Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 魔族の襲撃により破壊されたサザン。復興のキーマンとなる大工の腰を治すべくアルフ族の集落を訪れた2人は泉を塞ぎ森を枯らした未知の魔族 ボゥトパスと出会う。
 ルルの血統秘術とエイジャーの新たな力によりこれを撃退、集落を救うことに成功したが…


16話 変異

「お母さん!薬貰ってきたよ!ちょっとだけまけてもらったんだ〜」

 

 追い出された王都にこっそり侵入し、今日もお母さんの薬を買ってきた。本当は良くない事だけど…守衛のおじさんたちはいつも見逃してくれる。

 

「そう…お医者様にお礼を言っておいてね」

 

 この人は僕のお母さん、マーニ・グラム。ここの汚い空気で体調を崩しちゃったけど…薬を飲んだ後は少しだけ顔色が良くなって、いつも僕に詩を聞かせてくれる。

 

「今日は何にしようか?喉の調子がいいから長い物語でも大丈夫だよ」

 

「じゃあ…【奇跡の人】がいい!みんなも呼んでいい?」

 

「もちろん!お母さんも張り切っちゃうからね!」

 

「うん!」

 

 ここの人たちは親切だ。僕たちと同じような理由でここに来たから、レンタイカン?が大事だって。僕も王都に出入りできる分お遣いを手伝ったりしてる。

 

 生活は苦しいけど、きっと上手くやっていける。あの頃はそう思っていたんだ…

 

─────────

 

「…ャー!エイジャー!」

 

 自分を呼ぶ声で夢から覚める。ここはアルフ族の集落…エイジャーはベッドに寝かされており、顔を覗き込んでいたルルと目が合った。

 

「苦しそうにしてたから起こしちゃった。また…怖い夢?」

 

「いや…昔の夢だよ。起こしてくれてありがとう」

 

 外を見るとまだ暗いが、木々の隙間から朝日が溢れ始めていた。戦いは昼だったのでかなり長く眠ってしまったらしい…

 気付けば足の痛みは完全に引いており、倦怠感もない。むしろここへ来る前よりも元気になってすらいる。

 

 部屋を見渡すと長老のコノとラウラもそこにおり、起床に気付くと慌ててこちらへ近付いてきた。。朝食だろうか、火にかけられた鍋からは甘い香りがする…

 

「おぉ目が覚めたか。魔力が枯渇しているようだったから勝手ながら薬を使わせてもらったよ。人間には強すぎるかとも思ったのだが…具合はどうかね?」

 

「絶好調です。すごい効き目ですが一体どんな薬を?」

 

「痛み止めと魔力の補給薬です。レシピは教えられませんが…」

 

 申し訳なさそうに話すラウラの肌には艶が戻っている。泉の水が戻ってきたことで、集落のみんなも少しずつ回復しているとのことだった。

 

「ご所望の丸薬、ここを出る際にお渡ししますね。大工さんの分と、お二人の分も多めに用意しておきました」

 

「君には我々に返しきれない事をしてもらった、集落を代表して礼を言わせてほしい…本当にありがとう。」

 

「そんな…大げさです。皆さんの協力がなければもっと苦戦していたし、あいつも本気じゃなかったですから」

 

 エイジャーの言葉は遠慮ではない。ボゥトパスと名乗った傀儡とその主の立ち回りは遊んでいる、または不慣れとしか思えなかったからだ。

 

 水が弱点にも関わらず泉を塞ぎ、擬態能力を活かせる森で戦わずその場からほとんど動かない…2本ずつしか使えない触手といい、そのスペックをほとんど活かせていなかったからこの程度で済んだとエイジャーは感じていた。

 

 もし相手のフルスペックで戦うことになった場合、少なくとも周りに気を遣う余裕はないだろう…今の力では。

 己の不甲斐なさにエイジャーの顔が険しくなるのをすぐ横で見ていたルルが、物理的に阻止しようと頬を両側から押しつぶす。

 

「また自分のこと追い込もうとしたでしょ!泣くよ?いいの???」

 

「お、おれぐぁわるひゃっひゃ…はひゃして…っふぅ。そうだ、せっかくの機会なのでお二人に聞きたいことがあるんです」

 

 エイジャーはルルが思うように秘術を使えないこと、使えた時の状況やその内容を説明した。

 その話を聞いたコノは髭をさすりながら、どうしたものかと困ったように唸る。

 

「あくまで予想だが…記憶喪失になったから秘術が不安定なのではなく、彼女に起きた大きな変化が記憶喪失のきっかけと考えるべきやもしれぬぞ」

 

「大きな変化…?」

 

 コノ曰く、アルフ族の血統秘術は植物の成長や移動を指示する程度であり、これは呼吸をするのと同じくらい当たり前に備わっている能力なのだという。

 一方で幹から杭を生やしたり葉だけを増殖させて操るのはかなり高度な技術、そのアンバランスさが引っかかるとのことだった。

 

 さらに肉体を急速に再生するマリーの術、それを加速させるルルの魔力に関しても聞き覚えのないものだという。だから彼女に何らかの大きな変化が生じ、そのショックで記憶が抜け落ちているのではないか…と。

 

「…マリーさんから聞いた話とはずいぶん違いますね」

 

 エイジャーは訝しんだ。彼女に渡された本には肉体の再生も秘術の1つであり、使い方も書いていたからである。

 

「我々は種族間の交流が少ないのです。彼女の故郷では当たり前に共有されている技術、または自分が使えたので誰でも使えると勘違いしたのかも…」

 

「他にも不可解な点がある…この子は人間と同じくらい食べるそうじゃないか。我々アルフ族は水こそ飲むが滅多に食事を摂らぬ」

 

 言われてみればマリーの屋敷を訪れた時、彼女が自分の茶菓子を出していなかったことを思い出した。夕食を抜き朝も馬車で済ませたせいで気付かなかったが…彼女が食事を摂る場面を見ていない。

 

「私の体って変なのかな…もしかして病気なの?」

 

 双方の話を咀嚼していると、傍らのルルが袖を引っ張り不安に満ちた表情で見つめてきた。

 

 その場しのぎで安心させても良かっただろう。だがエイジャー自身も不安に感じていることで適当にあしらうのは、今後のお互いにとっていい結果にはならない…そう考えていた。

 

(何か…何かちゃんとした根拠つきで安心させられる情報…そうだ!)

 

「…食事で魔力を補給、貯蔵できる体質という線は?前例を知っていますし、魔力を使った後に空腹になるのも説明がつくかと」

 

 エイジャーが挙げた『食事で魔力を補給できる体質』というのは、何もルルを安心させるための出任せではない。

 騎士団にそのような体質を持った者がいるという、実体験に基づいた推測である。だがコノの表情は腑に落ちないといった風だった。

 

「希少体質が重なるかのぅ…どちらにせよ不安定な秘術の原因から調べるといいだろう。魔力の流れに詳しい者を尋ねれば何か見えてくるやもしれぬ」

 

「魔力の流れに詳しい者…あ」

 

 エイジャーはその条件に思い当たる節があった。王都や近辺の魔道具を整備していた調律師である。

 個人差のある魔力から同一の魔法を発動させたり、念波のやり取りに転用する仕組みを作っている彼らであれば何か聞くことができるかもしれない。

 

 だが王都に仕えていた者はもういない…文官たちの管轄なので騎士団の生き残りに聞いても答えは得られないだろう。

 管轄外であったエイジャーには彼らがどこから来たのか、特殊な種族なのかも分からない。容姿は人間と変わらなかった気がするが…

 

(商会に戻ったら聞いてみよう。多くの取引先を持つ彼らなら何か知ってるかも)

 

「ルル、魔力の流れに詳しい人を探そう。そこから記憶を取り戻すきっかけが見つかるかもしれな…」

 

 ルルは腕に抱きつき、目も合わせず頷いた。その力はいつもと違い明らかに弱々しい…

 自分について不穏な話がいくつも飛び出してきたので、さすがの彼女も滅入ってしまったのだろう。はっきりとは見えないが、顔には疲れが浮かんでいた。

 

 普段は振り回されているので忘れそうになるが、やはり彼女も現状に不安を感じているのだ。おまけに戦場に連れ回しているのだからストレスも感じているだろう。

 

 まだ気になる事はあるが…これ以上この話を続けるのは無理だと悟った。

 

「…この話はここまでで。私から聞いておいてすみません」

 

「力になれずすまない…我々も手がかりを調べておく。ここへはいつでも出入りできるよう皆に伝えておこう」

 

 街へ戻るにはまだ暗い…2人は茹でた木の実を朝食代わりにいただくと、出発の時間まで再び休むことにした。

 こうしてルルの故郷を探す旅は一度進路を変え、彼女の体質と記憶喪失の原因を調べることになったのだった。

 

───────────

 

「夜になっても戻らないから心配しておりましたよ。代表から貸与された服も擦り切れていますね…」

 

「交渉の寄り道で魔族と戦いまして…ご迷惑おかけしました」

 

 翌朝、エイジャーたちは宿舎に戻っていた。客人に万が一があってはならないと、ガァラは夜通し帰りを待っていたのだという。そのせいか鱗の表面が少し乾燥していた。

 

「大工の腰痛を治すための丸薬は確保できました。後で渡してこようかと…グルーノイさんはどちらに?」

 

 目の前にはガァラが取り置きしてくれた朝食が並んでいるが、いつもなら喜んで飛びつくはずのルルがあまり反応しない…

 エイジャーが食べるよう促すと、乗り気ではないという雰囲気で少しずつつまみ始めた。

 

「代表は街の連絡会に出かけました。なんでも近隣の町や村…特に憲兵隊が常駐していない場所を狙った盗賊が増えてるそうで」

 

 王都が壊滅してから2週間ほど、様々な情報が集まるこのツケンサに噂が届くには十分な時間が経過していた。海賊に襲われた時に危惧していた通り、治安も悪化しつつあるのだろう…

 

 まだ騎士団が抑止力として機能している点は朗報だが、サザンの町では周辺の部隊と連絡がつかないと言っていた。魔族の活性化もあり彼らは無事なのか心配だが…ここからでは何もできない。

 

「この辺りで通信機の修理や調整ができる人を知りませんか?復興メンバーに誘いたくて」

 

「調律師ですか?町の通信機が使えないと聞いたので、我々がお世話になっている方を船に乗せたはずですよ」

 

 しまった、すれ違った─町の復興がいち早く進む事は喜ばしいが、唯一の手がかりを失ったエイジャーの心境は複雑だ。

 そんな心の声が顔に出ていたのか、ガァラはこうも付け加えた。

 

「通信機が直れば町ともやり取りができますよ。エイジャーさんは双方に登録していますからね…それとも急用ですか?」

 

 エイジャーは説明をすべきか迷っていた…言葉だけのやり取りで解決する問題ではない上に体質の不安をいつまでも抱えさせるのは負担が大きい。会える調律師を聞きたいが、それはルルのデリケートな話題に触れることになる。

 ガァラを信用しないわけではないが…無闇に言いふらすような事ではないのも確かである。

 

「いいよエイジャー。教えても」

 

 宿舎に着いて以来、自分から話そうとしなかったルルがようやく口を開いた。ただならぬ事情を察したガァラは耳をそばだて、小声で話すように促す。

 

(…実はルルに流れる魔力がその…変異している可能性があって。それが分かる、解決できる人を探してるんです)

 

「なるほど…そういえば大峡谷を越え、流れ着いた人間が営む診療所が市場にできたそうですよ。でもつまらない客は診ないとか…」

 

 大峡谷…この大陸を真っ二つに縦断し、かつて軍事国家として多方に進軍していた旧王政ですら手を出せなかった理由と言われている大自然の要塞。

 渡る手段は太古の大橋を使うか海を経由する2つと言われており、前者であればその土地に住む謎多き種族が、後者であれば複雑怪奇な海流が行く手を阻むという。

 

 "向こう側"にも独自の国家や文化があるという噂は聞いている。その話が本当ならば会う価値はあるかもしれないが…

 どんな人間かも分からない相手にルルを診せてよいものか、それが気がかりだった。

 

(ここで商売してる以上は身元も調べてるはず…少なくとも人攫いや盗賊でした、ってことはないと思うけど…)

 

「行ってみようよエイジャー。…私も知りたいから」

 

 声はまだ弱々しいが、袖を掴む手にはしっかりと力が込められている。目にも生気が戻ってきつつあるようだった。

 

「代表にはそう伝えておきます。そろそろサザンとの連絡がしたいと仰っていたので、夜までには戻ってきてください」

 

「ありがとうございます。…ルル、その医者へ会いに行こう」

 

 ルルは静かに頷いた。2人の次なる目標は大峡谷を越えてきた医者、ボッタオである。

 

 

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