テンガロンで盗賊団アラクネの暗躍を阻止し、アルジードという新たな仲間を得たエイジャーは騎士団のいる街イカイサへ訪れた。
しかし街はかつて討伐したボゥトパス、ミイラのような魔族のライミーに襲われ甚大な被害を受け、取り逃がしてしまったという。
討伐隊の中隊長 シエスタを追って森に入ったエイジャーの目に映ったのは、かつて突然部隊を抜けてしまった後輩 ニーナだった…
「しまっ─」
「ウエポンセット!『アンカーショット』!死にやがれクソミイラ!」
全身に張り巡らせた鎖の先端にアタッチメントを装着し、討伐隊の1人に迫るライミー目掛けて射手した。アンカーはうなじに突き刺さると同時に"返し"を展開し、内側の肉に引っ掛けることで多少の事では抜けなくなる。
アルジードは鎖をしならせライミーを振り上げると、そのまま頭から地面へ叩きつけた。ゴキ、と首が折れる鈍い音を発した後、乾燥し骨張った体がだらりと倒れ込む…かと思いきや4本の足で立ち上がり、90度曲がった頭をこちらに向けながらヨタヨタと近付いてくる。
─ア゛…オ゛…
「気色悪!首折っても動くのかよ!?」
「連中は手足の首を斬り飛ばして不能にするしかない!まずは動きの早いヒューゴを殲滅する!手を貸してくれ、右腕!」
ライミーに背後を取られアルジードに助けられた討伐隊の1人 バドロが後ろ足首を斬り飛ばして動きを鈍化させると、乱れた前髪をかき上げて気合いを入れ直す。
「了解!オレはアルジード、長いからアルでいい。あんたも団長の知り合いか?」
「団長…?エイジャーのことか。僕はバドロ。君の報告は聞いていないがずいぶん仲が良いんだな。…そこだ!」
─ホアァァァァァ!!!
鎖を使った派手な攻撃が目に留まったのか、一斉に襲いかかってくるヒューゴの群れを捌いていく。
先端を小さな斧刃に替えた鎖を巧みに振り回して近付かせないアルジードと、暴れ狂う鎖の軌道のクセを読みながら撃ち漏らしを的確に斬り伏せていくバドロ。
出会ってすぐの2人による絶妙なコンビネーションにより、ヒューゴは個体数をみるみる減らしていった。
「よくそんな得物を扱えるな!街に戻ったらさっきの礼をさせてくれ!」
「その約束忘れんなよ?あっちに置いてきた物もある、とっとと終わらせて団長に合流しねぇと…!」
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「先輩!?どうしてここに…?」
一方こちらは2体のボゥトパスに追いついたエイジャーが再会したのは突然部隊を離れ、今は独立部隊として活動している元部下のニーナだった。
だが魔族との戦いで余韻に浸る暇などあるはずもなく、触手のようにしならせて襲い来る根をシエスタが弾き返した。
「そういうのは後にしてくれ!エイ坊!この4人をどう使うかはお前が決めろ!」
「…右の個体はルルとシエスタさん、左の紅葉した個体は俺とニーナで!ルル!打ち合わせ通りの動きで頼む!」
「「「りょーかい」」です!」
4人はエイジャーとニーナ、ルルとシエスタの二手に分かれてそれぞれボゥトパスを引き付け、分断していく。
「おらよっ!」
ボゥトパスの意識が完全に目の前の獲物…自分に集中しているのを確信したシエスタは武器─複雑な紋様が彫られた戦斧を振り回して襲い来る触手を弾く。
「お前がルルか!こんなオッサンと一緒は嫌だろうがしばらく我慢してくれよ!で、アイツはどうしろって?」
「私の秘術で植物の動きをヨクセイできるはずだから、その間に倒すって!」
シエスタはこの状況でもまるで怯える様子がない胆力と、出された指示を忠実に守ろうとするルルの姿勢に感心していた。
記憶喪失で精神が幼くなっていると聞いており、足手まといだからこちらに押し付けたのかと思っていたが…エイジャーが子供を教育できるほどに成長しているのを実感し、少しだけ嬉しくなる。
(さんざん連れ回しておいて目立った傷がねえ…とんでもねえ箱入り娘寄越しやがったな?子守の責任は重大だな…まったくめんどくせぇ)
彼女とは初対面だが伊達に中隊長はやっていない。シエスタは手持ちの情報とルルの武器から己がすべき立ち回りを理解し、頭の中では魔力や体力のペース配分を組み上げていた。
「術の発動にはその弓が必要なんだろ?オレが食い止めとくから一発ぶち込んでやれ!」
そう言って飛び込んでいくと8本あるボゥトパスの触手をたった1人で捌いていく。背丈より長い戦斧は重量級の武器であり、本来の相性はかなり悪いはずだが、刃に近い部分を持ち斧と棒術の2つを駆使して見事に対処していく。
触手に見えてるのは植物の根、断ってもすぐ生やすから意味がない…交戦経験をもとにしたエイジャーの報告はちゃんと活きており、シエスタは回避と防御に専念することで力を温存していた。
「おじさん!避けて!」
準備ができたルルの呼びかけに手を挙げて答えると、横っ飛びに回避して彼女の射線を確保した。
直後、植物に干渉できる魔力が込められた矢が一直線に飛んでいき、無数の枝に覆われたボゥトパスの外殻に突き刺さると、金縛りにあったかのように触手たちの動きが鈍る。
「やるじゃねえか!さっさと片付けるぜ、『ハスカライ戦斧術』…うおっ!?」
動きが鈍ったのを確認したシエスタが戦斧を握り直し攻撃の準備に入った直後、不意に飛んできた枝針が顔面を串刺しにする既のところで回避した。
次に姿を捉えた数秒後にはもう活動を再開しており、戦局は振り出しに戻ってしまう。
「すごいパワー…!おじさんごめん!次はもっと魔力を込めるから!」
「おう気にすんな!3秒だ、3秒だけ止めてくれりゃあカタをつけられる!」
(一瞬とはいえ本当に動き止めちまうとはな…これがアルフ族か。さっさと片付けちまうから死ぬんじゃねえぞ、ヒヨッ子コンビ…)
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「きゃ…っ!」
「『突式・啄木鳥連突』!…ニーナ、大丈夫か!?」
ルル&シエスタの2人が活路を見出していた頃、エイジャー&ニーナペアは操作慣れしたボゥトパスによる8本の触手と枝針攻撃に苦戦していた。
正確にはなんとかついていけているエイジャーと経験不足で翻弄されているニーナ、ではあるが…
「奴の触手を個として目で追っちゃダメだ、全体を視界に捉えつつ近付いてくるものだけに反応しよう」
「…ご忠告ありがとうございます。もう手間はかけさせませんから」
触手たちを迎撃し、足を滑らせたニーナに手を差し伸べるエイジャー。だが彼女は1人で素早く立ち上がると、両手に剣を携えて再びボゥトパスに立ち向かっていった。
再会した瞬間の表情に嫌悪がなかった事から自分に失望して部隊を離れた、という推察が何かの勘違いだったと期待したのだが…共闘に入ってからの彼女は突き放すような態度を取ってくる。
忠告はある程度聞いてくれるがやはり見下されているのかもしれない…エイジャーの心は鉛のように重くなっていた。
「…ルルが心配だ、早く片付けよう。『雷付与…刃式・火喰鳥裂傷』!」
エイジャーは拠点で借りた手斧を触手に突き立てると、雷と腕力で強引に引き裂きながら本体へと迫っていく。精神の影響を受けて魔法の出力は落ちているが、これまでの戦闘で磨かれた肉体がカバーすることで総合的な破壊力に遜色はない。
先に向かっていったニーナを追い越して胴体へ迫ったエイジャーは斧を振り下ろすものの、枝やツタを幾重にも重ねた盾により阻害されてしまう。ヒットストップによる攻撃の隙を突かれ、反撃の体当たりにより大きく吹き飛ばされた。
「…先輩危ない!『双刃・水斬波』!!」
エイジャーの起き上がりを狙った一撃はニーナの衝撃波…否、圧縮した水の斬撃に軌道を逸らされ、エイジャーのすぐ横を通過する。彼女の援護がなければダメージを受けていただろう。
「ありがとう助かった!いつの間に魔法を習得したんだな…」
「…これで貸し借り無しです。こいつの本体は水が弱点でしたよね?何発も撃てるほど魔力に余裕はないのでその…前衛を頼んでもいいですか」
ニーナは目を逸らし、後半になるほど小さくなる蚊の鳴くような声で呟いた。気まずさを感じると極端に声が小さくなる癖…自分への態度が変化し心の距離を感じる彼女だが、本質は部隊にいた頃と変わっていない。
そしてどんな理由であれ、また頼りにしてくれる事がエイジャーは嬉しかった。心に纏わりついていたモノが少しずつ剥がれ落ちていき、体が軽くなっていくのを感じる。
「…もちろん!また頼ってくれて嬉しいよ。活路を開くから魔力を練るのに集中して。タイミングの合わせ方は…覚えてる?」
質問にこくりと頷くニーナに笑いかけると向き直り、姿勢を低く落としたままボゥトパスへと接近していった。
枝針をスライディングで回避し弾いた触手を足場にして駆け上がると、片方の斧を手放してオーバーヘッドシュートの体勢に移行する。
精神的な障害が少し解消されたことで魔法の出力も戻り、足には先程までとは比べ物にならない規模の雷を纏っていた。
「ニーナ!準備を!『突式・駝鳥蹴撃』!」
強烈な脚力により蹴り出された斧は雷を纏いながら回転し、秒もかからずボゥトパスに到達する。しかし予備動作から攻撃を察したのか、再び枝を何層にも編み込んだ盾を構え防御の姿勢をとる。
駝鳥蹴撃はエイジャーが扱う技の中で最も突破力に優れたものである。雷を纏った斧はバキバキと音を立てながら枝を食い破り、または焼き切りながら突き進み盾を真っ二つに破壊した。
しかし盾により失速した斧は威力を維持することができず、弱々しく鎧に刺さるだけとなった。
「先輩の攻撃を防ぎきった!?」
「止まるなニーナ!そのためのもう1本だ!『駝鳥蹴撃』!!」
空中でそのままもう片方の斧をその場に放ると再びボゥトパスへ蹴って寄越した。
本人は自覚していないものの、これまでの戦いで数々の無茶をしてきたエイジャーの身体能力と魔力は王都が滅ぶ前よりも格段に成長しつつある。以前ならば魔力の枯渇が近づいている頃だが、今はまだまだ余裕といったところだった。
二撃目を予想していなかったボゥトパスは触手で防ごうとするが間に合わず、植物の鎧で直に受けると以前の戦いと同じようにミイラのような素体が露わになった。
「奴を倒すのは君にしかできない!あとは任せた!!!」
(…!!!)
「生命のはじまりを司る水の精霊たちよ…わたしの声が聞こえるくらい、煩いものをすべて凪げ!『災禍斬水』!」
ニーナの叫びに呼応した精霊たちが、両手に握られた剣に水を纏わせていく…水魔法はエイジャーやガラナが用いる技術のように自由には操れないが、水のない場所でも発生させられるという明確な強みがある。
ちなみに彼女の場合は生成する水量が少ない代わりに圧縮する技術に長けており、剣を両手に持つせいで火力に乏しいニーナの戦闘スタイルを補うのに最適な変化をもたらしていた。
「『双刃・奔流突き』!!!」
事前に本体の情報を得ていたからか覚悟の違いか、ミイラのような容姿をしたグロテスクなボゥトパスの素体に臆することなく刃を突き立てようと飛び込んでいく。
双刃・奔流突き…纏った水を剣先に集中・圧縮し、地面を強く踏み込んで敵を貫く技。部隊にいた頃は騎士団の基本的な剣術を使っていたが、魔法を交えた自分だけの動きを開発したようだ。
しかしエイジャーは彼女の踏み込み方が気になった。どこかで見覚えがある、と言った方が正しいかもしれない。あれはまるで…
「こいつ…押し返してくる…っ!?先輩!手を貸してください!」
ニーナの呼びかけで我に返り地上を見ると、なんと彼女の突きを素体が食い止めている姿が目に映った。エイジャーは荒れ狂う触手を足場にして着地すると、すぐさま彼女を後ろから支える体勢に入る。
以前戦ったボゥトパスの素体は硬すぎて物理的なダメージが通らない代わりに水に弱く、ガラナの技を用いた水の槍で貫いたのだが…エイジャーとの戦闘で学習してしまったのか、なんと突きを白刃取りで受け止めているのである。
「なんて力だ押し切れそうにない…そうだ!ニーナ、ちょっと失礼…」
「えぇ!?こんな時に何考えてるんですか!フケンゼンですよ!」
「違うって!刃が届かないなら水自体を伸ばすんだ!少し集中するからそのまま押し込んでいてくれよ…」
エイジャーは後ろから抱くような形で手を包み込むと目を閉じる。ニーナの水を生成・圧縮する力とガラナの水そのものを操る力…2つの力を繋いでパイルバンカーのように撃ち込むイメージを思い浮かべて。
ガラナとカッチン…後者の技はまだ扱えないが、この指輪には絆を結んだ相手に呼応し、力の一部を引き出す何かがある。それならば近い技術…水魔法を扱うニーナに直接触れることでお互いの能力を繋げないかと考えたのだ。
だがこの作戦は完全な思いつきであり何の根拠もないし、ルルのように反応しないパターンもある。
それでも試そうと思ったのは…かつての部隊が壊滅し、1人だけになってしまったニーナとの絆が残っているか確かめたかったのかもしれない。
ルルがコンプレックスを抱いた際、指輪の反応をアテにするなと言っておいてこれである。結局のところ、誰もが分かる形での繋がりを求めてしまうものなのだろう…
己の情けなさに自嘲気味に笑うエイジャーを慰めるかのように、指輪の石が青く染まっていく。ガラナの力を引き出す時と同じ反応だが直感で分かる…今の自分は2つの力を宿していることを。
「…!ニーナ、最大出力だ!君と俺の力を繋いで奴を倒す!」
「力を繋ぐ?…いいえ、こういう時こそ頼りになるのが先輩ですもんね。信じますから決めてください…『災禍斬水』!!!」
ニーナが魔力を惜しみなく解放すると、剣先に纏う水量と密度が増えていく。ここから彼女の表情は見えないが、エイジャーは魔力を通して互いの心が通じ合っているのを感じていた。
「ニーナ、ガラナ…2人の力を借りるぞ!『破激流槍』《ランツィーア・グランデ・トーレント》!!!」
「「いっけぇぇぇぇぇ!!!!!!」」
ニーナが生成・圧縮した破壊力の高い水をガラナの力でコントロール下に置き、両者をエイジャーが繋ぐ。剣先から射出された超圧縮水流はボゥトパスを貫くと同時に浸透し、肉体を瞬時に腐敗させていった…
主を失った植物たちがその場に崩れ落ちたことで勝利を確信し、緊張の糸が切れてへたり込もうとするニーナをエイジャーが受け止めた。
目が合った2人はなんだか可笑しくなり、これまでのギスギスした空気が嘘のように和やかな表情で笑い合う。その光景はまるでかつてのエイジャー部隊が戻ってきたようだった。
「エイジャー大丈夫?なんかすごい音が…あーーーーっ!?」
そこへもう1体のボゥトパスを倒した2人が駆けつけてきた。他の女と密着し、いい雰囲気になっているのを目にしたルルが許すはずもなく…エイジャーに駆け寄るとニーナから引き剥がし、浮気者の肩をポコポコと叩いて不満を表明する。
「ちょっ痛…これは誤解だ!技の反動でこうなっただけで…!」
「そ、そうです!そんなフケンゼンなつもりはありません!」
「せっかく助けに来てやったのにお前たちはよぉ…おっ始めるにしても場所くらい…誰だ!」
痴話喧嘩に呆れるシエスタの第六感が何かを感じ取り、戦斧を構える。一拍遅れて3人も臨戦態勢に入ると森の奥から異型の影がゆらり、ゆらりとこちらへ向かってくるのが見えた。
『オキニイリ ミンナ コワサレチャッタ…』