大峡谷の向こうからやってきたマッドドクター ボッタオの診察によりルルの体の秘密が分かった2人。復興の要である最強大工の協力も無事に取り付けたエイジャーは、アルフ族の集落へ報告に向かう途中で…
「…ということで健康には問題ないそうです。魔力を引き出せないのも少しずつ解決していこうと思います。ね、ルル?」
「うん!」
翌日、2人はルルの体質について報告するためアルフ族の集落を再び訪れていた。森は再生に向かっており、時間はかかるものの元に戻すのはそう難しくないのだという。
「それは良かった…ラウラも聞いたら喜ぶだろう。そうだ、何かお礼をと思い色々と探していたのだが…ご先祖さま秘蔵の品を見つけてな」
長老コノが差し出してきたはアーチ状の何かを象った飾りがついたネックレス。かなり年季が入っているものの、入念に磨いてくれたのか鈍い輝きを放っている。
「アルフ族のご先祖さまって事はとてつもない昔の…そんな貴重なものを我々に?」
「誰が、どんな経緯で入手したのかも分からぬ品でな…その指輪に雰囲気が似ているから、何か役に立つのではないかと考えたのだ」
エイジャーは2つを見比べた。言われてみればマリーから預かった指輪に似ているような気もする…どちらも古く、出自が不明なところまで。
ネックレスを受け取ろうとしたその時、隣のルルが珍しく夢中になって見つめていることに気付く。
「これ…私が貰ってもいい?なんかすごく気になる…」
「ほう…同じアルフ族で何か引き合うのかもしれないな。こちらは構わないぞ」
エイジャーはネックレスをルルにつけてやる。いつもなら声を上げて喜びそうなものだが、何か感じ取っているのかひたすらぼーっと眺めている…
似た物同士で少しだけ期待したものの、残念ながら指輪のように輝くことはなかった。
「貴重な品をありがとうございます、長老。…そういえばこの辺りで盗賊が活発になっているとか。お気を付けて」
「君たちが森を守ってくれなかったら危なかったな…皆にも伝えておこう」
エイジャーは長老に別れを告げ集落を去る…と思いきや何かを思い出したように立ち止まり、ルルを待たせて引き返した。
「長老、実はもう1つ聞きたいことが…アルフ族に誰かとの約束を頑なに守ろうとしたり、献身的になろうする癖はありますか?」
「何だと?…確かに約束を反故にするような者はいないが…」
それはエイジャーがずっと感じていた疑問だった。出会って間もない頃から自分を強く慕い、泣いて怒ったり魔力を三日三晩注ぎ続けてくれたルル。
あるいはほぼ死亡しているであろうアーサーのためにずっと独りで館で待ち続けるマリー…彼女らの献身的すぎる態度は種族由来のものなのではないか、そう考えていたのだ。
「愛、ですよエイジャー様」
そんな考えを優しく否定したのは、再生作業を終えたラウラだった。
「我々にそのような習性はありません。自分の意思で傍にいようとする彼女を疑うのは可哀想ですよ?」
「そう…ですよね。すみません、失礼なことを聞いてしまって」
「ふふっ、謝意の分だけ大事にしてあげてくださいね。それにエイジャー様は我々の英雄なのですから、もっと胸を張ってください。ね?」
ラウラは手を握り、柔らかく微笑む。それを遠くで見ていたルルは全力ダッシュで駆け寄り、勢いのまま頭突きを放った。
「浮気!!!」
「だから誤解…っすみませんもう行きます。近くに来たらまた顔を出しますね。…痛い背中を引っ張らないで!それでは!」
浮気(?)に憤るルルに引っ張られながら、エイジャーたちは森の外へと消えていく…
その様子を2人は慈愛に満ちた表情で、子を見守る親のような気持ちで見送っていた。
「賑やかな若者たちだったな。また会えるといいが」
「会えますよ、きっと」
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「エイジャー、あれって…人?」
集落を後にして商会への道を進む2人。不機嫌だったルルも機嫌を直し、ようやく平穏が訪れたと思っていた矢先。
道の真ん中、目の前に薄桃色の髪をした1人の少女が倒れていた…エイジャーは慌てて駆け寄ると呼びかけ、脈拍を確認する。どうやら生きてはいるようだ。
「君、大丈夫か!?話せるか?」
異常なのはそれだけではない。少女の周囲に生えていた木々は炭と化し、あたりに焦げた臭いが漂っている…何か大きな事件があったことは間違いないだろう。
エイジャーは慌てて少女を仰向けにして状況を詳しく把握する。息はさほど乱れておらず服も整っており、袖口が少し焼失している事を除けば大きな怪我はないようだった。
「んん…はっ!アンタ誰!?」
呼びかけで目を覚ました少女はエイジャーを突き飛ばすと、服の中から何か…チャクラムという輪っか状の武器を取り出した。
まだ10代だろうか?ルルよりは歳上に見える強気な少女は翠色の瞳で睨みをきかせ、こちらへの警戒を剥き出しにしている。
「待った!俺はエイジャー・グラム!訳あってこんな格好をしているが王都騎士団の者だ!あの子はルル!君に危害を加える輩じゃない、信じてほしい」
「騎士団?…確かに悪さとか無理そうな顔してるかも」
エイジャーは両手を上げて敵意が無いことを必死にアピールする。どうやら信じてくれたらしい少女は武器を降ろすと、2人の元へ近付いてきた。
「エイジャー大丈夫?転んだ?」
「大丈夫だよ、ありがとう。…倒れていたけど何があったんだ?それにあたりが焼けて…まさか魔族に襲われて?」
「違う。やっすい男どもが色目使って近付いてきたから追い払ってやったの。…ちょっと出力間違えたけど」
少女はバツが悪そうに目をそらす。地面についた焼け跡からして何度も発動させたのではなく、ほんの一撃であたりを焦土に変えたのだと推察した。
不安定さはあるがこの歳で扱える魔法としては破格の規模、天才とも言うべき魔法の才能にエイジャーは驚く他なかった。
「君はどこから来たんだ?倒れるほどの魔力を使ったなら1人でいるのは危険だ、送っていくよ。…いいよね、ルル?」
「いいよ!」
「…別に。アンタらに頼らなくたって…っ」
2人の申し出を断り歩いていこうとする少女。だが足元がおぼつき倒れそうになったところを駆け寄ったエイジャーが抱き止めた。
少女は腕の中でしばらく葛藤した末、またもバツが悪そうな顔でその体重を預けてくる。
「…アリッサ・ベルキャンバス。悪いけど近くの街までお願い…します」
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「いいなー私も今度お願いしようかな?」
「…最悪っ…最悪…っこんな恥ずかしい…」
「しばらくは人の往来が少ない道だから…ルルは足腰強いから必要ないでしょ?」
ふらつきながら歩いていては日が暮れてしまうとエイジャーにおんぶされているアリッサは、赤くなった顔を背中に擦り付けて必死に隠していた。
「違う、アンタの親切に文句言ってるんじゃなくて…せっかく家を飛び出してきたのに、結局人を頼ってる自分が恥ずかしいの」
「束縛の強い家族たちがイヤになって出てきた…だったか。ずいぶん思い切ったことするなぁ…」
ツケンサへ戻る道中、アリッサは渋々ながらも自分のことを話してくれた。
彼女の故郷は誰もが理屈っぽく感情による判断を否定するきらいがあり、より才能のある子供を作るため好きでもない相手と結婚させられそうになって飛び出してきたという。
しばらく1人で旅をしていたが箱入り娘の自分には少しずつ限界が近付いており、族を追い払うためにド派手にやらかして倒れていたところを通りがかった…ということらしい。
「あそこには絶対に戻りたくない。あたしは自分で考えた道を進んで、あたしが選んだ人と幸せになる。…それでおぶられてるなんてダサすぎでしょ…」
「君が飛び出したくなる心境は分かるし応援したいけど…一方的に絶縁は悲しむよ。家族って突然会えなくなるものだから…さ」
それは何度も別れで後悔してきたからこその、同じ思いをさせたくないという心の底からの助言であった。
「ルルも記憶喪失で家族を知らない、だから一緒に故郷を探してる。俺達には帰るところがないんだ。せめて会える内は大事にしてほしいけど…親しくもない君にそれを押し付けるのは横暴かな」
「…」
「おぉ?さっきの炎のガキじゃねえか!」
アリッサの沈黙を破ったのは2人のガラの悪い男…動物の骨をアクセサリーとしてぶら下げ、どう見ても善人とは程遠い雰囲気を放つ野蛮人。
「あの時はよくもカマしてくれたな!だがボスはお前みたいな気の強い女が好みだからよぉ…軽く心折ってから献上してやるぜ!そっちの白っちいガキもだ!」
「…ルル、その子を頼む」
「りょーかい!」
エイジャーはアリッサを降ろすと男たちへ立ち向かっていく。
その目には先ほどまでの頼りなさすら感じる柔らかさは消え、覚悟に満ちた戦う男の目であったことをアリッサは覚えている。
「待って!そいつらはあたしが…」
「人に頼るのも立派な意思だよ。…俺が言えたことじゃないか。おい賊!生憎今は刃物しか持っていない!大怪我をする前に降伏してくれないか!」
「なんだこの弱そうなの?お前の首も飾りにしてやるよ!」
細身な男は剣を抜きエイジャーへ一直線に突っ込んでくる。その動きは素人同然、持っている武器も手入れが行き届いておらず粗末…格好が威圧的なだけで、街のゴロツキと変わらなかった。
エイジャーも剣を抜き男の武器を弾き飛ばすと、がら空きになった脇腹へ強烈な蹴りをお見舞いする。
ミシ、と鈍い音を奏でながら男は吹き飛び、近くの木に叩きつけられあっけなく沈黙した…
(あいつ…結構強いじゃん)
「相方は一撃だったぞ。もうやめないか」
「…そいつは新入りだ、喚くばかりで役に立たねえ。だが俺は違うぜ」
もう片方の男もエイジャーへ走ってくる。その手に武器は持っておらず、徒手空拳による振り抜きかに思えた。
だが射程が足りない位置関係であり、このままでは空振りするのが目に見えている。
(間合いを誤った?いや…この構え方は剣術!仕込み剣か!)
エイジャーは身を屈め回避の姿勢を取る。直後、男の袖の中から刃が飛び出し、先ほどまで首があった箇所を切り裂いた。
「…意外と鋭いな、お前。だがお楽しみは…これからだ!」
そう言うと男はエイジャー目掛けて刃を振るった。何かが解除された音が鳴り、刃を繋いでいた隠し鎖が飛び出す。
さらに間合いが変化した刃をギリギリで回避したエイジャーは鎖を掴むと、振り回した勢いを利用して男を投げ飛ばし、地面に叩きつけた。
「ぐぅ…っ!これも見切るなんて…」
「予備動作がまた変わったからな。これ以上変なマネをする前に制圧させてもらう。『雷付与』!」
手に掴んだ鎖を伝い電撃を流し込む。短い絶叫の後に男は気絶し、そのまま沈黙したのを確認すると、抵抗できないように鎖を使って両手を縛り上げた。
(たぶん小規模な盗賊だと思うけど…こんな手の込んだ武装をどこで手に入れたんだ?)
「エイジャー!大丈夫?」
「今回は無傷だよ。彼女の護衛ありがとね」
駆け寄ってきたルルの頭を撫でてやると、フンスと誇らしげに鼻を鳴らす。それから少し遅れてアリッサも近付いてくる。
「ここまで運ばせて、こいつらまで押し付けて…頼りっぱなしだね、あたし」
「荒くれ者の対処も騎士団の仕事だよ。それよりこっちはどうするかな…縄がないから拘束できないぞ」
視線の先には最初に倒した男…まだ気絶しているが、起きれば抵抗してくる可能性は高い。街までそう距離はないが、両手をフリーにした状態で連行するのはさすがに危険だろう。
唸っているエイジャーの肩をルルが叩く。彼女が指を差した先には手頃な長さのツル植物があった。だが…
「かなり細いな…耐久性が不安だ。…もしかして!」
ルルはうんうんと頷いた。そう、体内に2つの魔力が流れているせいで上手く引き出せないことを知った2人は、あの後魔力を使いこなすための特訓をしていたのである。
「見てて!えーっと危ない時に出るのは特別な魔力、みんな使えるものは私が持っている魔力から引き出す感じで…マリーさんの本に書いてあったツル植物の感覚は…ムムム…うぐぐ…」
ルルはうにゃうにゃと呟きながらツルを掴み、必死に秘術を使おうとする。だがまだ成功したことがないそれが都合よく発動するはずもなく…何かが起こることはなかった。
「あの子何してるの…?」
その様子を見ていたアリッサが怪訝な表情で耳打ちする。エイジャーはどこまで話していいか少し迷ったあと、口を開いた。
「彼女は植物を成長させられる種族なんだ。ただ色んな事情で上手く扱えなくて…他の手段を探したほうがいいかなあ」
「ふーん…ねえ、提案があるんだけど─」
「んぐぐ…お願い大きくなって〜!」
エイジャーはなおも必死に秘術を使おうとするルルに後ろから近付き、頬を両手でツンツンとつつき始めた。
「いい感じに力が抜けてきた。ツルは掴んだままで…手のひらから魔力を出すイメージ…」
「ちょ、今頑張ってるのに…くすぐったいよ~んへへ…」
ルルの頬が油断で緩みきったその時、すぐ千切れそうな細さだったツルがメキメキと太くなっていく。それは間違いなく植物に干渉し成長させる、アルフ族の秘術だった。
「あれ?できたの?なんで???」
「すごいよルル!特訓して2日で使えるなんて!アリッサもありがとう。魔力の扱い方に詳しいんだな」
「言うだけなら楽だし…それより早く縛ろうよ」
エイジャーは成長したツルを適当な長さで切り離すと男たちを拘束する。アリッサは心中にモヤモヤが生まれつつあるのを感じながら、その様子を眺めていた。