あやかしの一族ハングスカルを退けたアーサーたちはついに石室へと足を踏み入れる。そこは巨大樹が棺を守り、地下にも関わらず光が差し込む特異な場所だった。
巨大樹の根元にある巨大な本を見たアーサーは、かつての事を思い出す…
それは今から数十年前…クレイヴモスに敗れ、幼体を植え付けられたアーサーは朦朧とする意識の中で、何かに導かれるように濃霧の森へ足を踏み入れた。
死期を悟った猫は人知れず姿を消す─かつて窮地を救って以来、友人として付き合っていた領主の話を思い出す。この期に及んで猫扱いとは笑えない冗談だと、アーサーは自嘲気味に口角を吊り上げる。
(終の住処は誰もいない、誰にも見つけてもらえないこんな場所か…)
確固たる人生観は持ち合わせていないが、最期は誰かに看取られるのが当然だと思っていた。
急激に湧き上がる孤独感に反するように意識が遠退いていく。残る力を振り絞って岩にもたれかかり、そこにあるはずの太陽を睨みつけ、残された力で声を絞り出す。
「もう少し…生きたかったよ」
こうしてアーサー・エクトリアスの人生は虚しく幕を閉じた…
はずだった。
奈落へ落ちたはずの意識を引き上げたのは光と、葉の擦れる音。
天から差す光が巨大樹を照らし、その根元には無数の棺が並んでいる─あまりにも異様な光景は、微睡む暇を与えなかった。
(……なんだここは!?確か…霧に包まれた森へ足を踏み入れた。何かに誘われるように)
(誘いを拒否しなかったんじゃない、出来なかった。意識が朦朧としていたから。巨大な蛾の鱗粉を吸って俺は─)
(………衰弱…していたはずだよな…?)
激しい痛みと倦怠感は綺麗さっぱり消えていて、頭もすっきりしている。これはどういう事だろうか。
既に死んでいる?否、動かしている肉体は間違いなく生身で自分のものだ。五感も機能している。
では夢?一体どこから?仮にクレイヴモスとの戦闘が夢だとしても、こんな場所は知らない。
混乱するアーサーの視界の隅にある物が映る─本だ。巨大樹の幹に飲み込まれた台の上に本が置いてある。異常な空間の中でも一際異彩を放つそれは、まるで自分を呼んでいるよう。
「お前が…ここに呼んだのか?」
本は仄かに輝くと、巨大な表紙をゆっくりと持ち上げる。100、500、1000…人の半身ほどあるページがどんどんめくられていく。そしてようやく止まったページを覗き込むと未知の、しかし読み取れる文字でこう書かれていた。
貴殿はここで終わっていい人間ではない
今の我々では先延ばしが限界だった
そう遠くない未来 再び命を蝕むこととなる
運命の人を探しこれを託せ 貴殿の命が尽きる前に…
頭上の枝葉ががさり、がさりと騒ぎ出し、ひとつの小さな煌めきが落ちてくる。アーサーの手に収まったそれは色褪せた石が埋め込まれた、古びた指輪。
文章から察するに、症状が消えているのは巨大樹による細工で、その理由は自分に使命を─この指輪を誰かに託してほしいから。おとぎ話のような展開だが、現実に起きている以上飲み込むしかない。
だが腑に落ちない事はいくつもある。アーサーは怪訝な表情を浮かべたまま、巨大樹に問いかけた。
「俺は辺境で生まれた普通の人間、肩入れするような存在じゃない。それにどうやって死期を悟ったんだ…?」
わずかな沈黙の後、地響きとともに巨大な根が動き出す。視線の先に映るは剥き出しになった1基の棺…ここに来いと言ってるようだ。
導かれるままに石棺まで駆け降り、蓋に手を触れる。ざざ、ざざと鈍い音を立てながらひとりでに動き出し、露わになったのは一振りの剣。
幅広の刀身に大きな切り欠きを備えたそれは、旅の中で訪れたどの国でも見たことがない形状。研ぎ澄まされた刃は実戦用であることを物語っているが、生前の相棒にしてはあまりにも無垢。刀身はおろか柄にすら傷がない。
さらに不可解なのは共に納められている人骨が風化しきっており、年代が合わないのだ。まるでつい最近入れたか、
「…とんでもない曰く付きだな。これを持って行けと?」
巨大樹がザワザワと葉を揺らす。どうやら拒否権がないことを悟ったアーサーが手に取ると同時、脳内に"声"が流れ込んでくる。
─大地を従える力を貴殿に授ける。我が名は…
「地裂宝剣キシャルシオン、か」
───────────────────
「…
そう言って本に手を触れるアーサー。歴史の彼方に消えた治療法も、全智の樹ならば助けてくれるはず…そんな期待を込めながら。
「フタエノユリハという大昔の植物が必要なんだ。知っていることを教えてくれ」
─………
「…ぺ、ページめくれないね」
もう一度問いかけるもやはり反応がない。不穏な空気が漂う中、入れ替わったセレーネが前に出た。
『私なら応えてくれるかもしれません』
分かってるなら始めからそうしてくれ、という言葉を飲み込むアーサー。2人が見守る中、セレーネが本に手を乗せる。
『全智の樹よ…地上では皮膚を覆い、命を蝕む赤いカビが猛威を振るっています』
本は問いかけに答えるようにぽう、と仄かに輝く。セレーネはさらに続けた。
『彼らは治療法を持ちません。このままでは多くの犠牲者が出るでしょう…貴方が当時を知る者ならば。その悲惨さは理解しているはず』
((当時…やっぱり過去に経験しているんだ))
『あの花が現存する場所を教えてください。どれだけ困難な場所であっても、必ず手に入れてみせます』
表紙がゆっくりと持ち上がる…どうやら覚悟が届いたようだ。止まったページに書かれているのはオーディアが認識できない謎の文字─それはアーサーも同じようで、小さく首を横に振った。
『要約するとこうです。"地上では絶滅した花である、大事に使いなさい"…どうやらここが唯一の糸口だったようですね』
振り返った先には露わになった石棺…3人が根を降り、手を触れると重い蓋が動き出す。中に入っていたのは風化した人骨と…
ぼろ切れた布に包まれた、見るからに生気のない、ひび割れた種だった。
『………!!!!』
「この種が…フタエノユリハということか?」
「な、なんかカピカピだね…?使えるのかな…」
あまりの状態の悪さに顔を引き攣らせる。そのまま植えて芽吹かない事くらい、素人でも分かる状態だ。
植物はアルフ族の管轄、その中でも特に詳しいであろう彼女ならあるいは─2人が視線を向けた先、セレーネの表情は特段に険しかった。
『………ソラン氏の集落に相談しましょう。私も力を蓄えておきます』
それだけ言って倒れ込んだ肉体をアーサーが抱きとめる。次に目が開いた時には、すでにルルに戻っていた。
「セレーネまた寝ちゃったんだ。どう?見つかった?」
「あまり良くない形でね。集落には早く戻った方が良さそうだ、2人とももう少し頑張れるか?」
「「アイアイ!」」
アーサーが脱出の準備をする中、何かを─魂の揺らぎを観測したオーディア。その揺らぎは自分だけを案内するように、幹の方へと登っていく。
「あ、アーサー。あの木が呼んでる気がする…」
「分かった。出口を探しておくから焦らなくていいよ」
「う、うん」
それから少し後、無事に出口を見つけた3人は石室を脱出した。多くの謎を残し、後ろ髪引かれる思いを振り切って…
「…種を手に入れるまでの話は以上だ。あの子に無茶させたこと、年長者として情けなく思う」
「頭を上げてください。未知の種族相手じゃ苦戦するのは当然ですし、ルルも必要だと思ってやったことですから。それよりも…」
視線の先には尖った耳と大きな嘴を象ったマスクを着用し、白いローブを纏うアルフ族の姿。悪魔のようで逆に目立つ気もするが、緊迫した空気は指摘を強烈に拒む。
人前に出ないアルフ族がここまで出向いたのには訳があるとアーサーは語る。それは大方の予想通り、良い報せとは程遠いものだった。
持ち帰った種は彼らから見ても劣化が激しく、集落の者たちが持つ知恵では太刀打ちできなかった。
アルフ族の血統秘術は"成長"に作用するものであり、"復活"ではない。蘇らせるのは絶望的、諦めたほうがいい…というのが最終的な見解。
たったひとり、族長のソランを除いて。
「曽祖父が残した文献に気になる記載があったそうだ。古代のアルフ族は生命に直接作用する力を持っていたと…それも最近、突然読めるようになったページにね」
「まさか…ルルが古代アルフ族の力を持っていると?」
アーサーはゆっくりと頷く。
異常発達する植物、人体の治癒、セレーネの力を借りた魂への干渉…ルルが使う力はどれも、アルフ族のそれとは微妙に異なる。ソランはその特異性に希望を見出したのだ。
だがセレーネは濃霧の森以来目を覚まさず、ルルも十全に使いこなせているとは言い難い。劣化した種にトドメを刺そうものならば、治療は絶望的になるだろう。
彼らが出向いたのは表向きは引き継ぎだが、万が一失敗した時の最後の足掻きをするため、というのが本音らしい。
「魔力は万全、あとはルルちゃん次第だが…さすがにプレッシャーを感じているようでね。集中させてあげよう」
「ルル…」
視線の先には見慣れたはずの小さな背中が映っていた…
─────────────
─もし失敗したら…これまでの努力は泡と消えるな
─…本当に他の方法はないのか。あの子には荷が重すぎるだろう
─ハイハイ声が大きくなってますよー。出番になったら動けるよう、ちゃんと準備しといてねん
(………。)
老人たちのぼやきを背に受けて、ルルは掌を握り締める。急ピッチで進められた新薬の研究と、目の前に広がる畑はフタエノユリハのために用意されたもの…彼らの苦労を思い、反論をぐっとこらえた彼女はいま、誰よりも大人だ。
ルルには記憶がない。どこから来て、どんな知り合いがいたのか…"ルル"という無意識に漏れ出た名前も、本名とは限らない。
世界との繋がりを絶たれても絶望せずにいたのはエイジャーの努力があってこそ。清潔な服、豊かな食事、道を外れぬ程度の教育。それぞれの価値を真に理解しているわけではないが、注がれた愛情は感じ取っている。
そんなエイジャーが最も嫌がること─人死にを止めるためなら全力を出したい、そんな思いでやってきた。だが課せられた試練は記憶のない、まっさらな少女が背負うには大きすぎた。
この場で唯一頼りになる人物はいくら語りかけど反応を示さない。万が一にと残したヒントも十全とは言えず、ルルは困り果てていた。
患者たちの症状は末期に差し掛かっており、いつ目覚めるかも分からないセレーネを待つ時間はない…タイムリミットは目前まで迫っている。
(種を元気にしないとだけど、やりすぎて死んじゃったらもう治せない…うぅぅぅどうすればいいの?)
心の乱れは魔力を乱し、魔力の乱しはさらなる焦燥を呼ぶ。こんな状態では絶対に上手くいかない事くらい、無知なルルでも分かる。
みるみる曇る表情は、傍らで見守っていたソランに強い後悔を植え付けていた。
(やっぱり荷が重すぎるか…残酷な事しちゃったな。…あれは?)
─まったく無茶するわね!アンタ1人でどうにかなるわけないでしょ
─よく頑張ったねルル。俺たちも手伝うよ
背後からかけられる救いの言葉。聞き覚えのある2つの声に振り返ると、そこにはアリッサとエイジャーの姿があった。
「…あ、あれ?なんで2人がいるの???」
「ついさっき帰ってきたんだ。集中を乱さぬようにと接触を禁じられてたんだけど…そういう雰囲気じゃなかったからね」
「アンタたちねぇ…ひよっ子に全部押し付けてヒソヒソ話なんて恥ずかしいと思わないの!?長く生きててその程度なわけ!?」
髪を赤熱させ一切の容赦がない怒りをぶつけるアリッサ。老人たちも後ろめたさを感じているのか、視線をそらすだけで言い返してこない。
とはいえ彼らにも立場がある。ソランはわざとらしく咳き込むと、3人の前に立った。
「ルルちゃんに重荷を背負わせたのはオレ、御老体に鞭を打つのは勘弁してやってくれ。それに出来ることがないのはキミらも同じだろう?」
「やってみなきゃ分からないでしょ?これでも魔力の扱いに関する知識"は"あるんだから」
「アリッサ…私も本来持ち得ない力の行使には明るい。血統秘術で記憶を共有すれば、何かヒントが見つかるかもしれません」
ソランはマスク越しにエイジャーの目を─かつて多くの同胞を救い出した
そして誰にも気付かれぬ笑みを浮かべると…演技がかった所作で腕を組んだ。
「…確かにルルちゃん1人で成し遂げる必要はないかもね!啖呵を切るだけの成果、期待してるよ」
「皆さんの努力は無駄にしません。…2人とも手を出して」
手を通して繋がったエイジャー、アリッサ、ルルの間に電気が迸る。"以心電心"だ。
「あたしからは知る限りの魔力に関する知識を。アイツらは嫌いだしムカつくけど…知識は本物のはず」
「俺からはみんなの力を引き出す時の感覚を。少しは参考になるはずだ」
2人が歩み、得てきた様々な情報が流れ込んでくる。普通の人間ならば処理しきれないほどに膨大だが、記憶容量がまっさらなルルには大した負担ではない。
何より頼りになる2人が…独りでなんとかしなければならないと思っていた壁に立ち向かってくれるのが嬉しかった。
「…2人ともありがとう。なんかいける気がする!」
「「なんか!?」」
「あ、なんかじゃダメか。えーっと…こんな感じ!」
今度は逆に自分なりの策を電流に乗せる。適切な言葉が分からない時、考えを丸ごと伝えられる"以心電心"はとても便利だ。
策を受け取った2人は顔を見合わせ、小さく頷く。どうやらお眼鏡にかなった事を確認すると、再び種を握り締め畑の前に立った。
(私にあるはずの古代の力、使えないのはちゃんと呼べてなかったから。ししょーのおかげでいつもより色々感じ取れる!)
暴走気味の魔力が原因で落ちこぼれの烙印を押されながらも、受けた指導はすべて記憶し、咀嚼しているアリッサ。彼女が組み上げた"理屈"は体内に流れる魔力の片方、そのさらに深部を掴んだ。
(エイジャーはみんなの力を借りながら戦ってきた。いつも見てるから気付かなかったけど…あれってすごい事なんだね)
他種族の能力を引き出すエイジャーの前例なき行為は、借り受けた相手への敬意と信頼からなる。内包した力を"使う"のではなく"解放する"…
掴んだ魔力の深部を意識しつつもリラックス、一見矛盾した行為は内なる力を自ら発現させた。知らない筈なのにどこか懐かしい、不思議と身体に馴染む力が。
発現した魔力は新たな生命すら作り出せそうな気すらしてくるが、掌に収まった種は反応を示さない。どうすべきか迷っていると、アリッサとオーディアが駆け寄ってきた。
「ルルすごい、綺麗な緑色のオーラが溢れ出てる…!」
「だけど垂れ流すだけじゃ意味がないようね。種には注げないの?」
「ししょーとエイジャーの真似してるけどダメみたい。どうすればいいんだろ…」
─ルル、手を貸して
振り返った先にはエイジャーの姿。言われた通りに手を差し出すと、優しい手つきで指輪を嵌めた。
「!?!?!?だ、ダーリンそれは…」
「これも全智の樹に託されたもの。きっと役に立つんじゃないかと思ってね」
マリー、ガラナ、カッチン、ヒバァ…これまで絆を結んだ者の力を引き出し、何度も窮地を救ってきた名も無き指輪。いくつかの古代魔道具に触れてきたエイジャーは指輪の特性を"想いを繋ぎ、継承する力"だと推測。
話を聞く限り、棺に収められた者たちはみな世界を想っていた。誰かが役目を引き継ぐと信じ、絶滅した花の種を未来に託した。
指輪と種、世界を救うため現代に蘇った2つの遺物。そこに古代の力に目覚めたルルが合わされば奇跡だって起こせるはず。
だがそんな期待を込めて託されたルルの反応は想像とは違うものだった。こちらの手を握り、やや不満気な表情でこう言った。
「指輪なんかよりエイジャーと一緒がいい!」
((だ、大胆…!))
「ん…確かに俺が着けていた方が確実か」
「そういう事!だからこうやって…」
二人羽織のように体を密着させ、重ねた手で種を包んだ。ルルの中で目覚めた古代の力と、指輪の繋ぐ力が混ざり合っていく…
だが唐突に生まれた力は主導権が定まっておらず、2人の中で引っ張り合い始める。
「エイジャーどうしよう!これじゃ種に使えないよ!」
「2人の間で揺れてるから…ルル、この力を使ってどうしたい?」
「えっ?えーっと…種を復活させて…!」
ルルが何かを思いつき、口にするのと同時。エイジャーは今やりたい事を叫んだ。
「「みんなを助ける!!!」」
言葉が、想いが重なった直後、2人は眩い新緑の光と風に包まれる。光は浴びた者に活力を与え、風に吹かれた植物たちは歓喜するように色付いていく。
中心に立つエイジャーも例外ではなく、これまでの戦闘で刻まれた様々な傷が癒えていくのを感じていた。
「んん…?なんか手の中がもぞもぞして…うわっ!」
「どうした!?…あ」
指の隙間から覗く緑…それは種が芽吹いた何よりの証拠。想像より逞しく伸びゆく葉茎に2人して狼狽えていると、待ってましたとばかりにソランが駆け寄ってきた。
「ここからは長丁場、オレたちが預かるよ。爺さまたち!」
「「「合点承知!!!!!」」」
長老たちは2人の手から種を奪うと畑に放り投げ、四方を囲いながら何やら念じている。彼らの気迫は相当なもので、不気味な仮面も相まって悪魔崇拝のようである。
あまりにも鮮やかな流れ作業のおかげで遅れてやってきた実感と疲労。2人はその場にへたり込むと、顔を見合わせて笑った。
「なんか思ってたのと違うね」
「上手くいったしいいんじゃないかな。よく頑張ったね、ルル」
まるで利口な犬を褒めるように、頭をわしゃわしゃと撫でるエイジャー。指にかかる髪は少し傷んでおり、手入れをサボっていたことが伺える。
ルルもその事に気が付いたのか振り返ると、ニヤリと笑ってもたれかかってきた。
「はぁ~もう疲れてボロボロだよ。歩けないかも?」
「抱っこ要求か…ただその前に。アーサーさん、オーディア。種を持ち帰ってくれてありがとう」
「それはこっちの台詞さ。おかげで身の振り方も決まったが、落ち着いてから話そう」
「わ、私も楽しかった。悪くないね、冒険」
オーディアは小さくガッツポーズをしてみせる。少しずつではあるが、保護された時よりも明るくなっているようだ。次にそんな彼女とは対照的に表情が曇っている人物…アリッサへと視線を向ける。
「アリッサ。…"また明日"!」
「…は、はいっ!」
なんてことはない短い言葉だが、それこそが今1番欲しい言葉だった。
「俺たちが出来るのはここまでです。医師の皆さん、あとは頼みました」
─2人ともありがとう!
─ここから先は我々に任せてくれ!
─君たちの努力、無駄にはしないからな!
医師たちの声援を浴びながら、ルルを抱えて戻っていくエイジャー。そんな2人を眺めるアーサーの目には慈愛と、この先に待ち受ける運命への不安が混在していた…
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フタエノユリハが現代に蘇った少し後…ホスピナスの検問を1人の若者が訪れていた。
「君は確か…」
「見学に来たしがない若者さ。覚えててくれたんだ?」
それはそうだろう、と傭兵は笑う。医師でも病人でもない人間が訪れることなどそうそうない。ましてや極彩色の瞳を持っているのだから、嫌でも記憶にこびりつく。
「何か収穫はあったか?」
「うん。懐かしいモノも見られて大満足さ」
「懐かしい…?ん!?」
ほんの一瞬、ほんの一瞬意識を逸らしたその隙に。目の前にいたはずの若者が姿を消してしまった。
「…まあ手続きは済んでるし大丈夫か。次の人どうぞー」
「良くはないでしょ〜迂闊だなあ。それにしても…」
若者は遠く離れた崖からホスピナスを眺め、そして不敵に笑った。
(元気そうで何よりだよエイジャークン。そのまますくすく育ちたまえ♪)