ゲンゼとその周辺で起きていた遊女失踪事件、その後始末は秘密裏に進行していた。犯人のひとりが生き別れの弟と知ったマダム・ステイシーは完全解決を目指し、覚悟を胸にどこかへと連絡を取る。
一方、これまでの戦いで歪んだ身体を治したエイジャーはようやく退院を果たす。懐かれた子供たちと再会を約束し、次なる任務─アーサーの帰宅を支援するため、屋敷へと飛ぶのだった。
風で擦れる枝葉の音。
愛を唄う鳥のさえずり。
森の中の小さな屋敷の、陽光降り注ぐ美しい庭でマリー=フレイヤ=クロッカスは、今日も植物たちの世話に勤しんでいた。
現在、屋敷の住人は彼女だけである。ともに末永く暮らそうと約束した男はたった1枚の手紙と指輪を置いて、孤独な終焉を選んだからだ。
何日も泣き腫らし、塞ぎ込んだのは一度や二度ではない。故郷を失い、外の世界に見切りをつけたマリーにとって屋敷と、あの男だけが未来だった。少し前までは。
「こちらの花壇は剪定が必要ですね。剪定といえば…」
マリーはドサ・ウィートを植えた畝に目をやる。小麦に近い食味を持ち、狭い土地でも収穫量が見込める優れた品種だ。
見ればドサ・ウィートが自重で折れそうになっている。アルフ族は食事をほとんど必要としないため、つい収穫を疎かにしてしまうのだ。
それでも思い出したのは振る舞う予定が出来たから。自分と同じような境遇のアルフ族を連れた、心優しき男の顔が思い浮かぶ。
"土産話を持ってまた訪れる、あなたをここから連れ出すために"─彼と交わした約束が、止まった時を再び動かしたのだ。
マリーが負った心の傷と、外への不信感は未だ拭えていないが。今は少しだけ前を向けていた。
「二人はお元気でしょうか。無事、故郷が見つかったなら良いのですが─ん?」
マリーの耳は不自然な音を捉える。高速で飛翔する何かが向かってきているような…
この辺りで空飛ぶ魔族は見たことがないし、鳥にしては大きすぎる─マリーは周囲の木々を支配下に置きつつ、音のする方角を睨み続ける。
─コントロール下手くそかよ色ボケ!
─っさいわね7人だとバランス取れないのよ!!
─わーーーー!もうすぐ地面だよ!
─頼むぞオメルタ…『"沈黙の"ウォージュン』!!!
何者かの詠唱と同時に現れる巨大な水の塊。明らかに自然現象ではないそれに驚く暇もなく、塊目掛けて何かが突っ込んだ!
塊は風船を割ったかのように水を撒き散らし、土砂降りのような量と勢いにマリーも思わず顔を塞ぐ。
「なっ…一体何が起き…て…!?」
─説明、謝罪、話さなければいけない事は色々あるんだが…
「そんな…だって貴方はもう…」
土砂降りの中でもはっきり聞き取れる懐かしい声。その主を見据えるには、視界は潤みすぎていた。
「ただいまマリー。今帰ったよ」
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(…で、感動の再会といけば良かったんだけどね〜…)
沈黙に包まれた空間で、オメルタは音に出ないぼやきをひとつ。
数年ぶりの夫婦の再会は懸念通り"良くない"方に転んだ。抱き締めようと近づくアーサーを無視して踵を返し、屋敷に戻ってしまったのである。
エイジャーが経緯を説明し、とりあえず落ち着いたものの…床で正座するアーサーと目を合わせようとしないマリー、その行く末を見守る6人という、地獄めいた構図で膠着していた。
「俺が口を挟むべきではないのは承知していますがその…彼のおかげで助かった者も多数いまして…」
「先程のお話で承知しておりますよ。グラム様」
笑顔とは本来威嚇行為である…そんな俗説を思い出すエイジャー。表情こそ柔和な彼女だが、有無を言わさぬ"覇気"がある。
─とんでもない美人でも怒ると怖ぇ〜の…なんとかするんじゃなかったのかい
(マリーさん穏やかな人だし、事情さえ分かればもう少し軟化すると思ってたんだよ…)
(意図した女の扱いは絶望的だしな、団長は)
(ダーリンじゃなくても無理よこんなの!)
空気にあてられてか小競り合う4人。そんな彼らの横を通り過ぎ、動いたのはルルとオーディアだった。
「あ、あのっ禁術だけでこの世に留まることは出来なくて…アーサー、ずっとあなたに会いたがってた。覚醒してない時も名前を…」
「マリーはいいの?せっかく会えたのにケンカしてて。もうアーサーのこと好きじゃなくなっちゃった?」
返答次第ではすべてが終わるからと、皆が避けていた直球の質問に全員がぎょっとする。そんな中マリーはしばらくの沈黙の後…大きなため息をひとつ吐き、ようやく視線をこちらに向けた。
「アーサー。私がなぜ怒っているか分かりますか」
「…何も言わず君を置いていった」
「貴方が逃げたのは私と使命のふたつです。そのせいでグラム様に傷の宿命を背負わせ、オーディアちゃんの貴重な時間を奪った…違いますか」
マリーの指摘はもっともだ。
何も知らぬまま使命を継いだエイジャーは何度も死に直面しており、どこかで心が折れてもおかしくなかった。
アーサーを見守るため人里に近付けず、対人経験を積めなかったオーディアもまた狂わされたひとり…多くを救ったのは事実だが、押し付けた犠牲も同じくらい多い。
冷たくも反論の余地がない一撃に、アーサーの目に影が落ちる。氷の如き視線をしばらく向けた後、マリーはまたひとつため息をつく。
「…最期の行動の意味は理解できますし、この地に引き留めたのは他でもない私の我儘。それでも…いえ、だからこそ。違う…」
「そんな大事なことなのに、頼ってくれなかったのが嫌なんじゃない?」
ルルの一言は徐々に形を持ち始めたが、何に対して一番怒っているのか掴めなかったマリーに気付きを与えた。""何でも自分で解決しようとする不器用な男""に大事にされるという、幸せな不幸。
「ああ、そうか…共に生きていくと誓っておきながら、痛みを背負えない己が許せなかった…だから貴方を嫌いきれないのですね」
「君が傷つかない事だけを考えていた。でも君が求める尊重はそうじゃなかったし、背負いきれなくなって傷つけた。悪いのは俺だ」
「私たちがすれ違ったのは互いを知らなかったから。でも事情を理解した今なら違う答えが出せるはず、ですよね」
寄り添うような声色とともに差し伸べられた手を取り立ち上がるアーサー。ようやく同じ目線で向き合うと、2人は柔らかく微笑みあった。
「間違いに気付いた今でも、君の平穏を第一に望んでしまう。どうすれば本当の意味で共に生きられるのか…少しずつ探していこう」
「私も強くなります。貴方が背負わず済むように」
空いてしまった空白を取り戻すように強く抱き合う2人。感覚を失ったはずのアーサーが感じたぬくもりは、死してなお焦がれ続けた記憶の残渣か、それとも奇跡か。
彼らの新しい門出を見守る目には涙が浮かび、手は自然と拍手を送っていた。
「ぐずっ…死すら乗り越えて結ばれるなんて究極の愛だわ…」
「…ま、それくらいの報いはあってもいいんじゃねえか?」
「ふふ、少し恥ずかしいですが。…そういえばルルちゃん、よく私のわだかまりを言い当てましたね」
「"頼って"って言っても無茶する人に困ってるからね〜…ねっ!」
突然の流れ弾に涙が引っ込むエイジャー。この間の独白で和解できたつもりだったのだが…2人の姿に重ねるものがあったのか、マリーは肩を震わせている。
「そ、その話をする前に…もうひとつ相談があるのでは?」
「ああ。実はマリー、ここにいる─」
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「オーディアちゃんのこれからについて…ですか」
それはホスピナスに滞在していたわずかな合間のこと…今後についての話を進める中で、アーサーから出てきた相談だった。
これまでなし崩し的に行動を共にしてきたが、本来ならば学校に通うべき年頃…命のやり取りに巻き込まれるなど以ての外である。
だが両親を失い、特定のコミュニティに属していないオーディアは現状"孤児"だ。まずは身分を固める必要があった。
「あの子にはご両親含め取り返しのつかない迷惑をかけた。だから俺が面倒を見ようと思ったんだが…」
その先を理解したエイジャーが唸る。放棄された館に住んでいたアーサーも身分がない上、街で暮らすにはややこしい存在だからだ。
身分が無ければコミュニティに属せないが、各地を転々とする生活ではオーディアのためにならない─爽やかな陽光が降り注ぐテラスで、2人して頭を抱えてしまう。
「あの子は特別な一族の末裔。普通の家では守りきれないし、権力者の元ではいらぬ欲目に晒されるかも…里親に任せるのも危ない気がしてね」
オーディアの家は賊に襲撃された。その目的が禁術か金品かは分からないが…本当の出自が呼び寄せる危険は考慮すべきだろう。
かつては訳ありの子供を預かる孤児院も存在したが、王都自体が消えてしまったのでどうしようもない。すべてを丸く収めようとするには、手札はあまりにも心細かった。
「安全か、子供らしい生活か…うぅむ…そういえばマリーさんのところには戻られるんですか?」
「ああ。もし許してくれるなら、また一緒になりたいと考えてるよ」
「…ということはあの屋敷で暮らされると?」
「あそこはマリーの術もあってまず見つからないからな…エイジャー君?」
屋敷はマリーの血統秘術によって隠匿されており、人間が立ち入ることは困難。
少し行った場所には復興中のサザンがある。大きな街ゆえ学校もあるし、動物を使えば通うのは容易だ。
あとは秘密を守れる協力者だが…街には扇ガザミ撃退戦を共にした戦友や顔なじみ、何よりこの状況下においてある意味信頼できる
「アーサーさん、あなた方の選択によっては問題を一気に解決できるかもしれません」
「つまりオーディアちゃんを養子として迎え、サザンの学校に通わせると…」
昼は同年代の子供たちと学び、夜は高い秘匿性と実力を持つ夫婦の元で安心して眠る…マリーは2人の提案に眉をひそめながら、しばらく黙りこくる。
そんな様子に不安を覚えたのか、オーディアは一歩踏み出し、口を開いた。
「や、やっぱり他の方法を考えよう?せっかく再会出来たのに、わたしがいたら邪魔だもん…」
「…ああ違う、違うのですよオーディアちゃん。貴方は私たちを引き合わせてくれた大恩人、邪険にするなどあり得ません。ただ…」
「ただ…?」
「隠れ住む我々には糧を得る手段がありません。学校へ通うにも金銭は必要でしょうし…どうするおつもりですか?」
おおよそ予想がついている、しかし認めたくないといった風な視線が注がれる。やはり気を遣うよな、と気まずさを感じつつも、アルジードを手招きしつつ答えた。
「諸々の費用は俺とアルジードが工面します…といっても便宜上はですが」
「えっ聞いてない…というか鎖バカが?どうして?」
「言うなつったのに…大した額じゃねえよ」
賊に親を殺され、苦労してきたオーディアの半生に思うところがあったのだろう。話がまとまった時期に現れて、一枚噛ませろと申し出てきたのである。
エイジャーは"弾き語りで稼いだ余剰分だけ"と条件付きでこれを承諾。復讐以外にも気を配れる心境の変化を尊重したいからだ。
だが彼らの善意も視点次第。予想通りの答えを聞いたマリーは失望した様子で、隣のアーサーに詰め寄った。
「貴方はそれで…皆さんに苦労をかけさせて、人の親を名乗るつもりですか」
「お、落ち着いてくれマリー。話には続きがあるんだ」
「魔族や盗賊の被害が増えつつある今、我々は広く情報を集めたい。しかし領外の事はどうしても把握しきれないし、無理を押せばいらぬトラブルを招いてしまいます」
エイジャーには身分を偽って潜入したテンガロンや苦い結末を迎えたゲンゼの実例がある。言葉にはいつも以上の感情がこもっていた。
「そこで俺のツテを使ってもらう。みんながよほどの薄情者じゃない限り、どこかで力を貸してくれるはずだ」
生前アーサーは各地を巡り、多くの関係を紡いできた。相手の立場も浮浪者から領主の娘、族長まで多岐にわたる。
魔族撃退、盗賊団壊滅、人質奪還…英雄譚が書けるほどの活躍に対し、アーサーが得た見返りはあまりにも少ない。それは彼らが渋ったからではなく、復興のためにと受け取らなかったから。
あれから数十年、それなりの地位に就いているだろう友人たちにこう頼むのだ。"エイジャーは俺の意志を継ぐ男。立場を超えて彼が動けるよう、どうか取り計らってほしい"…と。
「養育費は名前を使うリスクと仲介の対価というわけだ。尤も、それだけでは賄えないけどね」
「すべて頼るわけではないのは理解しましたが…それでもグラム様たちの負担が大きいのでは?」
「ご心配なく。各地で武勲を立てている分、いくらか多くいただいてますから」
どれだけ周りが感謝しても"みんなの力"と譲らないエイジャー自ら武勲を誇るのは珍しい。少なくともこの場にいる全員が初めて遭遇する場面だ。
罪悪感を和らげるため、慣れない自慢に興じる男の姿は滑稽だろうか?その答えを誰かが口にすることはないが、マリーは観念したように肩をすくめた。
「ふふ、不器用なお人…本当にお世話になってもよろしいのですか?」
「もちろんです。皆さんを路頭に迷わせないためにも、今まで以上に頑張らねばですね」
「…というわけで改めて聞かせてくれ。俺たちの家族になってくれるかな」
一同の視線を浴びながら、オーディアは2人の元へ駆け寄ると─
「わ、私…この2人と幸せになる。支えてよかったって思えるように。それと私にとってはみんなも家族、です」
オーディアの言葉は家族を守れなかった男の。
あるいは家族の顔すら知らぬ少女の。
あるいは家族の敵討ちに人生を捧げる青年の。
あるいは家族を忌む少女の心に染み入り、深いところをじんわりと温めた。
「さて、話がまとまったところで…今夜は宴だ!」
「食べ物をいくらか持ってきたんです。マリーさん、お皿はありますか?」
「…お、楽器があるな。団長の英雄譚でも弾き語るか?」
「そうだ聞いてよマリー!イソーって街でエイジャーがね…」
後ろから現れたルルの、せっかく逸らした話題に渋い顔をするエイジャー。行く先々で起こす無茶について語る彼女はどこか誇らしげで、愚痴というよりも惚気に感じられる。
新しい顔ぶれも笑いながら話を聞いており、無茶に付き合う事を嫌悪しているようには見えない。厳しい旅を経てもなお、出会った時に感じた人柄は健在のようだ。
(私がここに留まっている間、皆様は前に進んでいらしたのですね)
長い時を生き、変化に乏しいアルフ族にとって激動の1日だ。動く屍として帰宅した夫、訳ありの義子、彼らが背負う使命…そのすべてを受け入れられているとは言い難い。
それでも昨日までの日々─永遠に繰り返す孤独よりはずっといい。未だ昔の傷は癒えないが、自ら外へ踏み出す日は案外近いのかもしれない。
「いつかは私も"ただいま"を…」
「マリー、何か言ったか?」
「…ええ。先ほどは言い損ねたなと思いまして」
マリーは少しだけ肩を寄せ、柔らかな微笑みを浮かべ。精一杯の感情を込めてこう言った。
「おかえりなさい。アーサー」
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その日の晩…数年ぶりの再会を果たした2人は、蓄陽石が仄かに照らす寝室で穏やかな時間を過ごしていた。離れていた時間はお互い空白ばかり、盛り上がる話など見つからないが。肌が触れ合う場所にいて、そんな日々が続いていくという事実が心を満たしている。
オーディアはエイジャーたちと共に離れで眠るようだ。いきなり家族のようには…というのもあるだろうが、気を利かせてくれたのだろう。
あの子が遠慮しない家庭を作っていく─それが当面の2人の目標だ。
「昼間は随分取り乱してしまいました…恥ずかしい限りです」
「一気に情報を叩き込まれたんだ、仕方ないさ。あんなの誰だって混乱する」
そう言って撫でる手に体温はなく、彼が生者ではないこと─すべて元通りとはいなかったことを痛感する。マリーは胸中の小さな痛みを悟られぬよう、話題を変えることにした。
「しかしあのような使命が課せられていたとは…私などどこかの集落に捨て置いて、旅を続ける事は考えなかったのですか?」
「長いこと独り旅だったからさ、みんなと故郷を探すの楽しかったんだ。それで覚悟が揺らいだのがひとつかな」
「他にも理由が?」
「それはまあ…なんだ…エイジャー君たちには申し訳ないんだが…」
アーサーは目を逸らし、気まずそうに頬を掻く。代謝が失われた体ゆえ二度と起きない反応だが、かつてなら耳まで真っ赤になっていたことだろう。
「心の底から惚れたんだ。余命や使命を忘れるくらいに」
少しの沈黙の後、今度はマリーが目を逸らす。代謝が機能する彼女の身体は火照り、耳は真っ赤に染まっている。
「絵画のように繊細な顔立ちも、雪のように煌めく美しい髪も、魂が安心する声も、今日まで待ってくれていた健気さも、不義を許さない高潔な心も、共に─」
「わ、わ、分かりました。もう十分です。久方ぶりで耐性が無くなっているところに畳み掛けないで…」
こうして何年経っても照れてしまう初心さも、という言葉をアーサーは飲み込んだ。今しがた羅列したのはすべて本音だが、あまり誂うのは良くない。
そしてあの頃と変わらないマリーが傍にいることで、改めて自分が帰って来たのだと再認識した。
「そういえば…ルルちゃんの故郷は未だ見つからないそうだ。ソランたちも聞き込みの輪を広げているがどうなるか」
「その事で思い出したのですが、私の故郷で昔─」
─夜分遅くにすみません!2人とも起きてますか!?
突然の物音に飛び上がる2人。扉の向こうから聞こえるのはエイジャーのもので、声色は何がか起きたことを予感させる。
アーサーが入るよう促すと、ひどく冷や汗をかいたエイジャーが飛び込んできた。
「実は今、外から魔族の気配が…それも凄まじい数です」
2人は目を見合わせる。気配を探れないアーサーはまだしも、木々を通じて異常を感知できるマリーが見落とすとは思えない。聞けば他のメンツも似たようなもので、エイジャーだけが気付いたというのだ。
「気配が遠ざかっているのでここは安全だと思いますが…放ってはおけない」
「そういう事なら俺も行こう。この時間なら人目につくまい」
「アリッサの負担もあるので…2人にはここでオーディアちゃんを守ってほしいんです」
大跳躍の負担は人数に比例して増大するため全員で移動は不可、2人を連れ出すのが危険なのも事実。気配が遠ざかっているのが本当ならば、エイジャーの提案が最もリスクを抑えられる。
また押しつける事に抵抗はあるが…アーサーは渋々首を振った。
「危なくなったら迷わず呼んでくれ。すぐに駆けつける」
「後でお話したい事がございます。グラム様、必ず戻ってきてくださいね」
「分かりました。それでは」
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「2人はサザンへ報告に。中隊長らが即座に戦力を整えてくれるはずだ」
「奴らの進行方向には村がある。俺とアルジードで陽動し、時間を稼ぐ」
「オーディアちゃんは待っていてほしい。2人が全力で守ってくれるはずだ」
指示を受けたそれぞれが黙って頷く。ひとりだけ感知できた気配の存在を疑う者はいない。エイジャーが有事の判断を委ねるに値する男であると、全員が信頼しているからだ。
「信号弾を空に放つから見逃さないでね。色の判断は本部がしてくれる」
「2回あがった時は最初がアル、次がエイジャーのこと…だよね!」
ルルは手に書いたメモを見せ、エイジャーがそれに頷く。一通り打ち合わせが終わったところで、4人はそれぞれの班に分かれた。
「そういえば…アルと組むのは久しぶりだ」
「あんたは合わせやすいからな。好きに動いてくれていいぜ」
「ああ。頼りにしてる」
「今回は譲ってあげるけど。ダーリンと一番上手くやれるのはあたしなんだから!」
「違うよししょー。傷を治せる私だよ!」
「「ムム…」」
「あ、あの…早く行った方がいいんじゃ…」
遠慮がちに割り込んだオーディアの、至極真っ当な指摘に顔を見合わせる3人。さっそく"妹"に格好のつかない姿を晒したことに照れつつも、改めてそれぞれの配置につき直す。
「目標は魔族の撃退と安全確保。そして家族の門出を守ること!」
「「「了解!!!」」」
「行くぞ!!!」
未知の敵に立ち向かうべく、4人は号令とともに打ち上がった。