Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 ルルと彼女が身につけていたネックレスに宿っていた謎の人物 セレーネにより体内のデコイを除去、復活したエイジャーは奥の手にして殺しの剣『殲却蛮雷』を発動させる。
 その凄まじい破壊力によりクレイヴモスを瞬殺し人類を裏切った副団長 ブラヒムに狙いを変える中、突如として現れた謎の存在に止められて…?


67話 停戦

「その力はやめておけ。ヒトの子として我々に歯向かうつもりならな」

 

(こいつどこから!?それにこの心臓を握られているみたいなプレッシャー。僕には視線すら向けてないのに…!)

 

 突如としてエイジャーの背後に現れ、手首を掴んであっさりと渾身の一撃を止めてみせた魔族に一同の視線が集まる。石膏の如き白さを持つ肉体は極限まで鍛え抜かれており、腰あたりまで伸びた髪は風もないのに揺れている…  

 彫刻のような肉体からは4本の腕を生やしており、美しさと悍ましさを孕んだ姿から放たれる威圧感は、これまでの魔族とは別格であることを直感するには十分であった。

 

「…だからって好きにさせておく訳ねぇだろ!『アイアンメイデン』!!」

 

 それでも怯まないアルジードは即座に鎖を展開し、魔族の足を拘束する。3本もフリーになっている腕を狙うよりも、足を攻撃して体勢を崩す方が有効と判断しての行動である。  

 魔族もまたその意図を汲み取ると表情こそ変わらないものの、先ほどとは打って変わってわずかに高揚した様子で振り返った。

 

「利口で度胸もある、よい忠臣を携えているようだな。だが…弱すぎる」

 

 魔族は拘束をものともせずに震脚…地面を強く踏み込むと、鎖を利用して発生した衝撃を流し込む。度重なる戦闘で傷ついた体に内部からの攻撃は特に弱く、アルジードは軽い発作を起こしてその場で倒れた。

 

「アル!!!よくも!!!」

 

 エイジャーは即座に殺意を膨れ上がらせて黒雷を纏い直すと、腰のナイフを抜いて脇腹を突き刺しにかかる。殲却蛮雷によって先程よりも強化された身体能力から放たれる一撃は凄まじい速度を誇り、さすがの魔族も反応できない…

 

 はずだった。渾身の力で押し込んだ刃先は石膏のような肌に傷一つつけられておらず、流したはずの電撃を食らっている様子もない。

 現時点でできる最強の技が通用しないという異常事態に困惑していると魔族は腕を捻ってナイフを奪い、感心したように月にかざし始めた。

 

「案ずるな、あの者は少々眠らせただけだ。…銘品ではないな、何度も打ち直した跡がある。これだけの魔力に耐えられるようには見えぬがどこで手に入れたのだ?」

 

「…それは修行をつけてくれた人から貰ったものだ。刃と柄は壊れる度に鍛えてる。そいつを返せ…!」

 

 説明を聞いた魔族は納得したように頷くとナイフを鞘に収める。あまりにも聞き分けがよく、しかし決して手を離さない行動の真意を測りかねていると、これまで蚊帳の外だったブラヒムが立ち上がりエイジャーに襲いかかる!

 

「今はアンタの出る幕じゃない。エイジャー君に手は出させないぞ」

 

 …がすんでのところで介入したアーサーによって阻止され、再び地を舐めることになったブラヒムは怒りを露わにして吠えた。

 

「ワタシの邪魔をするなどどういうつもりですかリオゴールゥ…そいつの一撃を糧とするのが次の作戦だったというのに!」

 

「主からのご指示だ。どちらにせよ劣勢を演じて油断を誘い、見下しているはずのヒトの子から力を盗むなどという勝ち方を容認するつもりはなかったが」

 

 リオゴール…それはかつてフリザ族の集落で戦ったロウディという魔族から聞いた大幹部の名前である。ようやく振り返ったエイジャーはその姿が王都壊滅の日に見た4つの影の1つであることに気が付いた。

 リオゴールは視線に気付かず、あるいは気にも留めない様子でブラヒムを見据えている。深い緑に染まる瞳はどこか無機質で感情が伝わってこない。そんな様子が癪に障るのか、ブラヒムの怒りも増すばかりであった。

 

「卑怯とでも仰るつもりですか?くだらない…そんなだからアナタたちは頂点に立てないのですよ!」

 

「ヒトの子よ、貴様が行使するその力は上位の魔族には通用しない。他の道を探すがよい。それと此度の戦いは我々の敗けだ。貴様が停戦の意思を示せば、この場から手を引くことを約束しよう」

 

「なんだと…?このまま続けていれば俺たちを殲滅することだって可能なはず…あの日見逃したことといい何が目的なんだ!」

 

「主のお考えは我にも理解できぬ。だがこれ以上争うべきでないのはそなたらも同じではないか?」

 

 リオゴールの発言はもっともであった。己の技が通用せず副団長のグレナルドも限界を迎えてリタイア済み…迎撃設備でどうにかなる相手とはとても思えず、何より無理をさせすぎたルルやアルジードを休ませねばならない。

 だが停戦すればせっかく訪れた大幹部討伐の機会を逃すことになる。あの日理不尽に殺された人々の無念を晴らす最大のチャンスを、責任を自ら手放せるほど軽い因縁ではない。

 

 死者のために分の悪い弔い合戦を続けるか、生者のために今を諦めるか。しばらく迷った末にエイジャーが出した結論は…

 

(みんな…ごめん)

 

 エイジャーは武器を手放して殲却蛮雷も解除、継戦放棄の意思を見せると、リオゴールもあっさりと腕を離した。

 

「怨敵を前にして引き際を弁えたか。この男は我々で引き取らせてもらうが構わないな」

 

「…分かった、だがその前に1つ教えろ。お前たちが”主”と呼ぶ魔族の頂点、奴の名前はなんだ?」

 

「主は主だ、他にあのお方を表す言葉はない。またいずれ相見えるだろう。その時までに己を高めておくがいい。それと…」

 

「…?」

 

 リオゴールの視線は何故かアーサーに向けられているものの、その真意を読み取ることはできない。アーサーも知り合いというわけではないようで、2人は意図も分からず見つめ合う。

 

「…いや、少々違うか…?我の勘違いだったようだ」

 

 それだけ言うと虚空を殴りつけて闇のゲートを発生させる。そして未だ継戦の意思を滾らせたブラヒムを一撃で昏倒させると、彼を抱えて消えていった。

 

「なんだったんだ…?それよりエイジャー君大丈夫か!?あいつに怪我を負わされたりは?」

 

「大丈夫です。ただ…またいいようにやられてしまいました」

 

「だが君は生き残った…再戦の機会は必ずある。そうだろう?」

 

「…はい」

 

 エイジャーは己の無力さに拳を握り締めながら、堂々と撤退する2人をただ眺めていることしかできない自分を悔いるのであった…

 

────────────────

 

「ん…団長…あの魔族はどうした?アラクネの奴は!?」

 

 リオゴールの撤退からしばらくして…ようやく気絶から目覚めたアルジードははっきりしない頭を叩き起こしてあたりを見渡す。どうやら自分はいま背負われていて壁上では各勢力が後始末を、街ではわずかに生き延びたアラクネたちの残党狩りが行われているようだった。

 

「あと団長降ろしてくれ、ガキじゃあるまいし自分で歩けるって」

 

「衝撃波で内臓を攻撃されたんだ、無理しない方がいいよ。それにこれの運搬能力を試してこいって言われてるんだ」

 

 困ったように笑うエイジャーの表情からは殺気が消え失せており、いつものどこか頼りない空気に戻っていた。治療の途中で脱ぎ捨てたアシストスーツ”ダイダル01P”を再び着込んでおり、背中のアタッチメントを使ってアルジードを運んでいる。

 少し身を乗り出すと胸元ではルルが姫君を扱うように抱きかかえられていた。

 

 感覚が戻るほどに体の痛みもぶり返し、自力で歩けるのか怪しくなってきたアルジードは仕方なく身を委ねることにする。エイジャーもそんな彼をからかうことはせず嬉しそうな笑みを浮かべると、再び視線を進路に向け直して続けた。

 

「あの男は連れて行かれたよ。混乱のドサクサで逃げようとしてたところをガラナが捕まえててくれたんだ。魔族は撤退した…というより見逃して貰った感じだけどね」

 

「そっか…ところで姫は大丈夫なのか?緊急事態とはいえ訳わからねぇ奴に乗っ取られてたけど」

 

「まだ起きないけど呼吸は落ち着いてる。合意の上で体を貸していたみたいだし大丈夫だとは思うけど…しばらくは安静にさせておこう」

 

 肩越しに覗き込んだ寝顔は疲労の色こそ見えるが穏やかで、むしろどこか満足気だった。得体が知れない存在の介入を許したという気負いも解消されて安心したのか、さらに疲れがのしかかってくる。

 他人の安否を心配するという、1人で盗賊狩りをやっていた時には感じなかった疲れに戸惑いつつも不思議と悪い気はしない…己に起きている変化にアルジードは短くため息をつくと、憂さ晴らしをするようにエイジャーの後頭部を軽く叩いた。

 

「勝手に死なれて困るのは姫だけじゃねえんだからな、分かったか団長?」

 

「…肝に銘じます。今回の件で自分が思っている以上に何もできない人間だと気付かされたよ」

 

「あんな天災じみたマネしてた奴がそれ言うか?あんなのあるならもっと早く使えとは思ったけどよ」

 

「普通の武器だと出力に耐えられないんだ。精神的な抵抗もあるけどね。でもリオゴールとかいう魔族には殲却蛮雷も通用しなかった…もっと自分を追い込まないといけないな」

 

「オレの話を聞いてなかったらしいな。もう一発いっとくか?」

 

「せめて拠点に着いてからにしてくれ…良くない考え方だってのは分かってる。それでもあの日の清算は他の誰でもない、俺が奴らを倒すことで償いたいんだ。だから…もっと強くなるよ」

 

 開き直りともとれる所信表明を告げるエイジャーの声には確かな覚悟が宿っていた。アルジードもこれを否定せず、呆れたようにそうかよ、とだけ返して再び身を委ねる。

 そうしているうちに見えてきた拠点の入口ではボッシュが出迎えのために待ってくれていた。

 

「ボッシュさん。この兵装のおかげで足止めに参加することができました。ありがとうございます」

 

「貴重なデータが取れてると嬉しいね。それと帰ってきたばかりで悪いけどぼくを背負って叡智の鱗へ行けるかい?アラクネに荒らされた部分の確認と…そこにいる彼の目を隠してやらないとだろう?」

 

 3人の視線の先には目元を手で隠しながら、建物からわずかに身を晒すアーサーがいた。ちらりと覗く異質な瞳を見て、そういえば彼が一度死んでいるらしいことを思い出す。

 魔族に堕ちた人間が起こした騒動の後に彼を人目に晒すとどうなるか…恩人の事情を察したエイジャーは快諾すると、ボッシュはうんうんと頷いた。

 

「団長さっさと戻ってこいよ?あんたがいなかったらまた姫がうるさいぜ」

 

「あはは…さっき他の用事を済ませておいてよかったかもね。2人は先に休んでてくれ」

 

 エイジャーは2人を降ろすべくそそくさと拠点に入っていく。こうしてクレイヴモスの襲撃から始まった魔族とアラクネの侵略戦争は街と人の犠牲を出しつつも、ひとまずの終わりを迎えた。

 

 だが魔族とはなんなのか、なぜ自分を見逃し続けるのか…未だ解明できない謎たちに、エイジャーはこの先も続く戦いとの向き合い方を考え直さねばならないと気を引き締めるのであった…

 

───────────────

 

「お、リオくんお疲れ〜!ごめんね先に戻ってきちゃって。ケガとかしてない?」

 

「お心遣いに感謝いたします、我が主よ。ですがご心配には及びません。不慣れな力で傷つけられるほど脆弱ではありませんので」

 

 ここは世界のどこかにある”主”の根城─主とリオゴールという魔族のツートップもまた、それぞれの役目を終えて帰路についていた。

 主は玉座というには悪趣味な椅子にもたれかかり、リオゴールは数段降りた位置で跪く。いつも通りの構図に1つ違いがあるとするならば…傍らで転がされているブラヒムの存在であろう。

 

 再生限界を迎えたブラヒムは人間らしい姿に戻ることも出来ずに異型を晒して横たわっている。2人から向けられる視線に耐えかねたのか、ブラヒムは必死に頭を持ち上げ、吠えた。

 

「なぜ邪魔をしたのですか!?あのままエイジャー・グラムの力を吸収して復活、種族としての格差を刻み込んだところで殲滅という素晴らしい筋書きで…!」

 

「つまんない」

 

「!?」

 

「だってそうでしょ?自信たっぷりだった割に嫌らしくネチネチ追い詰めるだけ、それも個々の戦闘ではちょっと押されてたじゃん。再生能力を過信して鈍ってるんじゃない?クレイヴモスもやられちゃうしさあ…」

 

 興味がない行事に付き合わされる子供のような視線と、意外にも痛いところを突いてくる指摘に言葉を失うブラヒム。傍らのリオゴールは相変わらず表情を変えないが、賛同するように小さく頷いていた。

 

「あ、でも人間側の組織と共謀して襲うって発想はキミならではで良かったね!”彼”はそういうツテ無さそうだし。力を分けてあげるから頑張ってね。次はリオくん主導で動いてもらうだろうけどさ」

 

 そう言って玉座から立ち上がり主が手をかざすと、ドス黒いオーラの流入に合わせてみるみる肉体が再生していく…

 人間の姿を維持できるまで回復したブラヒムは礼も言わずに何処かと消え、それを咎めることなく見送った2人は顔を見合わせ、主はいたずらな表情を浮かべた。

 

「なんで始末しないのかって思ってるでしょ。確かにここでやっても良かったんだけど…今まで引き出せなかったエイジャーくんの一面を曝け出したのは事実だからね。功績分は大目に見てあげないと」

 

「…私は主の命に従うまでです。ですが奴を消したくなった際はお任せください。貴方の手を煩わせるまでもありません」

 

「ふふ、その時はよろしくねリオくん。ああそうだ、キミに真剣な相談があるんだけど…」

 

「何なりと申してください。次の作戦でしょうか?それとも主の手を離れたあの者の─」

 

「そう!その”あるじ”ってやつ!ボクという個を表すのに不便でしょ?だからまた名前を持とうと思ったんだ。考えるのを手伝っておくれよ!」

 

 名前が欲しいという突飛な相談を、拳を強く握り締めながら力説する主に目を丸くするリオゴール。だが彼の相談が本気であることを察すると顎をしゃくりながら考えを巡らせ…1つの提案を導き出した。

 

「私は名前を提案できるほど造詣が深くありません。なので外へ赴き彼らの法則を参考にしてみては。たとえば人間族など…彼らは多様な言語を使っているようですので」

 

 主はリオゴールに好奇の目を向けながら提案を聞いていた。相変わらず表情は微動だにしないながらも珍しく饒舌で、しかも人間を参考にするなどという今まで聞いたこともない思考を持ち出してきたからである。

 

(リオくんが人間に興味を…ボクが帰ってから何かあったのかな?あるとしたらやっぱり彼だよね…う〜んやっぱり会ってお話してみたいなぁ!)

 

「…いかがなされましたか主よ。何やら体が疼くようですが」

 

「え?あぁゴメンゴメン!リオくんの提案に感動しちゃってつい!ただ今回の件でずいぶん魔族が減っちゃったから…お出かけは補充が終わってからにしようかな」

 

 やれやれとわざとらしくため息をつく主に首をかしげるリオゴール。どこかズレている主人と従者のやり取りは、意外にも人間が営むそれとあまり変わらない。

 

 だが人間と魔族の間には明確な差異があり、そんな両者が王都壊滅してから初めて大規模な衝突を起こした。

 この先両陣営が何を考え、動き、どんな結末を迎えるのか…今夜の戦いを経て起きる変化は大きく運命を動かしたのだが、それはまた別のお話…

 

 

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