Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 慰安と情報収集を兼ねて反王政派の観光地テンガロンへ来た2人はアラクネの襲撃に鉢合わせしてしまう。
 無事にこれを退け情報も入手し順調かに思われたその時、身分を偽って町へ潜入した事が露見。エイジャーが連行されてしまうのであった…


30話 被告:エイジャー・グラム

「命令通り連れてきました。ボス、こいつに助けられた仲間が何人もいるんです。やっぱり…」

 

「ご苦労だったなチャップス。外で待機しろ」

 

 ここはカウボーイを束ねるボス、コイーバの部屋…チャップスは足の拘束だけを解いてやると、エイジャーを彼の前に座らせた。

 チャップスなりに庇おうとはしているものの、コイーバの圧によりそれ以上の反論が続くことはなかった。バツの悪い表情でこちらを見た後、失礼しますとだけ言い残して部屋を出ていく。

 

「さてと…よく来たな。騎士団の」

 

「…気付いていましたか」

 

「連れが叫んでいただろう"エイジャー助けて"ってな…緊急時には素が出るものだ。偽名など使うべきではない」

 

 コイーバは葉巻に火を灯すと、煙とともに息を長く吐いた。それは葉巻を嗜むにはセオリー通りの動作であるが、表情は呆れているようにも見える。

 

「…仰る通りです。俺は貴方たちを騙してしまった…申し訳ありません」

 

「エイジャー・グラム、いくつか耳にした噂は悪くなかったぞ?だからこそ腑に落ちない…身分まで偽って何が目的だ」

 

 コイーバの刃物のように鋭い眼光が突き刺さる…ここは強烈な反王政の町、飯屋の店主すら昔のことは言い淀むほどである。下手をすれば騎士団とのさらなる軋轢が生まれかねない。

 

 テーブルの上には一丁のライフルが置いてあり、片方の手は常にフリーである。返答次第では鋭い視線だけではない、銃口までもがこちらを向くことになるだろう。

 

 エイジャーは自分が騎士団の手が届かないコミュニティで魔族や盗賊の被害がないか調査・解決するための独立部隊であること、連れている少女は騎士団とはまったく無関係な出自であることを素直に話すと、コイーバは「なるほど」とだけ返した。

 

「防衛が不十分な地域に現れる素人ではない若者…ロペスに調べさせた話と合致するな。ホセの店やチャップスたちを助けた実績もある、お前に害意がないのは信じよう。だが…」

 

「身分を偽っての不法侵入は重罪だ…それが王都の人間ならなおさらな」

 

 コイーバはライフルを手に取るとこちらへ向けた。まだ引き金に指はかけていないが、銃口はエイジャーの額を狙っており…魔族や無法者を相手取る時とは段違いのプレッシャーに、全身から嫌な汗が吹き出しては流れ落ちていく…

 

「…1つ、質問してもいいですか」

 

「言ってみろ」

 

「…分からない事があります。俺の正体に気付いた時点で拘束しなかったのは何故ですか?それに今だって牢ではなく部屋に通している…犯した罪を考えれば、もっと酷い扱いを受けてもおかしくないはずです」

 

 エイジャーの指摘通り彼らの対応はなんともチグハグである。強制連行したのは牢でも懲罰房でもなくボスの部屋、コイーバも脅しこそするが拷問の類を行う気配はない。

 

 町の人間を助けた貸しがあるとか、騎士団との摩擦を警戒しているにしても。足だけ拘束を解いて反撃の隙を与えてしまっているなどおかしな点は多々ある。

 

 だがこの場で質問し、正そうとするのは狂気の沙汰だ。なぜならあるべき対応の方がよほど過酷なのだから…顔にこそ出さないが、コイーバもエイジャーの妙な質問に少しだけ困惑していた。

 

(嘘や罰から逃れようとする様子はない、むしろ甘い対応に異を唱える…この状況で筋を優先する気か?)

 

「小僧…この町の成り立ちは知っているか?」

 

「ホセさんから聞きました。元は巨大な農場で、旧王政が倒れてから…っ!」

 

 目の前の光景にエイジャーは言葉を失った。ハットやスカーフを取り去ったコイーバの肌に、細長い何かで痛めつけられたような無数の傷跡が露わになっていたからである。

 

「ここを支配していた貴族…ペッグは食い意地が張っていてな。献上する度に肉を増やせ、脂が不味いと儂らを痛めつけた。牛も豚もヒトでさえも…ここでは全てが奴の家畜だった」

 

「儂といた気弱そうな男を覚えているか?あいつはロペス…昔は賑やかな奴だったがすっかり人に怯えるようになってなぁ…もう何十年もそうしている」

 

 これまでの旅で反王政派のコミュニティはいくつか立ち寄ったが、聞いていたのはどれも飢えや過重労働などでここまで熾烈な暴力に晒された人たちは見たことがなかった。

 

 いや、もしかしたら隠していただけで皆似たようなものだったのかもしれない…物心ついた頃にはスラムにいて支配を逃れており、旧王政の弾圧を歴史としてのみ知っていたエイジャーは己の無知を悔いていた。

 

「その様子じゃぬるい世界しか見てこなかったようだな…続けるぞ」

 

 ハットとスカーフで再び傷を隠すと、コイーバは椅子に座り直す。

 

「クーデターで王政が崩壊してもなおペッグは支配を続けようとした。この町を飼い慣らせていると信じていたのだろう…だから儂が指揮を取り、奴を豚の餌にしてやった。その流れでここの長をやっている」

 

「小僧がどんな教育を受けてきたか知らないが…これが王政を憎む連中の歴史だ。上の世代はみな消えない傷を抱えて生きている。気取った格好の下にな」

 

「この町は誰の下にもつかない。誰一人として、もう二度と惨めな思いはさせない…それがこの町の存在理由であり長としての儂の矜持よ」

 

 エルドラ王が貴族と民を説得したことで支配や報復の連鎖は終わった、というのが後世に伝わる歴史だが…その裏には闇に葬られた多くの名もなき人や歴史がある。

 

 副団長グレナルドの命で動いていた"大陸を繋ぎ一丸となる計画"。苦境に立っている時こそ手を差し伸べれば分かり合えると漠然と希望を持っていたが、これでは…エイジャーは頭を抱えざるを得なかった。

 

(テンガロンの人たちは先人に深い傷を負わされた。それを俺たちは善意のつもりで踏み荒らして…)

 

「…後悔してくれたなら話した甲斐がある。次になぜ小僧の対応が甘いのかだが…少し…疲れたのかもしれないな」

 

「え…?」

 

「…裁判は明日の昼、町の連中を集めて行う。チャップス!連れて行け」

 

 再び部屋に入ってきたチャップスに連れられ、独房へと案内されるエイジャー。去り際に見せた声と表情…それは強く頑ななリーダーのものではなく、1人の擦り切れた老人のようであったのを覚えている。

 

────────────

 

「…ま、町への略奪指揮の罪により、満場一致でネンバを死刑に処する!」

 

 翌日…コイーバの予告通り、広場では裁判が行われていた。進行を任されたロペスの声が何度も町中に響き渡る。

 

 相手が外部からの侵略者ということもあり、今回は功罪を述べた上で「死刑か情状酌量か」で多数決を取り、後者の場合はさらに処遇について意見を募るという方式を取っているようだ。

 

 だがエイジャーより前に行われた盗賊たちに功績などあるはずもなく。その全員が満場一致の"死刑"であり、機能している制度なのか些か疑問が残る…あくまで町の承認を得る手続きとして行われているようだ。

 

 全ての盗賊が判決を言い渡され、いよいよエイジャーの番がやってきた。目を合わせることもなく舞台から降ろされていくネンバを見送りながら、彼に代わって住人たちの視線を一手に引き受ける。

 壇上にはロペス以外にも民衆を見つめる裁判長のコイーバと、罪状を読み上げる役としてこちらに複雑な表情を向けているチャップスが席についていた。

 

「次の被告はアーサーことエイジャー・グラム…罪状は"王都騎士団の立場を隠してこの町に不法に潜入"…だ。次に─」

 

─王都騎士団!?一体何の用じゃ!

 

─どうせ侵略に来たんじゃないのかい!?あの時みたいに!

 

─あやつを足がかりにさらなる侵略者が来るやもしれん!処刑して町の意志を示すべきではないか!

 

 罰を求めている民衆はカウボーイの格好をしていない…どうやら普段は表に出てこない、町の奥で酪農を担当している者たちのようだ。

 皆かなり歳を取っており、旧貴族により家畜として扱われていた世代なのだろう…エイジャーに向ける声と目は強い憎悪に満ちており、その熱はじわじわと場を覆い尽くしていく。

 

「おい落ち着いてくれみんな、今からこいつの功績を…」

 

─そうよ!私たちは王政には屈しない!

 

─王都は滅んだと聞いたぞ!こっちにはカウボーイたちがいるんだ!騎士団だって怖くないぞ…!

 

 年寄りの熱意はその下の世代にも伝染し、農民たちからは次々と過激な言葉が飛び交い始める。いよいよ手がつけられなくなるというその時…コイーバが空へと放った一発が民衆を問答無用で黙らせた。

 

「チャップスの進行を遮るのは感心しないな…言っただろう、今回は功罪を並べた上で判断すると。弁護人!壇上へ」

 

 コイーバが舞台横をライフルで指差す。民衆の視線の先にはアルジードと…怯えた表情で彼の手を握るルルがいた。

 

「アル…エイジャーを助けて…」

 

「おう!必ず姫の元に返してやるから任せとけ」

 

 そう笑いかけると壇上へ飛び乗り、加熱した民衆たちからエイジャーを庇うように前に立ち塞がった。

 

「今から団ちょ…エイジャーの功績を述べる!まずは店に乗り込んできた盗賊5人を手早く退け、刺された客とカウボーイの処置をして命を繋いだ…そうだよな!ホセ!」

 

「ああ!間違いない!そのお兄さんがいなければ2人の処置は間に合わなかった!店にいたポーラも証人になる!」

 

 アルジードが壇上から叫ぶと前列にいた飯屋の店主 ホセが大声で返答する。その隣では同じく飯屋で誘惑してきたポーラがこちらに手を振っていた。

 

「次だ!劣勢に立っていたカウボーイたちに助太刀することで助かった奴もいるよなぁ!チャップス!」

 

「おいおいオレは追及側だぞ…間違いねぇ。パンチ・ルイ・エル…みんな兄ちゃんに感謝してたぜ」

 

─あいつが息子を…?

 

─…旦那を助けてくれたっていうのは本当なの?

 

 憎むべき相手が恩人と知り、エイジャーの処刑を叫んでいた民衆の何人かが困惑している…目が合ったチャップスも小さくウインクし、心では味方であることを伝えてくれた。

 

「まだあるぜ!さっき死刑になったネンバの部下数十人を無力化し、テルスって幹部も排除した!あれだけの数だ、エイジャーが足止めしてなかったら被害はもっと大きかったんじゃないか?そこで警備してるカウボーイたち!」

 

─違いねぇ。あいつが派手に暴れて増援まで引き寄せてくれたから残党狩りもすぐに終わったんだ

 

 詩を弾き語るのが趣味のアルジードはまるで演劇のように大げさな動きや抑揚をつけながらエイジャーを弁護する。

 穏健派、壇上の対立相手、身内を通じて過激派の農民たち…じわじわと敵の勢いを削ぐアルジードの作戦に、罪人を処刑するための裁判として厳罰を与えに来た民衆たちの危険な熱意は少しずつ収まっていく…

 

 それは無法者を1人で相手取ってきたアルジードだからできるクレバーな立ち回りであった。

 

(アルジード…何度か顔を合わせただけの俺のためにそこまで…)

 

「さてと…ここからは少し脱線だ。オレはある時この人の噂を聞いた。誰かを守るのが趣味の自己犠牲バカが騎士団にいるってな…団長、ちょっと失礼するぜ」

 

 場をある程度掌握したのを確認したアルジードはくるりと回って民衆に背を向け、エイジャーの服を脱がせて上裸にした。そこにはまだロウディとの戦いで負った火傷の跡が残っており…痛々しい肉体に農民たちは目を背ける。

 

「この傷はオレが頼んだ面倒事でついたものだ。知り合って間もないオレのダチを助けろなんて無茶振りのためにな…姫!こっちに来てくれ」

 

 アルジードは続いて壇上にルルを呼ぶ。かなり好き勝手に場を荒らしているが、ロペスはおろかコイーバすらも腕を組み見ているだけで止めようとしなかった。

 

「この子はエイジャーの連れなんだが記憶が無くて家に帰れねぇそうだ。集落1つ探すのにも苦労する珍しい種族、それでも家族の元に返そうと大陸中を回ってる…いいのかよ、この子から未来を奪っちまって」

 

 不安そうに壇上へ現れたルルは彼らが初めて見るアルフ族である。あまりいい手ではないが…美しさとあどけなさを共存させた彼女の容姿は、皆の同情を引くのに有効であると判断したのだろうとエイジャーは推測した。

 

─あの子人間じゃなかったのか。確かに耳が長いような…

 

─家族と離れ離れかい。まだ若いのに…辛いねぇ…

 

「この人は確かに身分を偽った。だけど誰かを救おうとやってきたことは嘘じゃねえ!あんたらが憎んでる古い王政の人間とは違う…そこは認めてやってくれよ」 

 

 声高らかに処刑を要求していた者たちは黙りこくり、その表情はみな葛藤しているようだった。熱意のこもったアルジードの演説…荒削りで狡猾ではあるが、傾きすぎた人々を考えさせるには十分だったようだ。

 

 たった1人─コイーバを除いては。

 

「黙って聞いていれば最後はお涙頂戴か…くだらんな。罪を清算もせずに人柄を見ろなどと」

 

「なっ…!待てよ!ここで殺ったら裁判じゃねえだろ!ロペス!止めろよ!」

 

 コイーバはライフルを手にすると銃口をエイジャーへと向ける。引き金には指がかかっており、今度こそ脅しではないようだ。アルジードの必死な訴えは届かず、広場に虚しく響き渡る…

 

 だがあまりにも強硬的な対応に、民衆からも戸惑いや反対の声が聞こえてきた。

 

「オレは処刑に反対だ!盗賊のせいでステーキを出しそびれてるからな」

 

「あたしも反対。あんなカワイイ男の子を殺すなんて勿体ないもの」

 

─王都の人間は嫌いじゃが、息子の命の恩人となると…

 

─ボス、奴は同僚を助けてくれました。ここで銃殺なんてあんまりですよ

 

「…悪いボス、オレも反対だ。こいつは盗賊にすら生きる道を探してやるような甘ちゃんなんだ、殺さなくても反省してくれるぜ」

 

 騎士団との物資の交換に使おう、壊れた町の修繕を手伝わせればいい、用心棒として雇えば役に立つ…聞こえてくる代案は様々であるが、死刑…少なくともこの場で射殺することに賛成する声はエイジャーの耳には届かなかった。

 

 彼らは自覚していないだろうが、各々がエイジャーを通じて深い傷に刻まれた王政への憎しみと再び向き合おうとしていた。

 

 だがコイーバの判決は…変わらなかった。

 

「そうか…お前たちの意見はよく分かった。では儂が判決を言い渡す。アーサー…お前には死んでもらう」

 

「待て!やめ…」

 

 コイーバの射撃はアルジードが飛び出すよりも早かった…火薬の炸裂する音が響き渡り、エイジャーの体が小さく吹き飛ばされると…うつ伏せに力なく倒れ込んだ。

 彼を通じて少しだけ王政へのトラウマを払拭できそうだった民衆がどよめき立ち、カウボーイたちもハットを深く被り表情を隠している…

 

「いや…エイジャー!だめ!は、早く治さないと…!」

 

「マジかよ…何してんのか分かってんのかよジジイ!」

 

 信じられないほどに目が泳ぎ、声は震え、へなへなと這いつくばりながら治療に向かうルルを横目に、激昂したアルジードが服の下に仕込んだ鎖をジャラジャラと鳴らして臨戦態勢に入る。

 同時にカウボーイたちも長へ敵意を向ける不届き者にライフルを向けるが、その表情は今の状況に納得していない様子だった。

 

 一触即発、誰かが動けば血が流れるという極限の緊張の中最初に動いたのは…撃たれたはずのエイジャーだった。

 

「エイジャー!大丈夫なの!?」

 

「ガフッ…!はぁっ…すごく痛いけど大丈夫…」

 

 アルジードは混乱していた。銃口は胸を狙っており、確かに引き金も引かれたはずである。火薬が爆発する音とともに吹き飛ばされたのだから間違いない…だが妙である。軽い吐血こそしているが体のどこにも弾痕がないのだ。

 

 コイーバは百発百中の男、止まっているエイジャーに外すようなことはあり得ないと思うが…

 

「空包…あの人はライフルに弾を装填しなかったんだ。火薬も爆風で殺さない程度にしか入れてない…そうですよね?」

 

「儂が死罪を言い渡したのは偽りの人格だ…言っただろう、アーサーに死んでもらうと」

 

 それを聞いたアルジードは緊張の糸が切れ、その場にへたり込んだ。脅威が消えたと判断したカウボーイたちも銃を下ろし、安堵からため息をついている。

 

「屁理屈じゃねえか…んなのアリかよ」

 

「好き勝手やったのはお互い様だろう。さてエイジャーよ、アーサーは死んだがお前にも罪を償ってもらう。そうだな懲役刑…壊れた貯水槽の修理と中身の補充でどうだ?厳罰を望む奴は手を挙げてくれ」

 

 コイーバの質問に手を挙げる者はいなかった。ただでさえ赦す方へ傾いていたところにショッキングな展開を見せられたことで、皆のヘイトが下がっていたためである。

 裁判を引っ掻き回したアルジードも十分見事だったが…長年この町をまとめてきた彼の方が一枚上手だったようだ。

 

「チャップス!そいつを手当てしてやれ。懲役中の部屋は普通でいい、拘束もいらん…これにて裁判を終了とする!破壊された町の修繕作業に戻れ!解散!」

 

「コイーバさん!その…ありがとうございました」

 

「…この町を早く出たければ頑張ることだな」

 

 民衆がそれぞれの作業に戻っていくなか、エイジャーは肩を借りて立ち上がると帰ろうとするコイーバの背中に頭を下げた。こちらを振り返ることはなく、片手を挙げてそっけない返事をするのみであったが…その声は少し吹っ切れたように軽くなっていた。

 

「とりあえず助かったか…マジでヒヤッとしたぜ団長。姫もあんたが心配でほとんど寝れてないんだぜ」

 

「本当だ、よく見たら隈が…ごめんなルル…うわっ!?」

 

「〜!〜!!!」

 

 言葉にならない声を発しながら飛びかかったルルによって再び地面に叩きつけられるエイジャー…そんな2人を見てアルジードは肩をすくめ「やれやれ」と呟いた。

 

「爆風は喰らったからも、もう少し優しく…本当に助かったよアルジード。君がいなかったらと思うと…今度はこっちが大きな借りだね」

 

「オレはあんたが作った功績をウタっただけだぜ。まあでも恩義を感じてくれてるってならそうだな…」

 

 アルジードは腕を組んだり、顎をしゃくったりしながらその場をぐるぐると回っている。そうしてしばらく迷った末に、倒れたエイジャーとルルに手を差し伸べ、ニヤリと笑ってこう言った。

 

「オレの名前はアルジード・ナルム。なあ、あんたらの仲間にしてくれないか?」

 

────────────

 

 その日の夜、コイーバは自室の椅子に深く腰掛け、葉巻を燻らせながらライフルを磨く…それは彼の日課であり、誰にも邪魔できない至福のひと時。

 そこへ唯一入室が許されている男…彼の側近であるロペスが、氷の入ったバケツとウイスキーを持ってやってきた。

 

「ぼ、ボス…たまにはどうですか?」

 

「来ると思っていたよ。待ってろ、お前の葉巻も用意してやる…」

 

 貴族の躾により心を閉ざしたロペスは滅多に自我を出さなくなってしまった一方で、時折思ったことを話に来ることがある。そういう時は決まって1人になるこの時間に、酒を持ってやってくるのだ。

 

「え、エイジャーとかいう男のことで。どうして根回ししてまで見逃してやったのかなと思いまして」

 

 そう、ロペスを通じてルルとアルジードを弁護人として立たせ、好き勝手やらせるよう指示したのは他でもないコイーバだったのだ。

 その気になれば民衆の熱意のまま死刑に導くこともできた。町の長として外部からの侵略…特に王政関係者を拒絶してきた彼がなぜそんなことをしたのか聞きに来たのである。

 

「…支配体制が崩れてから20年、この町は奴らを拒絶し続けてきた…もう二度と惨めな思いはしない、そのためには一切を否定し続けるべきだとな」

 

「そうやって憎しみを抱えながら死んでいった先人を何人も見送ったが…いよいよ自分の順番が回ってきた時にふと思った。そんな最期は本当に幸せなのか、と」

 

 着火した葉巻をロペスに渡してやると、おっかなびっくり慣れない手つきで燻らせ始める。ライフルへの装填は天才的なのに他の事はてんで不器用…性格は変わってしまったが、ここだけは何年経っても同じだった。

 

「あの小僧は盗賊に言ったそうだ。どんな人間も最期は穏やかであるべきだと…それを聞いて皆を試したくなった。このまま憎しみに囚われるか、違う道を歩めるのかを」

 

「そ、それでボスは賭けに勝った…というわけですか」

 

「さあな。たまたま小僧を許しただけかもしれないし、当面は町の方針を変える気もない。儂らの傷を癒すには時間が足りないかもしれないな」

 

 グラスを手に取るべく灰皿に置いた葉巻をロペスが取り上げた。相変わらずオドオドしているが、口角は少しだけ上がっていた。まるで明るかった頃の彼のように…

 

「な、ならば長生きすればいいんですよ。まずは葉巻をやめてみては?」

 

「…ほう、お前にも変化が起きているようだな。こいつをやめる気はないが…お互いにしぶとく生きてみようか」

 

 この町に、そして2人にもたらされた変化を祝してお互いのグラスを打ち付ける。

 

 遠い遠い昔に失われた2人の時間は、ゆっくりと、静かに更けていった…

 

 

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