Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 周囲を寒冷地に変えてしまうフリザ族の集落にて人語を操る魔族 ロウディに出会ったエイジャー。高熱と格闘を組み合わせた戦法に苦戦する中、一族の子供カッチンに眠る大いなる力が覚醒する…


25話 氷解

「あ、あれは…なんと雄大で美しい…!」

 

 ここは戦場から少し離れた雪のダム…族長のチルドや集落の者たちは、巨大な氷塊の中から出てきたカッチンの姿に息を呑む。

 

 逞しい足が大地を掴み、細氷に薄く覆われた青い体毛は光を反射して輝いている。顔を覆う毛は頭部〜背中にかけて移動し、トナカイのような角はそのままに顔立ちは鳥類にかなり近付いていた。

 

 その姿はまるで始祖鳥…フリザ族の愛らしい容姿からは想像もできない野性的で、力強い風貌にその場にいる誰もが目を奪われる。

 エイジャーもまたその1人…おそるおそる怪鳥に話しかけると、大きな頭をゆっくりとこちらへ傾ける。

 

「その姿…ほ、本当にカッチンなのか…?」

 

『オウ!待ってろよ兄ちゃん、その熱いの取ってやるからな…そうだな…フラウズン・パーロスト!だ!』

 

 カッチンが羽ばたくと真っ白に可視化された冷気がエイジャーの体を包み込み、体表の熱のみを一瞬で奪い去り火傷の進行を停止させた。

 よく見ると全身にごく細かい氷の針が刺さっており、これが皮膚の下まで侵食した熱を相殺してくれたようだ。

 

 強烈な冷気を放つ能力もさることながら、凍傷を起こさずに火傷のみを食い止める非常に繊細なコントロールを一発でやってみせたセンスにエイジャーは思わず唸る。

 

『次はお前だ魔族ヤロー!手加減しないから覚悟しろよ!名付けて…んーと…アブソリュート・ゼロだ!』

 

 先ほどとは違い嘴から直接「放たれた」というよりは「ぶつけた」冷気はロウディを直撃し、赤熱するほどの体温はみるみる押し下げられていく。急激な温度変化であたりは大量の水蒸気に包まれた。

 

「ウオオオ!すげえ…!こんなに整えるのは初めてだ…!まるで空を飛んでるみたいだぜ…あぁ…」

 

 水蒸気によって視界が確保できない中、カッチンがエイジャーの元へやってきてひそひそと耳打ちする。その声はいつもの元気なものではなく、6割の疲労と4割の申し訳ない感情が込められていた。

 

(兄ちゃん悪ぃ…この姿でいるのすげぇ疲れるから、あと一発しか使えないぜ…でもこんなに冷やしたらまた剣が通用しなくなるんじゃねえか?)

 

(もう少し様子を見てみよう。たぶんもう必要ないとは思うけど…)

 

─ウルアァァァァ!!!

 

 2人が雄叫びと水蒸気を吹き飛ばす拳圧に振り向くと、そこには恍惚の表情を浮かべたロウディが佇んでいた。氷漬けにするつもりでぶつけた冷気であったが、その体は赤熱化こそ解除されているものの自由に動かせる状態にある。

 

「オマエたちのおかげで最ッ高の経験ができた!感謝するぜ!だが絶好調のオレ様はまだまだまだまだ熱くなれる!!!さあ行くぞトドメだ!!!」

 

「や、やべえぜ兄ちゃんどうする!?もう一度冷気を…」

 

「いや…残りの1回はまだ残しておいてくれ」

 

─ウオォォォォ!!!!!

 

 ロウディは再び雄叫びをあげ、ドラミングによって己の感情と体温をどこまでも上昇させていく!

 

 …はずだった。

 

「な…なんだ?どうして…どうなってやがる!?」

 

 予想外の出来事と痛みに膝をつくロウディ。そう、ドラミングのために強く振り下ろした拳で己の胸を砕いてしまったのだ。

 いくら単純で怪力な彼であっても、そのような安易な自傷などするはずがない。拳を抜くことすら忘れるほどに混乱するロウディに、エイジャーが歩み寄りながら語りだした。

 

「お前は極端な温度差を何回も往復した…そのせいで体と感覚が完全に壊れたんだ」

 

「ど、どういうことだ人間!オレ様はあれを経験する度に強くなって…」

 

「限度があったんだよ。昔、遠征で水と熱湯が湧く場所に行ったことがあってな…気持ちいいからって何往復もした奴がショックを起こして大変だったことを思い出したんだ」

 

 そう、エイジャーが狙っていたのはヒートショック現象…急激な温度差により体に凄まじい負荷がかかる反応である。いかに強力な魔族といえど赤熱するほどの体温からゼロに近づけるような、極端な変化を繰り返していればどこかしら壊れる…その可能性に賭けたのだ。

 

 魔族であるロウディが温度差で死ぬことはなかったが、肉体にかかる凄まじい負荷によって格段に脆くすることに成功したのである。

 

「…戦いを楽しんでたお前を騙してすまなかった。俺はやるべきことがある、ここで死ぬわけにはいかないんだ」

 

「そう…だったのか。いや…オマエたちのおかげでいい思いができた。恨みはない!だがこのまま消えるのはつまらねぇ!付き合えよ、人間!」

 

─ウオォォォォ!!!!!!

 

 ロウディは立ち上がると再びドラミングを開始する。脆くなった体は当然、叩くたびに砕かれ崩壊していく。

 

「お、おい!もうやめろ!これ以上は…!」

 

「このまま消えるのはつまらねえつっただろ!だから人間!オマエの最強の技で来い!!!」

 

 叩く胸が全損すれば腕を振り回し、再び体温を急上昇させていく…カッチンの力により周囲の温度上昇は抑えられているものの、命を削って生み出された熱気と覇気はこれまでをさらに超えていく凄まじさであった。

 

「エイジャー!やっと近付けた…あいつまだやる気なの?さっきはダメだったけど今度は私も…」

 

 雪のダムから駆け寄ってきたルルの言葉は最後まで紡がれることはなかった…エイジャーが1人で背負う時の目をしていたからである。こうなってはてこでも動かないことは、ずっと一緒にいる彼女が一番分かっていた。

 

「…ありがとう、これは気遣いじゃなくて俺のワガママなんだ。だけど手伝ってほしいことがある。今から使う技は危険でな…ルルは木、カッチンは氷の壁で俺たちを囲ってほしい。それと皆の避難も頼む」

 

『任せときな兄ちゃん!思いっきり暴れていいゼ!』

 

「…あとでいっぱい怒るから。ちゃんと帰ってきてよ!」

  

 頬を精いっぱい膨らませて怒りを表現しつつ、胸倉に張り付いてくる彼女の頭を撫でてやる。自暴自棄ではない、帰る場所のために無理をするのだと改めて心に誓いながら…

 

「分かってる。あとでいっぱい謝るよ…行ってくる」

 

 集落のみんなを避難させた後、ルルを乗せたカッチンも避難のために飛び去っていく。必ず戻って来る─そんな思いを込めて空に親指を立てると、最期の戦いを待ち侘びているロウディと向き合った。

 

「魔族であるオレ様の頼みを聞くなんて、オマエはバカでお人好しだな!」

 

「もちろん魔族は許せない。だけどお前にも心がある…無念を残して死ぬ辛さなんて、誰であっても味あわせたくない」

 

 エイジャーの言葉に少し面食らったような表情を見せた後、ロウディは大笑いする。今度はしばらく顔を伏せ、ゆっくりとこちらへ向き直ると、自嘲気味にぽつりと呟いた。

 

「そうか…オレ様が魔族じゃなければ…オマエと競い合う未来もあったかもしれねぇな…」

 

 彼の顔にこれまでの野蛮さはなくむしろ寂しげで、どこか穏やかで…エイジャーは魔族の中にある"人間"を垣間見た気がした。

 

「そうだ人間!オレ様に指示を出したお方の名前を教えてやる…"リオゴール=セカンダリア"だ、忘れるなよ!」

 

「!そのリオゴールがお前たち魔族の頂点にいる奴なのか?」

 

「いいや違ぇ!だが大幹部なのは確かだ!…もう時間がねえ!半端な真似したら許さねえから全力で来い!」

 

「分かった、ありがとう!…これを救いのために使うなんてな。いくぞ!!!」

 

 立場を、種族を超えてほんの少しだけ分かりあえた両者の全力が衝突する。凄まじい熱波と雷を伴った大爆発は一度では収まらず、辺り一帯を破壊しながら何度もぶつかり合う。

 

「これが本当に最期の一撃だ!その体に!記憶に焼き付けやがれ!『ロウディ・ファイナル・タックル』!!!!」

 

「お前のことは忘れない!だから最高の一撃で逝け!『特式・──!!!』」

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

 

「ひ、ひでぇ…嵐でも通ったみたいだナ」

 

 しばらくして…ようやく反応が収まったのを確認したルルと元の姿に戻ったカッチンは、被害の状況とエイジャーの安否を確かめに戻ってきていた。

 被害を抑えるために建てられた木や氷の壁は全て破壊され、外に逃がしていた木々の寸前まですべてが吹き飛んでいた。嵐どころか殲滅戦争が起きたかのような惨状である。

 

「魔力も使い切ってるはず、エイジャー大丈夫かな…早く見つけないと」

 

「…あ!兄ちゃんあそこに倒れてるぜ!」

 

 指を差した先には折れた剣とエイジャーが倒れていた。急いで駆け寄り抱き起こすと呼吸はしており脈拍も穏やか…ただ気を失っているだけのようだ。命に別状がないことを確認すると、2人は顔を合わせてほっと胸を撫で下ろす。

 

「オイラたちじゃ運べないな…みんなを呼んでくるから待っててくれよナ!」

 

 ペタペタと音を立てながら集落へ向かうカッチンを見送っていると、腕の中でエイジャーが動く感触があった。慌てて視線を下にやると僅かながら目を開けている。

 

「ルルか…また顔が見れて嬉しい」

 

「もう!後で怒るから覚悟してよね!…バカ。でも…生きてて良かったぁ…」

 

 ルルは泣きながら彼を抱きしめる。加減のない抱擁と涙が火傷に滲みるが、今はそんな痛みもどこか心地よさを感じるのであった…

 

───────────

 

「ウワーあらためて見るとひでぇ…オイラたちは火傷と無縁だから薬も置いてなくて…ごめんナ」

 

「最初の火傷はルルが、その後はカッチンが応急処置してくれたから見た目よりは軽症だよ。肌もしばらくしたら元通りになる」

 

 その日の晩…ゲストハウスに運び込まれたエイジャーのもとへカッチンとチルドが訪れていた。

 チルドは全身の火傷と魔力の枯渇で寝たきりの彼の前に立ち、深々と頭を下げる。

 

「青年よ、一族を代表して礼を言わせてくれ…命を懸けて我々を救ってくれて本当にありがとう」

 

「頭を上げてください!勝てたのはカッチンのおかげです。それに戦いの余波であちこち壊してしまったし…」

 

「ふぉふぉふぉ、謙虚なお人よの。さて、先ほどカッチンからあった通りここでは火傷の治療ができぬ。そこで…」

 

 チルドが扉に向かって呼びかけると、1人の男性が入ってきた。ルルと同じように髪が白く耳の長い…アルフ族の男性が。

 この辺りに彼らの集落があることは予習していたが、あまりに突然の出来事に驚きの声を上げる。

 

「彼はルイーズ=マタン=カクタス。近隣に暮らす小数種族として何かと助け合っておる…人間と近い彼らならば治療できるのではと思ってな」

 

「はじめまして、ルイーズとお呼びください。族長様よりお話は伺っております…勇敢で慈悲深い人物だと。そちらのお嬢様が懐いているのが何よりの証拠ですね」

 

 そう言うとルイーズはぴったりくっついているルルに微笑みかける。彼女が同族であることには気付いたらしいが知り合いの態度とは思えない…恐らく近隣の集落もルルの故郷ではないのだろう。

 

「ヨらと君たちでは文化が違いすぎる…ここでは治る怪我も治るまいて。話は通しておいたからあちらでお世話になるといい」

 

 エイジャーは必死に否定するが…彼の言っていることは事実である。寒いだけならまだしも、彼らが差し入れてくれる木の実や魚のシャーベットばかり食べていては体を壊してしまうだろう。

 

 それに騎士団と合流しようにも町はやや遠く、負傷者が剣も無しに踏破できる距離ではない…途中で寝泊まりできる場所があるのは安全の確保という点でも魅力的であった。

 

(ルル、せっかくのご厚意だから行ってみようか)

 

(うん、ここ寒いし…アルフ族の人に聞きたいことがあるんだ)

 

「…決定のようですね。まずは痛みを抑える丸薬です。これで朝には動き回れるはず…次に薬草と根を潰したものを患部へ塗らせていただきます」

 

 そう言って差し出したのは以前ツケンサの周辺にある集落で貰ったものとそっくりな丸薬…あちらは身動きすら取れない腰痛を完治させてしまう効能があったのだが、今の状態で処方するのは望ましくないとのことだった。

 

「これは強すぎて火傷を綺麗に治すには向かないのです。もどかしいでしょうがご容赦ください…治療は早い方がいい、グラム様の体調次第ですが明日の朝に出発しましょうか」

 

「分かりました。そちらの集落にもお邪魔したいと考えていたのですが、まさかこんな形でお会いできるとは」

 

 その言葉にルイーズは手を止め、不思議そうな顔でエイジャーを見つめる。マリーからの紹介であること、ルルの故郷を探していることを説明すると彼はなるほど…と呟いた。

 

「ああ!彼らのお知り合いでしたか。なおさら協力しなければ。ただそちらの方は残念ながら…せめて名前の真ん中が分かれば良いのですが」

 

「どういうこと?」

 

「基本的な事も記憶にないのでしたね…アルフ族の名前には法則があるのですよ」

 

 曰く、基本的には前の名を父が、後ろの名を母がつけるのがアルフ族の習わしなのだという。つまり彼の場合は「マタン集落のルイーズ」である。

 

「ルルという名前の集落には覚えがない、きっとご両親がつけた名前でしょうね。我々が交流のある集落にも聞いてみましょう。少しは虱潰しの手間が省けるかと」

 

「ありがとうございま…っ!…痛たた…」

 

「まだ動いてはいけませんよグラム様。…今できる処置は終わりです、今夜はゆっくり休んでください。それでは」

 

 ルイーズは深く頭を下げると小屋を出ていった。次いでチルドも家に帰る中、カッチンだけがその場に残り、駆け寄ってくる。

 

「兄ちゃんたちもう行っちまうんだナ…寂しくなんかないゼ!」

 

 そう言いながら羽をパタパタと振り強がってみせるが、彼の目にはキラリと光るものが溜まっていた。

 涙を見せないように背を向けるカッチンの頭を撫でてやりながら、エイジャーは優しい声で語りかける。

 

「今回はカッチンがいなければ勝てなかった、本当にありがとう。また会いに来る…その時までここを守ってやってくれ」

 

「…ナア兄ちゃん、オイラはまだガキンチョだし力もまだ使いこなせないけど…大きくなったら一緒に冒険してもいいか?」

 

「もちろん。一緒にこの広い世界をどこまでも行こう。その時は俺も背中に乗りたいな…約束してくれるか?」

 

 カッチンは涙を必死に拭うと振り返り、自信に満ちた顔で羽を突き出してきた。指切りのつもりなのだろう。

 

「それまでやられるなよ!兄ちゃんが無理しないよう姉ちゃんが見張っててくれ!」

 

「任せて!」

 

 2人の視線がエイジャーに突き刺さる。完全に利が相手にあるため言い訳もできず、気まずさから愛想笑いをするしかなかった。

 

「あはは…また怒られる相手が増えちゃったな。よし、じゃあ3人で約束の指切りだ」

 

 2本の小指と1枚の羽を重ねて約束を交わす。その時エイジャーの指輪にはめ込まれた石が白い輝きを放ちながら、またも眩く輝き出した!

 

「ウワッ!?なんだ!?指輪が光ってるぞ!」

 

「大丈夫、少しすれば光は収まるはず…ほら」

 

 エイジャーの言う通り輝きはすぐに収まり、白く変色していた石は元のくすんだ色に戻る…それはマリーやガラナの時と同じ現象だった。

 驚いて尻もちをついたカッチンは呆然と指輪を眺めている。

 

「はー…外の世界は不思議なことだらけだ…楽しみになってきた!さっそく練習するからオイラも帰るよ!また明日ナ!」

 

 興奮気味に立ち上がると、鼻息荒く小屋を出ていった…彼らがいなくなったことで部屋は再び暖かくなっていく。気付けば火傷の痛みも和らいできていた。

 ようやく落ち着ける…ベッドに体を預け沈み込もうとすると、隣のルルが大変不服そうに指輪を睨んでいた。

 

「これ!なんで私だけ光らないの?もしかしてエイジャー、本当は私のこと…わっ」

 

 ようやく動かせるようになった腕ですべて言い終える前に抱き寄せてやると、そのまま頭をポンポンと叩く。ルルは抵抗するでもなく、胸に顔を埋めたままじっとしている。

 

「そんなわけない…これは大きな力を持った相手に反応するだけだ。ルルとサーヤは特別な人だよ、指輪がどう判断しようが関係ない」

 

「…そこで私だけって言わないからなー…ミーシャも言ってたよ?女の子を喜ばせるズルさが足りないって」

 

 どっちつかずな発言に対し目を細め、問い詰めるような視線で突き刺してくる。その目つきと気まずさに懐かしさを覚えながらも、あの頃と同じように慌てて弁明する。

 

「ゔ…でも2人とも同じくらいかけがえのない人で…」

 

「…もう!冗談!さっき無理した分のおしおき。その指輪がむかつくのは本当だけど…大事にされてるのは伝わってるから。ね、今日はいつもよりくっついて寝てもいい?」

 

 そう言いながらさっそく全身をぴったり密着させてくる。体に伝わってくる穏やかな心音で彼女が安心していることを感じながらゆっくりと目を閉じる。

 

「もうくっついてるし…おやすみ、ルル」

 

「うん。また明日ね、エイジャー」

 

 魔族の脅威が去り、平穏が戻ったフリザ族の集落はとても静かだ。火を使わない彼らはすでに夢の中、わずかに発生する音も雪がかき消してくれる。

 

 すべてが終わったらここへ遊びに来るのもいいな…前向きな未来への希望を胸に、エイジャーの意識は溶けていった…

 

─────────────

 

「ルイーズよあとは頼んだぞ。我々はもう家族も同然だ、いつでも遊びに来なさい」

 

「はい族長。…カッチン泣いてるのか?COOLな男は笑って見送るものだよ」

 

 翌朝…鎮痛薬によって歩ける程度までは痛みを誤魔化せているエイジャーらは予定通り集落を出ようとしていた。

 一族総出の見送りを受けながら、泣いているカッチンをからかうように慰める。

 

「うるせー!心はHOTにって言ったのは兄ちゃんだろ!…そうだ、アル坊に会ったらよろしく伝えといてくれよナ!」

 

「…そうだった!アルジードが普段どこにいるか知らない?」

 

「ウーン分からねえなァ…テンガロンって町の事をよく話してくれるから行ってみたらどうだ?COOLな男がいっぱいいるらしいゼ!」

 

 テンガロン…行ったことはないが、ここから少し離れた場所にあると聞いたことがある。騎士団がいない町で気軽に出入りできないため、どのみち基地へ戻って相談した方がよさそうだ。

 

「グラム様、そろそろ出発しましょう。汗は傷に悪い…涼しいうちに到着したいので」

 

「分かりました。…それじゃ元気でな、一緒に冒険できる日を楽しみにしてる」

 

「それまで見張っておくから任せといて!」

 

 3人はもう一度指切りすると立ち上がり、皆の歓声を背に集落の出口へと向かっていく…

 足元の雪も減り集落が木々に隠れる頃、ふとエイジャーはその場で足を止め、昨日のことを思い出していた。

 

(…そういえばあの時に見たアレはなんだったんだろう。幻覚、それとも誰かの記憶…?)

 

 ロウディへ最後の一撃を放った時…脳内に流れ込んできたある景色。身体は火照り目線は低く、寒冷地の山を1人で歩く誰かの記憶。

 何かを調達しようとして足を踏み外し、冷たい川の底へ沈んでいき…遠のく意識と真っ暗になる視界の中で強く感じた無念の記憶。

 

(…無念の死、か。あいつはあるべき場所へ還れただろうか…)

 

 決着の地を遠目に眺めながら、エイジャーは豪快に散っていったロウディに思いを馳せる。人々を苦しめる滅ぼすべき敵ではあったが、不思議と憎しみの感情はわいてこなかった。

 

「エイジャー早く!迷子になっちゃうよ!」

 

「ごめんごめん!すぐ行くよ!」

 

 ルルに手を引かれ今度こそ集落を後にする一行。2人を後押しするように、集落から冷たい風が吹いていた。

 

 

 

 

「いやーロウディくん惜しかったねー。ド派手な最後、僕も見たかったなぁ…」

 

「…最期は奴に共鳴し本来の実力を超えたようです。やはり危険な存在…仕留め損ねた責任はどのように取れば」

 

「いいのいいの!それより大峡谷を任せたパラブブはどんな感じ?」

 

「最適な宿主に目処がついたそうです。順応に時間をかければこの前のような失態は犯さない…と」

 

「そっかー怒ったのはそこじゃないんだけどな〜…まあいいや、続行で伝えといて」

 

「はっ。それではまた…我が主よ」

 

・・・

 

・・

 

 

「…リオゴールくんって本当にマジメだよなぁ。そこがいいんだけど♪早く来ないかなぁ…エイジャー・グラムくん」

 

 

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