Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 全身に火傷を負いながらも魔族の幹部 ロウディを倒したエイジャーは、情報提供者であるアルジードを探すべく西部開拓時代風の町テンガロンへと到着した。

 あっさり再開を果たし報告を終えた直後、盗賊たちにより店内が占拠されてしまう。協力してこれを排除したエイジャーとルル、そしてアルジードの3人は町を救うべく店を飛び出したのだった…


28話 テンガロン奪還戦

 

「ルル、疲れてない?大丈夫?」

 

「お腹空いてるけど…我慢する!」

 

 アルジードの先導のもと、エイジャーとルルはテンガロンの町をひたすら走っていた。

 町は荒らされ、建物のいくつかは血で汚れており、道にはカウボーイに撃たれた盗賊が無造作に転がっている…すぐに処置すれば助かる者もいたが構っている場合ではない。たとえ無法者であっても人の死を嫌うエイジャーは無力感を募らせていた。

 

「クソッ、思った以上に荒れてやがるな…ところで聞かなくていいのか?さっきのこと」

 

「…なんで俺を団長って呼ぶかってこと?確かに気になるけど…それは後にするよ」

 

 "さっきのこと"とは抵抗できない盗賊に対する過剰な暴力を指していたつもりだったのだが。気遣いなのか天然なのか…返ってきたなんとも気の抜ける質問にアルジードは力んでいた体が少し軽くなる。

 

「…そっか、じゃあ生き延びねぇとな。…音が近いぞ!2人とも気を付けろよ!」

 

 歩みを進める度に怒号と銃声が大きくなる。角を曲がると目の前に盗賊たちの背中が現れた。すでに撃たれた者もおり、アクティブな人数は3人…偶然にも敵の裏を取ったのである。

 

(今なら制圧できる、ルルを頼んだ!)

 

 連中は対峙するカウボーイたちに夢中でまだ気付いていない…エイジャーは一気に距離を詰めると盗賊の1人を壁に叩きつけ、そのまま顔面を蹴りながら宙を舞って2人目の首に足をひっかけつつ地面へ叩きつける。

 そして3人目の足を払ってバランスを崩すと、顎を蹴り上げて吹き飛ばした。

 

 その間10秒足らず…アルジードは鮮やかな体術に口笛を吹いて賞賛しながら、汚れた隊服を叩いて砂埃を落としてやる。

 

「武器も抜かずに制圧しやがった…不殺主義ってやつ?」

 

「すごいでしょ?エイ…アーサーは強いんだから!」

 

「そんな立派なものじゃないよ。…あれ、カウボーイたちが呼んでるみたいだ」

 

─おーい!助かったぜそこの!今行くからそいつら見張っててくれ!

 

──────────

 

「オレはチャップスってんだ。助かったぜカッコつけの兄ちゃん!アルとお嬢ちゃんもな」

 

 他のカウボーイとともに盗賊たちを縛り上げながら話しているのは先ほど出会った門番だ。チャップスと名乗った彼は"カッコつけ"呼ばわりされショックを受けているエイジャーに握手を求める。

 

「チャップス、相手の規模はどんなもんだ?コイーバのじいさんはどこに?」

 

「町のあちこちから現れたんで数は分からねえ…ボスはロペスと動いてるのを見たな」

 

 拘束を終えたチャップスはライフルへ火薬と弾を込めながらため息をつく。どうやら盗賊団の攻め方はずいぶん手慣れており、強力な自警団と評されているカウボーイたちも苦戦しているようだった。

 

「にしてもあんた相当な手練れだな…あの動きは素人じゃねえ。実は武勲を立てた名のある兵士だったりしてな?」

 

 考え事をしているエイジャーの顔をチャップスが顎をしゃくりながら覗き込んでくる。興味を持ったような、品定めするような目線に緊張が走る。まさか騎士団であることがバレた…?

 

 緊張が走る2人の間に割り込んできたのはアルジードである。こちらの事情を察してくれたのか、注意を引こうと大袈裟な手振りで話す。

 

「お喋りは後にしようぜチャップス!オレたちはみんなの援護を続けるよ。そいつらの処理任せていいか?」

 

「…了解!恩人の詮索なんて野暮だったな。無理はすんなよ!」

 

 見送りもほどほどにアルジードは2人を連れてその場を離れる。彼がいなかったらどうなっていたか…

 彼への確認と、もし庇ったのであれば礼を言わねばならないが今は状況が状況である。ただ一言「ありがとう」とだけ呟くと、ちゃんと伝わったのかアルジードはちらりと視線を向け、ニヤリと笑いながら鼻を鳴らした。

 

「なあ団長、一見便利なライフルの弱点ってなんだと思う?」

 

 話題転換のつもりだろうか?唐突な質問の意図は読めないが、エイジャーは座学で習った知識と実体験を交えて答える。

 

 1つはこの大陸で最新とされる前装式は発射までに時間がかかること。銃口と火皿に火薬を装填し、鉄球を押し込む…その間は移動もできず、大きな隙を曝すことになる。

 

 もう1つは命中精度。火薬の爆発で鉄球を飛ばすだけなので狙った場所に飛ぶとは限らず、引き金を引いてから発射までに一瞬のラグがある。動くターゲットに当てるのは困難であろう。

 

「さすが。だがここのボス…コイーバのじいさんが外した場面を誰も見たことがねぇんだとさ。それを支えるのが側近のロペスだ。銃は撃てないが装填に3秒もかからねえ」

 

 百発百中というのも驚きだが、何よりも装填に3秒という話に驚愕した。エイジャーも憲兵隊から借りてライフルを使ったことがあるので分かる…とても人間の成せる技ではない。

 

「だからこのコンビがいるとこは大丈夫。他のカウボーイたちを援護するんだ…いた!あそこだ!」

 

 指差す先には両者が争っている区画があった。ここは劣勢のようで、何人かのカウボーイは血を流して倒れている…

 ルルとエイジャーはそれぞれ弓矢と棒手裏剣で盗賊たちを牽制し、その隙にアルジードらが負傷者を物陰に運ぶ。

 

「加勢に来ました!ここは任せて怪我人の処置を!」

 

「お前は…アルの知り合いか!助かった、妙な道具を使ってくる奴がいる。気を付けろよ!」

 

 エイジャーはカウボーイたちを撤退させると敵の勢力を確認する。盗賊は数十人、見たところナイフやサーベルの一般的な武装のようだが…以前戦った連中のように仕込み武器を隠し持っているのだろうか?

 

「ヒーヒヒ、なんだ新手かァ…?銃以外を使う自警団もいるじゃねえか!」

 

「アーサー!後ろ!」

 

 どこからともなく声が聞こえる…すぐ近くのはずだが見当たらない。ルルの声に従い振り向くと、なんと男が壁に張り付いているではないか!

 髪を洗っていないのかゴワゴワしており、ヤマアラシように逆立っている。破れた服といい野性的な容姿をしており、小柄な体躯も相まってまるでヒューゴのようである。

 

「オリャはネンバ!この町の制圧を任された精鋭…!」

 

 引き笑いにより汚れた歯を見せる様からはあまり知性を感じないが…何人ものカウボーイがやられ、町の被害が大きいのを見るに実力は本物なのだろう。

 

 吸着する力はレプター族の血統秘術のはずだが、おそらく手に装着したグローブが異能の秘密であろうとエイジャーは推察する。三次元的に動き回り建屋を人質にするのであれば、ライフルを扱うカウボーイたちには分が悪いのも頷ける。

 

 エイジャーはさりげなくルルの前に移動しながら、盗賊たちの動きを注視する。意外にも統率が取れているようで誰一人襲ってこず、ネンバの号令を待っているようだった。

 

「あのお方というのは誰だ!」

 

「ヒーヒヒ!いいだろう教えてやる!我らが"アラクネ"の頭領…ボージャン様のことだ!!!」

 

 アラクネ…その名前には聞き覚えがあった。盗賊の中でも特に残虐なグループと言われており、強盗・殺人・放火・強姦と幅広く罪を重ねている連中だと…

 

 一方でなかなか尻尾を掴ませない警戒心の高さも備えており、アジトはおろか結成時期や規模すらも調査が進んでおらず、王が頭を悩ませていたのを覚えている。

 そんな奴らが自ら名乗り、大規模に活動するという事は…王都の壊滅でパワーバランスが崩れた弊害が出始めているのだ。

 

「団長…あいつはオレにやらせてくれねぇか。反対されてもやるけどさ」

 

 強い憎しみの炎を目に宿しながらアルジードはネンバの前に立つ。その拳は強く握られており、言葉通りおそらく止めることはできないだろう。

 

「…取り巻きは俺とルルで対処する。無理はするなよ…約束だ」

 

「ガキ1人でとはナメられたもんだなァ…お前ら!そっちの2人は好きなように喰い荒らせ!さあ来い!追いかけっこの始まりだァ!」

 

 アルジードは背を向けたまま手を振って応答しネンバを追う。彼なりに覚悟を持って戦うというのであれば…エイジャーたちにできるのは邪魔が入らないように全力でサポートするのみだ。

 

 あらためて取り巻きたちに向き合い周囲を見渡す。ここは普通の町ではない、ルルが利用できる普通の木やツタ植物はないがきちんと緑は存在する。それもこんな状況にうってつけの。

 

「…ルル!あれが使えそうだ!」

 

「任せて!今日こそ活躍しちゃうんだから!」

 

 ルルはエイジャーが指差したもの…サボテンに矢を打ち込むと、細かい針を生やしながらみるみる成長・分裂させていく…

 そうして成長したサボテンはひとりでに踊りだし、近くにいた盗賊たちの体に針を刺し、あるいは叩きつけて制圧していった。

 

 記憶を失い、体内に2つの魔力を持つルルは普通のアルフ族と同じような血統秘術の運用はできない…そこでフリザ族から紹介された集落で相談し、習ったのは弓を使った遠隔成長と操作技術であった。

 今までも遠隔での急成長はやっていたのだが本当の土壇場でしか使えず、なおかつ魔力の消耗も激しい。それを魔力を矢に乗せて植物へ打ち込むことで確実性と低燃費化を図ったのである。

 

 また矢に乗せられた魔力は多少であれば離れていても植物に影響を及ぼせるようで、拙い射撃精度をカバーすることもできた。現状の課題を踏み倒すことができる策としては上々であろう。

 

「んふふどう?すごいでしょ!私も技の名前とか考えようかな?」

 

「ありがとう、おかげで相手のペースは乱れた…俺の番だな。お前たちはやりすぎた、相応の痛みは覚悟してもらう…『守式・雀砂浴《スパロゥサンバス》』!!」

 

 彼女を戦いに参加させたくないのは今でも変わらない。それでも戦闘を避けられない場合に備えた自衛力は持たせておきたい…特訓の成果に喜ぶルルを褒める、エイジャーの心境は複雑だった。

 

 ルルが成長させたサボテンは行動範囲を狭め、エイジャーが砂塵を巻き上げて視界を奪いながら突撃する。2人のコンビネーションにより数十人いた盗賊たちが1人、また1人と倒れていった…

 

 

「ヒーヒヒどうした?追いつくので精一杯か?」

 

 一方アルジードは建物に張り付きながら移動するネンバに苦戦を強いられていた。先ほど倒した盗賊から奪ったナイフを両手に握りしめながら、不規則な動きで逃げ回るネンバをひたすら追いかける。

 

「くそっ…ゴキブリみてぇにちょこまかと!」

 

「そろそろ疲れてきたみたいだなァ…隙だらけだぜっ!!!」

 

 ネンバは疲労で動きが鈍ってきた獲物を狩るべく壁を蹴って強襲する。グローブから両指10本分の鉄爪が展開し、アルジードの首を狙ってクロス状に振り下ろした。

 

 だが爪による一撃は防がれた…彼の両腕によって。

 

(なんだァ…!?この日のためにオリャが研いできた爪を止めやがった!)

 

「ようやく降りてきたなバカが!死ねっ!」

 

 アルジードは爪を受け止めたままハイキックで反撃する。予想外の出来事により逆に隙を晒したネンバだが腐っても精鋭、即座に切り替え反撃をかわした。

 …かわしたはずなのに体には刃物でつけられた傷と痛みが走っていた。再び壁に張り付きながら何が起きたか判断すべくアルジードを見ると、ブーツの踵から何かが飛び出しているのが見える…

 

「…っ痛ェ!両手のナイフはダミー、仕込み武器が獲物だったのか!それと腕にも何かつけてやがるな!?」

 

「意外と見てるじゃねえか。人から奪うことでしか生きられないクソ虫でも、少しは頭が回るんだな?」

 

「んだとォ…!」

 

 ネンバは単純で野蛮な男ではあるが、罵倒とともに中指を立てる程度の安い挑発に乗るほど愚かではない…普段ならば。

 騙し、奪う側である盗賊が演技にひっかかり不意打ちを受けた屈辱、何より滅多に感じることのない"痛み"により興奮状態にある彼の怒りのボルテージはみるみる上がっていった。

 

「決めた!その生意気な首を棒に刺して町の入口に飾ってやる!テメーが得意なのは蹴り技…!タネが割れれば大したことねェ!」

 

「…!」

 

 ネンバは四方を囲う建物を高速で飛び移り、アルジードを撹乱する。高速の横移動に加えて高さにも変化をつけた陽動を体で追うことはできず、どうしても視界から消える瞬間ができてしまう。

 正面からのハイキックも仕込み武器さえなければ避けられる程度の速さだったのだ、死角からの急襲であれば振りの前にこちらが攻撃できる…そう考えたのである。

 

(だんだん動きについてこれなくなってきたな…次こそ首だ!この爪でスポーンとマヌケに飛ばしてやるぜ!)

 

「シャオウッ!」

 

 背後を取ったネンバは壁を蹴り、爪を展開しながら襲いかかる。アルジードは反撃の素振りどころかこちらを向こうともしていない。もらった─そう確信した。

 

「…そこだな!『スティールチェーン』!」

 

 アルジードは叫ぶと後ろへ転倒し、死角からの攻撃を回避した。もちろん偶然転んだわけではない。敵が勝利を確信した瞬間に合わせた回避…まるで急襲のタイミングを読んでいたかのようだった。

 勢いをつけたネンバは今さら止まれない。首を狩るつもりで突き出した爪は空を切り、地面に突き刺さる。

 

 そこへ突如現れた2本の鎖がグローブへと巻き付き、彼の手から強引に奪い取った。もちろんその先にいるのはアルジード…2本の鎖は奪った武器を足元に落とすと、まるで生きているかのように主の袖の中へと帰っていった…

 

(何が起きた?鎖がオリャのグローブを取り上げたのか?)

 

「スティールチェーンは敵の武装を奪って無力化する技…どうだ?盗まれる側の気分は」

 

 見下すような冷たい視線を浴びながら、ネンバは鎖を巧みに使い、盗賊への強い憎しみを持つ…そんな男が各地で暴れているという噂を思い出す。

 組織で要注意人物とされており、懸賞金もかかっている謎の人物…それが目の前にいるガキであると確信した。

 

「…なるほどなァ鎖使い。テメーが噂の盗賊狩りか!ウチの奴らもずいぶんやられ…っ!?」

 

 会話は不要とばかりに言葉を遮って放たれた鎖は、抵抗する間もなく全身に巻き付いて締め上げ始めた。その力はみるみる強くなり、金属の擦れ合う音とともに指、手首、肘…小さな骨から少しずつ折れていく嫌な音が大きくなっていく。

 

「『アイアンメイデン』…これを見たからには生かして帰す気はねぇがすぐには殺さねぇ、殺るのは吐くもん吐かせてからだ」

 

「ぅぐっ…があぁっ…!おめでたい奴だぜ…ここを落とすのに…っ精鋭はオリャ1人だと思ったか?テメーの仲間は…!今頃どうしてるだろうなァ?」

 

「…何?」

 

────────────

 

「…ふぅ、これで全員かな?」

 

「疲れた〜…お腹ペコペコだし…うぅ」

 

 アルジードがネンバの拘束に成功した頃…エイジャーたちも数十人の盗賊を無事に無力化、拘束して回っていた。

 運用の見直しで低燃費化に成功したとはいえ不慣れな技術…集中力を切らして背中に寄りかかってくる彼女を労いながらあたりに耳を傾ける。戦闘の音はもう聞こえないが…アルジードは大丈夫だろうか?

 

「あとで好きなだけステーキ食べていいからもう少し頑張って。…また新手が出てきたらしい」

 

 エイジャーはいつの間にか盗賊に囲まれていた事に気付く…数は先ほどより少ないものの、これだけの人数が隠れられる物陰はないはずだ。

 特殊な隠密技術を使えるほど賢いようにも見えないが…これも道具の一種だろうか?

 

 盗賊たちはじりじりと距離を詰めてくる。見えている範囲の数なら1人でもなんとかなるが、気配を消す何かしらの技術を所持しているならばまだ潜んでいる可能性がある。

 

「ルル、棘を増やしたサボテンで自分の周りを覆って。どこから現れるか分からないから」

 

─その必要はねぇよ、小僧

 

 ドン、と銃声が鳴り響いたのを頭が認識した次の瞬間にはにじり寄ってくる前方の盗賊が倒れていた。そして連続で鳴り響く銃声とともに盗賊が1人、また1人と体に穴を開けながら崩れていく…

 

「よくぞここで食い止めた…ここからは儂らの鉄火場だ」

 

 声の元へ見上げると屋根の上に数人のカウボーイたち…そしてその中心に赤いスカーフを首元に巻いた老人が立っていた。

 

 

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