反王政派の町テンガロンへやってきた2人は不運にも盗賊たちの襲撃に鉢合わせしてしまう。これを退けたはよかったものの、今度は不法侵入としてエイジャーが捕らわれてしまった。
アルジードの弁護により懲役で済んだエイジャーは、彼から仲間に入れるよう頼まれるが…
親父は奴隷の家系だった。
じいちゃんか、もっと昔かは知らねえけど…王国との侵略戦争に負けて色んなところへ売られ、一族は散り散りになったらしい。
ただオレのご先祖を買った領主はまだマシだったようで、優秀ならばそれなりの待遇が与えられたそうな。
親父は手先が器用な人で、製鉄所で出る屑鉄で作った作品が領主の心を掴んだらしく…領主仲間や貴族に贈る品の彫金師として引き上げられ、悪くない生活をしていたらしい。
領主はクーデターの標的にならなかったものの病気で倒れ、親父は自由の身になった。町の外れで小さな工房を開き、客としてやってきたお袋と結ばれた…と聞いている。
お袋は町で暮らす普通の人だった。身寄りのない親父を拒絶する両親を説得し、オレを産んで、3人で静かに暮らしていた…あの日までは。
「見てくれ母さん、アルがこれを彫ったんだ!上手いもんだろう」
「本当だ。きっとお父さんの才能を受け継いだんだね…今度ママにも作ってほしいな」
「うん!もっと練習して、すごいの彫ってあげるから楽しみにしててね!」
それはいつも通りの食卓だった。親父はオレが何かを彫る度に褒めてくれて、お袋は優しく撫でてくれた。
その日は嵐が近付いていたから店も早く閉めて、早く寝てしまおうという話になっていたその時。親父は工房の方からした物音に気付いた。
「何か飛ばされてきたか、まさか人が…?少し見てくるから2人は上に行ってなさい」
オレとお袋は2階へ上がった。いつまで経っても戻ってこない親父に不安を感じていると、お袋がオレを安心させるために撫でてくれた。
だけど声が少し強張っていたのを覚えている…今思えば、あの時何かを察してたんだと思う。
「アル、私も様子を見てくるから何があってもベッドの下にいること…いい?」
「わかった…早く戻ってきてね」
お袋はオレをベッドの下に隠すとシーツを繋いでロープを作り、窓を開けて投げ落とした。何をしているのか聞く前に椅子を持って下に降りていき…しばらくして上がってきたのはお袋ではなく、血に塗れた盗賊たちだった。
「おい、窓が開いてやがる!ここからガキを逃がしやがったんだ!」
「てめぇが金品集めるのに時間かかったからだぞバカ野郎!生かしておくと面倒だ!追うぞ!」
この時は自分の聡明さに感謝した。2人がどうなったかを察し、取り乱せば同じ道を辿ることになると、気配を殺すことに徹していたのだから…
このまま黙っていればこいつらは去る、それから2人を助けに行こう…そんな希望を打ち砕いたのがあいつ…ボージャンだった
「待てお前たち…案外まだ家の中にいるかもしれねえ。とはいえガキが逃げて通報している可能性もある…さっさと油まいて燃やしちまうぞ」
「「はい!ボージャンさん!」」
そして盗賊たちが油を取りに行っている隙にシーツを伝って2階から脱走、オレは燃え盛る家に2人を置き去りにして町へと駆けていった。
憲兵隊に事情を話して救助を頼んだが、オレは拠点に預けられて立ち会わせてくれなかった。当然だ、ガキに焼死体なんて見せられるわけがない…
泣いて暴れて抗議して、泣き疲れて次に目が覚めた時にはお袋の両親が報告を受けに来ていた。嵐にも関わらず家はほぼ全焼、2人もどっちがどっちだか分からなくなっていたそうだ…
役立たず、お前らが代わりに死ねばよかった、2人を返せ…いくら必死に怒鳴っても憲兵隊の連中は何も言い返してこなかった…目を閉じて、ただじっと受け止めていた。
それからしばらくはお袋の両親に育てられた。親父によく似たオレにきっと複雑な感情を抱いてたと思う…それでも平穏に暮らせるようにと頑張って親の代わりをしてくれていた。
だけど平穏に耐えられなくなっていたオレはある時家を飛び出して…それ以降一度も会っていない。本当に悪いことをしたと思ってるけど、どのツラ下げて行けばいいのか分からず今日に至る。
オレは独りで生きてきた。過酷な状況こそが生きる実感を得、奴らへの報復心を忘れずにいられると信じていたから。
オレは絶対に奴らを許さない。2人が受けた暴力を何倍にも返して、最後にその穢れた死体を焼き払ってやる。
それがオレの生きる意味だ。
・・・・・・・・・・・・
「くそ…またあの日の夢かよ…」
朝、とある部屋のベッドの上。ここの店主とは長い付き合いで、簡単な手伝いをする代わりに格安で泊めてくれる有り難い存在だ。
傍らに置いていた鎖・仕込み刃・その他もろもろの暗器を全身に装着してから服を着る。これは今日までの人生で編み出した生き残るための知恵と技術…不快なことに、技術を磨けば磨くほど憎んでいる盗賊たちの戦い方に近づいていった。
いい匂いに誘われるように一階へ降りると、店主のホセが野菜を煮込んでいた。その横ではポーラが朝の仕込みを手伝っている。
この2人は年の差婚と離婚を繰り返している変わり者で、今は離婚中らしいが近いうちに再婚するらしい。
「おっさん悪い、手伝いは夕方でいいか?」
「そっちのが助かるよ。にしても珍しいな、お前が誰かに深入りするなんて」
「難しいお年頃なのさ。じゃ行ってくるわ!」
・・・
・・
・
「エイジャー、こんな感じでいい?」
「うん、いい感じ。コントロール上手くなってきたね」
でしょ!とふんぞり返っている女の子の名前はルル…記憶喪失で本当のところは不明らしいが。
団長から片時も離れず他の女の影があれば全力で機嫌が悪くなり、夜もピッタリくっついて寝るらしい。まるで束縛の強い嫁か番犬みたいだ。
そんな彼女はアルフ族という珍しい種族で、生まれ持った力の1つで植物の成長を操ったりできるそうだ。今は町のサボテンを成長させて足場のように利用し、高所での作業に役立てている。
記憶がないので無理らしいのだが、アルフ族は時間さえあれば重度の火傷も綺麗に消せてしまう医薬知識があるらしい。団長だけに限るらしいが、姫も多少の怪我は瞬時に治せちまう。
他人の術がどうのと言ってたが…不思議な種族もいるもんだ。
ちなみにオレはこの子を「姫」と呼んでいる。本人にはお姫様のように美しいから、としてるけど、実際のところは団長に対するわがまま姫っぽさから。
…美人なのは本当なのでまったくの嘘にはならないだろ、たぶん。
「おっす団長、精が出るねぇ」
「おはよう。早く直して観光地として再興したいからね」
サボテンの上から笑いかけてきたのはエイジャー・グラム…王都騎士団の人間で、今は各地を巡る独立部隊らしい。
身分を偽って町に潜入した償いとして貯水槽の修理を命じられたんだが…半日もかからずに懲役を終わらせちまった。こういうのは慣れてると言ってたが早すぎるだろ。
副団長?に連絡を取ったところ増援や報復の可能性があるので数日待機するよう言い渡され、その間に他の建物も修繕しているというわけだ。おかげで王政の関係者を嫌う町の人々からもそれなりに頼られている。
オレはこの人の噂を何度か耳にしていた。ピンチになれば必ず殿を務め、とにかく仲間や民間人を守ろうとする自己犠牲バカ…実際に会ってみて分かったのは、噂というのは意外と信用できるということだった。
お人好しというか警戒心が薄いというか…どうも悪人ではないと判断した相手にはかなり甘い人物らしい。
実際にフリザ族の集落を救うために戦ってくれたし、全身に火傷を負っても恨み言の1つも言ってこない。かえって居心地が悪いくらいだが、当人は本気で気にしてないように見える。
「なんか手伝うぜ?てかオレもじいさんに歯向かった罪で奉仕作業を命じられてるしな」
「じゃあ資材運びを頼む。…ごめんな俺のせいで」
「気にすんなって。じゃ手伝ってくるわ」
2日前、オレは団長を助けるため弁護人になった。手を貸したのは前述の借りもあるが、個人的に気に入ったからというのが大きい。
団長は穏やかな人だ。いつも姫に振り回されているし、オレがからかっても苦笑いするだけで許してくれる。
だけどその優しさにつけ上がったのが良くなかった…調子に乗って姫との関係をつついてしまった時のことだ。
姫は雰囲気が幼いとはいえかなりの美人、毎晩一緒なんて男からすればご褒美だし手を出したこともあるんじゃないか…そんな風に団長を茶化してしまったのだ。
「冗談でもやめてくれ」
真顔で返された。目が笑っていなかった。
謝ったらすぐに許してくれたものの、一瞬漏れ出たプレッシャーの中に死を垣間見たので姫のことでからかうのは絶対にやめようと心に誓った。
姫を人質に取った盗賊は両足を切断されたが、あれも彼女に血がかからないように配慮していた節がある。この人が殺意を全開にしたら…とても気になるが間違ってもターゲットにはなりたくない。もはや死体も残らない気がするからだ。
・・・・・・・・・・・・
「ん…んんん…!このステーキすごい!柔らかくて噛むとジュワーって…!エイジャーも早く!私が食べちゃうよ?」
「ちょ、待って…ホセさんやっぱり悪いですよ、ご馳走になってしまうなんて」
「お兄さんがいなかったらオレはここにいないからな!それと出所祝い!遠慮せず食ってけ!」
その晩、団長と姫はホセの店に来ていた。ここに泊めてもらっているオレは給仕を手伝いながら2人を遠目に眺めている。
相変わらず姫に振り回されている団長の顔はどこか嬉しそうだっ…あ、肉を盗られて凹んでる…
「…まあいいか、元はルルのために来たんだし。このステーキを食べるのに色々あったなぁ…」
「ははは、盗賊を倒して捕まってようやくだもんな!みんなが言ってたぜ?お兄さんのおかげで作業が順調だ、ここに住んでほしいくらいだってな」
「ご厚意は有り難いですが…他の町も被害に遭ってないかそろそろ調べに行かないと」
そう話す団長の周りをそれとなくうろついてみるがまったく気付いてもらえない…あの日仲間に入れてくれと頼んだものの、まだ答えは返ってきていなかった。
祖父母の家を飛び出してからのオレは独りで生きてきた。
親父に似て器用だったから、復讐を忘れてどこかに落ち着くこともできたと思う。でも胸の奥で燃え続ける報復心と、また親しい人を失う恐怖がそれを許さなかった。
弾き語りと盗賊狩りで日銭を稼ぎつつ、店の手伝いや財宝を持ち主に返すことで小さな信頼を得てきた。復讐を続けるのに必要な最低限の金と薄い繋がりがあれば十分だと言い聞かせてきた。
だが孤独というのは存外疲れるもので、根無し草だって引っ掛かる木くらい欲しい時もある。
子供のように無垢な姫といざって時は頼りになる団長…この人たちが止まり木なら悪くない…そう思えるのだ。だからオレは意を決して催促してみた。これでフラれたらそこまでだ。
「ところで団長、こないだの事なんだけどよ…オレはこう見えて顔が広いし諜報も得意だ。カネの面でも邪魔にはならねえ。だから…」
…割り切るつもりだったのだが、気付けば必死に自分を売り込んでいた。思い返してみると我ながらダサいマネしてたなぁと笑ってしまうが、とにかくあの時のオレは必死だったらしい。
「アル!ここにいたんだな。やっと副団長と話がついたんだ。試験として実戦を兼ねた周辺地域の調査と面談…恩人だって進言してもこれ以上は減らせなかった」
団長はそう言って申し訳無さそうにする。後から聞いて分かったことだが、本来はもっと様々な項目を見るらしい。
騎士団は公的な組織、素性の分からない民間人をホイホイ入れられる訳がないのは当然だ。冷静に考えれば分かる事だが、どうも焦りで見えていなかったらしい。
「それは楽勝だけどあんたらはいいのか?特に姫は2人きりがいいのかと思ってた」
「エイジャーを助けてくれたからアルは特別!それに強い仲間が多い方が無理しないでしょ?ね?」
姫は手を後ろに組んでにししと笑った後、首をかしげながら横目で団長に視線を送っていた。なるほど、彼女はこうして団長の手綱を握っているらしい…
「う゛。俺からはそうだな…悪党相手でも積極的に殺さないこと、かな」
「絶対ダメとは言わないんだな」
「事情も知らないのに全否定はできないよ。俺も偉そうなことは言えない立場だ」
そう言ってステーキナイフが握られた手を苦い顔で見つめている。死刑になった盗賊たち…団長は連中の最期と火葬にわざわざ立ち会って、悔しそうな目をしていたとカウボーイたちから聞いた。
あんな連中にすら同情する甘さは正直危険だと思っている。だがそれが団長を団長たらしめる核なんだと納得もできる。
団長がオレのやり過ぎを咎め、オレが団長の甘さに付け入るクズを排除する…お互いの弱点を補えばいいだけだ。これからは独りじゃないんだから…
「了解、やりすぎたら遠慮なく叱ってくれ。団長、姫。これからよろしくな」
今日から記録をつけようと思う。ネタが溜まったら詩にして、後世に語り継がせるのも面白いかもしれない。
2つの繋がりを得た今日こそが、オレの新しい誕生日だ。
『Chapter01 プロローグ セカンドバースデイ』
───────────
「…ねぇねぇ、このわがまま姫って私のこと?」
「え゛。うーん…その話題を出すとバレるから2人だけの秘密で」
旅立ちの朝。机に置き忘れていた手帳に気付いたルルは、アルジードが買い出しに出かけている間にこっそり読み始めてしまったのである。
止めに入った頃には半分ほど読破しており、半端に止めて彼女の興味が暴走するよりは…ということで、エイジャーも共に罪を被ることを決めたのだ。
「おーっす戻ったぜ…って2人ともどうかしたか?」
「あ、ああおかえり。探してたものは見つかった?」
「おう。…そうだ、これコイーバのじいさんから団長にって。ロペスもそうだけどちょっと晴れやかな顔してやがったよ」
そう言ってアルジードは手紙を渡してきた。後ろめたさを感じながらも葉巻の匂いがついたそれを受け取って開くと、意外にも繊細な字で次のように綴ってあった。
─────────────
小僧へ。
お前が来てから町の不文律が綻び始めた。
それがどう転ぶかは誰にも分からないが、ロペスが生意気を言えるようになったこと、個人的に感謝する。
当面は王政側の人間をここに入れるつもりはないが、情報交換程度の接点なら許してやると上官に伝えておけ。
ただしお前と小娘は例外だ、エイジャー・グラムとしてならいつでも受け入れてやる。
町の連中に騎士団を認めさせられるのはお前だけだ、勝手に野垂れ死ぬなよ…またな
コイーバ・トンプソン
─────────────
「ねぇねぇなんて書いてあるの?」
「…またステーキ食べに来いってさ。今度こそゆっくり観光したいね」
目を細め、愛おしそうに手紙を見つめるエイジャーの肩をアルジードが強く叩き、2人を抱き寄せた。
「できるさ。これからはオレがいるんだからな!魔族も盗賊もさっさと叩きのめしてメシ食いに来ようぜ!」
「…ああ、そうだね。そろそろ行こうか」
新たな仲間 アルジード・ナルムを加えた3人は町を後にする。次なる目標は入隊試験の合格だ。