Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 復興に必要なリソースを集めサザンへ戻った2人は王都を離れていた討伐隊と合流し、「王政を嫌っている、騎士団としてでは手が届かない人々を救う」という目標とともに独立部隊に任ぜられる。
 エイジャーはお互いの想いを吐き出し、改めて行動を共にすることになったルルを連れて各地を巡っていた…


22話 闇夜の攻防

「依頼されたヒューゴの群れ、討伐終わりました。計15体、周囲に他の個体はいなかったので殲滅したと思います」

 

 独立部隊としてサザンを出発してから数日、エイジャーはとある小さな町で討伐依頼を受けていた。

 あれから大規模な襲撃や王都襲撃犯の手がかりもなく、見知った魔族がいくらか出現するのみ…それでも民には脅威だが、少し肩透かしなのは否めない。

 

「おぉ助かるよ。奴らのせいで商人が近寄らなくなっててね…ウチは防衛にあまり金も出せないし困ってたんだ」

 

「困った時はお互い様ですよ。最近は魔族も強い個体が出現しているので、半端な用心棒を雇うくらいなら騎士団を頼る方が確実ではありますが…」

 

 エイジャーの提案に町長は顔をしかめる。

 そう、この町もまた王政に反対しており、騎士団も実態は把握しているものの介入できなかった地域なのだ。

 

「うちのばあちゃんは貴族の機嫌を損ねたせいで死んだ。母ちゃんも薬を貰えずに…王が変わったところで信用してないけど盗賊も出てるって言うし、背に腹は代えられないよなぁ…」

 

「…心中お察しします。もし滞在中に気が変わったら仰ってください。知り合いの騎士団に相談してみますから」

 

(…知り合いというか騎士団なんだけどね)

 

 エイジャーの役目は騎士団として介入できない地域へ赴き彼らを助けること。そして個人として恩を売ったところで話を持ち出し、彼らを保護できるようにすること。

 

 人々の安全のため仕方ないのは理解しているが、彼らが独立の道を選んだ理由を聞いていると騙しているのが申し訳なくなり…作られた笑顔の下はなんとも複雑な心境であった。

 

「…もう少し考えるよ。それよりもう夕方だし今夜は泊まってけ!そこの飯屋は2階で部屋貸してるんだ、金は払っとくから好きに飲み食いして体を休めてくれ」

 

「ほんと!?いいの?」

 

 飯と聞いた傍らのルルが目を輝かせて身を乗り出す。その姿をを見てしかめていた町長の表情は柔らかくなり、笑顔になる。

 彼女の美しい外見と幼さは初めて出会う人の警戒心を解く上で非常にありがたく、エイジャーの下手な嘘をある程度カバーしてくれる。そういった意味でも2人はよいパートナーと言えるだろう。

 

「さあこっちだ。遠慮はいらないぜ」

 

 

「ん!これ美味しい!」

 

「だろ?そのスープを飲めば夜もぐっすり眠れるよ」

 

 2人は案内された飯屋で夕食を取っていた。ヒューゴの影響で外部の者は少ないが、町の人々の憩いの場でもありそれなりに賑わっている。

 

(この辺りの問題は片付いたし、そろそろ拠点で報告するか…このあたりで駐在してる町はどこだったかな)

 

 町を出て数日…エイジャーたちはすでにいくつかの討伐依頼を受けながら各地を回っており、さすがに疲労を感じ始めていた。

 今はベッドで眠れている分マシだが、今後は野宿する事もあるだろう…彼女に見張りを任せるわけにもいかないので必然的に自分が夜通し起きていることになる。

 

(移動が長くなる時の事は考えないといけないな…)

 

 そんな事を考えつつ思わず欠伸をすると隣からの視線を感じる…目をやると機嫌の良さそうなルルがニコニコしながらこちらを見つめていた。

 

「エイジャーさ、最近変わったよね。前より色んな顔するようになった」

 

「そうかな?というかそんなところでも気を使わせてたのか…」

 

 サザンの町で改めてあの日の罪やお互いの気持ちを晒しあったことで、エイジャーの心身はいくらか軽くなっていた。眠気を感じるほどには安心する瞬間ができたのも変化の1つである。

 以前は自爆覚悟で挑んだ強化ヒューゴもある程度余裕をもって倒せるようになり、その戦闘力も確実に上がっている。

 

 だがここまでの戦いで何度もピンチに陥り、その度に助けられている…今のままではあの日の4体にはとても敵わないだろう。

 

(もっと強くならないと…もう誰も手放すわけにはいかない)

 

「ねえエイジャー、あっちで誰か歌ってるよ?」

 

 ルルの呼びかけで我に返り、耳を澄ませると店の端から飛び込んできたのは男性の声と、その詩に似つかわしくない激しい楽器の音色。

その詩はエイジャーもよく知っているものだった。

 

─鋼鉄の体を持つ者は石を作り、翼の生えた妖はそれを運ぶ。

 

─水の心を持つ者は水を堰き止め、硬い表皮を持つ者は石を繋ぐ。

 

─数多の異型を束ねるはムナリク。悠久の刻を生きる奇跡の者也…

 

 聞こえてくるのは有名な御伽噺「奇跡の人」の一説…いつ、誰が書いた詩なのか不明であり、とある存在が起こした数々の伝説を讃えるものとされている。彼が披露しているのは数多の種族を束ねて大きな橋を架ける話のようだ。

 

「"奇跡の人"か。でもその演奏は聴いたことがない…オリジナルか?」

 

「お!あんた詳しいな。どんなにいい詩も眠ったら聞いてもらえないからな。オレ流にアレンジしてるのさ」

 

 笑顔でチップを受け取った男はまだ二十歳は迎えていないように見える。褐色の肌と対照的な白い髪、燃えるような赤い瞳とかなり特徴的な容姿をしていた。

 

 服も砂漠地帯で着られているゆったりとしたもの(インドのクルタや中東のカミースに似ている)を、袖を絞って着用している。これもこの辺りではあまり見かけない品だった。

 

「母さんとの数少ない思い出なんだ…詩はこの辺りに伝わるものだけど、君は砂漠地帯の生まれに見えるな」

 

「詩の地域差も知ってるとは学があるんだな。容姿は親父に似たんだ、生まれはこっちだよ。オレはアルジード…あんた達は?」

 

 アルジードと名乗る青年は握手を求めてくる。その手を取ると一瞬だがずしり、と衝撃が来た。ゆったりした服を着ているので体格は分からないものの、腕にこんな質量があるとは思えないが…

 

「俺はエイジャー、この子はルル。各地で活性化している魔族の調査と討伐をして回ってるんだ」

 

 エイジャー…その名を聞いた少年の表情がほんの一瞬だけ変化したように見えたが、疑問を口にする前に何事もなかったかのように笑顔になる。

 

「2人ともよろしくな!久しぶりにこの詩について詳しい奴がいて嬉しいぜ!リクエストがあれば他のも弾いて…」

 

「だ…誰か助けてくれ!!!」

 

 その時血相を変えた男が扉を勢いよく開けて入ってきた。髪も服も乱れきっており、何かから必死に逃げてきたという風だ。

 エイジャーは男に水を飲ませて落ち着かせると、何があったのか話すように促す。

 

「相方と夜風に当たってたんだ。そしたら隣のあいつが急に倒れて…!背中にデカい爪でやられたような痕があるのに音もしなかった、早く助けに行かないと…!」

 

 音もせず獲物を狩る巨大な爪を持つ者…エイジャーはその特徴に心当たりがあった。男を立たせると店内にいた人々に叫ぶ。

 

「店の前に火を灯してください!そして一歩も出ないように!俺の予想が正しければその魔族は火を嫌います!主人、料理用の油を分けてください。それと包帯を!」

 

「エイジャー私も行く!」

 

 指まで真っ直ぐに伸ばして主張するルル。その魔族は非常に厄介であり騎士団でも手こずる相手、戦いに慣れていない者を増やしたくないが…

 負傷者の手当てまで手が回らず、何よりここに置いていくのも不安である。数秒の葛藤の末、エイジャーは連れて行くことを決心した。

 

「んんん…分かった!ルルは油と包帯を持ってきてくれ!それとまだ練習中のアレ、早速出番だ!行こう!」

 

「任せて!」

 

 3人は必要なものをかき集めると急いで店を出ていく。アルジードはその様子を意味ありげな表情で眺めていた…

 

─────────

 

「この松明を持っていればまず襲われないはず…絶対に手放さないように。ルルは打ち合わせした通りだ、この人の治療を手伝いながら俺の指示を待ってくれ」

 

「りょーかい!」

 

 町を出て数分後、3人は何者かに襲われたという林道に到着していた。女性の傷は決して浅くないが、早急に止血すれば助かる状態だった。

 癒やしの秘術を使えれば早いのだが、ルルはまだ自力で使うことができない。さらに指輪もエイジャー以外の怪我人には反応しないため、こればかりは彼らに任せるしかないのだ。

 

 エイジャーは彼らから少し離れたところまで歩くとルルたちの方を向き、目を閉じて棒立ちする。当然ながら寝ているわけではない。わずかな音や気配を探知しているのだ。

 

(まだ近くにいるはず、このまま帰らせてはくれないだろうな…虫、木々が擦れる音…風を切る音!来た!!!)

 

 エイジャーは180度方向転換しながら剣を抜くと何か硬いものにぶち当たる。大きく広げた翼と僅かに反射する一対の瞳が月明かりに照らされ、その正体が顕になった。

 

「なんだあれ…鳥!?」

 

「やはりお前か…バンプゥル!」

 

 バンプゥルはフクロウのような姿をした体長2メートルもある魔族である。夜や洞窟など光の少ない環境下でステルス迷彩の機能を果たす赤い体毛と、音をほとんど発しない滑空技術を持つ魔族である。

 また自身の特性をよく理解しており、地の利を握ってくることもあって騎士団でも手を焼く厄介な敵であった。

 

 エイジャーは爪による一撃を弾くと薙ぎ払って反撃する。だが羽ばたいて後退することで巧みにかわし、再び闇夜に紛れてしまう。

 隠密性の高さから直前まで存在に気付けず、決して深追いはしてこない…こいつもまた、狩りに慣れている狡猾な個体のようだった。

 

(怪我人もいる中で時間はかけていられないな…早速アレを試してみよう)

 

「!?おいあんた!突っ立ってるとやられるぞ!」

 

 エイジャーは再びその場に立ち尽くし始める。その自殺行為ともいえる愚行に男は声を張り上げるものの返事をしない。

 

「大丈夫…こいつの生態は分かってるつもりだ!」

 

 エイジャーの首を背後から狩ろうと急接近したバンプゥルの体に電流が走った。バチバチと音を立てながら感電し、一瞬だが全身が硬直する。

 

─ホォォォッ…っ!?

 

「『守式・電磁網』《レイテ・エレットロマグネティア》…上手くいった。続けて行くぞ!『突式・啄木鳥連突』!」

 

バンプゥルを感電させたのは電磁網…凍気を操って濡れたエイジャーを拘束した、先日のミーシャの戦い方から着想を得た新技である。

 

 雷の魔法により発生させた電気を薄く放射し、敵がかかった瞬間に出力を上げるカウンター魔法だが、高い集中力を要するため一方向にしか網を張れず、魔力の消耗も激しい。開発して間もないためまだまだ改善の余地がある欠陥魔法であった。

 

 エイジャーは感電し硬直したバンプゥル目掛けて放たれた無数の突きは羽や胴体を喰らい手応えもあったものの。硬直が解けるやすぐさま足を巨大化させ、強烈な蹴りを繰り出してきた。

 

「危なっ…!」

 

 バンプゥルのもう1つの特徴、それは瞬間的に足を肥大化させること。この形態では隠密性が失われる代わりに凄まじいパワーを発揮し、2つの形態を巧みに使い分け人間を狩りに来るのである。

 エイジャーはなんとか防御が間に合ったものの、その質量と筋力によりルル達とは反対側へ数メートル吹き飛ばされる。

 

(羽を傷付けられても反撃してくるとは俺が知ってる個体よりずっとタフだな…それに電磁網の消耗が思ったより激しい。乱用していたらあっという間に魔力が空になりそうだ)

 

 エイジャーはすぐさま立ち上がるとバンプゥルの姿を探す。翼を傷付けたことにより隠密性が低下、朧げではあるがその姿を視認できるようになっていた。

 彼らの羽根は高性能な反面デリケートである。刃物で傷付けられるなど言語道断…こうなってしまえば蹴りが恐ろしいだけのデカい鳥…のはずだった。

 

(姿が見えれば隙を狙いやすくなる。このまま冷静に戦えば…っ!?)

 

 だが目の前に広がる光景は目論見から大きく外れていた。バンプゥルの翼は筋肉質で丸太のように太く変化し、足すらぶら下げて翼のみで体を支えている。その姿はもはやゴリラ…鳥であるかも疑わしい。

 

「なんだ!?肥大化できるのは足だけのはず…こいつも変異体!」

 

─ホオォォォーーーッ!

 

 バンプゥルは肥大化させた翼を地面に殴りつけながら向かってくる。その速度と圧力は凄まじく、エイジャーはほんの一瞬だけ気圧されてしまった。

 奴はその隙を見逃さない。なんと勢いのままにラリアットをかましてきたのだ。予想外の攻撃にイナシが一瞬遅れたエイジャーは左手を引っ掛けてしまい吹き飛ばされる。その衝撃に痛覚すら麻痺し、しばらくは動かせそうにない。

 

(しくじった!弱点の翼があれでは…!)

 

「エイジャー!!!終わったから手伝うよ!何をすればいい!?」

 

 その時負傷者の応急手当を終えたルルの呼び声が聞こえてきた。口ぶりからして一命はとりとめたのだろう。

 

「打ち合わせ通り矢の準備を…っ!絶対にこっちには来るなよ!」

 

 ストレート、フック、アッパー…バンプゥルはその太い翼を拳のように振るいエイジャーを追い詰める。

 幸いどの動作もやや大振りではあるが、ゴリラのような鳥から放たれるパンチという軌道の読みにくい攻撃と、ようやく痛覚が戻った左手を庇っている現状では避けるのが精一杯だった。

 

(どうする!?片手であの翼に刃を通せるとは思えない。肥大化の仕組みが力んでるだけならもしかして…上手くいってくれよ!)

 

 エイジャーは素早く腰のナイフに持ち替えると雷付与によって刃に電撃を纏わせる。それをバンプゥルの首元へ目掛けて投げると命中し、目論見通り感電し、痺れたショックで翼の肥大化が解除された。

 

「今だルル!頼んだ!」

 

「わ、分かった!いけーーーっ!」

 

 ルルは騎士団から貰った弓を構え、油の入った袋を先端に巻きつけた矢をつがえると力いっぱい弦を引き、バンプゥルの翼を目掛けて放った。

 

 

 

「弓矢?ルルちゃんに?」

 

 それは数日前…グレナルドから任務を言い渡された後のこと。用意された荷物を確認しながら、エイジャーが突然口にしたのである。

 

 弓であれば体術が未熟でも身を守れるし、自分が敵を引き付けていれば安全圏から狙うことができる。今後さらに強力な魔族と交戦した時の事もあるが、何よりルルが見ているばかりでは不満を抱えてしまう…そういった事情を加味してのことだった。

 

「憲兵隊も最近はライフルが主流だから余ってると思う。でもエー君教えられるの?」

 

「最低限の心得くらいは…あとはじっくり慣れてもらうよ。頼りにしてるよ、ルル」

 

 頼りにしている…エイジャーが放った一言にルルの胸が踊った。

 

 秘術を少し使えるようになってからも、彼が理由をつけて戦闘から遠ざけてくれていることはルルも理解していた。それが仕方ないことも、彼なりに大事にしてくれているからだということも。

 それでも胸のモヤモヤは増すばかり…そんな中で明確な役割を与えられ、相棒として期待されることが嬉しかった。

 

「任せて!どこからでも当てちゃうから!」

 

 根拠のない自信に胸を張り、その様子を見た2人に笑われたことをはっきりと覚えている。魔力の使い分けもすぐできるようになったのだ、弓くらい楽勝だろうと思っていた。

 

 

(私があいつに油をかけてエイジャーが火をつける!早く倒して手を治してあげなきゃ…!)

 

 だが現実は違った。ルルの放った矢は左に逸れ、バンプゥルのすぐ傍に着弾した。そう、外れたのだ。

 

「あ…」

 

「…ルル!もう一度準備してくれ!」

 

 ショックを受け停止した彼女の思考をエイジャーの叫びが呼び戻す。慌てて次の矢をつがえると、再び弓を構えた。

 だがバンプゥルもいつまでも硬直してはくれない…再び翼を肥大化させると、エイジャーにラッシュを繰り出す。

 

(まだ中てるのは無理か…左手もまだ使い物にならないだろう。魔力もそんなに余裕がないしどうすれば…うわっ!?)

 

 疲労からか回避に専念していたエイジャーの足がもつれ、転倒する。バンプゥルは両翼をがっちりと合わせ、ハンマーのように振り下ろす体勢に入っていた。

 しまった、回避が間に合わない─死が見えたその時、チャリチャリと金属の擦れる音が鳴ったかと思えば、バンプゥルの足に何かが巻きついた。月に照らされ鈍く輝く何かはバンプゥルを後ろに引っ張り、バランスを崩し転倒させる。

 

─今だ!感電させろ!

 

「誰だ!?…だが助かった!『雷付与』!!」

 

 今は声の主が誰かを気にしている暇はない!エイジャーは声の命令通りにバンプゥルを感電させる。再び翼の肥大化が解除されたのを確認すると距離を取り、ルルに向かって叫ぶ。

 

「ルル!俺は君を信じてる!頼んだぞ!」

 

「!エイジャーが頼ってくれてるんだもん、今度こそ外せない…!いけーーーっ!」

 

 力いっぱい引き絞った弦がリリースされ、ルルの放った矢はまっすぐに飛んでいく。見事命中し、中に入っていた油をぶちまけた。

 それを見たエイジャーは再び剣を構え、電気を纏う。バンプゥルへと走る電撃が火種となり着火、油が炎を大きくしていく。

 

─ホォ゛ォ゛ォ゛ッ!!!オ゛ッ…

 

 油をたっぷり含んだ羽は特によく燃え上がり、あっという間に炎が覆い尽くす。バンプゥルはしばらくのたうち回った末に焼き尽くされ、ついに動かなくなった…

 

「エイジャー大丈夫!?手が青くなってる…ごめん…最初外しちゃった」

 

「手を引っ掛けたのは俺の不注意だし矢を放つ前だよ。それより早くあの人を運ばないと…ごめん、手を使えるくらいまで治してほしい」

 

 大慌てで駆け寄ってきたルルは指輪に魔力を注ぎ治癒力を高めている。

 痛みが徐々に引いていく手を見つめながらエイジャーは先ほどの事を思い出していた。バンプゥルの足を引っ張り妨害した、突如現れた姿のない助っ人は何者だったのだろうか、と…

 

(足に巻き付くってことは細長いもの…?それに金属音…鎖か何かだろうか)

 

「おーい!あんた達大丈夫か?怪我人がいるって聞いたから荷台を借りてきてやったぞ!」

 

 手が動くようになった頃、町の方角から現れたのは飯屋で出会った少年 アルジードだった。大きな荷台を1人で引きながらこちらへ向かってくる。

 

「君はさっきの!安全が確保できるまで店から出…」

 

「説教は後々!さっさとその人運ばないとヤバいんだろ?」

 

 

────────

 

「みんなすまない、運ぶのまでやらせてしまって…この恩は必ず返すよ」

 

「こちらこそ灯りの確保助かりました。我々に構わず傍にいてあげてください」

 

 一行は町へ戻り怪我人を医者へ見せに来ていた。男は深々と頭を下げると診療所の中へと消えていく。

 傷は残ってしまうだろうが、運んでいる間も意識はあったので処置を間違えない限り死ぬことはないだろう。

 

 エイジャーは男を見送ると後ろの少年…たった1人で荷車を持ってきたアルジードの方へ向き直ると頭を下げた。

 

「助けに来てくれてありがとう。君がバンプゥルを転倒させなければどうなっていたか…」

 

「なんのことだ?オレはお節介で荷台を持ってきただけだぜ」

 

 アルジードは両手を頭の後ろで組み、目線をそらしている。状況的に彼の援護なのは間違いないのだが…バンプゥルを妨害してから荷台を引いてやってくる演技をしたのは照れ隠しのつもりなのだろうか?

 

 それだけではない。戦闘中とはいえ彼の接近、視線にまったく気付かなかったのだ。気配を消す技術はいくつか知っているが、それらはいずれも一朝一夕で身に付くものではない。

 

(そんな技術を一体どこで…?どこかに雇われている護衛?)

 

「そうか。でも助けてくれたお礼はさせてくれ…荷台を持ってきてくれた分の」

 

「んー別に大した事やってねえけど…代わりに1つ頼んでもいいか?」

 

 アルジードはその場で地図を取り出した。診療所の壁に広げて押し付けると、いくつかのポイントを指差す。

 

「今いるのがここで、ここ…フリザ族の集落があるんだけどあんた知ってるよな?」

 

 フリザ族…噂だけなら聞いたことがあった。彼らがいるところは気温が下がり、集まればその地を雪原に変えてしまうほどの冷気を秘めた珍しい種族であると。

 しかし「知ってるよな」とは妙な口ぶりである。飯屋でもほとんど言葉を交わしていないのに、なぜこちらの知識力を把握しているかのような言い回しをしたのだろうか…?

 

「ヤバい魔族が出て困ってるらしいんだよ。いい奴らだし助けてやりたいけど寒いの苦手でさ…あんたなら解決できるんじゃねえかと思って」

 

「分かった、調べてくるよ。そこまで期待されたら応えないとね」

 

 極端な気候に閉ざされた希少な種族の集落…情報が入ってこない分魔族が暴れてもなかなか知れ渡らないだろう。パラブブやボゥトパスの操り主のような、格の高い敵が潜んでいるかもしれない。

 何より騎士団の手が届かない人々を救うのが自分の使命…エイジャーは彼の頼みを快諾すると、アルジードは少し真面目なトーンで話し始めた。

 

「あのフクロウと戦ってる時、あんた怪我人たちに注意が向かないよう立ち回ってたろ?わざと隙晒したり位置の調整したり…あんたなら頼れそうな気がしたんだ」

 

「えっ!そうなの?」

 

 ルルが驚きの声を上げる。近くで戦闘を観察していた事を隠す気もないというのはさておきこのアルジードという少年、暗闇の中でそこまで観察しているとはやはり只者ではない…

 

「あれはほとんど癖みたいなものだけどね。…そうだ、君への報告はここへ戻ってくればいいか?」

 

「あー…報告はいいや。根無し草だからあちこち移動するし、あんたとはまた会える気がしてるからさ。ちょっと疲れたから宿に戻るわ。またな!」

 

 そう言いながらアルジードは地図をしまい足早にその場を後にした。

 町へ普通に出入りしており、わざわざ加勢してくれたくらいなので敵ではないと思うが…只者ではない立ち回りやこちらを知っているかのような言動はやはり気になるものがある。

 

(また会える…か。その時はお互い本音で話せるといいな)

 

「エイジャー…お腹空いた…」

 

 小さくなっていくアルジードを見送っているとルルが袖を引っ張ってくる。かつて深刻なものではないと判断した彼女の食欲だが、どうも魔力を消費すると増す傾向にあるらしい。

 

(そういえばアルフ族の集落もその近くにあるんだったな。次こそ有力な情報が得られるといいけど…)

 

「そういえば食べてる途中だったね。そろそろ戻ろうか」

 

「うん!はい、ちゃんと治すから左手出して!」

 

 そう言って2人は手を繋ぎ飯屋に戻っていく。次の目的地はフリザ族の集落、そこに現れたという魔族の調査だ。

 

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