Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 意思疎通ができる魔族のクネペパを倒したエイジャーに流れ込んできたのは猟奇趣味の父親を殺し、自らも生命を絶った幼い子供の記憶だった。
 善意と禁断症状によって起こしたルルの荒療治は重いPTSDを患ったエイジャーの心を無理やり融かし、完全ではないが復活を遂げる。

 さらに自分に失望して部隊を離れたと思っていたニーナとのすれ違いも解消。人々と繋がっている絆の存在を改めて実感するのであった…




38話 従属呪文«イペルヴ»

『…なるほど、報告お疲れ様でした。ニーナの独断専行については功績も加味して処分を決めましょう。それにしても安心しました、回復にはもっとかかると踏んでいたものですから』

 

「まだトラウマを完全に克服したわけではありませんが…尻を蹴飛ばしてくれる仲間がいるので」

 

 翌日…クネペパから流れ込んできた記憶を克服しつつあるエイジャーは前回から今日までの報告と、ニーナがもたらした"死体を操る少女"について情報共有をしていた。

 

『君の周りには強い女性ばかり集まりますねぇ…そうだ、アラクネ盗賊団の件で共有事項が。シドが拠点を制圧した際に拉致された技術屋と設計図を見つけたそうです』

 

 アラクネ…親の仇である盗賊団の名を聞いたアルジードに鬼が宿る。

 

 前にテンガロンの町で交戦した2人の幹部が壁に吸着するグローブ、感覚を狂わせて接近に気付かせない薬という非常に珍しい道具を用いてきたことがあった。

 

 サノヴァ商会を通じて交易の街 ツケンサに怪しい取引がないか調査を依頼していたのだが…大手はともかく個人商会の販路まで辿るのには時間がかかるという報告を受けたばかりだったのだ。

 

『独自生産ならば流通網にかからないのも説明がつきます。設計図はアラクネが用意したものですが全員が自害したため出所は不明…現在イソーにて解析を依頼中です』

 

 イソーとは各地から様々な技術を集めて研究・開発している都市である。騎士団が使う通信機やカウボーイたちが使っていたライフルもここで生まれたものだ。

 

「技術は特定勢力のために存在してはならない」という理念に基づいて派閥としては独立しているものの、用心棒の1つとして騎士団を置いている特殊な繋がりを持つ。

 新しい技術に飢えている人間が集うイソーに持ち込むのは正しい判断だろう。

 

「あんな道具を作るには特別な材料が必要なはず。魔力を使ってるように見えたから珍しい鉱石とか…であれば取引先も限られてくるのでは?洗う販路のアプローチを変える必要があるかも」

 

「あるいは自分たちで直接採掘しちまうとかな。あの辺でデカい採掘場っつぅとロックリフが怪しくねぇか?騎士団が常駐してない場所だから連中も動きやすいはずだぜ」

 

「奴らは慎重だから採掘には拐った人を利用しているかも…不慣れな人間が出入りしていたら常連たちの目にも留まるはず」

 

 連想ゲームのように次々と意見を出し合う2人のやり取りを聞きながら、グレナルドは通信機越しで大いに感心していた。

 

 現在の進捗からカギとなる部分を見つけて考察するエイジャーと、臆することなく反論しつつ具体例を挙げるアルジード…実践的な思考力もさることながら、醸成しつつある2人の信頼関係をよく表していた。

 

『ロックリフにてアラクネの足取りを調査…いい視点ですね。その手の地形に明るい者が近辺に展開していますが、彼らに顔を知られている恐れがあります』

 

「ここから向かえなくもない位置だな…オレなら潜入できるかもしれねぇ、手伝わせてくれよ副団長さん。疎遠になってるジイさんたちの家が近くにあるから寄ろうと思ってたし」

 

 エイジャーはここから遠くない場所に生まれ故郷があるという話を思い出し、彼の進言を後押しした。危険な旅に付き合わせる事も含め、自分も家族に挨拶をするのが筋だと思っていたからだ。

 

(あれ?そういえばアルの合否について聞いてないような…)

 

『分かりました、彼らには不審な出入りがないか先に見張らせておきましょう。ところで君のお姫様はずいぶん静かですね。お昼寝ですか?』

 

「この部屋にいないんです。今は─」

 

─────────────

 

「髪が短いと洗いやすくていいな〜。わしゃわしゃしたらダメってミーシャに言われたしめんどくさいんだよね…私も切ろうかな?」

 

「ちゃんと考えてから切ったほうがいいですよ。その長さに戻すのは大変でしょうから」

 

 時を同じくして…拠点の風呂場にてルルがニーナの髪を洗ってあげていた。

 

 エイジャーが渡した丸薬は骨に入ったヒビをみるみる治癒してしまい、一晩寝ただけで半分ほど修復というとんでもない回復力を見せたのである。

 

 とはいえ自由に動かせるほどではないし、折れた足の回復にはまだまだかかる…病院は急増した怪我人の対応で忙しく、洗体を憲兵の男たちに頼めるわけがない…そこで知り合いで女性、かつ暇していたルルを借りて洗ってもらうことにしたのだ。

 

 実はクネペパと戦う前から遠征が続いていたニーナはしばらくまともに体を清めておらず、非常に落ち着かない日々を過ごしていた。

 騎士団としてそれ自体は珍しくもないのだが…久しぶりに会えた尊敬する人の前では綺麗でいたいというのが乙女心だろう。

 

「ルルさんの髪ってとても綺麗ですよね、それに肌も…正直、わたしはあなたの事が好きじゃありませんでひゃぁっ!?」

 

「んーミーシャの方が大きかったな…やっぱり大きい方がいいのかな?」

 

 綺麗な体を持つルルに思わず漏らした独白を無視し、躊躇なく身体をまさぐってくることに困惑しつつも、頼んだ手前強く文句を言いにくいニーナはため息をついた。

 

「そ、それは男性の趣味によると思いますけど…」

 

 実のところ、ニーナは彼女の事を快く思っていなかった。これは実際に会う前の話である。

 

 強くなってエイジャーを隣で支えたい…その一心で自分を変え、血を吐くような努力をしてようやく正式に入団し夢に近付いたニーナ。

 だが現実はなかなか上手くいかず支えるどころか甘えてばかり…このままでは足を引っ張るだけだと部隊を離れた彼女はさらに努力と小傷を重ね、ついに魔法まで使えるようになった。

 

 そんな矢先に届いた報せが王都の壊滅である。生死も分からぬ彼の安否に神経をすり減らし、ようやく動向が掴めた時にはすでにルルがいた。

 彼女がずいぶんと大事にされていると聞いた時、胸の奥から言葉にならない感情が込み上げてきたのを覚えている…こんなに頑張ってる自分を差し置いて、どうして彼女なんかが、と。

 

 元来ニーナは人を恐れる気質のため、好意の向け方に不慣れである。エイジャーは尊敬する恩人という自分の定義と、信頼だけでなく愛情も受けている、ように見えるルルに対して感じる嫉妬との矛盾が不愉快でならなかった。

 

 彼女を見ているとこれまで自分を支えてきたアイデンティティを壊される気がする…それが快く思えない理由だった。

 

「あ、それとエイジャーはあげないよ?私がいないとダメダメなんだから」

 

 心を見透かされたようなタイミングでルルから放たれたとんでもない牽制に、ニーナの心臓が大きく跳ねた。

 

「…!?は、はっきり言いますね…」

 

「本当のことだもん。でも私もエイジャーがいないと生きられない。だからニーナにはあげない」

 

 ルルと実際に会ってみて、2人の様子を見ている内に理解できたことがある…彼女にはエイジャーの弱さと正面から向き合った上で、容赦なくぶつかっていける強さがあること。

 

 それはエイジャーという人間を神格化するあまり彼の繊細さ、弱さから目を背けているニーナには絶対にできない芸当だった。妻のサーヤに対してもきっと、同じように嫉妬していたのだろうと今なら分かる。

 

(対等にぶつかる勇気もないのが悪いのに嫉妬して…見苦しいなぁ、わたし)

 

「あ、でも会う前から心配だ〜って言ってたし、嫌われてないって分かったらすごい安心してたよ?だからニーナの事も大事なんだと思う。…エイジャーそんなのばっかりだけど!ほんとに浮気症で困っちゃう」

 

「昔からそうでした。人に愛情を振りまきながら、自分は愛情を受け取る資格がないと思ってるんです…まさか王都を出てからも?」

 

「そうだよ?たとえばアルフ族の綺麗なお姉さんにデレデレして─」

 

 人は共通の敵を持つと強くなる…お互いが知らない女性遍歴を共有している内に、密室の2人は少しずつ打ち解けていくのだった…

 

─────────────────

 

『最後にエイジャー君が復帰するまで保留にしていたアルジード君の試験結果を伝えましょうか』

 

「よっしゃ来た!で、どうなんだ?」

 

『町村に対する諜報や今回の作戦で見せた戦闘力、どれも申し分ありません。特に戦闘力については共闘したシエスタ、バドロ両名からかなり好評でした』

 

 エイジャーがトラウマに苦しんでいる間、グレナルドは先の戦闘についてシエスタから前もって報告を受けていた。

 暗器を使いこなす技術や魔族への対処、拮抗していた状況をひっくり返した功績などを根拠に、エイジャーの右腕として必要な人間だと強く推薦してくれたのである。

 

「へへっお褒めいただき光栄だね。じゃあオレは合格ってことで─」

 

『その前に。君は盗賊狩りをしていたそうですね。その過程で殺しも厭わなかったと聞いています…違いますか』

 

 唐突な質問にアルジードの表情が一瞬強張った。この場面で質問を持ち出してくる意味を察したのだろう。

 

 アルジードの盗賊狩りには私怨が含まれている事を忘れてはならないが、コミュニティが対処しきれずに生まれた被害者の救済・被害の拡大予防に貢献していた功績がある。

 まだ若いということもあり、エイジャーは過去を強く咎めるのではなく諭すことで改善してもらおうと考えていた。

 

 一方で本来であれば騎士団や町の自警団といったコミュニティ側の人間が対処すべき問題を個人の裁量で、しかも殺しまでやっていたというのは副団長であるグレナルドにとっては無視できない点である。

 

 民間人の立場で考えるエイジャーと秩序の立場で考えるグレナルド…絶対的な正解がない問題にあるのは、どちらに寄り添った思想で手打ちとするかという灰色の回答しかない。

 アルジードが質問について肯定するとグレナルドはさらに続ける。

 

『苦しむ民がいるのは我々の責任です、君を罰する気もありません。なのでこうします…殺しという手段が身近にある君と可能な限り不殺を貫くエイジャー君でこの先やっていけますか?また、どちらの思想に合わせますか?』

 

「異様に甘いとこも含めてオレが選んだボスだ、この人の決断に着いていく。…だが本物の仇を見つけた時まで素直に聞けると思えねぇ。譲れない時は妥協点を探していくよ」

 

 あまりの即答ぶりにグレナルドが感嘆の声を漏らしているが、それ以上に驚いていたのはエイジャーだった。ネタ帳に書かれた想いは把握していたが、短期間でここまでの忠誠心を抱かれているとは思っていなかったからである。

 

 野宿の際、孤独に生きてきたと思っている彼に人との繋がりを実感させたことがかなり響いているのだが…エイジャーにとってはよくあるお節介の1つであり、理由が思い当たることはなかった。

 

『なるほど。フフ…素晴らしい原石を見つけたようですね。いいでしょう、エイジャー君との同行を正式に認めます』

 

「本当ですか!?でも"同行を認める"って…入団ではない?」

 

 エイジャーの疑問は至極真っ当である。

 保護した民間人という扱いのルルはともかく、実働が前提のアルジードを騎士団として認めないのは一方的な利用になりかねない…そもそもこれは入団試験だったはずである。

 

 グレナルドは異を唱えるエイジャーを宥めると、その判断の理由を語り始めた。

 

『彼は君の下にしかつく気が無いのですよ。だから騎士団として縛られるのはベストではない…そう察したのですがいかがでしょう?』

 

「…正解。顔も見てないのにすごいなあんた…でも大丈夫なのか?民間人のまま巻き込んだらあんたの地位にケチがつくんじゃねえのか」

 

『ご心配いただきありがとうございます。ではエイジャー君を通して申請した時のみ権限を有効とする…これでいかがでしょう?』

 

 どうやらエイジャーが自らの裁量で雇ったというテイにしつつ、大元の権限をグレナルドが管理することでアルジードの微妙な立場を認めようと考えているようだ。これならば騎士団と遜色ない行動ができる上に、意向のすべてに従う必要はなくなる。

 

 半ば屁理屈のような案ではあるが…王都の壊滅により弱体化した騎士団の戦力を増強するためのフラッグシップモデルにする狙いもあるのだろう。

 2人が案に賛成し、それを聞き届けたグレナルドは満足そうにウンウンと声に出して頷きを表現した。

 

『それではアルジード・ナルム!副団長グレナルド・ベルコの名において、権限の一部付与とエイジャー・グラムへの同行を認めます。…彼のことを頼みましたよ』

 

「おう!…ところで前から気になってたんだが…各地を守ってるらしいあんたの術ってなんなんだ?」

 

 そういえば以前にも何度か聞かれたものの、その度に邪魔が入って説明していなかったことをエイジャーは思い出した。

 特に隠すものでもない…むしろ脅威を示してこそ輝くものだけに、グレナルドもあっさりと答える。

 

『私が指定した人や物に害意を持つ者たとえば…魔族や盗賊に"だけ"反応するトラップ魔法ですよ。先日の襲撃のように想定を超える大群で来られると厳しいですが』

 

「…ん?魔法で引き起こせるのは自然現象だけだろ?精霊がどうとか…そんな事できるなんて初めて聞いたぞ」

 

『まだ普及していませんからね。今後見る機会が増えるかもしれません、君にも情報共有しておきましょうか』

 

 こうしてグレナルドは己の技術について説明を始めた。

 

 発端はクーデターで破壊される前、実家の書庫で見つけた古い資料…そこにはかつて魔力に特定の性質や指示を与えることで精霊を介することなく、多種多様な事象を引き起こす技術が存在したという記録が載っていた。

 

 資料の破損により解読できない部分が多い中、見様見真似で発現させたのが"トラップ魔法"と"大跳躍"。

 我流で取得したため技術の継承が困難な上に、扱いが困難であっという間に枯渇するため修行も許可制としていた…というのが使い手が少ない原因だった。

 

『大跳躍は圧縮した魔力を用いて目標座標へ体を弾き飛ばすものです。耐衝防壁も貼らねばならず、魔力の消費が激しいので滅多に使いませんが…資料ではこれを【従属呪文】«イペルヴ»と呼んでいました』

 

「イペルヴ…団長の水を操るアレもそうか?」

 

 アルジードの問いにエイジャーは肩を竦めた。決して適当に返事をしているわけではなく、どちらとも言い切れないからである。

 

 前述の通り、従属呪文と呼ばれるそれは魔力に特定の指示や性質を持たせる技術である。

 グレナルドが魔力に「硬化」の性質変化と「自動迎撃」の指示を組み合わせてトラップを作っているように、本来の魔法では説明がつかない挙動を可能にするのだ。

 

 一方でシエスタの鎌鼬を回転刃にする技術は風としてはあり得ない持続性を持つのだが、これは「いちいち風を起こすのが面倒」という怠情から発現した従属呪文とも、そういう進化をした魔法だとも言われておりはっきりしない。

 

 "得意とする魔法や性格に由来するものが発現しやすい"という法則性が見えてはいるものの例が少なく、確実に従属呪文と言えるケースは今のところ稀である。エイジャーの場合は借り物の力なのでなおさらだった。

 

 ちなみにエイジャーは従属呪文の修行を許可されていない。それは実力が不足しているから…ではなく、無理をして倒れるのが目に見えているからだった。

 

『その力はガラナ君と同じもの、指輪を介してのみ発動するそうですね。解明できれば他にも活かせそうですが古い品です、頼れる学者や文献を失った今では…』

 

「在野にもすげぇマニアはいるもんだぜ?"イソー"に古い技術を扱うジイさんがいるし、遺物なら"サイタン教"の連中に資料ガメるって手もある」

 

 サイタン教という団体は聞き慣れないがアルジードが出入りできるのだ、問答無用で排除されるような体質ではないのだろう。どちらにせよ、彼の顔の広さに頼ることになりそうだ。

 

『調査する余裕ができたら君の人脈に頼らせていただきましょう。まずはロックリフでアラクネの痕跡がないか探してください。私は─』

 

「ただいまー!ニーナが貸してくれた石鹸すごくいい匂いがするんだよ!どう?どう?」

 

 グレナルドの話を遮るように入浴を終えた2人が部屋に入ってきた。ルルはエイジャーを見るや車椅子を放棄し、抱きついて匂いをこすりつける。

 元々ほのかに良い香りがする彼女だが、石鹸との相乗効果で鼻腔を心地よくくすぐられる…などと思わず気を緩めていると、置き去りにされたニーナから突き刺すような視線が向けられていることに気付いた。

 

「聞きましたよ先輩…各地でずいぶんとお楽しみだったそうじゃないですか」

 

「お楽しみって…如何わしいことは何も…ルル?ニーナにどんな話をしたんだ」

 

「知らなーい♪」

 

「ルルさんまで侍らせておいてフケンゼンはダメですよ、先輩」

 

 ニーナの表情は言葉とは裏腹に柔らかく、何かが吹っ切れたかのように爽やかなものだった。今まで見たことがない一面に驚いていると、今度はルルからの冷たい足踏みが突き刺さる。

 

「今ちょっとドキドキしてたでしょ!浮気者!」

 

「ありゃ女として見てたな。姫が可哀想だぞ団長」

 

「アルまで…!確かに珍しい表情に驚いたけど決して疚しい感情は…痛い!」

 

『痴話喧嘩を遮って申し訳ないのですが…シドには引き続きアラクネの足取りを追わせます。それとサノヴァ商会に通信隊を置き、君に頼らずとも迅速なやり取りができる体制を構築しました』

 

 曰くツケンサは反王政の街なので拠点を置くことができず、商会の代表であるグルーノイもエイジャー以外が常駐することに首を縦に振りたがらなかったらしい。

 

 そこで商会の部屋と販路を提供する代わりに、用心棒として騎士団を貸し出すという交換条件が成立したのだという。

 お気に入りのエイジャーに対しては気前のいい彼だったが、それ以外の相手には抜け目のない商人らしく…交渉にはずいぶん苦労したと愚痴をこぼすグレナルドを労った。

 

「お疲れ様です副団長…こちらは準備ができ次第ロックリフへ向かいます」

 

『戦闘が予想される調査です、助っ人がいるとはいえ準備を怠らないように。…それでは』

 

「そういえば師匠元気かな?あれから繋がらないね」

 

 師匠?と首をかしげるアルジードに旅の途中で行き倒れているところを助けた少女 アリッサについて説明した。

 おカタい実家と真っ向からやり合うため、まずは社会経験を詰むとしてサノヴァ商会の手伝いをしている彼女だったが…なかなかタイミングが合わず、別れて以来連絡が取れずにいた。

 

「元気とは聞いてるけど心配だな、俺が焚き付けた事でもあるし…会うのは難しくても声くらいは聞きたいね」

 

─あの、そこの騎士様がた…

 

 突然背後から聞こえてきた声に3人が振り返ると、部屋の入口にはいつの間にか金髪の少女が立っていた。

 どう見ても戦いとは無縁そうな顔立ちや長く整った髪はこの場に似つかわしくないが、車椅子で放置されているニーナが警戒していないように侵入者という風でもない。

 

「突然御声掛けして申し訳ありません。失礼を重ねてしまいますが、内密にお願いしたいことが…」

 

 何者かと問おうとしたその時…憲兵隊の小隊長 ダグが血相を変えて部屋に飛び込んできた。

 

「ここにいらっしゃいましたか…またお父様に叱られてしまいますよ」

 

「ダグさんこの方は?憲兵…じゃないですよね」

 

「ああ、みんなは知らなかったな…こちらはかつて1つの国だったこの街の長…つまり王族の血を引くお方だ」

 

「それじゃあまさか、お…」

 

「「「「お姫様!?!?」」」」

 

 隣で汗だくになっているダグもお構いなしに、少女は小さく、上品に手を振って4人に挨拶をした。

 

「英雄の皆さまご機嫌よう♪わたくしエリザと申します。仲良くしてくださいね♪」

 

 

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