Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 王都騎士団中隊長 ノブリスにかけられた盗賊団との内通疑惑…犬猿の仲でありながらも彼を信じたいエイジャーは街へ繰り出し聞き込みを進めていた。
 技長のボッシュから侵入ルートと思しき設備の情報を聞き出し閉鎖を依頼、技術者の誘拐事件についてはひとまず解決の糸口が見えた。

 続いて訪れたエイトの工房では試作型の冷凍庫が完成し、大陸の食料事情に新たな希望が生まれる。喜ばしいニュースの中、工房を後にするアルジードの顔には影が落ちており…
 
 その日の夜、疑惑の人物であるノブリスに呼び出されたエイジャーはたった1人で彼の部屋に向かうのであった。



53話 裏切りの羽

 エイジャーが拠点の長であり疑惑の人物であるノブリスに呼び出されていたその頃、寝室で待つアルジードは険しい表情で机に向かっていた。

 

「エイジャー遅いね…アルどうしたの?さっきから顔が怖いよ」

 

「ん…あぁ悪い、ちょっと考え事…というか引っかかることがあってな。エイトとかいう技術者覚えてるか?」

 

 ルルはこくこくと頷いた。この街における数少ない顔見知り、昼間も会ってきた人物を忘れるはずがない。

 

「あいつさ…なんでアラクネが犯人だと分かったんだろうな。オレたちは誘拐事件を追ってるとしか言ってないのに」

 

「そういえば…でも小さいおじさんとかが教えたんじゃない?」

 

 アルジードの発案により今回の聞き込みで秘密裏に共有していたルール…それはアラクネの名前を出さないことだった。

 

 基本的に情報が人づてでしか得られず通信機も非常に貴重なこの時代において、個々が抱えている情報というのは少なく、不確実なものである。それが1日のほとんどを自室や工房に籠もっているような技術者たちであればなおさら。

 

 しかしこちらが名前を出していない中で、エイトは誘拐犯をアラクネと"断言"したのだ。他にも野盗や人攫いの組織が存在するにも関わらず…

 一方で彼もターゲットとなりうる技術者、ルルが言うように誰かから情報を共有されていたとしても不思議ではない立場なのだ。ゆえに"引っかかる"に留めているのである。

 

「まあな…他の技術者たちの情報精度を調べて、あいつだけ突出してたらだいぶ怪しいってとこだ。本来オレたちはいけ好かねぇ坊っちゃんを探ってるわけだしな」

 

「うぅー難しい…なんで盗賊なんかを手伝う人がいるの?」

 

「今の組織に不満がある、より良い条件を提示された…理由なんざいくらでもあるぜ。だから"こいつに限って"で除外しない方がいい」

 

 そう言ってルルの隣に腰掛けると、軽く伸びをしてベッドに倒れ込んだ。

 

(…ま、いざって時に姫や団長を疑えるかって言われたらわかんねぇけどな。今回も知らねぇヤツが犯人だといいんだが…)

 

───────────────

 

「約束通りに来たぞ、まさかお前が2人きりで話したがるとは思わなかったよ…それで話したいことってなんだ?」

 

「ああボクもだ、こんな時でもなければ絶対に実現しないだろうな」

 

 一方その頃…仕込みをキリのいいところで切り上げたエイジャーは1人で隊長室を訪れていた。そこにいたのはノブリスのみで、いつも側にいるカーシルとゴルドンの姿はない。

 

 ノブリスは着席を促すと、早速引き出しから1枚の紙を取り出した。誰かが粗雑に扱ったようで状態が悪く、不規則な無数の折り目と端切れがあって読みにくいものの誰かへの手紙…あるいは指令書のようだった。

 

「それはお前が特定したアジトに残されていたものだ…じきにここへ追手がくる、雑魚を身代わりにして中央第3拠点へ逃げろと書いてある」

 

「やっぱりこちらの動きを把握してたのか…ちょっと待て、こんな手紙があったなんて報告は聞いてないぞ」

 

 現在、騎士団で共有されている情報は1時間足らずで拠点を制圧したもののそこには見捨てられた下っぱしかおらず、直前に逃げた幹部たちの行方は誰も知らないということ。

 

 この作戦は王都騎士団の単独作戦であり、事前に知っていた第三者はイソーの上役だけであった。ゆえにノブリスの部隊に疑惑の目が向けられているのである。

 部隊の筆跡を鑑定し、誰とも一致しなければ潔白の証明となる貴重な資料…本来ならばわざわざ隠す必要はないものだ。エイジャーの中で否定したかった疑惑がみるみる大きくなっていく。

 

 しかし次にノブリスから発せられた言葉は予想とは少し違うものであった。

 

「…この指令書な、筆跡がブラヒムさんのものなんだよ。これを見ろ」

 

 そう言って引き出しからさらに取り出したのは1枚の紙…以前ブラヒムから送られてきたという、特筆すべき内容のない手紙だった。

 ノブリスは2枚の手紙を並べると行の末尾を指差した。どちらも改行前の文字に必ず特徴的な"ハネ"があり、よく見ると字体もそっくりである。

 

「アラクネへの指令書を副団長が書いた…あの人がツテを持ってるってことか?たまたま似てるだけじゃ…なさそうだな…」

 

 エイジャーは改めて2枚を見比べる。解説され、改めて筆跡を追うと…不気味なほどに似ている事実に直面する。

 襲撃を生き残り、魔族に寝返ったというだけでもかなり突飛な疑惑だったものが、アラクネと密に連絡を取れる立場にあるというさらなる疑惑が濃厚になってしまった。根拠もなしに主張すれば間違いなくこちらの頭を疑われる事案だろう。

 

 だがその2つの疑惑をある程度信頼せざるを得ない証拠を掴んでしまった。起きている事態を消化すべく停止しているエイジャーと同じように、ノブリスもまた深刻な表情で黙りこくっていた。

 

「他には…誰が知ってるんだ」

 

「…こいつを見つけたゴルドンだ。筆跡については教えていないが…報告しない事に違和感を覚えているかもな」

 

「…どうして黙ってた?こいつを出せば少なくともお前が疑われることはなかったんだぞ」

 

「…ブラヒムさんは戦いの才能に恵まれず、雑用送りにされそうだったボクを拾い上げてくれたんだぞ。…売れるわけないだろ!?」

 

「だからって…!幹部の居所を共有していればもっと早く解決できたかもしれないんだぞ!」

 

「敵に情けをかけるのはお前もだろグラム!ボクと何が違うんだ!何が…!」

 

─ガタガタガタガタッ!!!!

 

 エイジャーが思わず拳を握り締めたその時、外からの凄まじい強風により突如窓が震え始めた。昼間は雲一つない快晴で、嵐の兆候など見受けられなかったはずだが…

 

 事態を確認すべく窓へ駆け寄ると同時に席を外していたカーシルが扉を蹴り開け、部屋へと入ってきた。常に穏やかな物腰の彼が初めて見せる取り乱した様子は、ただ事ではない何かが起きていることを認識するには十分すぎる異常事態である。

 

「面会中失礼いたします!空から魔族が…件の蛾のような個体が襲来したようでございます!!」

 

「これについてボクは何も知らないぞ!本当だ!」

 

「…疑うのは後!奴の鱗粉は危険だ、拠点のみんなを一箇所に集めて部屋の隙間を塞げ!俺は魔族をなんとかする!」

 

 エイジャーは机に立て掛けていた剣を手に取ると窓から飛び出した…この間わずか3秒である。

 取り残されたノブリスは数秒の放心の後我に返り、即座に窓を閉じると指揮を執るべくカーシルを連れて部屋を後にした。

 

──────────────

 

─なんだあれは!魔族か!?

 

─あんなのが落ちてきたら終わりだぞ…街の外へ逃げねぇと!

 

─危険だから住民の皆さんは家に戻って!窓を割られないように家具で抑えるんだ!早く!

 

 突如襲来した魔族により街は混乱に陥っていた。エイジャーと同じように外へ出た者たちはその大きさに絶望し、夜警についていた傭兵組織【セクメンズ】も鎮圧で手一杯…必死に出している指示も住民たちの耳には届いていないようだった。

 

 闇夜で激しく主張する金毛を持つ、蚕蛾をひたすら巨大化させたようなそれは何をするでもなく上空を漂っている。こちらと意思疎通を取る気配はなく、かといって例の鱗粉で攻撃するわけでもない…

 

 意図が読めない圧倒的な存在を前にし、仕掛けるべきか迷うエイジャーの横に1人の男の影…街へ入る時に絡んできた傭兵組織【ダイガロン】のガルダが現れた。

 手にはクロスボウ、薬瓶とともに腰に装着された射出機のようなものは全身に張り巡らされた管と繋がっており、その姿は以前戦ったアラクネ構成員が用いていた兵器のようである。

 

「よう1人か?ヒマしてるから付き合えや…と言いたいとこだが空に鬱陶しいのがいやがる。お前、あれをどう見る?」

 

「特殊個体の特徴である意思疎通をしてこない。まるで操り人形だが魔族が操っているのとは空気が違う。各地で目撃された個体で間違いないと思うけど…仕掛けてこないのは理由があるのかも」

 

(ずいぶん魔族に詳しいな、この手のイレギュラーも慣れてるって風だ。こいつ何者だ…?)

 

「…まぁいいか。ウチのもんが試作型の対空兵器を用意してる、それを使えば追っ払うくらいはできるだろ。それまで共闘と洒落込もうぜ」

 

 彼の言葉に裏があるようには見えなかった。この状況でも不敵な態度を崩さない胆力といい、好き嫌いは別として頼りにできそうなのは事実である。

 

 相手は制空権を握った魔族である。怒られるのは理解しているが暗器使いのアルジードは距離が、ルルはフィールドの問題で不利と判断し、拠点に置いてきた。遠距離武器を持ち、場数を踏んでいそうな彼は現状で選べるベストパートナーといえるだろう。 

 

「分かりました。まずは接近しないと…俺は屋上まで飛びますがあなたは?」

 

 ガルダは腰に装着した射出機を指差すと、建物の屋上を凝視しながらブーツのダイヤルを弄り始め…視界から消えた。否、飛んだのだ。

 腰から射出したアンカーを建物に突き刺して動線を確保、何かしらの推進力を持ったブーツで屋上まで辿り着いたようで、建物には穿たれた跡が残っている。

 

「姿勢制御が難しくてな!半端者じゃ駆動の衝撃に耐えられないんだと。お前も登ってこいよ」

 

 エイジャーは近くに置いてあった樽の水を足に纏って圧縮、噴射することで屋上へと飛び立った。何度も使っているだけありガラナの技術はだいぶ手慣れたもので、高度かつ無駄のない魔力操作を見たガルダは嬉しそうに口笛を吹いた。

 

「オレはこいつを矢に塗って飛ばす。人間の皮膚が"焼けるように"溶ける劇物だと。お前はどうする?」

 

「魔法で発生させた雷をぶつけます。あなたが遠距離から気を引きつつ俺が接近する…というのはどうでしょう」

 

「オレを前座にしようってか?いいぜ…お前に合わせて踊ってやる!稼がせてくれよ優男!」

 

 合図とともにエイジャーは水を足に纏い、擬似的に空を蹴りながら魔族へと接近していく。それに合わせてガルダも銃床を肩に押し付けて狙いを定め、引き金を引いた。

 

 彼が持っているクロスボウは特別製で、外見から受ける印象よりも遥かに重い。ワイヤー状にした硬質金属を編み込んで作られた弦は常人では引くことすら叶わない欠陥品だが、その初速はライフルをも上回る。

 さらに射出の際にセットした瓶の中身が付着するよう改造されており、状況に応じた戦闘を可能にしている。

 

 放たれた矢はセットされている劇薬を纏い、空を切る甲高い音とともに魔族へと向かっていく。

 矢は豊かな毛をものともせずに胴体を貫くと同時に劇薬を押し付け、体の一部を焦がした。それは報告にあった銃や砲撃とは明らかに違う反応であり、薬物が通用することを意味していた。

 

 しかし通用するのと致命傷を与えるのは別である。圧倒的な大きさを誇る魔族の体を矢で貫いたとて所詮は蚊の一刺しでしかなく、薬物を用いたとしてもそれはほとんど変わらない。ガルダは舌打ちしながら2撃、3撃と続けて放ち、弱点となる部位を模索していた。

 

 一方エイジャーも水を利用してみるみる高度を上げながら魔族へと近付いていく。羽で横に広い分圧迫感はこれまでの魔族よりも遥かに強く、これだけ接近してもほぼ反応がないことに薄気味悪さを覚えていた。

 

(なぜ攻撃してこないのかは分からないけど…始末は早い方がいい。胴体をいくら撃ち抜いても効かないなら…)

 

「触覚を落とせば無事では済まないはずだ!『刃式・翡翠急襲』!」

 

 狙いを定めて噴射の勢いで加速し、雷を纏った剣ですれ違い様に斬りつけた。慣れない空戦、それも2種類の魔法を瞬時に切り替えるという高度なテクニックを見事にこなしてみせたエイジャーだったが…

 努力が実を結んだとは言えず、三分の一ほどを切断したはずの触覚は焦げはしたもののすぐに接合されてしまった。そもそも"斬った"という感触がほとんど無く、まるで霞を払っているかのようだった。

 

(まさか効いてない!?いや違う…焦げた部分を捨てて復元しているのか?)

 

 雷を纏った剣で斬った部分は確かに焼けており、煤となって空に散っているのだ。その上で失った部分を補っているだけである。

 通常の兵器は通用せず、薬や魔法が接触した部分だけが損傷する…数々の情報と経験からくる違和感はエイジャーの脳内に1つの仮説を浮かび上がらせた。そう、奴の体は─

 

─おや。なぜキミがここにいるのですか?

 

 脳内に浮かんだ仮説は突如耳に入ってきた声によってかき消された。ここは上空、他の人間などいるはずもないし、ガルダのものでもないようだが…

 

「ワタシの予定と違いますねぇ…まぁいいでしょう」

 

 魔族の背に乗っていた男は予想外な人物の登場に不満そうな声を漏らす。その姿を視界に捉えたエイジャーは自身が空中にいることを数秒忘れ、危うく墜落しかけてしまうほどに驚愕した。

 

 その男の事はよく知っている。あの日死んだはずでありながらも各地で目撃情報が浮上していた人物であり、王都騎士団憲兵隊を束ねる重鎮…

 

「ブラヒム・リッチ副団長…」

 

「久しぶりですねぇエイジャー・グラム"小隊長"。」

 

─────────────────

 

 イソーの街に現れた蚕蛾のような巨大な魔族。その背にいたのは魔族との関連が噂されていたもう1人の副団長 ブラヒム・リッチだった。

 

 騎士団のものとは違う衣服を身に纏っており、武器の類を所持している様子はない。魔族の背に飛び乗り、警戒心を崩さないエイジャーと対照的にブラヒムは余裕に満ちており、品定めするかのようにただ周囲を歩いている。

 

「あなたはあの日襲撃に巻き込まれたはず。…なぜこんなところに」

 

「キミは自分で考えることが出来ないのですか?仮設本部と情報のやり取りはしているでしょう」

 

 ブラヒムは肩をすくめ、嘲るように笑う。はぐらかしているのではなく、知られたところで問題ないといった風に…彼の動きに意識を向けつつ、いつでも斬り伏せられるよう剣を強く握り込む手にはぐっしょりと汗をかいていた。

 

「…質問を変えます。あなたはアラクネ盗賊団に顔が利くのですか」

 

「なるほどそこまで知っていますか。ただその答えを明かす前に…」

 

「キミ、さっきから頭が高いですよ」

 

 ブラヒムがこちらに手を向けると同時に虚空から姿を現したのは武器…見たこともない形をしているが、それが"銃"であることを直感が告げていた。

 エイジャーが横っ飛びで逃れた射線を無数の小さな弾が通過する。散弾だ!

 

(なんだ今の!?弾がいくつも…それよりあの銃!あんな形は見たことないぞ!)

 

 彼が振り回しているそれは大まかな構造こそ銃だが前装式でも、ライフルサイズでもなかった。銃床が存在せずバレルも切り詰めたピストル型で、火薬を盛る火蓋がない代わりに引き金の前には箱のようなものが刺さっている。

 

 後に生まれるカテゴリーに当てはめるなら"セミオート式ソードオフショットガン"とでも呼ぶべきそれが生み出す殺意の雨をエイジャーは避け続け、ブラヒムはただ退屈そうに連射を繰り返していた。

 

「ふむ…ある程度すばしっこい相手には通用しませんか。しょせんは点で攻撃する銃でしかありませんね」

 

「…副団長、事情は後で吐いてもらうことにします。手荒な真似をお許しください。『刃式』…」

 

 エイジャーが構えに入ったのを視認したブラヒムは武器を放り投げ、掲げた両腕をふらふらと遊ばせ始めた。しかし目の奥に服従の意思は感じられず、その意図は読めないままである。

 

「今日はショーの第一部…キミと本気でやり合うつもりはありませんよ。クレイヴモス!この街に絶望をもたらしなさい!」

 

 

─フ ォ オ オ オ オ オ オ

 

 

 足元の蚕蛾…クレイヴモスは呼びかけに呼応し、ぶるぶると身体を震わせ始めた。鱗粉を撒き散らすつもりだ!

 

「ワタシはそろそろ失礼しますよエイジャー・グラム。せいぜい足掻いてみせなさい!クハハハハ!!!」

 

 ブラヒムはわざとらしく一礼すると、なんとクレイヴモスから飛び降りてしまった!慌てて追いかけた時には忽然と姿を消しており、上空にはエイジャーとクレイヴモスだけが取り残されている…

 

「…それよりもこいつ!どうすればいいんだ!?この大きさを今から処理しきるなんてとても…!」

 

─おい生きてるか!?こいつの様子がおかしいが上で何があった!

 

 下を覗くとガルダがこちらに呼びかけていた。クレイヴモスの震えはみるみる強くなり今にも鱗粉を解放する寸前…事情を説明している時間はない!

 エイジャーは背中に戻って剣を突き立て、何度も電撃を浴びせるものの効果は薄い。浴びせた範囲だけがわずかに焦げ、抵抗虚しく再び繋がるだけである…

 

「おいおいまさか…本気でバラ撒くつもりじゃねえだろうな…!?」

 

「ダメだ…止められない…!みんな逃げろ!なるべく遠くへ!!!…くそっあの人だけでも…っ!」

 

・ ・ ・

 

・ ・

 

 

「おいテメェ!なんで団長1人に行かせた!」

 

 時を同じくして…ここは王都騎士団の拠点内、ブラヒムは怒りを爆発させたアルジードに胸ぐらを掴まれ、壁に叩きつけられていた。

 

 エイジャーと別れた直後から動いた彼はあっという間に拠点内の全員を食堂へと押し込み、そこに至る扉の隙間を布などで徹底的に塞がせたのである。

 一方で間違いなく飛び出していくであろう2人をステラナイトの面々に拘束させ後を追わせないようにしたのだ。どうやっても加勢が間に合わない状況になってから拘束を解いた途端、アルジードが飛びかかったというわけである。

 

「奴は通常の兵器じゃ倒せない!戦うのはあのバカ1人で十分だろ!」

 

「お2人ともおやめください…他の者に不安が伝染します。アルジード様も周りをご覧になってください。それ以上はあなたが危険にございます」

 

 仲裁に入ったカーシルが促すままに見渡すと、主人に手を挙げる敵を排除せんとするステラナイトたちの殺気立った視線が向けられていた。

 …昨日彼らの恐ろしさを味わったアルジードは仕方なく離してやると、舌打ちでやり場のない怒りを少しでも慰めようとする。

 

「アル!あそこ見て!エイジャーは無事だよ!」

 

「!だけどあの魔族、様子がおかしくねぇか…?」

 

 2人が窓越しに見ていたのはブラヒムが飛び降りた後のやり取り…エイジャーの戦いが見られると聞いたアゲハやケイン、その他後輩たちも続々と窓際へと集まってきた。

 

「ぐ、グラセンならなんとかしてくれるっしょ〜!」

 

「そうそう!あの人やる時はマジ頼りになるんだからさ!オレっちたちがよく知ってんじゃん!」

 

 楽観的な希望を口にしているギャル軍団の顔は引きつっていた。今置かれている状況がいかに逼迫しているかを理解しつつも、わずかな希望に縋っているのである。

 

「ん…団長がなんか叫んで…魔族から飛び出していったぞ!」

 

「その先には…ウチらに絡んできたヤツじゃん!あっグラセンが突き飛ばした…ヤバい!みんな口と鼻塞いで!来るよ!鱗粉!!!」

 

「待って!エイジャ…っ!!!んんんん!んん!!!」

 

 窓際に集まってきた彼らの目に映るのはエイジャーが高速で魔族から離れ、勢いのままにガルダを突き飛ばした場面。そして…

 臨界に達したクレイヴモスにより一斉に放たれた鱗粉が街を飲み込んでいき、逃げ遅れたエイジャーがその中に消えていく場面。

 

 駆けつけようと咄嗟に動いた体は数人に押さえつけられ、塞がれた口から発せられた叫びが彼に届くはずもなく…どうすることもできない絶望の中、ルルは目の前で起きている惨劇をただ蒼い瞳に焼き付けることしかできなかった…

 

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