Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

ガラナの覚醒により大怪我を負いながらも討伐に成功したエイジャー。だがそれはただのオモチャ、本体は人語を使うパラブブという魔族の幹部だった。
無理が祟って生死を彷徨う中、あの日の記憶が蘇る


10話 目覚め

『おっかえりー!予定より早かったね!』

 

─ただいま〜今回は魔族と遭遇しなかったんだ。あと苦しい…

 

『もう!超美人にハグされたからって照れるなよっ♪私たち夫婦だろ♪』

 

 目の前にいる人物は妻のサーヤ・グラム。それはごくありふれた、それでいて何よりも大切ないつもの景色だ。

 だが何かおかしい気がする…必死に思い出そうとするが、記憶が曖昧になっているようで違和感の正体が分からない。

 

─苦しいのは本当なんだけどな…まだ報告書をまとめなきゃいけないんだけど、先に顔を見たくなって

 

『〜っ!そ、そうなんだぁ…へぇ…』

 

 頭にかかった靄が少しずつ晴れてきて、自分が何をしていたか記憶が蘇ってくる。確か町を守るために戦い…その末に気を失って倒れたはずである。

 ならばここにいるのはおかしい。誰かが運んでくれたのだろうか?そもそも何と戦っていた…?まだ思い出せない領域があることに気持ち悪さを覚える。

 

─そうだ、近々まとまった休みが取れそうでさ。たまには旅行とかどうかなって思うんだけど…

 

『本当!?どこがいいかな〜…考えとくね』

 

─うん。そうだ、帰りにちょっとだけスラムの様子を見てきてもいいかな。少し遅くなっちゃうけど…

 

 否、あの戦いは王都が滅んだ後のこと。つまりこの景色は─

 

 あの日、最後にサーヤと交わした言葉だ。

 

『…エイジャーは優しいね~久しぶりに会えた超美人嫁を待たせてまで人の心配をするなんて…』

 

─…報告書をまとめ次第すぐ戻ってきます

 

 ここで傍にいてやればサーヤは助かったかもしれない。

 

 あるいは、2人で最期を迎えられたかもしれない。

 

『冗談!あの人たちも喜ぶだろうから行ってきて!その代・わ・り!旅行の時は寝かせないから覚悟しとけ〜?エイジャーがいない間に体力つけたから、今度こそ負けないよ!』

 

─あはは…じゃあ行ってくる。また後で

 

 それが最後の言葉になる。ダメだ。

 

『…うん、また後で』

 

───────────

 

「行くな!!!待って!!!あ゛っ…ゔ…」

 

 手を伸ばそうと飛び上がったところで脇腹と肩に激痛が走る。再びベッドに体を寝かせて辺りを見回すがそこにサーヤがいるはずもなく…目に映っているのは基地の天井と自分の体に繋がれているいくつかの器具のみであった。

 

 相当うなされていたのだろう。涙で目は腫れあがり、呼吸は乱れ、全身にぐっしょりと汗をかいている…

 

「夢…」

 

 エイジャーは深呼吸した後、改めてゆっくりとベッドから上体を起こしてあたりを見回してみた。突然の大声で驚いたのだろう、椅子から転げ落ちてこちらを見つめているガラナと目が合った。

 

「お、おはようエイジャー…水でも飲む?」

 

─────────

 

 ガラナは濡れてしまった上着を着替えさせながら、あの魔族─バラブブが去った後の事を話してくれた。

 

 駆けつけた医療班によって応急処置が行われたもののエイジャーの体は血液と魔力の消耗が深刻、岸までもつかというほどに危険な状態だったらしい。

 

 そこへいつの間にか乗っていたルルが現れて魔力を分けたところ、なんとか持ち直して治療が間に合ったのだという。

 それから点滴や投薬で対処するも3日も眠り続け、その間ずっと高熱と悪夢に魘されていたとのことだった。

 

「そうか…ルルやポリプ、町のみんなは?」

 

 それを聞いたガラナはため息をつき、心底呆れたような目線を送りながら言った。

 

「あのさぁ、自分の心配しなよ…みんな無事だよ。泡を食らった人たちもみるみる回復してるし…それと」

 

 ガラナは脇腹を指差してくる。包帯が巻かれているので状態までは分からないが、先日の戦いで抉られたはずの部分がほぼ埋まっているように見える。

 それだけではない、貫かれ、骨を砕かれたはずの肩も症状ほど痛くないような…何が起きたのかエイジャーは問うと、ガラナは肩をすくめてみせた。

 

「本当はすぐに手術すべきだったけど設備が流されて不十分、ひどく衰弱しきってたから仕方なく、エイジャーが回復するまで待つことになったんだ」

 

「ルルはずっと傍にいて、白紙の本とにらめっこしながら看病してたよ。そしたら傷どころか肉まで再生し始めて…アルフ族の秘術にみんな感心してた」

 

 アルフ族が癒やしの秘術を使えるのは知っている。嵌めている指輪にもマリーの秘術が込められており、擦り傷程度なら一晩で治るほどの治癒力があるからだ。

 

 だが抉れて無くなった肉や砕けた骨が3日で再生するのは確かに過剰である。本に方法が書いてあったとして、記憶喪失のルルがここまで出来るだろうか…?

 

「ちなみにルルは無理やり休ませてるよ。つきっきりで魔力を放出してたから…だいぶ疲れてたけど大丈夫」

 

 3日も…常人ではあり得ない魔力の負担をかけてしまった事に心が重くなっていると、ドタドタと廊下を走る音が迫ってきた後に勢いよく扉が開かれた。

 

 振り向くと少しやつれたルルが目を丸くしてこちらを凝視している。少しの間を空けてその表情はくしゃくしゃになり、大粒の涙を零しながらエイジャーに飛びかかった。

 

「エ゛イ゛ジャ゛〜!う゛え゛ぇぇ~よ゛がった゛ぁ゛〜!」

 

「えっちょっと待っ…痛゛ぁっ!!!い!!!」

 

───────────

 

「経過は驚くほど良好、ただし免疫力は下がったままだから絶対安静だと。しかしよく生きてたな…」

 

 その日の夜…エイジャーの覚醒を聞きつけたラッツが病室へ報告に訪れていた。多くの者が面会を申し出たが、目覚めたばかりなこともありごく一部の者に限られた。

 ガラナはまだ本調子でないポリプのこともあり、報告ついでに一族の縄張りへ戻ることにした。

 

「本当に。この子がいなかったらどうなっていたか…ラッツさんにも迷惑をかけてしまいました」

 

 エイジャーは安堵と疲労から寝てしまった傍らのルルを撫でる。彼女の強い強い希望に押し負け、すぐ隣にベッドを運んできてもらったのだ。

 

「その無茶に助けられたからな、文句は言えん。お前は多くの命を救ってくれた…この町を代表して感謝する」

 

 ラッツは姿勢を正し深々と頭を下げる。エイジャーは慌てて頭を上げるよう説得するが、彼の頭はしばらく上がることはなかった。

 

「…他の負傷者は順調に回復してると聞きました。町の方はどうですか?」

 

「その事で連日話し合いだ…みんな頭が回らなくなってきたから休憩がてら顔を見に来たんだよ」

 

 ラッツは椅子に腰掛けると、この3日で話し合ったことを共有してくれた。

 

 町の問題は破壊された箇所の復興…撤去作業は始めたばかり、ガルフィン族が協力を申し出てくれたものの資材や大工がまったく足りないという。

 

 次に騎士団の問題…相変わらず連絡がつかないため周辺の状況は不明。負傷者も回復してきたので、明日には憲兵隊を派遣するつもりだという。

 

「そうですか…俺も寝ていられないですね」

 

「今は体を治すのが役目だよ…と言っても落ち着かないだろうから今後頼みたいことを話しておく。入ってくれ」

 

 ラッツが合図を送ると、部屋に見知った顔が入ってきた。ここまで一緒にやってきた商会の代表、グルーノイである。

 

「まず海運ルートを持つ彼らの船を最優先で修理し、本部にある予備を含めた2隻で物資を運搬してもらう。お前にはその護衛とお手伝いをご指名だ」

 

 聞けば本部は魔族の襲撃を受けておらず、船の優先修理についても住民の理解を得られているという。

 魔族は海に現れないという前例を破壊した扇ガザミの件もあって海路も警戒する必要があるため、交戦経験のあるエイジャーが護衛を担うのは合理的な判断であった。

 

「本部はツケンサという大きな街の近く、順調ならば片道1日半ほどです。貴方と船が直ってからの出発でいかがですか?」

 

 ツケンサは何度か遠征で訪れたことがある。

 

 サザン以上に商売が盛んな土地で、各地方から人や情報が集まるためルルや魔族の情報、王都を出ていた騎士団の行方が分かるかもしれない…エイジャーが首を縦に振ると、グルーノイは嬉しそうに鼻を鳴らした。

 

「…決定だな。またしばらく顔を出せないが安静にしておけよ?お前はこの町の英雄、何かあっては俺がどやされる…じゃあな」

 

「私も失礼します。また後日…ああそうだ、これを。ここまでの護衛について、支払いが遅れて申し訳ありませんでした」

 

 グルーノイは革袋を渡してきた。手に持つと重く、ジャリジャリと金属の擦れ合う音がする。『支払い』ということはお金だと思うが…かなりの額が入っているようだ。

 

「おっと、断らないでくださいよ?それは守らせた私の価値でもあるのですから。…それでは」

 

 そう言うと2人は部屋を出ていった。寝息だけが聞こえる静寂の中、『この町の英雄』…その言葉を頭の中で反復し続ける。

 エイジャーは亡き彼女たちが見守っているであろう空を見つめながらぽつりと呟いた。

 

「少しは…償えたかな。サーヤたちを守れなかったこと…」

 

「サーヤって誰?」

 

 声に驚いて振り向くと、寝ていたはずのルルが起きていてこちらを覗き込んでいた。急に体を動かしたので患部に再び激痛が走り、呻き声をあげてベッドに倒れ込む。

 

「痛゛っ…俺の奥さんだよ。それよりガラナから聞いたよ、今までずっと看病して、この傷も塞いでくれてたって。俺が無茶したせいでこんなにやつれて…ごめん…」

 

「…もう約束破ったことは許さないけど!けど…怒るのは今度にする」

 

 そうは言いつつも腹は立つのか、ルルは頬を膨らませながらムニムニと顔をこねくり回してくる。

 

「それに治ったのは私の力じゃないし。本当は秘術を使おうとしたけどダメで、指輪に魔力をあげて治りを早くしたの。私は使えないのかな…」

 

 俯くルルの頭を優しく撫でる。エイジャーにとって誰の術かは重要ではない…並の人間ならば短時間で尽きる魔力を三日三晩捧げてくれたことが何よりも嬉しかったのだから。

 

「ルルがいなかったら間違いなく死んでた。ヒューゴの群れと戦った時も…本当に助かってるよ。ありがとう」

 

「2人で取り戻していこう。力も、記憶も…俺ももっと強くなるから。そういえばマリーさんの本を読む暇が無かったな…ちょうどいいから読んでみようかな?」

 

「!片手じゃ大変でしょ?私が読んであげる!」

 

 そう言うとルルは本を取り出し、エイジャーにぴったり密着しながら読み聞かせを始める。どちらが保護者か分からない光景に可笑しさを感じながら、彼女の声に耳を傾けるのだった。

 

 しかしよく考えると妙である。アルフ族は人体の再生・植物操作で異なる2つの秘術を使えるのだろうか…?

 マリーは指輪に込めるまで使いこなしているし、無意味なことを本に残す理由もない。ルルが記憶喪失のせいで使えないのか、それともガラナのように秘術とは別の技術体系なのか…

 

 やはりアルフ族の情報をもっと集める必要がある…エイジャーは次の目的地 ツケンサに思いを馳せた。

 

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