アルジードの故郷であるトゥアンにて、待機という名の束の間の休暇を得た一行はかつて両親が盗賊に殺された家の跡地を訪れる。そこには新しく工房ができており、主人であるパストによって発掘された父親の遺品と対面する。
まだ旅を終わらせるわけにはいかない…そんな決意を持って遺品としばしの別れを告げたアルジードにはもう1つ立ち寄らねばならない場所があり…
「うーむ、人間が作る保湿剤は素晴らしいな!坑道生活で割れた鱗がもう修復されつつあるぞ!ほら触ってみろ!」
「フヘヘ…ラァブさんすべすべしてて女の子みたい…」
「おぉー…!レプター族の鱗もツヤツヤしてていいクスなぁ!」
ここは憲兵隊の拠点…アラクネ盗賊団に加担していたレプター族とタルガン族が収容されている一室で、集団の長であるラァブは艶を取り戻した鱗を窓から射し込む日光に照らしていた。
収容といっても彼らがいるのは牢屋ではなく、空いていた部屋を片付けて作った仮説スペースである。これは罪人として厳しく扱う必要がないと判断したエイジャーの指示によるものであるが、体格や筋力の違いから人間の牢屋が無意味なことも少なからず影響している。
望まぬ悪事への加担から解放され、異種族の味付けではあるが食事もちゃんと出てくる。久しぶりの平穏を過ごす同志たちを横目に眺めながら、ヒバァはレプター族には些か小さな机に向かっていた。
(機会が得られた時、私は弟と何を話そう。無事を喜び合い、今の生活に不満はないか聞いて…我々が盗賊に身を落とした事を聞いたらどんな反応をするだろうか)
お互いの話をする際に避けては通れぬ恥ずべき過去…大手商人の下で立派に生きている弟との間に生まれた差は、ヒバァの心に大きな後ろめたさを産み落としていた。
この町に来てから3日が経つ。前述の件で追い込まれているのもあり、未だに決まらない処遇は僅かながらの焦りを生んでいた。
(いや…大きな組織とは個の一存が通用しないものだ。今はただあの男を信じよう)
─レプター族のみなさーん!入っても大丈夫でしょうかー!
部屋の扉を叩き、入室の許可を取る男性の声─それはたった今考えていた男…エイジャーのものだった。
慌てて声の元へ向かい扉を開けると走ってきたのだろう、そこにはわずかに汗を浮かべつつ、自分のことのように喜ぶエイジャーの姿があった。
「みなさんおはようございます。通信の許可…降りました!」
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「…本当にこんな箱で遠方の者と話ができるのか…?」
「仕組みは俺も分かりませんけどね…俺が向こうの端末と繋ぐので、ヒバァさんはそのまま話をしてください」
待ちわびていた報せが届いてから数分後、一同は通信機の前に勢揃いしていた。初めて見る道具を物珍しそうに眺めるレプター族は時代についていけない老人のようであり、説明しているエイジャーはさしずめ孫といったところだろうか。
エイジャーが手をかざし、注いだ魔力に反応した通信機がほのかな光を放つ。やがて接続の証拠である向こう側の生活音が聞こえてくると、接続に気付いた誰かが部屋に迫ってくる足音が聞こえてきた。
『はい、こちらサノヴァ商会です。申し訳ありませんが代表は会議に出ておりまして─』
なんと呼び出しに応じたのはガァラだった。彼は日中倉庫にいるため誰かに呼び出してもらおうと考えていたのだが…あまりにも都合のよい偶然にエイジャーも少し驚いた。
しかし隣のヒバァはそれ以上に衝撃を受けており、言葉にならない声を発しながら震えている…立つ力も失われつつある状態に自分が取り次がねばならないと理解し、すぐさま切り替え行動に移した。
「こんにちは、エイジャー・グラムです。今日はガァラさんに用がありまして…ヒバァというレプター族の男性をご存知ですか?」
『ここへ流れ着く前にはぐれた兄ですが…何故その名前を?あなたには確か話して─』
「弟よ…私の声が聞こえるだろうか」
他のレプター族たちの肩を借りながら身を乗り出したヒバァが通信機に声を乗せると、向こう側で何かが割れる音が聞こえた。どうやら似たもの兄弟でガァラもショックから脱力、何かを落としてしてしまったらしい。
『その声はまさか…兄さん…!?良かった、無事に逃げ延びたんですね…でも何故エイジャーさんと一緒に?』
「話せば長いが少し訳ありでな…あまり時間はかけられそうにない。愉快ではない話もするが心して聞いてほしい」
こうして皆が見守る中、ヒバァははぐれた後の事を語り始めた。誰一人欠けることなく逃げ延びたものの各地で疎まれ居場所がなく、ついには盗賊の活動に加担してしまい…
その中で出会ったエイジャーの計らいで連絡を取れていること、今後どんな裁きを受けるかはまだ決まっていないことを説明した。
懸念していた盗賊になった過去について触れた際もガァラは何も言わず、一連の経緯を聞き終えた後に大きくため息をついた。それは堕ちた兄への失望ではなく、心からの安堵といった風に。
『兄さん…それにあの時はぐれたみなさんも。よくぞ…よくぞ生きていてくれました…!こちらも全員無事です。きっとみんなも大喜びするでしょう』
『それとエイジャーさん。兄と出会ったのがあなたでなければ今頃はきっと…我々を再び引き合わせてださったこと、心から感謝します』
すすり泣きながら、時に声を詰まらせながらも送られる感謝の言葉を受けているエイジャーの目にも涙が浮かぶ。あの時何も守れなかった自分が、僅かながらも誰かを引き合わせる力になれたのだと…
「感謝したいのは俺の方です。彼らの身元が証明できた今、処遇の提案もしやすくなりますから」
『ふふ、縁というのはどこで繋がるか分からないものですね…ところでエイジャーさん、今はイソーの近くにいらっしゃるんですよね?順調であればアリッサさんと会えるかもしれませんよ』
アリッサ…聞き慣れぬ名前にレプター族の面々が首を傾げる中で、涙に濡れたエイジャーの目がハッと開く。
衝動的に家出を決行し、行き倒れていた彼女と出会ったのは数ヶ月前のこと…一人前になるためサノヴァ商会に身を置くことになった彼女は多忙で、なかなか連絡を取れずにいた。
アリッサは2つの魔力を持つルルに使い分けを教えた師匠でもあり何かと縁が深い人物…曰くこちらの動向が入っていないかよく問い合わせてきており、一度会ってあげてほしいとのことだった。
『…と、そろそろ業務に戻らねば。私は処遇について介入できる立場ではありませんが…どうか兄のことを頼みます。それでは』
ガァラとの通信が切れた後、部屋には重苦しい空気が漂い始めていた。
今は平穏に過ごせているがあくまで罰を先延ばしにしているだけ…騎士団のゴタゴタが片付いた後には何かしらの裁きが下されることには変わりないのだ。
嫌な静寂が空気を支配する中…はじめに口を開いたのはエイジャーだった。
「…皆さんがなるべく早く再会できるよう尽力します」
必死に考えた末に絞り出された飾り気のない約束の言葉…彼が信頼に値する人物であることに疑いの余地を持たないレプター族の面々は何も言わず、ただ静かに頷いた。
家族へ無事を伝える機会を用意しただけでも大恩人である。それでもなお寄り添おうと努力してくれるエイジャーという人物の優しさ…その理由を知っているだけに、ヒバァは胸が締め付けられる思いだった。
「何!?王都が滅んだのは聞いていたが…彼がその生き残りというのは本当なのか?」
それはある日のこと…処分保留として拠点にいる間、取り調べと称して遊びに来る憲兵隊の1人がエイジャーの事を話してくれたのである。
「確認できる限りでは唯一だ。白髮の子も記憶喪失らしくてな…お互い支え合いながらここまで来たってわけだ」
俺ならとっくに折れてるね─そう溢す憲兵の声はもはや届いていなかった。
一夜にして家族や大勢の仲間を失った男…記憶を見るという手段を使ったとはいえ、家族に会いたいと言っただけの盗賊になぜここまでしてくれるのかという疑問にようやく合点がいったのである。
確かに優しい人間もいるだろう。中には度を超えている者も。しかしヒバァは単なる優しさともまた違うどこか影のある…執着のようなものをエイジャーから感じていたのだ。
(纏っている陰は無数の死者への後悔…己が受けた痛みを他人に味あわせたくないのだな)
ヒバァから見たエイジャーはまだ痛みを乗り越えられていないように感じられた。ゆえに不安定で意固地な甘さがいつか自身を傷付ける事になるかもしれない…そう危惧していたのである。
「我々は君を信じているよ。ところでエイジャー、罪滅ぼしというわけではないが…君の記憶を共有する魔法?の完成を手伝わせてくれないか」
ヒバァが手伝いを申し出てきた以心電心…記憶や感覚を共有する従属呪文だが、最も重要な肉体へのダメージ問題が残ったままである。
しかしヒバァは魔法にすら疎い人物である。まさか実験台として電撃を受け続けるつもりかというエイジャーの問いに対し、笑いながら首を横に振った。
「あれはもう勘弁だ。我々は五感を超えた何かで周囲や人体を把握する秘術の持ち主…君のそれと通じるものがあるとは思わないか?」
「言われてみれば…つまりレプター族が持つ秘術から発展させると」
「おかげさまで我々は持て余しているからな、君のタイミングで来るといい。それともさっそく始めてみるか?」
「あ…実は今日、もう1つ家族との対面予定がありまして…時間を作って必ず習いに行きます。それと今回話せなかった人たちもなるべく声が聞けるように調整しますので」
そう語るエイジャーの顔はやはり嬉しそうだった。彼が繋ぎ直してくれた兄弟の縁に報いるためなら、これからどんな償いも乗り越えると心に誓うヒバァであった。
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「へぇ…向こうも全員無事だったのか。良いことしたな団長」
通信を終え、ヒバァたちと別れたエイジャーは昨日と同じように車椅子を押していた。しかし今日の目的地は工房ではない…いよいよアルジードの生きた血縁者 祖父母の元へ行くのである。
「おじいちゃん達はアルに似てるの?」
「オレは親父に似たからなぁ…何も知らなきゃ全員が他人って答えると思うぜ」
車椅子に乗せられたアルジードはルルの方に振り返って苦笑した。凄惨な過去に少しだけ救いが生まれたおかげか、彼の表情もどこか明るくなったように思える。
つられて嬉しくなっているエイジャーは祖父母の顔を知らない。母親がスラムに流れ着いた事から察するにあの時点で死亡していたか、あるいは疎遠だったのだろう。
酷な話だが戦争三昧の旧王政下で老いる余裕がある民は少数派…行方を追うにも情報が少ない事もあり、いつしか記憶からも消えてしまっていた。
とはいえ生きているなら大事にすべきというスタンスに変わりはなく、自分が知らない"祖父母"というものに些かの興味がわいていたのである。
(おじいちゃんかぁ…俺は師匠がそれに当たるんだろうけど…)
エイジャーはかつて"師匠"と呼んでいた老人の事を思い出す。拾った鉄クズを山のように積んで背負わせて、川での洗浄を経由して売るよう強制したり、戦闘技術を磨くと言って何度も金属の棒でボコボコにされたり…
厳しくも厳しかった日々も今では大事な思い出である。アルジードの祖父が師匠に似ていなければいいが…そんな事を思いながら苦笑いを浮かべていると、変化に気付いた隣のルルが不思議そうな顔で凝視していた。
「2人とも苦笑いしてる…もしかしておじいちゃんって嫌なヤツなの?」
「ああいや、そうとは限らないんだけど…俺のおじいちゃん代わりだった人がすごかったから」
「"師匠"だろ?前に聞いたけど何者なんだろうな?団長みたく色んな武器使いこなせたらしいし…」
師匠なる人物が己の名前を明かすことは無かった。身寄りのない者たちが集まるスラムである、彼の親族がいたとしても見つけるのは不可能だろう。それこそ死者に直接訊きでもしない限りは…
(そんな情けない事したらまた殴られちゃうな…)
「…っと団長ストップだ。あそこが今日の目的地だぜ」
アルジードの視線は居住区の一角、白い花の鉢が並ぶ小さな家に向けられていた。軒先では腰の折れた老婆が水やりに勤しんでおり…視線に気付いたのかこちらへ振り返ると、じょうろを手放したことも忘れてわなわなと震えだした。
「あなたまさか…アルジードなの…?」
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「…」
「…」
「「「「「…」」」」」
老婆は祖母本人であり、彼を見るやすぐさま家へと招き入れた。
十数年ぶりの帰郷を果たしたアルジードと付き添いの2人を待っていたのは長い沈黙と気まずさ…なぜ車椅子に乗っているのか、今まで何をしていたのか…歓迎よりも先に投げかけられる様々な質問の中で、老夫婦は孫が盗賊への復讐に心血を注いでいることを知ったのである。
(ねえエイジャー、なんでみんな黙ってるの?)
(…そのうち分かるようになるよ)
「聞こえているぞ2人とも…事情はおおむね理解した」
2人に釘を刺したのはアルジードの祖父である。見た目はかなり老いているものの言葉には圧があり、バツの悪さも相まってかなりのプレッシャーを放っているように感じた。
「盗賊を潰すためにここを出て、その過程で殺しもやったと…過去を忘れ、人生の幕引きに向けて穏やかに過ごそうとしていた矢先にこれか」
呆れたような視線に晒されるアルジードは黙っていた…なんだかんだ温かく迎えてくれるという、彼にしては甘い当初の見立ては大きく外れてしまったのである。
"死人に口なし"という言葉があるように、死者の気持ちなどはいくらでも都合よく解釈することができるが…彼らは生きていて、アルジードと同じように今日まで過去と向き合ってきたのである。そう都合よく思想が合致することはあり得ない。
無意識に神格化されていた血の繋がりに対しての信頼はあっさりと崩れ去り、言葉を発する気がないアルジードを見た祖父はため息をつき、続ける。
「お前はあの男に似たな。娘を誑かし、死ぬ原因を作ったあの男と…わしもばあさんももう歳だ…これ以上掻き乱すのはやめてくれないか」
「ちょっとあなた!そんな言い方─」
耐えかねた祖母の制止に差し込むように、アルジードはほぼ完治している腕を振り上げて注目を集めた。
「…もうここには用はねぇ。二度とな…さぁて団長!用事は済んだから帰ろうぜ」
「俺はもう少し残るよ。ルル、車椅子を頼んでもいい?」
即答したエイジャーの口調はいつものように穏やかなものの、放つ気と目の奥に宿るものはまるで正反対…戦いの時でもなかなか見せないプレッシャーを放っていた。
2人を家の外へ出させたエイジャーは老夫婦に向き直ると、目の奥に押し込んでいた怒りの色を解放する。
「あなたと彼の父親に何があったかはある程度把握しています。その上で…あの態度はなんですか?確執を子供に押し付けて…恥ずかしいと思わないんですか」
圧力はただの雰囲気に留まらず、老いて感覚が鈍くなっているはずの皮膚をビリビリと震わせる。一度は庇う仕草を見せた祖母
には向けていないのか何が起きているのか分からず、2人の間に生じている異常な空間を漠然と恐れていた。
「ずいぶんと家族という形に夢を見ているようだな…よほど円満な環境で育ったらしいお前に理解などできるはずがない」
「ええ分かりませんとも。両親は物心ついた頃からいなかったし、王都にいた妻とは最期の言葉も交わせませんでしたから」
それを聞いた祖母が手を口で覆い、祖父も面食らう様子を見たエイジャーは攻めの態度を保ちつつも己の下劣さを憎んでいた。
大きな戦争が無くなりおおむね平和となった現代において自分の過去がいかに悲惨で、語るだけで優位に立ててしまう危険なカードかは十分に理解していたし、何よりも死者を利用しているようで不愉快だった。
そのため話す相手はある程度厳選し、同情の押し付けではなく自分を知ってもらうための過去として扱うように努めていたのだ。
それでも勝手に広めてしまう者はいるが…少なくとも自ら攻撃に使うのは異例であり、それほどまでに祖父に対して怒りを感じていたのである。
「彼は幼いながらも気付いてましたよ。2人の目が自分ではなく娘を奪った男と重ねて見られていたことに…それでも保護してくれた恩と、裏切った後ろめたさがあるから会いに行きたいと言ったんです」
卑怯なカードを切ってしまったからにはやり遂げねば、アルジードに向けられた理不尽に物申さねばならない…危うい使命感に駆られたエイジャーは隙を逃さずに畳みかける。
「確かに無言で出ていくのは褒められた事ではありません。復讐や殺しに対する認識の差もあるでしょう。それでも…それでも俺が許せない」
老夫婦は、ただ黙っている。
「ここを出てから十数年、彼はずっと孤独を感じながら戦ってきました。…まだ拠り所が必要な年齢です。あんな風に拒絶して、彼が自棄になったらどうするんですか?」
「…あなた方に言っても仕方ないですよね。とても残念ですが…突然押しかけて申し訳ありませんでした。それでは─」
一方的に捲し立てられて黙っている訳にはいかない…祖父は立ち上がると扉に手をかけたエイジャーを怒鳴りつけ、動きを止めた。
「…待て!最後に教えろ…散々偉そうに説教をしてくれたがお前は…お前はあいつに寄り添えるほど立派な大人なのか?」
「俺は歪な人間です、決して模範的な大人ではありません。それでも彼の復讐が終わるまで、いや…終わってからもちゃんと生きていけるまで付き合うつもりです。…それでは」
エイジャーは深々と頭を下げると今度こそ扉を閉める。取り残された2人の沈黙はその後もしばらく続き、平穏とは無縁の時間が流れていた…
────────────────
「はぁ…」
その日の夜。エイジャーが部屋の隅に縮こまり、自責の念とともに何度目かも分からないため息をついている様子をルルは心配そうに、アルジードは面白そうに眺めている。
(ずっとあんな感じだけど大丈夫かな)
(団長が凹んでるのはいつもの事だろ?まあ…今回はオレのせいなんだけどさ)
「…で、彼の祖父母と口論になり、圧力をかけて黙らせたと」
それはエイジャーが部屋に戻って来る少し前のこと…昼間にあったことを報告するため、単身で町の憲兵を仕切る隊長 ロニーの前に跪いていた。
「誠に、誠に申し訳ございません。民間人に敵意を向けるなど言語道断、それを理解していながら…言わずにはいられませんでした」
後悔が声に滲み出ているエイジャーの謝罪を聞きながら、ロニーはどうしたものかと頭を掻いていた。
本人も自覚している通り、民間人に対してこちらから仕掛けるなど言語道断…この町で憲兵隊が長年築いてきた関係性を壊しかねない重大な違反行為である。
一方で1人の人間として目の前で部下を、それも実の家族に侮辱されている場面で反論するなと言うのも酷である。自分もまた尊敬できる父親に恵まれた、家族というつながりを肯定する側なのだから…
そもそもの話として現在のトップである副団長からの勅命を受けた彼を裁けるのか?という疑問もあった。一部において絶大な権利を与えられていることは承知しており、階級について厳しく躾けられている憲兵隊としてのサガが対応を迷わせていた。
「君の行動は長年積み上げてきた信頼を失いかねず、見過ごせないものだが俺では裁けない。ご家族はこちらで対処するとして…件の騒動が落ち着いたら副団長殿に相談するとしよう」
「承知しました…その際はどのような罰も受け入れる所存です」
ロニーはしゃがみこんで土下座の姿勢を保ったまま謝罪を繰り返しているエイジャーに近付くと、憲兵隊ではなく人間としての一面を滲ませながら励ますように肩をポンと叩いた。
「言ってやりたくなる気持ちも分かるけどね。そんな君だから彼らを懐柔できたのもあるだろうし…そういうわけだから今日は解散だ。…頼むから土下座をやめてくれ、若い子のそんな姿は見たくない」
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「…団長〜そろそろ負のオーラ垂れ流すのやめようぜ?そりゃ騎士団としては良くなかったかもしれねぇけど…オレは嬉しかったんだぜ。その…あんたに大事にされてる感じがしてさ」
「でもあそこで終わっておけば2人が反省して復縁できる芽もあったと思う…俺が断絶したようなものだ」
「あのジジイ、いい歳してまだ親父の事で八つ当たりしてんだぜ?今さら変わらねぇよ。それに…血が繋がってなくても家族みてぇに思える人がいるなら十分だ」
部屋に戻ってきたエイジャーがいつにも増して凹んでいる事に違和感を覚えたアルジードたちは事の顛末を聞き、自ら喧嘩をふっかけた事に驚いていた。彼がそういった真似をするタイプでないことは少し付き合えば嫌でも理解できるからである。
一方で怒りを見せた事がゼロというわけでもなく、ルルを拐おうとした盗賊やニーナを弄んだ魔族には激しい怒りを見せ、容赦ない武力で叩きのめした場面も知っている。要するに他人が絡んだ時のみ怒りを見せるのだ。
(まあ姫との関係つっついた時もちょっと危なかったけどな…奥さんがこの人に構いまくってた理由も分かってきた気がするよ)
そんな事を考えながら魔族が生まれ落ちそうなほどの負のオーラを生成し続けているエイジャーを眺めていると、痺れを切らしたルルが背中から覆い被さりある質問を投げかけた。
「ねぇねぇ、エイジャーとアルが家族だったら何になると思う?」
「あん?さすがに父親ってほど離れてねぇし…兄貴とかじゃねえか?なあ団長」
「だね。頼りになる弟がいて誇らしかったと思う」
「じゃあ私は?」
またもさらりと放たれる言葉の槍にたじろいでいると、今度はルルから投げられた槍によって空気が一瞬止まってしまった。
ここからでも分かるほど答えに迷っているエイジャーを助けてもいいが…個人的な興味もあり、アルジードは敵に回ることにした。
「そりゃあ…団長はどう思う?」
「え゛。んん…か、考えとくよ」
「えー!?教えてよエイジャー!ねえってば!」
言い淀む事自体が答えである…意味を察してやれやれと肩をすくめるアルジードに対し、答えが欲しいルルのヘッドシェイクは容赦なく続いたという…
(ちなみにオレから見た姫はペット、種族は猫ってとこだな。言ったらどうなるか分かってるから黙ってるけど)