Regain Journey   作:G-ラッファ

35 / 94
前回までのあらすじ

テンガロンの町で出会い、仲間にしてほしいと転がり込んできたアルジードの認定試験として盗賊被害の注意喚起に奔走していた3人は盗賊と出会ってしまう。

これをあっさり倒したものの騎士団のいる町へ向かうには遅くなってしまい、仕方なく野宿の準備を進めるのだった…




33話 エイキャン

「何かあったら協力するんだぞ!しばらく会えないけど長生きするんだぜジイちゃん」

 

「アル坊は心配性じゃのォ…でも助かったわい。いつでも遊びに来なさいや」

 

 盗賊団が動きを見せている件で村への注意喚起を任されたアルジードは無事に報告を終え、エイジャーとの合流地点である河原へと向かっていた。

 

「結局狙われたのはテンガロンだけか。まあこの辺の村乗っ取っても何もねぇしなあ…ジイちゃんたちが無事なのは良かったけどよ」

 

 あとは一晩野宿して拠点に報告すれば終わりだ…お土産が詰め込まれた革袋の重さに反してその足取りは軽い。

 木が並ぶ小道を突っ切り河原へ向かうと、焚き火を囲う盗賊たちの姿が視界に飛び込んできた。手を使えない彼らにも役割を与えるべく、どうやら火の番をさせているらしい。

 

「早かったね。あの村はどうだった?」

 

「やっぱり何ともねえってさ。…てか団長、それなんだ…?」

 

 アルジードはエイジャーが握っているツルツルした棒状の何かを指差す。板の上にはいつの間に獲ったのか名前も知らない草やキノコ、魚や鳥が山盛り積んであるので食材だとは思うのだが…

 

「これはマルタヘビ、凶暴だけど食い出があるから重宝するんだ。焼いてもいいけど人数が多いからなぁ…表面を炙ってから煮込んで旨味を抽出するのもいいな…アル?どうした?」

 

「いや、まあ…ヘビって食えるんだと思って…」

 

 これまで独りで生きてきたアルジードだが彼は器用である。人のいる集落で世話になる処世術は身についており、計画的に移動していれば寝床に困ることは滅多になかった。

 

 つまり野性的な食事を知らないのだ。ヘビを盗賊たちに押し付ける言い訳を考えていると、今度はルルが板の上に乗った鳥の羽を毟っていく…野宿が初めてとは思えないほどに躊躇がないその所作に思わず顔が引き攣りつつも、恐る恐る聞いてみた。

 

「ひ、姫よく鳥の死骸なんか触れるな…女の子ってもうちょい嫌がったりするもんだぜ?」

 

「んーちょっと可哀想だけど…この子柔らかくて美味しいってエイジャーが言うから」

 

 ルルは応対しながらも毟る手を止めない。彼女は"こちら側"だと思っていただけにショックも少し大きかった。

 ドン引きしているアルジードに気付いたエイジャーはそれとなく解体中の動物たちを隠しながら、頭で積み上げられた野菜たちを指し示した。

 

「食材になる前の動物は苦手?魚の内臓を取ってもらおうと思ったんだけど…無理なら野菜とキノコを千切っておいてほしいな」

 

「いや、大丈夫だ。こういうのも慣れておかねぇとな…」

 

 アルジードは手渡さされたナイフを受け取ると川で洗いながら内臓を抜いていく。和気藹々と動物を解体していく2人を背にしながら、思わぬ試練に苦戦するのだった…

 

──────────────────

 

「ねぇエイジャー、もういいんじゃない?食べ頃だと思うよ?」

 

「こういう食材はちゃんと火を通さないと。…うん、色は大丈夫そうだね。じゃあ人数分で分けようか」

 

 あれから数十分後…13人分という野宿にしては多すぎる料理をエイジャーらはなんとか完成まで漕ぎ着けることができた。

 

「薬草を効かせた鳥鍋は免疫がつく。魚とキノコの蒸し焼きはテンガロンで買ったバターで仕上げ、出汁を取ったヘビはカリカリに焼き直して村の野菜と和えてみた」

 

 いくつもの焚き火にかけられた料理はどれもいい匂いがする…先ほどドン引きさせられたヘビもきちんと食材の姿をしており、過程を知らなければ食べても気付かないかもしれない。

 

 下準備と火の番こそ盗賊を含む全員でやったものの、調理の大部分はエイジャーの独壇場であった。騎士団というと男所帯でガサツなイメージを持っていたが…配膳に至るまで料理人の繊細な一面が見て取れる。

 

(すげえ…本当はこういうのが向いてるんじゃねえか…?)

 

「アルは盗賊たちと関わりたくないでしょ?俺が世話するからルルのことを頼む」

 

 そう言うとエイジャーは腕を使えない盗賊たちの介護を始めた。こういうのも慣れているのか手際は良く、胃袋を人質にされている今は彼らも素直に従っていた。その姿は武人というより保母である。

 

(そういや団長は自分の部隊持ってるんだったか…野宿の時も率先して作ってやってたのかな)

 

 エイジャーと同行して数日経つが、彼についての情報はほとんど聞けていなかった。戦闘訓練に時間を割いていたのもあるが、訳アリなオーラを放つ人間の過去を無理に掘り返すのもどうかと躊躇していたからだ。

 

 とはいえやはり興味はある。開放的な雰囲気だし今夜なら聞けるかもしれない…そんなことを考えつつアルジードも料理を口に運ぶと、その場で揃えた食材で作ったものとしてはかなりの味に声を漏らした。環境を揃えれば店のクオリティにも届きそうである。隣のルルも上機嫌だ。

 

「小隊長って料理もできなきゃいけないんだな…にしてもよく鍋と器になる木の実なんて見つかったな」

 

「あの木がつける実は硬くて高いところにあるから動物たちは取れないんだって。軍隊?の人たちがあちこちに植えていったから、野宿できそうな所にはだいたい生えてるって」

 

 軍隊…その単語にアルジードの手が止まる。旧王政に仕えていたとされる、父方の先祖の故郷に攻め込んだ連中。

 立ち寄った町や村の人々からも過去に受けた仕打ちについて何度も聞かされている。自分が苦しめられた訳ではないが…それでも好きになれる存在ではない。

 

 だがその後に設立された騎士団は民に尽くす組織として、アルジードから見てもおおむね信用できる集団になった。エイジャーのような甘い人間が所属していられるのが体質が変化した何よりの証拠である。

 

(オレは見たことねぇけど…これだけ組織の色を変えちまう国王ってどんな人だったんだろう)

 

「ぼーっとして大丈夫?眠い?」

 

 今は亡き、顔も知らない国王に思いを馳せているとルルが顔を覗き込んでくると海のように青く、宝石のように輝く瞳と目が合った。

 

 蒼眼の人間もいるにはいるが、やはり根本的な部分から違うように見える…少しの間を置いて我に返ると、残った料理を平らげていつもの調子で立ち上がった。

 

「…確かに少し疲れたかもな。団長があいつら食わせてる間に寝床を用意するか!姫の木を操るアレ、期待してるぜ。…団長!姫と寝床作ってくる!」

 

「分かった!あまり奥に作ると動物が怖い、ここから見える場所で頼む!…よし、食べ終わった。どうだろう?口に合っただろうか?」

 

 エイジャーは使えそうな場所を選ぶ2人を見守りながら、料理をすべて平らげた女盗賊セニに水を飲ませてやる。

 中には待てずに犬食いしてしまう者もいたため介護は想定より早く進み、残るはあと1人というところだった。

 

「…あんた料理上手いんだね。こんな体に良さそうなもん食べたのは久しぶりだよ」

 

「討伐隊で野営術は一通り叩き込まれた、部下の体調管理も必要だったから多少の栄養学も。…人に追われる身だろう、盗賊業は大変だったか?」

 

 今まで投げかけられたことのないエイジャーの妙な質問に、セニは驚いた表情を見せたあと鼻を鳴らして呆れるように笑った。

 

「フン、王の犬がお情けかい?…と突っ張っても意味ないから教えてやる。縄張り争いに負けて放浪、あんたらをセコく騙そうとしたらこのザマさ…悪事は続けられないもんだね」

 

 縄張り争い…ここ最近活発化している盗賊には心当たりがある。アラクネの名前を出すと彼女は何度も頷いた。

 

「あたしらの縄張りはテンガロンの近くにあったんだ。それを壁を這い回るサルみたいな奴に奪われて…あぁ思い出しても腹が立つ!」

 

 壁を這い回る男…アルジードが倒し、尋問の後に処刑されたネンバの事であろう。確かにあの大所帯を抱えて襲撃するならば入念な準備は必須、すでに隠れ家として機能している盗賊のアジトを奪うのは理にかなっている。

 

 さらにこの情報から推察できるのは本隊のアジトの場所…少なくとも直接襲いに行けないテンガロン周辺ではないということは確かだ。

 勢力争いが起きている周辺にアラクネがいると考えれば動きも少しは予測できる。これはとても大きな収穫だ。

 

「その男ならあそこにいるアルが倒したよ。この後捕まるから縄張りに戻れることは無いと思うけど…」

 

「へぇ…あのガキもなかなかやるじゃない。ところでどうして騎士団がガキ2人を連れてるんだい?王都がやられたとは聞いたけどそんなに人がいないのか?」

 

「あの2人は各々の事情で同行してるんだ。俺の部隊はもう…」

 

─おぉい…そろそろオレにも食わせてくれよ…さっきから生殺しだぜ…

 

 我慢の限界を迎えた暴漢のフリをしていた男の、なんとも情けない訴えが虚しく響く。エイジャーが慌てて介護に回ってしまったため、セニは質問の答えを聞きそびれてしまったのだった…

 

───────────

 

「姫の顔見ろよ団長、満面の笑みで寝てるぜ」

 

「今日はたくさん活躍したからね。本当は戦いも魔力を私的に使わせるのも嫌なんだけど…」

 

 その日の晩…エイジャーの左半身にぴったりと密着し、野宿でもお構いなしに速効で眠りに落ちたルルを2人が微笑ましく眺めていた。

 

 ベッドはハンモックのように木の間に蔦を張り巡らせ、葉を敷いた上にそれぞれの上着をかける野宿としてはなかなかに上等なものを作り上げた。

 

 人数が多く、手を拘束されて木を登れない盗賊たちは3人の下で雑魚寝することになっていた。草を積み上げ多少であるが地表から離れるよう配慮しており、虫が嫌がる葉を混ぜたので1日くらいは我慢できるだろう。

 

「あんたの役に立ちたいんだよ。大事にするのと過保護はイコールじゃないぜ?…そういや団長の部下って今どうしてるんだ?1人くらい連れてくれば良かったのに」

 

「アルには話してなかったか…全滅したよ。みんな遠征から戻ったばかりで、しばらく仲間や家族と一緒に過ごせるって時に」

 

 答えを聞いた瞬間アルジードは心臓がギュッと縮み、全身から嫌な汗がどっと吹き出るのを感じていた。魔族の襲撃により壊滅した王都に生き残りがいるという噂…聞いてはいたがエイジャーとは思わなかったのだ。

 

 否。ルルとの出会い方や本人の発言など推察できる情報はそれなりにあったはず、「そんな目に遭った人間が再起できるわけがない」という思い込みが結び付きを拒絶したのである。

 

「わ、悪い…そんなつもりじゃ…女物のイヤリング着けてるの、ずっと気になってたんだけどまさか」

 

「いいんだ、少しずつ向き合えてきたから…これは奥さんの形見。それに俺も謝らないといけない事があるんだ。テンガロンを出発する日その…ルルと手帳を盗み見てしまった」

 

 アルジードはその事を知っていた、というよりもわざと自室に置き忘れていたのだ。湿っぽい身の上話はガラじゃない、だがこの先付き合っていくなら知っていて欲しい思いの丈をそれとなく伝える手段として…もちろんネタ帳なのも事実だが。

 

 なので当然不快に思う訳もないのだが、わざわざ申告してしまうあたりがエイジャーという人物をよく表している。

 誰が考えたのか知らないが、偽名での潜入など長続きするタイプではない。今後そのような役目は自分が請け負おうとアルジードは心の中で決めた。

 

「そっか。じゃあオレが一線超えたこととチャラにしようぜ?これでお互い後ろめたい事はナシだ」

 

「ありがとう。…そうだ、いつも離れて寝てるけどせっかくだから一緒にどう?まだ右半身は空いてるよ」

 

 エイジャーはそう言いながら右手で軽く手招きする。口調や表情にからかっている様子はなく、独りで生きてきた自分のことを本気で気遣っているだけのようだ。

 

 男同士だぞ?と遠慮してみるが主張が揺らぐことはなく…アルジードは観念した風を装いながら身を預けると、ある日突然奪われ、10年以上忘れていた人の温もりに包まれて眠る感覚…懐かしい記憶が蘇り、思わず表情筋がゆるんでしまう。

 

「アルは今までずっと1人で頑張ってきたんだよな…立派だよ。でも薄い繋がりだと思ってる人たちもお前を心配してくれてるはず…人間、意外と真の孤独にはなれないものだよ」

 

「…姫が懐く理由が分かった気がするよ。会ったこともねぇけど…部下たちもあんたが上官で良かったと思ってたはずだ」

 

「そうだといいけどね…そうだ、元だけど部隊の生き残りが1人だけいる。アルと同年代のニーナって子だ。独立部隊として各地を回ってるらしい」

 

「ニーナ…女か。なんで部隊を離れたんだ?」

 

「ストイックな子だったから俺に嫌気が差したのかも…突然抜けて以来会えてないんだ。でも独立部隊に志願したのは俺が関係してるっぽくて…こんな奴には任せられないってことなのかなぁ」

 

 そう語り、自嘲気味に笑うエイジャーの横顔はどこか寂し気だった。

 確かに自分を過度に追い込むタイプはエイジャーの下を好まないかもしれないし、突然離れた事を咎められる立場でもないが…アルジードは起き上がると発破をかけた。

 

「じゃあ確かめに行こうぜ。副団長に言えば会うくらいできるだろ?相手が死んでからじゃ遅い…ってオレが言うまでもないか」

 

「その時は頼りにさせてもらうよ。実は思うような成果が出せずに焦ってるって副団長から聞いてて…俺が会っても逆効果かもしれないけど、何かできないかと思って」

 

 呆れた。自分を突き放した相手にもこれである、一体どこまで甘いのか…

 とはいえ聞いている限りだと失望や嫌悪とは別の理由もありそうな気がして、アルジードはなおさら2人を引き合わせてやろうと密かに誓うのだった。

 

「アルも祖父母のところに行くなら付き合うよ。たった1人の孫なんだ、ずっと心配してるはずだよ」

 

 エイジャーの言葉にアルジードはうぐ、と言葉を詰まらせた。独りで活動していた頃は復讐のためと会わないことを正当化していたが、これからはそうもいかない。騎士団のいる町で世話になる事が増える以上は避けて通れないだろう。

 

 それに生きてる間にケリをつけろと言ったのは他でもない自分…心の奥底では分かっているのだ、このまま会わずじまいで終わるべきでないことは。

 

「実はここから遠くないんだよな…ま、正式な仲間になれたら考えるよ。それより色々聞かせてくれよ、昔話」

 

「ふあぁ…2人ともなんの話してるの?」

 

 いつの間にか話し声が大きくなっていたようで、左脇のルルがもぞもぞと動いて眠そうに瞼を擦っている。彼女を撫でるエイジャーの表情は慈愛に満ちており、まるで親のようだった。

 

「あ、ごめん起こしちゃったね…ちょっとした昔話だよ。町に着いたら少しは時間を作れるはず…続きはそれからにしよう」

 

「「はーい…」」

 

 こうして2人を諦めさせて寝かしつけるとなんだかんだ慣れない野営に疲れていたようで、ルルはもちろんのことアルジードからもすぐに寝息が聞こえてくる…

 普段は必死に背伸びしている彼の表情は安心しきっており、わずかに残る幼さはまだ未成年であることを思い出させる。

 

「さて…夜警なんて久しぶりだ。昔はよくこうやって…みんなからも見えてるだろうか?今の俺は…ちゃんとやれてるかな」

 

 王都を出てからはルルがいることもあり、常にベッドで眠れるようルートを考えていた。久しぶりの野宿に討伐隊時代を思い出してしまったエイジャーは木々の隙間から覗く星にぽつりと呟く。

 

 川のせせらぎに耳を傾け、星空を満喫できる野宿は嫌いじゃないがしょせんは屋外。獣や盗賊、魔族から襲ってくる危険と隣り合わせである。

 夜通し周囲を警戒するついでにアルジードへ披露する昔話を整理しておこう…エイジャーは押し込めていた懐かしい記憶を少しずつ紐解いていった。

 

 そんな彼の下に起きている者が1人…セニもまた聞きそびれた質問の答えに聞き耳を立て、気付けば眠気も消え去って一緒に夜更かしする形になってしまっていた。

 

(やっと話が終わったと思ったら今度は独り言かい…まったく騒がしい連中だ。にしてもコイツが襲撃の生き残り…フン、意外と根性のある甘ったれということか)

 

 立場も心も寝床も離れた2人の夜は静かに更けていく。結局、獣や魔族の襲撃もなく平和な朝を迎えるのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。