平と美鶴は一発で膝をついたが、平然としている人が二人いる。
「ふん、この程度でやられるか!」
一人は電撃に耐性のある真田である。いかにシャドウが強いと言っても、耐性は有効である。だから真田は無傷とは言わないが、大して効いていない。だから真田は防御に気を遣う必要がほとんどなく、特に活躍が期待できる。死神のように圧倒的に上の存在が相手の場合はまた別であろうが、今日のハイエロファントくらいなら、そこまでこちらとかけ離れた能力はない。
なお、ついでに言うと『前回』はこの時期に既に死神と遭遇していた。だが『今回』は湊が常に気を配っていた為、未だ遭遇していない。説明だけは皆が美鶴から受けているが。
そして湊には今の攻撃は完全に効いていなかった。今日の敵の攻撃手段は初めから分かっていた為、電撃を無効化できるペルソナをあらかじめ用意しておいたのである。
「真田先輩は攻撃続行! 岳羽は回復!」
「おう!」
「うん!」
二人揃って即座に返事が返ってきた。唯一の不安要素であったゆかりも、攻撃をさせなかったことが功を奏して電撃を回避できていた。
やがて湊とゆかりの回復魔法で立ち直った順平と美鶴も、攻撃を再開する。そうした数度の攻守の交換の後、ハイエロファントは再び唸り声を上げた。だが空気の帯電はない。
(来るな)
予期した次の瞬間、奇怪な幻影が目の前に現れた。枯れ木が所々に立っている荒涼とした丘陵地に、墓石らしきものがいくつも置かれている。冷たく乾いた風が虚しさを込めて吹き流れ、遠くの方からカラスの声まで聞こえてくる。典型的な、と言うより古典的な墓地の風景だ。遊園地のお化け屋敷の演出のようで、少々やり過ぎな感がある。だがこれは演出ではなく、シャドウの操る魔法的な力である。
「な、なんだあ!?」
「ぐ……や、やめろ!」
そんな過剰な風景の中で、皆の様子が一斉におかしくなり始めた。順平は眼前の何もない空間を見つめながら仰け反り、美鶴は頭を抱えだした。ゆかりと真田も似たような状態でいる。
ハイエロファントが電撃以外に得意とする、恐怖心を与える精神攻撃だ。これにかかると理性的な行動が取れなくなり、勝手に逃走を始めたりもする。見せられる幻影のセンスはこの際関係ない。やり過ぎだろうと何だろうと、ペルソナ使いに対しては十分な効果を発揮する。
「ペルソナ」
そんな中でただ一人、湊だけは冷静なままだった。何の感慨もなさそうな普段通りの声でペルソナを召喚し、周囲の仲間たちへ淡い光を纏わせた。
「あ、あれ……?」
光が体に吸い込まれていくと共に、皆が夢から覚めた。瞬きをしながら、きょろきょろと周囲を見回している。
「ボサッとするな!」
湊はそんな皆を一喝し、態勢を立て直させた。この種の精神攻撃は相手を直接傷つける力を持たないが、場合によっては直接的な攻撃よりも厄介なものとなり得る。最悪の場合、メンバー全員が平常心を失って一気に壊滅してしまうこともある。しかも仲間の皆は、誰もこれに対する耐性を持たない。
だが湊が扱えるペルソナの中には、耐性を持つものもいる。更には耐性を付加する装備品を『生み落とす』ペルソナもいる。ただ精神攻撃は受ければ確実にかかるというものではなく、運次第という点が戦略的に少々難しい。労力を費やして耐性を手に入れても、場合によっては無駄になることもあるのだ。
月に一度の周期で現れる大型シャドウに備える為に、与えられた時間は有限である。取り得る選択肢の中で、どれを選ぶか。湊はしばしば悩まされてきた。
そしてこの7月の満月に備えて選んだのは、防御重視の戦略であった。ハイエロファントの電撃と恐怖、そしてラヴァーズの魅了。一ヶ月の時間を目一杯かけてこれら全ての耐性を用意し、湊は守りの役割を担う。そして攻撃は他の仲間に任せる。それが今日の作戦だった。敵の能力をあらかじめ知っていればこそ、限られた時間を少数の対策に集中することが可能となり、成立し得る戦略である。
そしてそれは成功した。苦労して耐性を身に付けたことは、無駄にならなかった。
(今後もこれで行くか)
5月の満月のように一秒を争う状況下では防御重視は不利に働くが、今後の戦いにそうしたものはない。一年間全体を見据える上で、今日の戦いは試金石になりそうだ。
「フィニッシュ!」
湊が今後のことを考えている間にも、戦いは継続している。そして終始元気な真田が会心のコンビネーションを叩き込んだ。ジャブ、ストレート、アッパーに続けて放った四発目の左のオーバーハンドパンチがクリーンヒットし、ハイエロファントは椅子から転げ落ちた。体勢を大きく崩している。
「全員、突撃!」
「この瞬間を待っていたぞ!」
「剣の錆にしてやる!」
湊の号令と共に、五人全員による総がかりを仕掛けた。『前回』を通じて最も多人数による総攻撃は、まさに絶大な威力を発揮した。
『法王シャドウの反応、消失しました!』
黒い煙となってハイエロファントが消滅すると共に、風花から通信が入った。だが誰も気を抜きはしない。
「もう一体はどこにいる?」
『その部屋のどこかから、反応があるんですが……。済みません、曖昧な言い方しかできなくて……』
美鶴が通信で風花に呼びかけたが、正確な答えは返ってこない。申し訳なさそうに言う風花に、湊はフォローを入れた。
「気にするな。寮からじゃ仕方ない。部屋に怪しいものがないか、皆も探してくれ」
実際のところは、たとえ風花がホテルの前にいようとラヴァーズの位置を正確に測ることは不可能だったはずである。『前回』の経緯から、それは明らかだ。だから今のセリフは単純にフォローのつもりで言ったものである。だがそうは受け取らない人がいた。
「むう……タルタロスの探索はともかく、満月の作戦で山岸を現場近くに連れて来れないのは痛いな。山岸の護衛に一人か二人を割いた上で、前線は五人以上で臨むのが理想か。今後はより多くの人員が必要だな……」
「そうだな……」
「……」
美鶴は部屋を探りながら呟き、真田がそれに答えた。そしてゆかりはそんな二人に一瞬だけ目を向けたが、すぐに逸らして部屋を探し回る作業を始めた。
美鶴と真田は荒垣を念頭に置いて話していたはずである。しかし荒垣がかつて特別課外活動部に属していたことは、二年生組には未だ知らされていない。ゆかりにすれば、また誰か関係のない人間を巻き込むつもりなのかと、改めて不信感を募らせても不思議はない。
しかしこの場でそれを口にするほど、ゆかりは空気が読めないわけではない。今はシャドウが先決である。そうして部屋の中を歩き回って、やがて備え付けの大きな鏡の前まで辿り着いた。
「あれ、この鏡……何か変じゃない?」
ゆかりが疑問を口にすると同時に、鏡から光が放たれた。
主人公がしていた対策とは、ヤマタノオロチとナルキッソスを受胎させて大蛇の目とナルシスフラワーを入手し、更に電撃無効のタケミカヅチ辺りにメディアやメパトラを継承させていた、ということです。