Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 人類を裏切り魔族についたブラヒムは大勢の魔族を連れてイソーの街を襲撃、アラクネの襲撃と被せたそれは大混乱を引き起こしていた。
 そんな中、無理を押して出陣したエイジャーの案とグレナルドの従属呪文により街へ侵入した敵の対処に成功。ブラヒムも術中に嵌り順調だと思われていたが…


63話 ステラナイト

「『ウォージュン』!!…水の魔法を覚えておいて良かった。それにしてもこれは…ひどいな」

 

 ブラヒムの不意打ちによって壁上から突き落とされたガラナは水を纏って衝撃を相殺、無事に着地してあたりを見回すと、そこに広がる光景に絶句した。

 綺麗に敷き詰められた白い石畳は煤まみれであり、その上に転がる魔族のものと思われる焼死体たちがなんとも嫌な臭いを発している…

 

 遠くの方では建物を超える高さの炎が暴れまわり、莫大な熱波はガルフィン族の皮膚から水分を奪っていく。慌てて水の膜を纏ったガラナが壁を見上げていると、視界の端に近付いてくる大きな影を捉えた。

 

「お前は確か副団長の付き人…上に行くなら連れて行ってくれないか」

 

─────────────

 

「ちょ…どういう事?あいつグラセンに煽られて超ムカついてたんじゃないの?」

 

「そもそもなんで生きてるし…血も出てねーとかほんとに人間?」

 

 烏偽装による不意打ち、そして散弾を腹に受けたにも関わらず余裕を見せる異常な光景に、その場に居合わせた全員に戦慄が走る。

 ブラヒムはそんな彼らの表情を一通り見渡した後…目が合ったノブリスの元へとやって来ると、生成した漆黒のナイフを手渡して微笑んだ。

 

「あそこで無様に転がっているエイジャー・グラムを殺しなさい。そうすれば魔族の軍勢に加われるよう、ワタシから主にかけあって差し上げますよ」

 

「はぁ~?今さらあんたなんかに従うわけねーっしょ。ボスちょっとどいて、これであーしがクシザシに…ゔぇっ!?」

 

「ランヅキ!!!」

 

 バリスタを回転させ、狙いを定めるランヅキの肩を細く伸ばした黒棘が貫く。そのまま指1本で持ち上げ叩きつけたブラヒムは心底不快そうな表情を浮かべていた。

 

「雑魚に時間を割くほど暇ではありません。ノブリス、君はワタシとアラクネの関係性を察していながら黙っていたようですねぇ。あの時追撃し、殲滅していれば今宵の襲撃はなかった…違いますか?」

 

 ブラヒムの発する言葉のすべては増幅され、街に響き渡っている。間接的にではあるがアラクネの襲撃に手を貸し、街に大損害を与えた罪を公表することで退路を断とうというのだ。

 ノブリスもまたすべてを否定され意気消沈、加えて最悪のタイミングで広められたことにより取り繕う余裕もなく…黒幕による罪状の読み上げにただ俯いていた。

 

「君はこの先後ろ指を差され続けるでしょう。騎士団を追い出され、また惨めな逃亡生活を送るやもしれません。ならば魔族側について己の地位を確保し、ここで”敵”を殲滅するのが賢い生き方ではありませんか?」

 

(どどどどーすんだよこれ!あいつの話がガチならここ切り抜けてもボスが追い出されるじゃん!てか下手すりゃ処刑なんじゃ…オレっちじゃあんなの勝てっこないし…!)

 

 焦るケインをよそにノブリスは虚ろな目のまま、差し出されたナイフをついに受け取ってしまう。そんな様子を見下ろすブラヒムの視線は口調に反してどこまでも冷たい。

 

「さあノブリス。あそこで怯えている落ちこぼれやステラナイトなどというくだらない名前のついた遺物どもと決別し、ともに覇者になろうではありませんか」

 

「…くだらない?」

 

 誰もが行く末を見守る中、何気なく発された侮辱に反応したノブリスの動きがピタリと止まった。そして与えられたナイフを握り込むと…ブラヒムの無防備な腹に深々と突き立てる。

 

 散弾を食らっても平然としている男にナイフのひと突きなど通用するはずもない。非合理的な判断を理解できないといった風なブラヒムに対し、ノブリスは憎しみを込めて、傷口を抉るように攻撃を続けていた。

 

「おや…どういうつもりですか?ノブリス」

 

「ステラナイトはあいつが…ゴルドンが考えた名前だ。たとえあなたでも侮辱することは許さない!」

 

────────────

 

「特別な肩書きがほしい?」

 

 発端はイソーでの活動もずいぶん慣れてきた頃のある夕食後…全員が揃うタイミングを使った報告会で浮上したギャル軍団からの要望であった。

「王都騎士団憲兵隊 イソー支部」ではモチベーションが上がらないという彼らは、代わりとなる肩書きを用意できないかノブリスに提案してきたのである。

 

「今はマジボスと愉快な仲間たちって感じで張り合いが無いっつーか…『鉄拳法廷ド・フィス』みたいなのオレたちにもあったらも〜っと頑張れる気がするんスよ!」

 

 ノブリスはギャル軍団の1人であるネイルの説明と、そうだそうだと便乗する彼らに呆れたような視線を送る。確かに一部の団員は異名や二つ名を持っていることもあるが、それは功績などから自然とつけられるもの…

 地方支部の、ましてや精鋭でもない彼らが勝手に名乗ったところで誰も認めない事は明白であり、すぐに飽きるだろうと予想していた。

 

「却下だな。そんな事を考えている暇があったらもう少し…」

 

「わたくしはよい考えだと思いますよ」

 

 賛同を示したのは背後に立つ執事のカーシルだった。滅多に反対意見を述べない彼が珍しく、しかもこんなことで対立してきたことにノブリスが驚いていると、柔らかい笑みを浮かべてさらに続ける。

 

「武勲を立てにくいこの土地では目覚ましい出世が望めません。たとえ非公式であったとしても、坊っちゃんからの勲章とあらば皆様も張り合いが出るのではないでしょうか」

 

 うんうんと頷くギャル軍団に対しノブリスの目は懐疑的だった。

 中隊長への突然の出世を果たした彼は肩書きや勲章を自力で得る喜びを知らない。むしろ貴族という生まれで苦労してきたこともあり、過ぎた地位にはどこか否定的ですらある。

 

 一方で努力に対する分かりやすい評価が良い方向に作用するという、一般論での考えは理解できなくもない…

 あくまで非公式ということであればとやかく言われる事もないだろう、そう考えたノブリスは小さく頷いた。

 

「…分かった。ボクが精鋭と認めた者にのみ称号を与えよう。ひとまずはそれでいいか?」

 

「「「「ウェーイ!!さすがオレたちのボス!話がわかる〜!!!」」」」

 

「はぁ…さて称号はどうしようか。個々に与えるのか部隊単位にするか、そもそも名前を考えなければならないが…急に言われても難しいな」

 

「…ステラナイト、などはいかがでしょうか」

 

 またも背後から聞こえてきた声に今度はノブリスだけではなく、珍しさから部屋の全員が視線を向ける。そこには律儀に小さく手を上げつつ、少し照れた様子のゴルドンが立っていた。

 

「ステラナイト…お前の口からそんな言葉が出てくるとはな。何か由来はあるのか?」

 

「は。我々は坊ちゃまという輝きを守り、その下で暗闇に怯えず生きていく…そんな意味を込めました」

 

 暗闇に…身分を隠して各地を放浪していた長い逃亡生活の事を指しているのだろう。もうあんな惨めな思いはしない、させないというゴルドンなりの覚悟の表れであった。

 

 だがいくら例えとはいえ面と向かって”輝き”などと言われるのは相当なむず痒さがある。ノブリスが他の表現がないか問おうとしたその時…ギャル軍団たちから感極まったような声が次々と漏れ出ていることに気付く。

 

「いい…それメチャクチャいいっスよゴルドンさん!!ガチの忠誠ってヤツが伝わってくるっス!」

 

「いや待ってくれ、いくらなんでもボクを輝きというのは─」

 

「あーしも賛成〜!キラキラしててイケてるもんね。ゴルおじやるじゃん」

 

「ごめんねボス、ウチも賛成に一票で!」

 

─ステーラナイト!ステーラナイト!ステーラナイト!

 

 どんどん大きくなっていくギャル軍団による大合唱が食堂に響き渡りカーシルすらも賛意を示す中、元貴族の用心棒たちは相変わらず不動である。

 

 ブラヒムにお膳立てされて主を任されてからというものの、彼らと交わしたコミュニケーションは決して多いとは言えなかった。

 ノブリスや側近である2人の指示には従う一方で自我を感じない、または徹底した服従を貫いており、談笑しているところを見たことがない。

 

 彼らは基本的にイエスとしか言わないし、今回もそうなるだろうも予想していた。それでも尋ねようと思ったのはただの興味以上の何か…これを機に歩み寄りたかったからかもしれない。

 

「あいつらすっかりその気になってしまっているんだが…お前たちはどうだ?」

 

 用心棒たちはいつもと違うニュアンスでの問いに顔を見合わせると、彼らのまとめ役であるパラドが代表して口を開いた。

 

「我々は貴方の判断に従うまでです。ただもし意見を許されるならば…かつて主を守れなかった者として、ゴルドン殿の覚悟を無下にはできません」

 

 それは従者として役目を果たせなかった事への後悔…彼らが初めて見せた”人間”の部分を垣間見たノブリスはわずかに微笑むと、手をパンッと叩いて立ち上がった。

 

「お前たちにも言われたら仕方ないな…精鋭に送る称号の名はステラナイトにしよう。ただし!お前たちには他の称号を言い渡す」

 

「「「え!?ステラナイトじゃないの!?」」」

 

「当たり前だ、精鋭にしか渡さないと言っただろう。お前たちはそうだな…ギャンギャン騒がしいからギャン軍団、いや…少し言いづらいからギャル軍団にしよう」

 

「「「そんな〜〜〜!!!」」」

 

 ブーイングに沸き立つギャル軍団に呆れつつも、ノブリスは用心棒たちを指差した。

 

「ステラナイトの称号はお前たちに送る。主であるボクを今度こそ守りぬいてみせろ。それと…」

 

「お前たちは部下であって奴隷やペットではない。これからは思うことがあれば伝えるんだぞ」

 

「!…御意」

 

 これまで常に仏頂面だったステラナイトたちの表情がわずかに緩む。そんな様子を見たゴルドンとカーシルもまた、部隊の団結に頬を綻ばせるのだった…

 

──────────────

 

「ステラナイトの称号は何もかもお膳立てされてきたボクたちが自分で用意したものだ!不出来なあいつらの目標だ!それを魔族に堕ちたあなたが気安く触れるな!」

 

 流派も何もないヤケクソな突きに対し、ブラヒムは苦しむ素振りすら見せない。その一方で心底不思議そうに顔覗き込んだ後…ノブリスの頭を掴み、片腕で持ち上げた。

 

「身内だけに通用する地位などなんの価値もありませんよ。ワタシは君を救おうと提案しているのに…本当に残念だ」

 

(さっきからなんなんだこの人は!立ち位置がコロコロ変わるのにどれも本気で言ってるように聞こえる…!)

 

 ブラヒムは空いている手から黒い槍を生成すると、くるりと回してノブリスの腹に突き付けた。

 射撃兵器では彼を巻き込んでしまい使うことができず、接近戦に持ち込んで救えるほどの猛者はこの場にはいない…

 

 はずだった。

 

「…またキサマですか。本当にしつこいですねぇ…やはり先に殺しておくべきでした」

 

「はっ…!クール気取っててもやっぱり俺にイラついてる…!効いてないアピールは却ってダサく見えるぞ寄生虫野郎。それに…!」

 

 ブラヒムを背後から急襲したのはこれまで散々煽り倒してきた死に損ないのエイジャー・グラム…この期に及んでまだ立ち上がってくる姿に募らせた不快感は、さらなる刺客の接近に対する反応を鈍らせた。

 

「坊ちゃまに触れるな…薄汚い下郎がぁ!!!」

 

「…!!!」

 

 水を纏って現れたゴルドンは鬼の形相で勢いのままに突っ込むと、刃に換装したトンファーでブラヒムを袈裟斬りにし、両腕を斬り落としてしまった!

 あまりにも容赦がない行動に唖然とする周囲を気にする様子もなく、ゴルドンは抱きとめたノブリスを降ろしてやると跪いた。

 

「遅くなってしまい大変申し訳ありません。お怪我はありませんか?坊ちゃま」

 

「あ、ああ…でも外の警備に行ってたはずじゃ…」

 

「地下からの侵入を試みた者、退路を確保しようとしていた者はどちらも殲滅して参りました。あとは副団長殿にお任せして問題ないかと」

 

「そうか…よくやったゴルドン。さすがだな」 

 

「勿体なきお言葉にございます坊ちゃま…それとエイジャー殿にも感謝をせねば。その体でよくぞ時間を稼いでくれた」

 

 ゴルドンは立ち上がり、先ほどまでの修羅ぶりが嘘のような所作でエイジャーに頭を下げる。それは文字通り死に物狂いで主を守ってくれた男への、彼なりの最大の敬意であった。

 

「もう気が済んだだろエイジャー。拠点に戻って休もう」

 

「悪いねガラナ…あとはみんなに任せることにするよ」

 

─そうはいきませんねぇ。エイジャー・グラムゥ…

 

 安堵を破ったのは両腕を切断されたブラヒムだった。見ると切り落とされたはずの腕がゆっくりとではあるが再生しており、やはり出血していない。

 驚愕し、固まる一同をよそに完全再生したブラヒムは肩をゴキゴキと鳴らして調整すると、生えたばかりの腕でエイジャーに突きを繰り出した!

 

 即座に反応できたガラナはエイジャーを突き飛ばすと同時に槍で受け止める。ブラヒムの力は細身な体格の割に強く、水の噴射によるサポートをつけてようやく拮抗するほどだった。

 

「さすが旧世代の人間だ、太刀筋に容赦がない。ですが生け捕りを優先して手加減したのはいただけませんねぇ…飼い慣らされて牙の抜けた犬ほど惨めなものはない」

 

「こんな力どこから…!それに腕が生えてくるなんて聞いてないぞ!」

 

「あれで平然としているだと…この男は不死身か?」

 

 普通の人間であれば失血死する重症を与えてもなお復活し、立ちはだかるブラヒム。人知を超えた存在を前に冷や汗を垂らす戦士2人に対し、喜怒哀楽の入り混じった奇妙な表情を見せるブラヒム。

 

 突き飛ばされたエイジャーはそんな彼を見ながら正体の究明と、攻略法の発見に努めていた。

 

 これまで戦ってきた魔族の中にもオーラで自己修復した扇ガザミや頭を落としても動き出したクネペパなど、特段しぶとい者は確かにいた。

 だがそれはどちらも壊したのが操り人形だったからであり、目の前にいるブラヒムはおそらく本人…つまり肉体そのものに何かしらの異能が備わっていると考えるのが自然である。

 

「ハァ…きっと身体を弄られたんだ…やはり魔族は後天的なものなのか…?」

 

「クククッ考察など無駄ですよエイジャー・グラム…ここで全滅というのがワタシの脚本なのですから。さあいい加減死になさい!圧倒的な格差に絶望しながら!」

 

「この男もまた坊ちゃまの居場所の1つ…下郎如きにやらせはせん!」

 

 レイピアを大剣に変化させたブラヒムの横薙ぎを、今度はゴルドンが受け止める。ガイン、という鈍い音は威力の高さを物語っており、体格に優れる彼ですら受け止めるのに精一杯という風だった。

 一方のブラヒムは予想外に粘る人類に苛立っているのか、感情の昂りを表すかのように全身から黒いオーラを噴出し続けている。

 

(おいガルフィン族の!お前は空を飛べるようだがまだできるか?)

 

 旧王政の人間が繰り広げる”容赦なき強さ”の衝突にガラナが息を飲んでいるとノブリスが話しかけてきた。彼がエイジャーに取ってきた態度を把握しているだけに好感度は非常に低く、思わず怪訝な表情を浮かべる。

 

(魔力は残してあるから出来るけど…まさか自分だけ逃げる気?)

 

(お前もなかなか癪に障る奴だな…飛び回るハエどもを殲滅して戦力を集中させるから手伝え)

 

 ガラナは少し考えた後に頷く。相手が攻略法の見えない存在である以上、眼前の戦いに割って入るよりも応援を呼んだ方が得策と考えたからだ。

 見渡せば傭兵たちは空飛ぶアラクネの迎撃に苦戦しており、地上の敵もだいぶ数を減らしているとはいえ油断できない。分散しているこれらの戦力を一点に向ける事ができれば確かになんとかなるかもしれないが…

 

 2人は傍らで膝をつき、浅い呼吸を繰り返すエイジャーに視線をやる。無理を承知で強行した作戦はゴルドン到着までの時間を稼げた一方で、その消耗はいよいよ命に関わる域に達していた。

 

 だがエイジャーは無理に笑顔を作ると首を横に振って2人から出るであろう言葉を否定する。まだここに残ろうというのだ。

 

(あの人の目当ては俺だ…下手に逃げたら余波で街を巻き込む。ここならみんな戦えるから被害は抑えられるはずだ)

 

(そんなの認めるわけないだろ!ルルたちが治療法を見つける前に死ぬ気か!?)

 

「…アゲハ!例のアレを各隊に伝えろ!おいガルフィン族の!今すぐボクを連れてなるべく高く飛べ!」

 

「は!?何を勝手に…」 

 

「行ってくれガラナ…ノブリスにも考えがあるはず。俺はそれを信じるよ」

 

 交互に見やった2人の目にはどちらも迷いはなく、お互いの無茶を信じているようだった。少し離れたところではアゲハが各隊と連絡を取っており、40秒後に何かをすると告げてしまっている。

 

「〜あーもう分かったよ!あんたら意外と似た者同士かもな!!!」

 

 ここで食い下がっても仕方ないと察したガラナはノブリスを抱えると足裏から生成した水を圧縮・放出して飛び立っていく。

 

(さて…ここまで勝手させてもらってるんだ。結果を出さないとな)

 

 小さくなっていく2人を見送ったエイジャーは再び気合を入れ直すと、秘策に向けて最後の気力を振り絞るのだった。

 

─────────────

 

「おや…いつの間にノブリスが離脱したようですねぇ。飼い主に捨てられたのではありませんか?ゴルドン」

 

「見くびるな。坊ちゃまは貴様のような尻軽ではない」

 

 ”秘策”開始まで残り15秒─ブラヒムとゴルドンの2人による攻防が続いていた。

 登場からずっと戦闘しているにも関わらず呼吸1つ乱れないブラヒムが効果的な一撃を加える隙を見つけられない一方で、ゴルドンは対処こそ完璧だが疲労の色が見えつつある。

 

「そうですか。それにしても人間というのはもどかしい生き物ですよねぇゴルドン。どれだけ鍛えたところで2本の腕で戦うしかないのですから」

 

「…?何を言って─ぐぅっ!」

 

 ブラヒムの口が不気味に開かれた次の瞬間。ゴルドンの脇腹を細く黒い棘が貫き、鋭い痛みが走った。

 棘はブラヒムの脇腹あたりから生えてきており、棘を太くして傷口を広げていく。陰湿な方法は肉体だけでなく精神にも強く作用し、ゴルドンは痛みのあまり顔を歪める。

 

「ワタシの生成能力が掌からだけと、今まで本気を出していたと誰が言いましたか?もはや生物としてのスペックが違うのですよ」

 

「ッ…フフ…フフフ…!哀れな男だな、ブラヒム・リッチ…!借り物の力で偉くなったところで…己を持たぬお前など誰も認めはしないぞ…!」

 

「……死を前にしておかしくなったようですねぇ。落ちこぼれの犬が生意気ですよ」

 

「俺もかつてはそうだった。人間の価値は生まれ持ったものから変えられないと教えられ…あの家と坊ちゃまにただ従っていた…ッ!」

 

 ゴルドンは脇腹に刺さっていた黒棘を掴むと力任せにへし折ってしまった。これにはさすがのブラヒムも驚いた様子を見せるものの、そんなことはお構い無しと蹴りを放って距離を取り、トンファーを構える。

 

「…いや、語る必要はないな。俺にはこのやり方が性に合っている」

 

「まさかここから覆せるとでも?あなた以外にはゴミしかいないこの状況で?」

 

「今にわかる。…エイジャー殿!今、この瞬間だけは情けを捨てろ!」

 

 そう叫んだゴルドンからのアイコンタクトを理解したエイジャーが目を伏せ、同時に構えた。

 そして”秘策”の予定時刻に達したガラナとノブリスの2人は街の上空、中心に位置取っている。

 

「そろそろ時間だぞ!いい加減何をするか教えてくれてもいいいと思うんだけどな!」

 

「あいつらの称号に相応しい技だ!ボクと心中したくなければ光が収まるまで目を閉じていろ!」

 

 

「高慢なる光よ!悪しき者を白日の元に晒し、正しき者の道標となれ!『オブリージュ・ステラバースト』!!!」

 

 

 叫んだノブリスの身体から迸る凄まじい光は街を覆い尽くすと同時に目を開き、光を認識した者全員の視線と意識を釘付けにする。その光景は地上からの光に亡者が群がっているようにも、独裁者が民衆をコントロールしているようにも見えた。

 

「これはまさか…従属呪文!剣もまともに振るえぬ落ちこぼれがこんな奥の手を用意していたというのですか!?」

 

 光が持つ強制力はブラヒムも例外ではなく、戦闘の最中にも関わらず光から目が離せなくなっている。2人は防御も回避もできないブラヒムを前後から挟み込むと、まずはエイジャーが背後から心臓を突き、強引に振り抜いて身体を横に引き裂いた。

 

「『火喰鳥裂傷』…ハァ…確かにノブリスは武術の才能がないし…俺にはやたら辛辣だそれでも…!ここの皆にとっては必要で…!そう思われるだけの輝きを持ってるんだよ…!どこまでも真っ暗で虚無なあんたと違ってな!」

 

「坊ちゃまを弄んだ罪は万死に値する!おおおおおおおっ!!!」

 

 続くゴルドンが初撃でブラヒムの首を跳ね飛ばし、二撃目で身体を縦に真っ二つに引き裂くと大量のドス黒いオーラが放出されていく。

 一通り放出し終えて残ったブラヒムの残骸は地面に倒れ込むと…断末魔をあげることもなくそのまま沈黙した。

 

 

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