Regain Journey   作:G-ラッファ

41 / 96
前回までのあらすじ

イカイサの街に滞在しているエイジャーはクネペパを倒し、流れ込んできたトラウマもある程度克服したことをグレナルドへ報告することができた。

アラクネ盗賊団が技術者を拐って使役しているという情報を得、正式な同行許可を得たアルジードにより次の目的地がロックリフ鉱山に決まる。そんな最中、街の王族の末裔 エリザが突如拠点に現れて…




39話 エイジャーVSアルジード 姫様の戯れ

─彼らが例の魔族たちを倒してくれたらしいぞ

 

─姫様のいつものに巻き込まれて可哀想に…

 

─アツい勝負がもっと楽しくなる酒はいらんかねー!記念価格でちょっと安くしておくよー!

 

─おっ!いいねぇ。どうせだし賭けもやらないか?

 

「まさかこんなに人が集まるとは…」

 

「いいじゃねえか団長。ギャラリーは多い方が楽しいぜ」

 

 ここはクネペパの襲撃によって被害を受けたイカイサの街…建物が破壊され殺風景になってしまった地区を転用して作られた即席のフィールドで、エイジャーとアルジードが向かい合っていた。

 周囲には2人の戦いを見に来た人々が集まってきており。設置された特等席ではルル、シエスタ、ニーナそして元凶であるエリザが試合を待ち侘びている。

 

─────────────

 

「2人で試合をしてほしい…ですか?」

 

 突如騎士団の拠点に現れたエリザ…この街が小さな国だった頃の王族の血を引く少女 エリザ・ボアロード・イカイサは、魔族の襲撃によって消沈している民への娯楽として、2人に決闘を演じてほしいと頼み込んできたのである。

 

「理屈は分からなくもねぇけど…他の奴らじゃダメなのか?」

 

「はい♪街を襲った恐ろしい魔族の群れを退けたアルジード様と、その首領を倒したエイジャー様の逞しいお姿を見てこそ!皆さまを勇気づけられると思うのです!」

 

 エリザは輝きすぎてシイタケのようになった目で2人に迫る。

 

 エイジャーは把握していなかったのだが、ミイラのような容姿のライミーやボゥトパスの軍団が起こした襲撃は街の人々を萎縮させ、中には奥部の避難所から出られないほど傷付いた人もいるのだという。

 

 そこで英雄たちの戦いぶりを寄せ餌にし、彼らが再び外へ踏み出すための一歩を作ってほしい…という事だった。

 

(ちょっと強引ではあるけど…傷付いた人々を励ましたいって気持ちには応えてあげたいな)

 

「お嬢様、水を差すようで申し訳ないのですが…責任ある立場として本音も伝えるべきだと思いますよ」

 

 彼女を追ってきたダグの一言に「ぎくり」と声に出して反応し固まるエリザ。事情を知らず不思議そうに眺める2人の視線に耐えられなくなったのか頬を赤らめ、観念したように本音を告白する。

 

「…実は汗を流す殿方を見るのが大好きでして…個人的な目の保養も兼ねております…」

 

 お姫様にしてはなんとも俗っぽい趣味と動機を聞いたエイジャーが彼女へ抱いていた敬意が消えていくのを察したのか、追及する側だったダグが慌てて彼女のフォローに回る。

 

「娯楽で励ましたいというのは本当なんだエイジャー。それに君はトラウマがある…ここで動きを確認してもいいだろうと思ってな。許可はこちらで取っておくから頼まれてくれないか」

 

「夜は宴も計画しておりますわ。皆がまた明日から頑張れるように、盛大で賑やかな1日にしたいのです」

 

 エリザの目は真剣でまっすぐだった。己の性欲を満たすためというのが相当なノイズではあるが…傷付いた人々が前を向くための手伝いと考えれば断る理由はない。

 

 アルジードもこちらの判断に委ねるという事だったので、彼女のおねだりを受け入れたのだった。

 

───────────────

 

「2人とも頑張れー!」

 

 装備の確認をし終えた2人は特等席から囃し立てるルルに手を振って返事をすると、改めて位置についた。

 

 今回はあくまで娯楽、必ずしも実践的な動きをぶつけあう必要はない。"客席を盛り上げてくれ"というオーダーもあるため、どうすれば盛り上がるかをみんなで考えてきたのだ。

 

 実況・審判を行う事になったダグが手を挙げて、試合開始の合図を出そうとしていた。

 駐在する街の政治に関わることもある憲兵隊の長として、権力者のワガママに付き合うのも立派な役目である…そう語る背中はずいぶんと疲れており、日頃から振り回されていることが察せられた。

 

 彼の中間管理職の悲哀にも報いるべく、人々を元気付けなければならない…お互い経験がない戦い方ではあるが、2人のやる気は十分だった。

 

「これよりイカイサを救った英雄 エイジャー・グラムとアルジード・ナルムによる試合を行う!両者…始め!」 

 

「オレから行くぜ団長!『スティールチェーン』!」

 

 開始のゴングが鳴るやいなや、アルジードは武器を奪うべく鎖を射出して先手を取ってきた。

 

 素人の目でも追えるように手加減しているとはいえ、日々の手合わせで何度も使ってきた鉄板の動き…エイジャーはわずかに移動して軸をずらすと、飛んできた鎖を剣であっさりと叩き落とす。

 2人にとっては大した事ない一連のやり取りだが戦いと無縁な人々には高度に見えるようで、あちこちから上がる歓声に調子が狂ってしまう。

 

「お前の武器は服に仕込んだ鎖…弱点は近距離とみた!行くぞ!」

 

 今度はやや演技がかったセリフとともにエイジャーが仕掛けた。姿勢を落として被弾面積を減らしながら急接近して格闘戦に持ち込む…これは主催者であるエリザへのサービスでもあった。

 

 こちらの動きをある程度知っていて、いなしてくれると信用しているアルジードであっても殴る瞬間にわずかな抵抗が生まれてしまう…やはりクネペパに打ち込まれたトラウマは完全には克服できていないようだった。

 

(オレの体は鎖で守られてる、体術じゃ絶対に死なねぇから大丈夫だぜ団長)

 

(ありがとう…この試合で慣らしていくよ)

 

 エイジャーはストレート、フック、ハイキックと通常体術を繰り出しながら、トラウマによって引き起こされる感覚のズレを修正していく。"当てる"感覚に慣れさせるため、アルジードも回避ではなく防御に徹し続けていた。

 

「あぁっ!お2人の鍛え抜かれた肉体がぶつかり合い、飛び散る汗が煌めいておりますわ!た、たまりません…!」

 

(おいおい大丈夫かこの姫様…エイ坊の野郎だいぶ動きが鈍いな…まだ本調子ではねぇか)

 

 興奮で鼻息が荒くなっているエリザと対照的に、シエスタは中隊長としての立場から冷静に2人の試合を眺めていた。

 

 現状でもチンケな族や魔族程度なら対処できるかもしれないが…彼が相手をするのは最も厄介なものばかりである。今のままでは通用しないだろう…そう分析していた。

 

「そんなつまらねぇ体術じゃなくて本気でやろうぜ団長!『レシャリ』!」

 

 アルジードは鎖の防御力を利用して蹴りを弾くと距離を取って瓦礫を駆け上がり、足首の付け根でエイジャーの首を狩るべく飛びかかってきた。

 このまま受ければ大怪我を負いかねない危険な体術だがもちろんアルジードも加減している。エイジャーは首を狙った空中回し蹴りを掴むと、その勢いを利用して投げ飛ばした。

 

─おおっすげえ!白髮の兄ちゃん身軽なんだな!

 

─黒髪の方もあれをカウンターできるなんてさすが英雄だぜ!

 

(視線がこそばゆいな…攻撃時に起きる感覚のズレは大体掴めてきた。次は…)

 

「先輩が剣を抜いた!でも大丈夫でしょうか。まだトラウマが…」

 

「へーきへーき。また上に乗ってぎゅってすれば元気になるから!今度はニーナも混ざる?」

 

「………やめておきます」

 

 エイジャーは剣…もちろん斬れないナマクラである…を構えると、体勢を立て直したばかりのアルジードへ急接近する。

 彼もまた腰に刺していた2本のナイフを逆手持ちで構えると、エイジャーのまっすぐな一振りを余裕の表情で受け止めた。

 

(それくらいの力加減ならいくら打ってきてもいいぜ。でも雷の暴発はやめてくれよ?丸コゲになっちまうからな)

 

 頷いたエイジャーは様々な太刀筋で攻め立てていき、アルジードもすべての攻撃をいなしていく…

 

 エイジャーがトラウマによる抵抗に慣れるほど2人の剣戟は激しさを増していき、それに釣られて観客のボルテージも上がっていった。

 家を壊され、始まる前は暗い顔をしていた人さえも熱狂の中にいる様子を見て、エリザは嬉しそうに微笑む。

 

「わたくしは姫と言っても妾の子の生き残り、決して高貴な存在ではありません…ゆえにこのような事しか思いつきませんが、皆さんが喜んでくださるならそれでよいと思っています」

 

(上に立つ者の矜持ってやつかねぇ…高貴な血ってのも楽じゃねんだなぁ)

 

「会場も盛り上がってきたしアツいのいっとくか!セット!『ファイヤーダンス』!」

 

 アルジードは鎖の先端に可燃性の物質を突き刺すと、なんと火を付けてヌンチャクのように回し始めた!もはやショーの演目にしか見えないが、格闘戦から切り替わった分かりやすい華やかさに観客は大喜びしている。

 さらにヒートアップする観客と対照的にエイジャーの顔は青ざめていた…こんな事をするとは事前の打ち合わせに無かったからである。

 

「さっさと対処しねぇとヤケドするぜ団長!さあどうする!」

 

「熱っ!どうしていきなりこんなことを…まさか!」

 

 今回の試合は娯楽である。ゆえに可能であれば魔法のような、派手な演出も取り入れてほしいと頼まれていたのだが…

 エイジャーのそれは雷なので、どんなに出力を弱めても相手を傷付けてしまう使いにくい代物だった。全身に金属を纏っているアルジードならなおさらである。

 

 しかしエイジャーには自分の力ではないものの、もう1つ派手に扱えて、出力次第では安全なものがある。燃え盛る鎖をかわしながらフィールドに不自然に用意された樽を開けると、そこには水がなみなみと入っていた。

 

(やるなら最初から言ってくれればいいのに…見世物にするのは忍びないけど…ガラナの力、使わせてもらうよ)

 

「『ダーナクア・ヴォルヴィーク』!!」

 

─なんだあれは!?黒髪お兄さんの手が光ってる!

 

─ダーナ…?初めて聞く言葉だ

 

─お母さん!あの光る指輪ほしい!

 

 エイジャーの叫びに呼応して指輪が青い光を放ち始める。

 もはや手慣れたものだが観客からすれば初めての光景、湧き上がる歓声を一身に受けながら魔力を水に打ち込んだ。

 

 しかし支配下に置いた水をアルジードに飛ばすでもなく、足に纏わせて移動に使うでもなく、ゆっくりと剣に纏わせながらその状態を維持している…エイジャーの不可解な行動に特等席のエリザも困惑を隠せない様子だった。

 

「え、エイジャー様は何をしていらっしゃいますの…?」

 

「騎士団でも使える人間が少ない技術…ですかね。あの野郎、ここで従属呪文の真似事をしようってのか?」

 

(今までは出力のコントロールばかり考えるのに精一杯だった…でもそれじゃこの先やっていけない)

 

(戦いの中でニーナと繋がった時に感じた水を圧縮する感覚と、シエスタさんのように流動的なものを維持する技術…これらを組み合わせれば、もっと色んなことができるようになる!)

 

 エイジャーはひたすら何かを探るように剣へ纏わせた水を圧縮・解放し続けている。

 戦いの中に突然訪れた"静"の時間を観客たちが固唾を呑んで見守る中、ニーナは彼が取っている見覚えのある構えから目が離せなくなっていた。

 

(先輩のあの構え…わたしの!)

 

「アル!行くぞ!『刃式 水斬派』!!!」

 

「上等!『ファイヤー・バズブレード』!!!」

 

 エイジャーが斬撃とともに放った水の衝撃波は、炎を纏いながら高速で回転する鎖を飲み込んで消火し、突撃してくるアルジードごと押し流していく。

 ニーナのように過剰に圧縮しては切れ味が生まれてしまい相手を傷付けてしまうのだが、エイジャーは圧縮率を調整して"斬れないが抵抗もできない"水を飛ばしてみせたのである。

 

「うおっ!なんだこの水…重っ!?」

 

 衝撃波はアルジードを瓦礫に打ちつける寸前で解放、クッション状に変形すると同時に全身を包み込んだ。必要以上の負傷から守るという役目を終えた水は管理下を離れて離散した。

 

 ずぶ濡れになったアルジードが両手を挙げて降参のサインを送ると、それを視認した審判のダグが大きく息を吸い込み全力で叫んだ。

 

「そこまで!アルジードの降参により勝者、エイジャー・グラムだァ!!!!!!!」

 

 

─うおおおぉぉぉぉっっっ!!!!!!

 

 

─いやー騎士団の戦いはすごいな!いいもの見せてもらったよ!

 

─2人ともカッコよかったぞー!

 

─いいなぁ、僕もあんな風になれるかなぁ…

 

 エイジャーは尻餅をついているアルジードの元に駆け寄ると、手を掴んで立ち上がらせる。そうして観客たちに挨拶をすると、空気が弾けんばかりの大歓声が響き渡った。

 

「アル、お疲れ様。あんな演出するなら言ってくれれば良かったのに」

 

「あんたは土壇場の方が輝くタイプだろ?」

 

「エイジャー!もうすっかり元気だね!」

 

 不敵に笑うアルジードに肩をすくめて返事をしていると、満足そうな表情のルルが押していた車椅子そっちのけでエイジャーに抱きついた。

 またも放棄されたニーナが向ける、2人への複雑な表情を察したアルジードがそれとなく合図を送ると、気付いたエイジャーが向き直る。

 

「先輩、最後のあれってもしかして…」

 

「水の密度を変える感覚を掴めるかと思って真似てみたんだ。でも初めてとは思えないくらい馴染む動きだったな…」

 

 不思議そうにするエイジャーを前に、不機嫌だったはずのニーナは心の中で密かな優越感に浸っていた。

 馴染むのは当然である。彼女が編み出した双剣術はずっと背中を見てきたエイジャーの動きをベースにしているのだから…

 

 しかし決して公にする事はないだろう。これは自分だけが知っていることに意味があるのだ。彼が背負うわずかなモヤモヤは、目の前でイチャつかれたことへのちょっとした仕返しである。

 

 …といった考えが顔に出ている彼女をエイジャーが不思議に思っていると、特等席横に備え付けられた台に登ったエリザが注目を集めるべく鐘を鳴らし始めた。

 

「皆さま、この街を救った英雄お2人の戦いはいかがだったでしょうか!夕刻からは宴を用意しております。今夜は盛大に楽しんで…明日への活力を養いましょう!」

 

「元気な姫様だな…メシの前に汗流しておこうぜ団長。オレもびしょ濡れだ」

 

「そうだね。次の遠征を前に風邪を引いたら大変だ…ニーナ、ルルを頼む」

 

 こうして魅せ試合を無事に終えた2人は宴に備え、仲良く身を清めに向かうのだった…

 

────────────────

 

「エイジャー様は奥様がいらっしゃるのですか!?どちらから!どちらから告白なさったんですの!?」

 

「交際は奥さんからで結婚は俺…ですね」

 

 夕方…かつて王族たちが使っていた古城、隣接した屋敷の庭を使い、街をあげての宴が開かれていた。

 

 バイキング形式で並べられた料理はどれも専属シェフの丁寧な仕事がなされており、その手の上品な食べ物に慣れていない者たちは、美観を損ねないよう恐る恐る皿によそっている。

 

 夜警にあたっている者や普通の物が食べられない人々には別途用意するなど、その場にいない人々へのフォローも抜かりはないとの事だった。

 

 一方で宴そのものが格式高いかといえばそうでもなく、身に付けていたイヤリングがきっかけで既婚者であることがバレたエイジャーは、目を輝かせたエリザの質問攻めに困惑していた…

 

「先輩、さっきからこちらを見てどうしたんですか?存分に惚気ていただいて結構ですよ」

 

「うんうん」

 

(まずい、ニーナまで機嫌悪そうな顔でこっちを見てる…!でもエリザさんを突っぱねる訳にもいかないし…)

 

 お互いの誤解を解いてからというもの、ニーナはエイジャーに対して少しばかりワガママになっていた。

 表情が豊かになってくれたのは喜ばしいのだが…何故か自分に対しては当たりが強くなってしまったこともあり少々複雑である。

 

「エイジャー様は引く手数多ですのね…でも羨ましいですわ。様々な方と出会い、愛を紡ぐというのは」

 

 修羅場を察したエリザは咳払いと愛想笑いで誤魔化した後、目を細めてぽつりと呟いた。

 

 ボアロード(我が道を行く、猪突猛進の意)などという異名を持つ彼女が見せる寂しげな横顔…人前では強い彼女でも、責任ある生まれとしての重圧があるのだろうとエイジャーは感じていた。

 

「…やはり息苦しいですか?王族というのは」

 

「ご覧の通りわたくしは自由な方ですわ。でもお父様がその…唯一侵略を逃れた家系としての責任に囚われているようでして」

 

 それは思わず出てしまった一言なのか、エリザは貴方を責めているわけではないと慌てて付け足し、謝罪した。

 

 つい20年ほど前までここは植民地だった。当然、反乱の目となる王族が生きることを許されるはずもなく…遥か昔に起きた侵略戦争の爪痕は今でも残っているし、取り返しのつかない事も多数ある。

 当事者世代ではないというのもあるが、エリザは歴史的な確執や地位に囚われず、皆が自由に生きられることを願う優しい人だった。

 

 だが上の世代の中には植民地だった頃の憎しみを忘れられない者もいるだろう。国と密接な王家の末裔ならなおさらである。

 現に街の長でありエリザの父親なる人物は、未だに宴に顔を出していないようだった。

 

「お父様もこの地を返還してくださったエルドラ王には感謝しているのです。でも折り合いがつかないみたいで…憲兵隊の皆さまに失礼な態度を取ってしまうことが多々あるのです」

 

「ダグさんも変革の時代を生きていた人です、きっと気にしていませんよ。仮に気にしていたとしても、街を守るという想いは本気です…みんなそう思っているはずですよ」

 

「…噂通りのお優しい方ですね。何事も経験、わたくしも修羅場というものに興じてみようかしら…♪」

 

 エイジャーの言葉を聞いたエリザは柔らかく微笑んだ。育ちの良さというやつなのだろう、おしとやかにしているとお姫様という肩書きに相応しいオーラがある。

 そっと重ねられたエリザの手の温もり…と同時に襲う嫌な予感。気付いた時にはすでに遅し、振り向けば2人が仲良く冷たい視線を送っていた。

 

「見てニーナ、ああやってすぐ浮気するんだよ」

 

「これはエリザさんのジョークで…ですよね?ね?」

 

「うふふ、どうでしょう♪」

 

─先輩、そういうの本当に良くないと思いますよ

 

─そんな!?エリザさんも笑ってないでそろそろ否定してください!

 

─ひどいですわエイジャー様、わたくしの心を弄ぶなんて…

 

─ええっ!?だ、誰か…助けて…

 

「また団長が修羅場作ってら…ちゃんと断らねぇからそうなるんだぜ」

 

「んなこと言って本当は羨ましいんじゃねえのか?ぶっちゃけあの3人なら誰がタイプか教えろよアル坊」

 

 一方こちらは修羅場から少し離れた席…アルジードとシエスタ、そしてバドロは女性陣に詰め寄られ、助けを求めているエイジャーを肴に呑んでいた。

 

「オレは包容力のある女が好みなの。それに姫に手ぇ出したら団長に殺される」

 

「殺されるって…アル、改めてあの時は助太刀に来てくれてありがとう。なかなか会えなくて悪かった」

 

「欠員が出まくってる分忙しいだろ気にすんな。…病院の奴らは大丈夫か?」

 

 質問されたバドロはどう言えば傷つけずに済むか考えているような一瞬の間を作った後、肩をすくめて笑いながら答えた。

 

「君たちが来なければ全滅もあり得た状況だった、死者"は"ゼロだったのが奇跡だよ」

 

 それは良かった、と笑顔を作るアルジードの内心は複雑だった。

 ニーナ絡みで病院へ出向いた際、片足が使い物にならなくなったと嘆く者と、自分も利き手で武器を握れないと笑って励ます者の会話を聞いてしまったのである。

 

 バドロの言う通り、自分たちが駆け付けなかったら結果はさらに悪かっただろう。だがもっと早く片付けていれば彼らの身体は…そんな後悔が胸につかえて取れなかったのだ。

 

「やっぱ似てんなぁ!ガキが一丁前に辛気臭ぇツラしてんじゃねえっての!悪ぃのは単独で任務を果たせなかったオレたちだ。お前なんかが背負うもんはねぇよ」

 

 …などと考えているのが顔に出ていたのだろう。シエスタはアルジードの頭頂部を鷲掴みにすると、ワシャワシャと乱暴に掻き乱した。

 

「隊長の言う通り。それに裏方だって人手不足だ、前線以外でも役に立つ方法はある」

 

「それでも引っかかんなら全力でエイ坊を支えてやれ!それとアラクネの壊滅もな。こういう時は呑んで発散するもんだ!中隊長の特権で今夜だけは許してやる!」

 

 そう言って酒の入った器を差し出してくるシエスタを必死に止めるバドロを眺めがら、十数年前…両親を殺された怒りから憲兵に対して怒りのままに罵詈雑言を浴びせたこと、それを悲痛な表情でただ受け止めてくれた男のことを思い出していた。

 

(あのおっさんもこんな気持ちだったのかな…挨拶しなきゃならねぇ人が増えちまった)

 

「…よし!景気づけに一曲弾いてやるか!姫様、借りられる楽器とかあるかな?なんでもいいぜ」

 

「強い上に芸術にも明るいなんて素敵ですわ♪爺や、手入れは万全でして?」

 

「もちろんにございますエリザお嬢様。ただいまお持ちしますのでしばしお待ちを…」

 

 アルジードは執事が持ってきた弦楽器を手に取り、試しに鳴らしてみる…

 弾ければヨシでやってきたので違いはよく分からないが、酒場の店主が趣味で持っているような奴とはモノが違うことは見た目で明らか…言い出しっぺではあるものの、その気前の良さに萎縮してしまう。

 

「これを掻き鳴らすのはさすがに気が引けるな…ちょっと上品なアレンジだからって寝るなよ?それじゃあ聞いてくれ『奇跡の人 第3章・人と成った龍─』」

 

 エイジャーは楽器とともに持ち込まれた"音を増幅する魔道具"に魔力を込めて会場に響き渡らせる。アルジードが奏でる音に包まれて、街の人々はとてもよい1日の終わりを迎えることができたそうな…

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。