Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 人類を裏切り魔族についたブラヒムは大勢の魔族を連れてイソーの街を襲撃、アラクネの襲撃と被せたそれは大混乱を引き起こしていた。
 彼の冷静さを奪うことで時間を稼ぐというエイジャーの案は見透かされており万事休すかと思われたその時、地下道を守っていたゴルドンの到着とノブリスの秘策により形勢逆転。ついに致命傷を与えることに成功したのだった…




64話 しつこい男は嫌われる

 ノブリスがとっておきの従属呪文をお披露目する少し前…右舷の襲撃を担当していたジャーミン率いる部隊は多少の犠牲を出しつつも、セクメンズの迎撃を巧みにかわし続けていた。

 

「ハハッ見ろよ街が燃えて賑やかだぜ!あのマビンとかいうクソ野郎死んだんじゃないか?」

 

「魔力残量に気を付けろつってんだろ吹かすなバカ!傭兵どもはしつけーしロウンさん見えねーしどうなってんだよ…ん?」

 

 ジャーミンは突如として現れた光源に振り向く、いや「振り向かされ」ると同時に手元が狂い、空中で錐揉み回転し始めた。

 

「やべッ…なんだこれ首が手元に向かねぇ!」

 

「こっちもだ!…おい誰か落ちたぞ!」

 

 ノブリスの従属呪文『オブリージュ・ステラバースト』は魔力を一度光に変換し、光や音がした方へ向いてしまう動物の反射反応をさらに誘発する性質を加えたものである。

 繊細な操作を必要とする兵装”マグローン”での飛行中に集中を切らすことは致命的であり、制御しようにも意識の一部を光への興味に割かれているため精細さを欠く…殺傷力を持たず、単独では戦えないノブリスの従属呪文は彼らにとって極めて有効な妨害策だった。

 

 視線と意識を操縦に向けられない中、ジャーミンをはじめとした空襲部隊は墜落しないよう必死に舵を取る。だがそれはあくまで墜落を防ぐだけであり、今までのようにすばしっこく動き回る事はできない。

 そんな中従属呪文のカラクリを説明され、予め対策していたセクメンズの迎撃部隊は触覚をもがれた虫のように乱れるアラクネたちを照門に捉えていた。

 

「あの光も長くはもたない!この掃射で決めるぞ!撃てーッ!」

 

 セクメンズのリーダー レストンの号令に合わせて壁上に並べられた兵器が一斉に起動した。矢の雨は体を貫き、砲弾の爆発は背中のマグローンを誘爆させて肉体を焦がす。

 

「ちくしょう!なんだってんだこんな…!こんな…!ぐああああっ!!!」

 

 視界の端で1人、また1人と撃墜されていく部下たちを視界の端に捉えながら、ジャーミンもまた暗闇の底に消えていくのだった…

 

─────────────

 

「お疲れ様でした坊ちゃま、素晴らしい輝きでしたよ」

 

「驚いたよノブリス…まさか従属呪文を使えたなんて」

 

「こいつを知ってたのはゴルドンとカーシルだけだ。一度使うと数日は目眩と倦怠感に襲われるからな…本当の奥の手だ」

 

 『オブリージュ・ステラバースト』を放ち終え、地上へ戻ってきたノブリスはゴルドンにもたれかかりながら街を見渡す。

 

 彼が稼いだ数秒はアラクネたちの自由を奪い、その隙に迎撃した傭兵たちによって撃ち落とされたようである。あちこちで燃え盛っていた炎もだいぶ収まり、下に跋扈していた敵たちもあらかた片付いていた。

 

 バラバラになったブラヒムの残骸も沈黙を貫いており再生の気配はない…ひとまず勝利といっていい状況に安堵していると、各部隊との連絡を終えたアゲハが走ってくる。

 

「ダイガロンのウザい隊長が呼んでるよ。ここでも聞こえるようにして…と」 

 

「…ガルダか。こんな大変な時に何をしていた?」

 

『アラクネの指揮官殿とケンカをな。ちょっとばかしヤンチャしすぎたが…ゲホッ…それより逃げなくていいのか?あんたの罪が知れ渡っちまったようだぜ』

 

「…逃亡生活はもうウンザリだ、魔力を使い果たしてそんな元気もない。落とし前はつけるつもりだ」

 

『そうかい。ま、オレが尋問官やるならちょっとくらいは手心を加えてやるから安心しな…ん?おい空を見ろ!ヘヘッまだ終わってないみたいだぜ…!』

 

─フ ォ オ オ オ オ オ

 

 通信を介してガルダの忠告を聞いていた皆が一斉に空を見上げ、そして絶望に表情をひきつらせる。

 彼らの目に映ったのは黄金の体毛を持つ巨大な蛾─昨日イソーを襲った魔族 クレイヴモスだった。

 

 戦える人間がすべて外に出ている今、再び鱗粉を撒かれるのはまずい─スーツを稼働させ立ち上がろうとするエイジャーの行動を見越していたように、ガラナは即座に羽交い締めにして動きを封じる。

 

「だろうと思ったよ…魔法も使えないのにどうする気?」

 

「う…」

 

「すぐに突っ込む癖をいい加減直せバカめ…役立たずはそこでブラヒムさんが復活しないか見張っていろ」

 

 ノブリスはゴルドンの肩を借りるとギャル軍団の元へと向かっていき、今まで触れていなかった箱を開封させる。それはガルダが持ち帰った情報を元にかき集めた、クレイヴモスに有効と思われる劇薬の数々だった。

 

「王都騎士団から各隊へ。ボクが引き起こした今夜の襲撃についてはすべて片付いてから償う。色々言いたいだろうがもう少しだけ付き合ってほしい」

 

─了解。あれを倒さない事には責任の追求もできないからね

 

─予備の迎撃装備をそっちに移動させてるわ。奴が領地へ入り切る前にカタをつけましょう

 

─さっきから街の外周で妙な人影がチラついてやがる。ヒマなオレたちはこっちを対応しておくぜ

 

「分かった、回線は繋いだままで頼む。さて…お前たちにも謝らなきゃいけないな。ボクの勝手に巻き込んでしまった…すまない」

 

「なーにシュンとしてんスか!オレたちいつも迷惑かけてんだし?たまにはバブみ見せていいんスよ!な、みんな!」

 

「「「「「ウェーイ!!!」」」」」

 

 ギャル軍団はいつもの調子で騒ぎ出す。そこには刺された肩の治療を終えたランヅキも混ざっていた。

 過ちを犯してもなお慕いついてくれる者たち…ただの上下関係ではない、自分という人間を見てくれているからこその繋がりを得られた事を実感し涙腺が緩むノブリスに、アゲハはそっと耳打ちした。

 

「ここにいるみんなはボスが救ったんだよ?あんまり大きい声では言えないけど…騎士団になれなかったらあの日死んでたし。だから元気出して!」

 

「お前たち…薬で焼けるのは触れた部分のみだ!砲撃は一箇所に集中させず分散!両翼も援護に回る、焦って自分の皮膚を焼くんじゃないぞ!返事!」

 

「「「「「りょーーーかい!!!」」」」」

 

 ノブリスの号令に合わせて次々と打ち上がる砲弾と矢がクレイヴモスの体を直撃する。劇薬に触れたデコイたちは身を焼かれて煤と化していくものの、体を構成する数が多すぎるために目立った効果は見られない。

 

「んー…なんか地味すぎてやってる感が出ないっスねー…そうだ!どうせなら”映え”狙っていきましょい!」

 

 ギャル軍団の1人 ネイルは鏃に油を染み込ませた布を巻き、火をつけて発射する。夜を駆ける赤い軌跡はクレイヴモスに着弾するとわずかに付着していた火薬に引火し、小さな爆発とともに揺らがせた。

 

「…!お前たち!バリスタの矢に火薬を括り付けて飛ばせ!その方が広範囲を潰せる!でかしたぞネイル」

 

「マ!?ゆくゆくはステラナイトの一番隊長的な!?っしゃあ野郎ども!派手にいこうぜぇー!」

 

「「「「「Fooooooo!!!!!」」」」」

 

 派手にやるほど褒められるという最高の条件に盛り上がるギャル軍団の攻撃はさらに激しさを増していく。炎が立ち上った末に小さな爆発を起こす様はまるで花火のようであり、建物に避難し、息を潜めていた住人たちも何事かと窓際に集まってくる。

 

 それは拠点で待機しているカーシルも同様であり、主が魅せる最後の一華を目に焼き付けんと窓際から眺めていた。

 

───────────────

 

「みんな頑張ってるな…どうだガラナ…何か分かりそう?」

 

「全然。…というか分かりたくもないよ、こんなの」

 

 迎撃戦が佳境を迎える頃、ガラナはついに沈黙したブラヒムの破片を監視・観察していた。

 後天的に異型となった彼の身体はあれだけの攻撃を受けながら血の一滴も流すことはなく、肉や骨といった組織すら見当たらない。断面は不気味な黒い何かを覗かせているだけであり、ヒトの皮を被ったバケモノとしか言えない構造にガラナは薄気味悪さを覚えていた。

 

「これ本当にもう1人の副団長さんなのかな。ただの人間がこんなに変わるものなの?」

 

「…分からない。あの人を殺して成り変わった魔族と言われた方が…いや、むしろ言ってほしいのが本音だけど…」

 

「コノゴニ オヨンデ マダ クダラナイ コトヲ …」

 

「…ッ!?まさか…嘘でしょ」

 

 切り落とされたはずのブラヒムの首が口を開いたかと思えば、少し離れた位置にある右半身も動きだす。そしてゆっくりと腕を上げ…上空のクレイヴモスを指差すと、感情のない無機質な口調で何やら呟き始めた。

 

『キアゴア・スネシウ・ヲギツキルホ…キアゴア・スネシウ・ヲギツキルホ…』

 

「…ガラナ!頭を水に閉じ込めろ!何かやらせるつもりだ!」

 

 ガラナは即座に生成した水をスイカほどの玉に留めると、謎の言語を繰り返すブラヒムの頭に被せて妨害を図る。だが彼が発しているのは言葉ではなくテレパシーの一種のようで止まらない。

 ならば頭を割るしかないと槍を構え、振り下ろそうとしたその時…上空のクレイヴモスが鳴き声をあげ、超高速かつ超遠距離に口吻を伸ばし、ブラヒムの頭に突き刺したのである。

 

「『隼突撃』…!?か、かた…い…!」

 

 何かを察したエイジャーが咄嗟に立ち上がり口吻を切り離そうとするも、腰の入らぬ一撃では威力が足りない。ガラナも反対側から槍を振るっているが破壊には至らず、時間だけが過ぎていく…

 ブラヒムは左右の目それぞれで2人を見ながら、必死に抗う姿に大変機嫌を良くしていた。

 

「クククッ無駄ですよエイジャー・グラム。あれは主が生み出した原初の魔族…力を与えるという使命を全うするためだけに存在する。ずいぶん寄り道していたようですがね」

 

「なんだと…ぐっ!」

 

 ブラヒムが放った衝撃波に吹き飛ぶ2人。その間にも四散した身体がバタバタと動いて集まり、黒いオーラで繋がっていく…

 そしてドス黒いオーラを放ちながら、3度目の復活を果たすのだった。

 

「悪意は、そして魔族は不滅なのですよエイジャー・グラム。さあ、仕切り直しといこうではありませんか」

 

 一歩ずつ、わざとらしく迫るブラヒムが絶好調なのに対しエイジャーは満身創痍である。割って入ったガラナがなんとか抑えているものの、優位とは程遠い状況であることは誰の目にも明らかであった。

 

「アイツまた復活したの!?しつこっ…てかボスどうしよ!まだ空の魔族も片付いてないし…!」

 

 力を分け与えたと思われるクレイヴモスも健在であり、ゆっくりとではあるが街の中心を目指している。傭兵たちの砲撃でデコイを削ってはいるものの、まだまだ余裕といった風…とても手を緩めている場合ではない。

 

「ボクの従属呪文はもう使えないし負傷したゴルドンは先ほどのようには動けない…どっちだ…どっちに注力すればいい!」

 

「考えても無駄ですよノブリス!ワタシに従っていれば楽に死ねたというのに…くだらぬ情が悲惨な結末を呼び寄せたのです。ところでアナタ…魚の分際で時間を取りすぎですよ」

 

 鍔迫り合いを続けるブラヒムにオーラが集中する。ゴルドンにやってみせたように、また防御不可の状態から生やした棘で襲うつもりだ!

 

「動けよ…寝てる場合じゃない…だろ…!見殺しにする気か…あの日みたいに…ッ!」

 

 加勢しようとするエイジャーの身体はもはや一切の踏ん張りも効かないほどに消耗しており、アシストスーツに力を伝えることすらできない。

 地を這い、睨みつけるだけのエイジャーを見たブラヒムの視線は心底愉快そうに吊り上がる口角に反して冷酷であった。

 

「惨め!惨めですねぇエイジャー・グラム!まだ意識を失ってはいけませんよ?これから戦友とやらが死ぬ様子をお見せするのですから!」

 

「なんだよこれ…引けもしないぞ…!?」

 

 ブラヒムが生成した刃はガラナの心臓を狙っている。ガラナもなんとか避けようとするものの、鍔迫り合いの主導権を完全に握られており動くことができない。

 

「やるなら先に俺をやれブラヒム…!やめろ…!」

 

「何人目からそう言っていられなくなるか楽しみですねぇ…では記念すべき1人目の死を焼き付けなさい、エイジャー・グラム!!!」

 

─スティールチェーン!!!

 

 刃がガラナに到達する直前─どこからともなく現れた鎖がブラヒムの足を捉えると、後ろに引っ張って転倒させた。

 

─ネクロシア・デル・アッダーヴァ!!!

 

 続いて頭上から凄まじい速度で落下してきた何かが転倒したブラヒムの心臓を貫く。高所からの死をも厭わぬ一撃は凄まじい威力を生み、再生したばかりの身体を再びぶちまける。

 突然の出来事に丸くなったエイジャーの目に映ったのはアルジードと見知らぬ男、そしてボゥトパスが一足遅れてやってくるという不可思議な組み合わせだった。

 

「アル…?この状況は一体…」

 

「そりゃこっちのセリフだぜ団長。寿命縮めるようなマネしやがって…オレが代わるからいい子にしてろよ?アーサー、あとは頼んだ」

 

「アーサー…ってまさか…?」

 

「そのまさかだ。マリーが世話になったみたいだね」

 

 呆れたように笑いながら手を振るアルジード。鎖によって転ばされたブラヒムは彼の横顔を視認すると、拳を強く握りながら睨みつけた。

 

「その肌と髪の色…負け犬の一族がワタシに地を舐めさせるとは…!」

 

(アーサーが心臓突いたってのにピンピンしてやがる…魔族の中でも特別製か?団長とガラナで苦戦したヤツを真っ向からはキツいな…よし)

 

「人が話してる途中だろうがボケ。てかテメェが騎士団を裏切ったっつぅクソ野郎だな?もっと威厳のある悪党を想像してたけど案外ちっせぇなぁ…」

 

「…!!!」

 

 多少無理していたエイジャーと違いアルジードは元から口が悪い。直前にプライドを傷つけられたこともあり余計に堪えているブラヒムをよそにこちらへ視線を向けると、ここは任せろ、とアイコンタクトを送った。

 

(さすがにアル1人じゃ無理だ、僕も行ってくるよ)

 

 アイコンタクト側で見ていたガラナもまた意図を理解すると耳元で囁き、加勢へ向かう。どこまでも食い下がってくる人類に対し、ブラヒムの不快感は積み重なる一方…再び2本のレイピアを生成すると、先程よりも大量の黒いオーラを纏わせた。

 

「癪な…魚と植民地の子供にワタシの相手が務まるとでも?」

 

「先祖の因縁なんか興味ねえっつうの。立場でしかモノの判断ができねぇのかよオッサン」

 

「…飼い主に似て不躾ですねぇ…いいでしょう。目上に対する正しい態度というものを身体に刻み込んで差し上げますよ!」

 

 ブラヒムはぬらりとした動きで視線を惑わせた後に鋭い突きを放つ。対するアルジードは幾重にも重ねた鎖でこれを防御するも鍔迫り合いは不利と判断、わずかに重心をずらして受け流す。

 

 受け流しの勢いを利用して裏蹴りを放ち、踵に仕込んだ刃を展開して首を狙うも即座に生成した黒棘によって阻止。ブラヒムは反撃を目論むも、振り上げた腕はガラナによる背後からの一撃で切り落とされてしまった。

 

「小癪…なぁッ!!!」

 

 追撃を目論む2人めがけて生成された棘はそれぞれ回避、防御されるも距離を離すことに成功し、再び膠着状態となる。周囲をグルグルと周りながら、アルジードたちは作戦を練っていた。

 

(首への攻撃を嫌ったあたり再生するのも楽じゃねえとみた。隙は人間とほぼ変わらねぇしプライドが高すぎて煽りに弱ぇ。あとはやり方次第だな)

 

「副団長っつうから警戒してたけど案外大したことねえな!犬コロにしてやられる飼い主ほど惨めなモンはねぇ…よっ!」

 

 アルジードは棒手裏剣を投げて牽制、視線を誘導しつつ死角に入ると鎖を展開して欠損した腕に巻き付けた。再生を阻害すると同時に自由を奪われたブラヒムにガラナが迫る。

 

(アル、今来たばかりなのにエイジャーと同じように煽ってる…旅の仲間って考えが似てくるのかなあ)

 

「こんな言葉を知ってる?大きなものについて回る小さいヤツを僕たちの一族では”リュウギョのフン”と呼ぶらしいよ。魔族の再生力にかまけたあんたにはお似合いかも…ねっ!」

 

 ガラナは先ほどの出来事を思い出すと刃先に水を集中させてハンマー状に変化させ、足に向かって思い切り振り抜いた。体幹が揺らいだタイミングに合わせてアルジードが腕を引っ張って追い打ちをかけることで転倒させると、再び2人が見下ろす形になった。

 

「頭なんか下げてどうした?裏切り者のクソ野郎。オレは奴隷を雇う趣味なんかねぇぞ」

 

「…ッ!下等生物の中でもさらに下の生き残りがァ…!!ワタシを見下してんじゃ─!」

 

─お二人とも、離れてください

 

 どこからか聞こえてくる声とともに、激昂するブラヒムを囲うように赤熱する地面。その正体を知らずに困惑しているアルジードを抱えてガラナが即座に脱出した直後、全身が見えなくなるほどの業火が包みこんだ。

 

「熱ッなんだこれ!?街が燃えてたのと関係あんのか?」

 

「グレナルドさんの従属呪文だよ。でもどうしてこのタイミングで…?」

 

『君たちが仮面を剥いでくれたおかげですよ。これだけの悪意を抱えながらなぜ対象に取れないのか疑問でしたが…ダブルシンクを利用していたのですね』

 

 ダブルシンク…リアリティー・コントロールとも呼ばれるそれは異なる思想を抱えることで生じる矛盾点を疑わず、自然に受け入れる能力である。 

 グレナルドの従属呪文は指定したものに対する悪意・敵意を持った相手にのみ発動できるのだが、人類を裏切ったはずのブラヒムを対象に取ることができなかった。

 

 なぜなら彼は”魔族・上位存在としての人格”と”憲兵隊としての人格”を適宜使い分けていたから…ノブリスへの言動が不安定だったのも本心の切り替え・混雑が原因であり、矛盾した存在のため悪意センサーにも引っかからなかった、というわけである。

 

 だがエイジャーがしつこく食い下がり、ノブリスに反抗されたことで綻びが生じ。

 アルジードとガラナが”地に伏す”という地雷を踏ませたことで怒りが爆発。両方の人格で敵意を発露させてしまったために対象に取れるようになったのだ。

 

「ク゛オ゛ア゛ア゛ア゛…!オノ…レェ…!!!」

 

 燃え盛る業火は衰えることを知らない。魔族やアラクネたちに向けていたものよりもさらに強く、殺意に満ちた炎は再生したそばからブラヒムの体を炭化させ、心を削り取っていく…

 

 拠点で炎を操るグレナルドの顔にはかつて参謀になる未来を期待されていた、王国軍の兵士としての好戦性が滲み出ていた。

 

『恥ずかしながら取り繕う余裕が無くなってきましてね…君の生け捕りは考えないことにしました。旧時代の遺物同士、どちらかが死ぬまで終わらない我慢比べといきましょうか…!』

 

 




見返したら14話くらいイソー編やってて驚いています…ブラヒムしつけぇ…
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