ペルソナ3 滅びの意志   作:三尺

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死神の家族(2009/12/31)

 今月二度目の満月の日が来た。昼間は皆がそれぞれ外に出かけたり、冬休みの宿題をやったり、部屋の大掃除をしたりして過ごしていた。そこに特別な緊張感はあまりなかった。普段と大きな違いのない日常的な時間を過ごしつつ、いつも通りに夜を迎えた。

 

 そして夜の頂上の一歩手前の時刻に、寮生の一人が帰還した。普通の外出から帰ってくるように、何気なく玄関の扉を開けて、至って自然な足取りでラウンジに姿を現した。黄色いマフラーを首に巻き、赤い腕章を左腕に付けていた。

 

 「やあ、久しぶりだね」

 

 『今回』初めて寮を訪れた時と同様に、軽い挨拶と共に綾時は帰って来た。部外者であった『前回』と違って、自分の家に帰るように極めて慣れた素振りでもって。これで約一ヶ月ぶりに、特別課外活動部は十一人全員が揃ったことになる。

 

 「僕は彼の部屋で待ってるよ」

 

 ただし揃うのはこれが最後の機会だ。既に時刻は0時に近い。それを過ぎれば綾時は人間の姿を失い、ペルソナ使いにも手を触れられない存在になる。つまりニュクスの懐に呼び寄せられる。今日は最後の顔見せだ。最後なのだが、綾時はラウンジで足を止めない。

 

 「答えはもう出てるみたいだけど……一応ね。彼と話してから、また戻って来るから」

 

 そう言って綾時は寮生たちが見つめる中、ラウンジを平然と通り抜けた。何の悩みも伺えない、浮き上がりそうな軽い足取りでもって階段を上って行った。だがその途中で、一度だけ階下を振り返った。

 

 「ああ、念の為に言っておくけど、変な同情心は無用だよ」

 

 「……」

 

 寮生たちは誰も返答はしなかった。綾時の姿が見えなくなってから、荒垣が口を開いた。

 

 「ったく……変な気を遣いやがってよ……」

 

 同情は無用――

 

 今月2日、綾時は自身を殺して全てを忘れる選択肢も提示していた。たとえその道を選ぶことになっても、同情する必要はないのだと。自分を殺すことに抵抗を感じる必要はないと綾時は言っている。荒垣を始め、多くの者がそう受け取った。

 

 「一応、皆の意見を聞いておこう。望月をどうすべきか、決めているか?」

 

 確認の意図を込めて、美鶴が皆を見回した。

 

 「聞かれるまでもない」

 

 「迷いはないです」

 

 「腹は括ってますって」

 

 最初に真田が、次いで天田と順平が答えた。言葉では答えない他の面々も、揃って頷いている。それを見て、湊は思う。

 

 (もう大丈夫だな。こいつらは新しいペルソナにも目覚めたようだし)

 

 今月は湊を含めた皆の精神的な起伏が激しかったが、最終的には全員が落ち着いた。しかも頭打ちに陥っていた者たちが、新たなペルソナに目覚めた。傍から見ると脈絡のない突然の覚醒は、湊にとっても理解の埒外にあることだった。だがこの際それは置いておく。紆余曲折は大いにあったが、結局のところ部の状況は今月初めに比べて大幅に改善したわけである。つまり特別課外活動部は新年を迎えることができる。それは皆の一人一人とコミュニティを築いたことで、『前回』より絆が深まっていた為、であるのかもしれない。

 

 そして綾時を殺さないことも決まっていた。そうしようと、皆ではっきり話し合ったわけではない。しかし『前回』と違ってニュクスに対抗することは可能であるとの綾時本人の見解により、記憶を手放す選択肢は誰にとっても一考の価値もなかった。ニュクスに立ち向かうことは、敢えて議論する必要もない当然の結論であり、部の総意として認識されている。だからこの日を迎えるに際して、皆の間に大きな緊張はないのだ。未来から戻ってきたとの話を、各々が各々なりに消化した以上、今日という日は決断の日などと言うほど大仰なものではない。

 

 「では有里、頼む」

 

 「はい」

 

 美鶴に促される形で、湊はソファーから立ち上がった。湊にとっても今日の綾時との対面は、決断でも何でもない。時期が来たことを確認する一種の儀式であり、そして今の姿の友人との別れである。それ以上でも以下でもない。しかし――

 

 「私もご一緒させてください」

 

 湊に続いて、アイギスも立ち上がった。少々の驚きを込めた視線を送ると、彼女は真っ直ぐ見つめ返してきた。首に結んであるリボンと同じ色の、青い瞳に揺らぎはない。

 

 『前回』のアイギスは昨日にラボから戻ってきて、綾時を殺して全てを忘れるようにと頼んできた。デスの恐ろしさと不死身の力をその身で知った彼女としては、皆に勝ち目のない戦いに挑んでほしくなかったのだろう。もっとも結局は皆に説得される形で、彼女もニュクスに立ち向かう道を選んだのだが。

 

 そして『今回』のアイギスは12月の間中ずっと寮にいたが、湊は綾時をどうするかを彼女と話し合ってはいない。他の皆と同様に、当然の結論として立ち向かう道を選ぶものと思っていたから。だからこの申し出は少し意外に感じたのだ。しかし彼女の次の言葉で、意外さはなくなった。

 

 「今の事態の責任は、私にもあります」

 

 責任。滅びを呼んだ責任が自分にあるのと同様に、時間を戻した責任が彼女にある――

 

 「分かった」

 

 湊は断らなかった。『今回』どこかへ行く際に同行を求めてこられた時は、大抵の場合はアイギスの思うに任せてきた。だから今日も断らなかった。湊が先を行き、アイギスはそれに従う形で寮の階段を上る。他の寮生たちは、黙ってそれを見送った。

 

 

 「やっぱりこの部屋は落ち着くね……」

 

 二階の一番奥にある部屋に入ると、綾時は背を向けて立っていた。マフラーを巻いた首を回しながら、部屋の隅々まで視線を巡らせている。備え付けのベッド、机、棚、テレビ、洗面台があるだけの殺風景な部屋だ。個人の持ち物はほとんど何も置いていない。ベッドの上の壁に貼られたカレンダー以外は、4月から何一つ変わっていない。

 

 そんな生活感のない、空気が住むような部屋を綾時は懐かしげに見つめている。湊は物に対する執着がない為、雑然より閑散の方が落ち着くのだが、綾時もその辺りの趣味は同じなのかもしれない。十年間に渡って体内に住まわせていただけあって、表向きの性格ではない本当の内面においては、共通する部分が多い。

 

 「さて……ちゃんと考えてくれたかい? やっぱりニュクスに立ち向かうの?」

 

 言いながら、綾時は振り返った。その表情は至って穏やかで、優しく微笑んでいる。ラウンジでの美鶴と同様に、ただ確認の意図を込めて問いを発してきた。だが――

 

 「湊さん、私にやらせてください」

 

 ラウンジの時と違って、湊は本当に驚いた。思わず隣を振り返るが、アイギスは目を合わせてこない。ただ強い力の込められた青い瞳を、綾時にのみ向けている。何をやらせろと言っているのか言葉にしなくても、揺るがない視線が雄弁に語っている。

 

 「今の私なら……できるはずですよね?」

 

 「あっ……」

 

 言われて初めて湊は気が付いた。不死身の綾時は自分以外には殺せない。だが自分がやる場合でも、ペルソナを使わなければできない。そして彼女は自分とペルソナを『共有』している。それは即ち――

 

 「ああ、今の君なら僕を殺せるよ。だけど、いいのかい?」

 

 裏付けが取れた。綾時が言うのなら、まず間違いはない。だが誰が殺そうと、それがもたらす結果は同じのはずだ。全てのペルソナ使いと影時間の適性者に、普通の人間と同様の記憶補正が起こる。滅びが来るその日まで、何も知らずに過ごすことになる。なるのだが――

 

 「綾時さん、貴方を殺せば私たちの記憶は消えると仰っていましたが、それは本当ですか? 私たちは時間が戻っても記憶を保てました。でしたら……」

 

 「あ、そうか……そうだね。他の人たちの記憶は間違いなく消えるはずだけど、君たちなら……」

 

 (そう……だな)

 

 重ねて突き付けられたもう一つの事実に対して、綾時はやはり否定しなかった。そして湊も納得できた。湊は元からワイルドを持っていた為か、アイギスも心の底にそれを宿していたからか。理由は今一つ不明瞭ながら、影時間の発生と同等の大事である時間の戻りにさえ、二人の記憶は失われなかった。ならば綾時の死によっても影響を受けないはずだ。むしろ失われる方が、かえって不自然だと判断できる。

 

 「消えないのでしょう。そして貴方が亡くなれば、ニュクスの訪れはやや遅くなるのでしょう?」

 

 「うん」

 

 綾時は頷いた。確かに『前回』も『今回』も綾時はそう言っていた。具体的にいつになるのかは聞いていないが、とにかく来年の1月31日ではなくなる。記憶を失うことの方がずっと重要である為、湊は滅びが遅れる事実をこれまで真剣に考えたことはなかった。

 

 「いつですか?」

 

 「……3月5日だね」

 

 それは卒業式の日だ。『前回』のその日に皆は記憶を取り戻したが、それは単に再会を約束していたからだけではなかったのかもしれない。その日は世界の運命や人間の認識が切り替わる、何かの節目としての意味を持った日であったから。そういうことなのかもしれない。

 

 「つまり私たちはニュクスに備える為の時間を、一ヶ月以上稼げることになります。そしてストレガの記憶も消えますから、彼らに妨害されることもありません。もちろん貴方と戦うこともありません。結果的に、ニュクスに至るまでの障害をほとんど取り除けます。それに皆さんには悪いですが……ニュクス戦では皆さんは湊さんのお役に立てません。タルタロスの頂上まで登る困難は増しますが、そこは時間的余裕で補えると思います。ですから皆さんが記憶を失うことのデメリットは、ほとんどないはずです」

 

 綾時を今殺すことの利点を、アイギスは理路整然と述べる。その一方で、湊は指を眉間に当てて俯いた。体の底の辺りから湧き上がる感情を指で抑え、顔に表れようとする内心を手で隠した。思考の上澄みの部分でアイギスの主張を理解しながら、心に浮かんだある感情に戸惑った。表情を自在に操れる『愚者』でありながら、隠す仕種が必要になるほどに。

 

 「そして何より……貴方が取り込まれなければ、ニュクスの力を削ぐことになりませんか?」

 

 「うーん……まあね」

 

 「それにストレガがカルトを立ち上げなければ、終わりを望む人たちの数も前より確実に減ります。そうなれば、ニュクスの力はかなり減少するのではありませんか?」

 

 「なるほどね。いい考えだ……と言いたいところだけど、大きな問題があるよ」

 

 「何ですか?」

 

 「部のみんなは、実はそれなりに役に立つのさ。直接的には駄目だけど、間接的にね。湊君がユニバースを得るのに、きっと彼らは必要になる」

 

 「ユニバースとは?」

 

 「あれ、話してなかったっけ?」

 

 「ん? ああ……」

 

 湊は眉間に指を当てたまま、目だけを綾時に向けた。7月の再会以来、湊はアイギスにユニバースについて一度も話していない。そもそも実態が不明であるし、それを生み出す元となるコミュニティについても、詳しいことは彼女にもあまり話したくない事柄であったから。そして11月にワイルドに目覚めて以降は、彼女の死に繋がる可能性があると判断した為、なおさら話すことは避けていた。

 

 「じゃあ僕から説明しよう」

 

 だがこうして話題に出た以上、話さないわけにはいかない。そうして『前回』ニュクスに対抗する鍵となった力について、綾時が説明した。それで具体的に何をしたかは相変わらず不明だが、とにかくそれが必要になることは確かだと。そしてそれを得るには『心の力』、即ち絆が数多く必要になるのだと。

 

 「皆さんがいらっしゃらないと……駄目なのですか」

 

 「絶対にとは言えないけどね。ユニバースは僕も分からないことが多いんだ。だから可能性の問題なんだけど、かなりリスクの高い賭けだよ」

 

 その力を得る為には、絆をアルカナの数だけ全て揃える必要があるのか。一部だけでもよいのか。よいのだとしても、それは得られる力の量に影響しないのか。影響するとしても、ニュクスに対してそもそも力の大小に意味があるのか。その辺りの詳細については、綾時といえども分からないことだった。だがいずれにしても、皆の記憶と共に絆を失うのは危険には違いない。

 

 「それから僕が取り込まれなければ、確かにニュクスの力は落ちる。でもね、100の力が99になるくらいだよ。これは可能性の問題じゃなくて、絶対だ。前は取り込まれた僕には分かる。それに終わりを望む人たちが減っても、今さらニュクスに影響はないと思うよ」

 

 綾時の口調は至って普段通りだ。自分の死に対して恨みの一言もなく、ただ事実をありのままに、数学の解を述べるように客観的に反論する。それは子供じみた感情のままに言葉を吐き出すよりも、ずっと強靭な説得力を持っていた。

 

 「そう……なのですか」

 

 そんな綾時とは対照的に、アイギスの口調は沈み込んだ。望んでいた効果は得られず、ただ知り合いの死を口にした事実だけが彼女に残された。

 

 「ああ。僕が死ぬことでニュクスの力が大幅に削られるならやる価値はあるけど、あまりお勧めはできないね」

 

 「……」

 

 遂にアイギスは沈黙した。彼女の提案はリスクが大きいだけで、メリットは乏しい。結局のところ、有効ではないということだ。だが――

 

 「アイギス、ありがとう」

 

 俯いたまま、湊は礼を言った。人に言われたことなら数えきれないほどあるが、人に言うのは珍しい礼の言葉を述べた。口先でなく本心から言うのは、それこそ初めてかもしれなかった。そんな慣れない言葉に少々の気恥ずかしさを感じてしまったので、顔は上げなかった。

 

 「え?」

 

 「どうすれば生き延びられるか……ちゃんと考えてくれたんだな」

 

 自分は生き延びることはできない――

 

 どうすれば卒業式の日を越えて生き続けられるか。この『今回』最大の難問は、4月以来何度も考えた。だがいくら考えても何のアイディアも思い付かなかった。だからいつしか考えることを放棄してしまっていた。特に今月の2日以降は、ほぼ完全に諦めていた。オルフェウスの神話が語るように、どれだけ手を尽くしても人間は死から逃れることはできないのだと。生き物ならば当たり前の、ただの自然死と同じものとして、己の死を受け入れる気になっていた。

 

 だがアイギスは違った。生き延びる方法を考えて、一つの道を示してくれた。そのことがとても嬉しく思えたのだ。たとえ実際には効果が見込めなくても、やはり嬉しかった。そんなごく単純な好感情が『愚者』の虚ろな心を満たし、本来の性格である無気力症を遠くへ追いやった。人に感謝するとは、喜びを伴うものであるらしい。それを生まれて初めて知ったような気がした。

 

 (もう少しだけ……戦ってみよう)

 

 ニュクスにはもちろん立ち向かう。だがそれだけでなく、約束された死にも立ち向かってみよう。最後の最後まで足掻いてみよう。どうでもいいと、己の命を投げ出してはならない。諦めずにいてくれた、彼女の為に――

 

 珍しい前向きな気持ちと共に湊は顔を上げ、綾時に向き直った。自分自身と限りなく近い、とても親しい存在を真っ直ぐ見つめた。

 

 「お前は殺さない」

 

 「うん。でもどうやって生き延びるの?」

 

 「……分からん」

 

 「そっか……でもまだ時間はあるよ。もう少しだけ考えてみて」

 

 「ああ」

 

 湊は右手を差し出した。『愚者』は死を恐れない。シーシュポスになる心配がなくなった今、もはや怖いものはない。だがそれでも、今から投げ出しはしない。その決意を込めて、手を差し出した。

 

 綾時も手を差し出してきて、固く握り合った。とても長い時間、二人は互いの手から発する体温を確かめ合った。その間、綾時は何も言わずにただ微笑んでいた。その微笑みを目に焼き付けてから、湊は手を離した。再び俯きながら。

 

 「だが……お前はどうなるんだろうな」

 

 今俯いたのは、気恥ずかしさからではない。無念さからだ。握手をして、眼前の相手が体温のある存在であることを確認した。それは自分の死以上にどうしようもない問題があることを、暗に告げているような気がしてしまったのだ。

 

 色々と失敗も多かったが、『今回』は成果をそれなりに挙げられた。荒垣と桐条武治は助けることができた。ストレガもタカヤとジンは無理だろうが、チドリは助けられた。自分の死にも何とかしてみようと思う。だが綾時はどうしようもない。綾時及びファルロスは、アイギスを除いては最も深い情を感じた相手だ。諸悪の根源に等しい存在でありながら、それこそ不条理なまでに深い親愛の情を抱いていた。人でなしの『愚者』らしくもなく。

 

 今になって後悔を感じてしまう。思えば最初の最初から、綾時と共存できる方法をこそ探せばよかったのに。

 

 「ああ、気にしなくていいよ。生き延びることができたら、きっとまた会える」

 

 顔を上げると、綾時はまだ微笑んでいた。だが湊は言葉通りに受け取ることはできなかった。綾時はたとえ己が殺されるその瞬間でも、ずっと微笑み続けていられるのだろう。それは即ち、綾時の笑顔は仮面だということだ。

 

 (会えるはずがないだろう……)

 

 綾時は大抵の場合は真実を語るが、冗談は時々言う。そして気休めも言う。綾時はもう間もなくニュクスに取り込まれ、ニュクスと区別がなくなる。そして来月には眠りにつく。その眠りの長さは、人間の目で見れば永遠と言い換えてもよい。いかなる道を辿ろうとも、綾時とは必ず別れなければならない。

 

 同情は無用だと綾時はラウンジで言っていたが、湊はあの言葉を皆とは異なる意味で受け取っていた。世界に死を告げるか、今日死ぬか、一ヶ月後に永遠の眠りにつくか。綾時に与えられた運命は、実はこの世のいかなる人間よりも過酷なものだ。人の心を持つ死神とは、その存在自体が究極の悲劇だ。それでどうして同情を禁じ得ようか。綾時の為に何もしてやれないことを、どうして後悔せずにいられようか――

 

 「だって君の中には、まだ僕が残っているんだから」

 

 しかし綾時は笑顔のまま、急におかしなことを言ってきた。

 

 「何?」

 

 「命にさえなっていない……種みたいなものだけどね。だから大丈夫だよ」

 

 「種……?」

 

 「あの、もしかしてそれは……」

 

 アイギスが先に気付いた。種と、アイギス――

 

 二つを結びつけて考えた途端、湊の脳裏に閃くものがあった。ファルロスは湊の心の中にいた。では心とは体のどこにあるのか。七夕の夜、ファルロスはその答えを言ったはずだ。

 

 「お、お前は……!」

 

 あの夜の出来事は思い出すのも恥ずかしい、『今回』屈指の大失敗だった。だから意図的に考えないようにしていた。だが実はこんな重大極まる意味が隠されていた。この日告げられた最大の驚愕の事実に、湊は言葉が途中で止まってしまった。口は大きく開いたまま塞がらず、目は瞬き一つできないほど広げられた。自在に操れるはずの『愚者』の顔が、完全に固まってしまった。

 

 「今度生まれて来る時は、本当に貴方の子供だよ。お父さん」

 

 仮面ではない本当の笑顔を浮かべたまま、綾時は片目を閉じた。無邪気に、悪戯に。大真面目に悩む大人をからかう、罪のない子供のように。




 ファルロスは主人公のファルロスにいたのです。

 ……はい、済みません。ですがこれ以外に、綾時及びファルロスを救済する方法が思い浮かばなかったので。
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