騎士団の独立部隊として各地を巡るエイジャーとルル。旅の途中、小数種族「フリザ族」の集落で未知の魔族が現れたと情報を得、そこで選ばれし者とされる子供 カッチンと出会う。
このまま魔族を放置していては集落の温暖化によって壊滅の危機…故郷を守りたいというカッチンの覚悟を聞いたエイジャーはともに戦場へ赴くのであった。
「言え!ここで暴れるようお前に指示したのは誰だ!」
「勝てば教えてやる!勝てればな!さあ人間!オレ様をガッカリさせるなよ!」
ロウディは先日のバンプゥルをも超える太腕を振り回し臨戦態勢に入る。立ち上がった全長はおよそ5メートルほど…横幅もある体型も相まって、エイジャーは相当な威圧感を覚えていた。
『ロウディ・ハンマー!』
口調から予想はついていたが性格も攻撃も直線的で予備動作が大きい…これまで戦ってきたパラブブやボゥトパスに比べるとかなり読みやすい挙動である。
エイジャーは力任せに振り下ろされた拳を軽々と避けると、そのまま飛び乗って腕を伝いロウディへ迫っていく。彼の巨大な腕は体についた人間を払い落とすのには向いておらず、まんまと接近を許してしまう。
「遅い!『刃式・隼突撃』!」
二の腕のあたりで踏み込み、首をめがけて一直線に突っ込む。刃は確かに急所を捉えたが、その異常なまでに発達した筋肉をほんの僅か断ち切るのみに収まった。
このまま深追いをしては反撃が来る─エイジャーは腕を滑り降りて離脱すると距離を取って向き直ると、ロウディは挑発するような笑みを浮かべていた。
「効かんなあ〜?パラブブのジイさんが逃げ帰ったと聞いたからどんなもんかと思っていたが…そんなヘナヘナ斬りでオレ様の筋肉を断ち切れるかよ!」
「なるほど、その辺の魔族とは別格なだけはある…ルル!あれを!」
ルルが呼びかけに答えて投げ寄越したのはレイピアほどの大きさがあるアイスピック…フリザ族が家を作る際、切削作業に使うものだ。
剣を使う隼突撃で有効打を与えられないなら、啄木鳥連突もおそらく通用しないだろう…まずは奴の肉体強度と、その攻略法を知る必要があった。
「これならどうだ!?『駝鳥蹴撃』!」
かつて刃が通らなかった扇ガザミを貫いたこの技ならば弾かれることはないだろう…そんなエイジャーの見立ては的中し、余裕をかまして受けに来たロウディの胸に突き刺さった。
決して浅くはないその刺さり具合を見るに、一点突破であれば十分に傷をつけられる硬さのようだ。
「グッ…!オレ様の胸板に穴を開けた奴は初めてだ!いい感じだ人間!燃えてきたぜェェェ!!!!」
─ウオォォォォホォォォォ!!!!!
天に向かって雄叫びをあげると、ロウディは腕をぶんぶんと振り回し始めた。摩擦と運動によってその体は徐々に熱を帯び、特に体温の高い腕からは湯気があがっている。
(これが族長の言ってた発熱!だが一体何を…?)
「まだ死ぬなよ人間…!『ヒート・タックル』!!!」
そう叫ぶと同時に肩をこちらに向けつつ身を屈める。タックルが来る─そう確信したのとほぼ同時、深さ数十センチの踏み込み跡を残しながら一直線に突っ込んでくる!
5メートルの巨体から放たれる突進の圧は並大抵ではない…だが先日のバンプゥルとの戦いで目が慣れていたエイジャーは冷静に対処し、なんとか回避が間に合った。
勢いのついたロウディは簡単には止まれない。何十本という木々を根元からへし折りながら大量の雪を被り、岩盤に衝突したことでようやく停止した。
「フーッ、整い足りねえ!もっとオレ様を熱くしてみせろ!人間!」
(雪を被って体が冷めた?にしてもなんて速さと威力!発熱することで強くなるのか…ん?)
エイジャーはロウディの体を見て何かに気付く。そして今の手札を思い出し、密かに笑みを浮かべた。これならきっと─
「こんなに強いとは思わなかったよロウディ!お前をもっと楽しませてやる、そのピックを返してくれ!」
「いいぜ返してやる!そのショボい剣ではオレ様の筋肉は斬れないもんなあ?だが何度も同じ手は使うなよ?飽きたものには熱くなれねえからな」
そう言うと胸に突き刺さったピックを引き抜き、あっさりエイジャーへ返還する。己の体を傷つけられる唯一の武器であると知りながら…
それは彼が単純で煽てに弱いのもあるが、何より久しぶりに楽しめそうな相手のすべてを見た上で叩き潰したいという自信から来る行動だった。
「もういっぺんヒートアップだ!今度はさっきよりも強ぇぞ!」
またも雄叫びをあげながら腕を振り回し体温を上げていく。その全身は言葉通り先ほどよりも熱く、周囲との気温差で空気の揺らぎが発生し、足元の雪が溶け始めていた。
「ウワッ暑くなってきやがった!あのヤローオイラたちをネッチューショーにする気だナ!」
「まだ寒いよ…でもエイジャー大丈夫かな、まだ私たちは見てるだけなんて」
ルルとカッチンは相変わらず遠くから戦いを眺めているだけである。出番が来たら呼ぶ、それまでは温存しておくこと、と打ち合わせでしつこく言われたのだが…
そんなエイジャーは熱を帯びていくロウディの周囲を走りながら、重い一撃を放てないように撹乱している。
「退屈させないから安心しろ、ピックの使い方は無限にある!『突式・啄木鳥連突』!!!」
ロウディの背後に回ると急停止し、一瞬の溜めの後に無数の突きを繰り出す。先ほどは啄木鳥連突を「通用しない技」としていたが、この場面で選んだのには彼なりに考えがあってのことだった。
ピックを用いた突きは強靭な背中を何度も、何箇所も貫く。その傷は決して浅くはなく、技が通用しているのだ。
「まだだ!『刃式・隼突撃』!!」
エイジャーは剣を抜くと先ほど通用しなかった隼突撃で一気に踏み込むと、ロウディの腱へ刃を通すことに成功した。背中と足を瞬時に、大きく損傷させられた巨体は背中から倒れ込む。
(すごい!…けどなんでさっきは効かなかったんだろ?)
「な…なぜだ、なぜオマエの攻撃がこんなに痛ぇ!?動きは大して変わってないはずだぞ!」
「どうしてかは俺も分からない。だけどお前の体は温度が上がるにつれて柔くなるんだ」
エイジャーは先ほどのヒート・タックルで木々をなぎ倒した際、ロウディの肩が損傷していることに気付いたのだ。
そこでまずはピックを用いた一点突破の攻撃で検証し、体温の上昇と肉体の軟化に関連性があることを確認してから通用しなかった技を放ち、法則を証明したのである。
「オレ様も知らなかった弱点を見つけるとはやるな人間!だが気に食わねえ…何故魔法を使わない?雷を纏わせればもっと有利に立ち回れるはずだ!」
ロウディの疑問は最もである。エイジャーはこの戦いが始まってから一度も魔法を使っていない。攻撃が通ると確信した時点で使っていれば、電撃によりさらなる追い打ちが可能だったにも関わらずである。
「魔力は無限じゃないからな。まだ使い時じゃないんだ」
「てめぇ…オレ様がアイツらより弱ぇって言いたいのか!?ナメやがって…!覚悟しろ!もっともっと熱くしてやる!!!オォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
空気が振動するほどの雄叫びとドラミングによる爆音が響き渡り、凄まじい熱波が周辺の雪を溶かしていく。筋骨隆々とした体はさらに熱を帯び、シュウシュウと蒸気を放っていた。
現在の気温は20度…だがこの様子ではまだまだ上昇するだろう。
(熱っ…なんて熱波!今ので激昂するなんてよほどプライドが高いのか?)
「エイジャー!この子フラフラしてる!」
「に、兄ちゃん…これはやべえぜ…暑すぎる…」
声に振り返ると大汗をかいたカッチンがルルにもたれかかっていた。氷点下で暮らすフリザ族にとっては、人間でいう気温30度くらいの負担がかかっているようだ。
「2人とも打ち合わせ通りのものを!ルル、木を動かして壁を!カッチンも出番だ!並べた木の前に雪を重ねて集落への熱波を防いでくれ!」
「「りょーかい」!…『粉雪』!!」
──────────
「…で、こんな感じで木を3列並べて、そこに雪を敷き詰めるんだ。できそう?」
昨晩…3人は予め聞いていたロウディの発熱から集落を守る策を考えていた。
ルルはエイジャーが地面に描いた図とにらめっこしながらふむふむと頷く。
「できる!たぶん…でもなんで3段なの?」
「奴の発する熱がどの程度か分からないからね、重ねた方がリカバリーしやすいと思って。木自身も熱を遮断してくれるから、凄まじい熱波でも時間は稼げるはず」
「でもよぉ兄ちゃん、それなら最初から作っといた方が良くねぇか?」
「あんまり目立つと2人が狙われるかもしれない。俺が奴をノせるから、釘付けにしている間にやってほしいんだ」
これまでどの種族も魔族たちと意思疎通を図ることはできない、が常識とされていた。彼らは鳴き声のようなものは発するものの言葉は通じず、ただ襲いかかってくるからである。
だがパラブブやボゥトパスの主は違う。人語を使い、それぞれに人格があった…エイジャーは今回の魔族もおそらく後者であると睨んだのである。
だがそれを聞いた2人は渋い顔をする。
「兄ちゃんにだけ危ない目にあわせるのはCOOLじゃねえなぁ…」
「そうだよ、私だって少しは戦えるよ?」
「集落を守る重要な2人を俺がサポートするってだけだ、どっちが大変とかはないよ。それとカッチン、ある魔法を使えたら嬉しいんだけど─」
────────
ルルが周囲の木を動かして壁を作り、隙間にカッチンが生成した雪を積み上げる。それを3列重ねることで熱波を受け止め、すぐに修復できる冷気のダムを作り上げた。
「エイジャーこっちは大丈夫!でも早くしないと直すの追いつかないかも!」
「分かった、ありがとう!…ここからは望み通り魔力を使わせてもらう。ガラナ、力を借りるぞ…!『ダーナクア・ヴォルヴィーク』!!」
エイジャーが指輪に魔力を送ると褪せた石が青色に輝き出した。だが今回も与えられた分では足りぬとすべての魔力を奪おうとしてくる指輪を必死に手懐け、抑え込もうとする。
(フルパワーでぶつけるんじゃダメなんだ、もっと出力を抑えて…魔力を通して水を体の一部のように…!)
「余所見してんじゃねえ!!!死ね!!!『ヒート・デスハンマー』!!!」
ロウディは数メートルの距離をほんの1歩で詰めてエイジャーの眼前に移動する。彼の体から放たれるむせ返るような熱波と威圧感、振り上げられる腕…その先に待つのは─死。
(早っ…体の反応が間に合わない!足が…っ!?)
勢いよく振り下ろされる腕に対して脳への指令が追いつかない!このままでは砕かれる─直撃だけでも避けようと必死に考えを巡らせていたその時…体は突如横へ吹き飛び拳を回避する。
本来想定していなかった動きに硬直しかける思考を必死に巡らせ、思い出し、何が起きたかを確かめようとする。
足が突然動いたような…朧気な記憶を辿り足を見ると、青い魔力が集中し水を纏っていた。おまけに体の魔力も枯渇している気がしない。
(もしかして…反射的にコントロールを?)
「あぁ!?どうやって避けた!次は砕く!!!『ヒート・デスフック』!」
またも1歩で目の前に現れるロウディ。倒れて隙だらけのところへすかさずフックによる攻撃を試みる。迫りくる太い腕、ただのジャンプでは到底避けることはできない。
「足に水を集中、吹き出すようにイメージ…跳べっ!!!」
「な、なんだっ!?こいつが使えるのは雷じゃなかったのか!?」
エイジャーが念じると周囲の水がさらに足へ集まり、圧縮され、勢いよく地面を穿った。
瞬時に跳躍することでフックを避けることには成功したが、出力のコントロールまでは会得できていないためつんのめり、不安定な体勢で空中に投げ出され、落下した。
(ぐっ…!これは思ったよりピーキーだな…でも従ってくれるならやりようはある!)
「上手くいけよ…!『突式・啄木鳥連突 打水』!」
急いで立ち上がると足に集中させていた魔力を腕へと移動させ、無数の突きを繰り出したが刃を当てるためではない…突きに連動して飛ばした水を当てることが目的である。
目論見通り周囲の水を引き込みながらロウディへ次々と命中する。だが出力を抑えたそれに攻撃力はなく、体を濡らすのが精一杯であった。
「…痛くも痒くもねえぞ?何をするかと思ったらビビらせやがって!」
「いや…それでいいんだ。カッチン!任せたぞ!」
「オウ!失敗したらごめんナ!『凍気練成』!!!」
雪のダムから身を乗り出したカッチンがパタパタと羽を動かすと凄まじい冷気が巻き起こり、ロウディの体表についた水を介して急激に温度を下げていく…そう、試合でミーシャにやられた策をそのまま利用したのだ。
生まれてから常に氷に触れてきたフリザ族なら、彼女と同じ魔法が使えるかもしれない…そう考えたエイジャーが魔法のイロハを教え、不安定ながらもわずか数十分で使えるようにしたのである。
「お前の強さの秘訣は体温に比例して上がる身体能力…その体温を俺たちの都合よく調整できたらどうだ!?」
「オオオオオッ…!すげえッすげえぜオマエたちッ!こんなのは初めてだ!こんな…こんなに整えるのは!!!!!」
「…っ!?カッチン隠れろ!これは─」
恍惚の表情で震えるロウディは絶叫の後、周囲に大規模な爆発を引き起こした。
雪のダムは風圧と熱波に吹き飛ばされ、折れ曲がった木のみが残っている…しばらくしてわずかに残った雪の中からカッチンが起き上がり、隣で倒れていたルルを必死に揺り起こす。
「ウゥ…危なかったゼ。姉ちゃん生きてるか?」
「んん…エイジャーは!?…あっ!」
彼女が見たもの、それは─風圧で岩に強く打ち付けられ、熱波を薄い水の膜だけで受けたために全身に火傷を負いながら倒れているエイジャーの姿と、彼の前に佇むロウディの姿であった…
「助けないと…!ええっと…そうだ!あれを!」
ルルは木に触れながら体内の特別な魔力を呼び出すと、幹を異常発達させて生成した杭をロウディへとぶつけた。かつてグランドルワームやボゥトパスの体を串刺しにした、彼女が知る限りの最大火力である。
だが木の杭は彼の裏拳によって虚しくも叩き潰された。その表情はこれまでの野蛮で自尊心に満ちたものではなく穏やかで、一種の悟りすら感じさせている。
「オレ様はようやく整いの境地に辿り着けた…その功績に免じてオマエたちは見逃してやる。だがコイツは命令だからな…せめて一思いに砕いてやる」
「そんな…ダメ!離れろっ!離れろ…っ!」
何本も、何本も杭を生成しては飛ばすもののダメージはなく、ほんの数十秒時間稼ぎができるのみ…カッチンはその様子を絶望の表情でただ見ているだけだった。
(そんな…兄ちゃんがやられて姉ちゃんの技も効かねえ…こんなに圧倒的なんて知らなかった。それをオイラは…)
「…よほどコイツが大事らしいな。仕方ねえ…オマエも一緒に砕いてやるよ」
「待て…よ…んなこと…させる…か…」
進行方向を変えようとするロウディを呼び止めたのは剣を支えになんとか立ち上がったエイジャーだった。だが皮膚は真っ赤に焼け爛れ足は震えており、とても戦える状態ではない。
「エイジャー!」
「寝ていろ人間…オマエはよくやった」
「ロウディ…お前はまだ究極の"整い"を知らない…」
エイジャーの言葉に振り上げられた拳がピタリと止まった。
「まだ極めてないと言ってるんだ…相棒に秘術を使わせてくれれば付き合うぞ。どうする?」
「………いいだろう。この先を見せてくれるとしたらオマエだけだ…長くは待てねえからな」
ルルとカッチンは慌てて駆け寄ると、指輪へ特別な魔力を送り込んだ。青く光っていた石の輝きは治癒の秘術を示す緑色へと変わり、ボロボロの肌は軽症火傷まで治り、呼吸も少しずつ整っていく。
(時間がない、手の火傷と体力の回復だけ頼む…手間かけさせてごめん)
(そんなのいいから早く逃げよう!あんなの勝てないよ!)
(そうだぜ兄ちゃん!もうボロボロじゃねえか!)
(ここで逃げたらもっと大きな被害が出る。それに奴の言う"整う"が想像してるものと同じなら…考えがあるんだ。カッチン、もう少し付き合ってくれないか)
手と体力だけ戻したエイジャーは立ち上がり、ロウディへと向かっていく…彼の目を見たルルはボロボロになった背中を止めることができなかった。
「待ちくたびれだぜ…さっきの言葉は嘘じゃねえんだろうな?」
「もちろんだ…お前はただ俺に全力でかかってくるだけでいい。カッチン!ルル!熱対策は任せた!」
「お、オウ!でもまた爆発が起きたら…ってみんな!?なんで来ちまったのサ!」
カッチンは背後から現れた影に驚きの声を上げる。避難したはずの族長のチルドをはじめとして、この集落に暮らすフリザ族たちが続々と戦場に降りてきたのだ。
「ここで起きていることは見ておった…これ以上お前たちだけに押し付けるわけにはいかん」
─そうだそうだ!俺たちも手伝うゾ!
─ここ暑いナァ!私たちがいれば少しは涼しくなるデショ!
「みんな…集落を熱から守る壁を作ってるから手伝ってほしいのサ!みんなの冷気があれば溶けにくくなるはず!」
─おーっ!
こうしてフリザ族とルル合同での雪のダム作りが始まった。彼らの周囲を冷やす力により雪は溶けにくくなり、ロウディからの攻撃を気にしなくてよい分さらに大きなものを作ることができる。念入りに、何層にも…
(兄ちゃんがあんなボロボロになっても戦ってんだ!これくらいは手伝わねぇと…!)
その間も2人はひたすら戦い続けていた。再び発熱し身体能力が上がったロウディをなんとか捌くエイジャー。だが彼の体温は限界を超えてさらに上昇していき、拳圧の余波ですら皮膚を焼きかねない段階まで来ていた。
「オオオオオッ!最高だ!最高だぞ人間!まだ先の領域があったなんて!オレ様の屈強な体も喜びに震え叫んでるぜ!」
(熱い…!火の中へ飛び込んでるみたいだ!それに魔力もだいぶ消耗してきた…そろそろ決着をつけないと)
「整い」を繰り返すことにより心身ともに加速・加熱していくロウディに対し、火傷に加えて魔力・体力をかなり消耗しつつあるエイジャーの顔色は優れない。
「カッチン!頼む!」
合図を受けたカッチンの魔法により体表の水分が凍結、ロウディの体温を急速に奪…えない。彼の体は変わらず赤熱したままである。
慌てて何度も凍結させようとするが何度試しても熱を奪うことができない…魔力は十分、発動しているにも関わらず。
「おいおいオレ様が強くなりすぎて効かなくなっちまったかァ!?だがひたすら暴れていいと言ったよな人間!!!」
興奮状態のロウディは止まらない。凄まじい熱を帯びて加速しきった打撃とその余波は、エイジャーを焼き体力を少しずつ削り取っていく…この時周辺の気温はすでに40度に達していた。
(や…やべぇ!兄ちゃんが死んじまう!ど、どうすりゃいいんだ!?)
茹だる頭で必死に考えを巡らせるカッチン。だが彼の放つ熱波はもはや雪を瞬時に溶かすレベル、魔法による凍結も受け付けない…今使える技術では太刀打ちする方法は無いと言ってもいい。
無理だ…諦めの声が頭の中で増幅していくのを感じる。
そう、無理なのだ。大した力も持たない子供の自分がこれが限界なのだと。あんなに止めてくれたのに反対を押し切って、結局このまま…
─カッチン!
自分を呼ぶ声に振り向くと、エイジャーが攻撃を寸前で回避しながらこちらに叫び続けていた。
「お前はただの子供じゃない!そう信じて連れてきた!みんなをCOOLに救って男を上げる!そうだろ!」
「に、兄ちゃん…でもオイラは」
「情けない俺を見ろ!故郷は守れず、こうしてみんなの力を借りても負けそうになってる!だがカッチンは違う…みんなを救うため一晩で魔法まで覚えて、実戦についてきてる!天才だ!」
必死に呼びかけるエイジャーの体は熱波によりジリジリと焼き焦がされていく。だがそんな事はお構い無しに、ただひたすらに言葉を投げかけ続けた。
「お前ならやりたいことは何でもできる!そう信じてる!あとは本当のカッコよさを身につけるだけ…ただCOOLにスカすだけじゃない、心を熱く燃やしてみろ!」
(ただのCOOLじゃなくて…燃える男に…)
その言葉が胸に響きわたる。意味はよく分からないけれど、言葉に乗せられた熱意に呼応して奥の方からじわじわと熱いものが込み上げてくる。
(オイラは選ばれし者…何でもできる…)
無限に雪を生み出す力…これを持っていたために周囲からはずいぶんと持ち上げられてきた。幼くして尊敬と期待のまなざしを集め続け、少し気が大きくなっていたのかもしれない。
だがエイジャーの言葉は違う…言っていることは同じだけれど、もっと本気でぶつかろうとしてくれている…そんな気がする。
(でもこんな小さな体じゃダメだ。もっと強力な冷気を生み出せるくらい大きな体…そう、ボスの家にある彫刻、伝承に描かれた守り神のような…)
「…ウダウダ考えてもダメだよな!待ってろよ兄ちゃん!オイラが助けてやっからな!いくぜ!『古代回帰』!!!!」
叫びと同時にカッチンの体を無数の氷が覆いだす。放たれる冷気は凄まじく、ロウディの放つ熱波により上昇していた気温は40、30、20度とみるみる下がっていく。
「な、なんだ!?この冷気は!」
「カッチン!!!」
『兄ちゃんはちょっと休んでな…オイラが今終わらせてやっからサ!』
巨大な氷の中から姿を現したのは─小さくひょうきんな見た目だったカッチンの面影すらない、巨大な怪鳥であった。