騎士団、傭兵、盗賊、そしてブラヒム率いる魔族が激突するイソー防衛戦は痛み分けに終わった。しかし過ぎた事は気にするな、とはいかないのが人の情─この街で中隊長を務めるノブリスは事件の責任を問われることになる。
新たな容疑者が浮上する中、街の長であるアインの被害が明るみになり…
寄生されたのを隠している─弟に指摘されたアインは気が緩んだのか背筋を曲げて軽く咳き込むと、向かいに座っているボッシュを睨みつけた。
「隙を見せた覚えはないんだがな…いつから気付いていた?」
「兄弟だから分かることもあるってだけ。そういうわけでエイジャーくん、パパっと治して信頼を勝ち取っちゃいなよ…ってどしたの」
突然の告発にどよめきが起こる中、一同から視線を向けられたエイジャーは首を縦に振らなかった。いや、振れないのだ。
以心電心は電気に変換した魔力でお互いを繋ぐ従属呪文であり、その原理を応用することで身体の内側に作用することはできる。だが最も重要な項目である"電気の無害化"については未だ完璧ではなく、相手を傷つけてしまうリスクは健在…
事実、アーサーが代理で使った不完全な以心電心は内臓への負担が大きく、セレーネなる人物の治癒能力で無理やりリスクを踏み倒していた。
不死身の体を持つアーサーの申し出により、技の完成を目指して夜な夜な練習しているものの…まだ生身の人間に使えるような代物でない。
とはいえアインは苦しそうにしており、ここで信用を得られなければ活動に大きな制限がかかるのも事実。そうなれば他の患者も命が危ない。
どうすべきか…迷うエイジャーに視線を向けていたアインは立ち上がると、目の前にやってきて肩を掴んだ。
「…事態は急を要する、君にはここで除去してもらいたい。確実かつ迅速に皆の信頼を得るには、私が証人になるのが最適解だからな」
─そんな危険です!確立されていない技術を試すなど!
─その通りです!それに騎士団は我々に嘘を…信用できません!
「いや、兄さんの言う通りかもしれないよ」
─ボッシュ技長!?
「こうしている間にも生命力が奪われてるんだから悠長なことは言ってられないでしょ。決定権を持つ人間が証明するのは理に適ってると思うけどね」
机の上に立ち、珍しく饒舌で、人の営みに介入してくるボッシュに役人たちの注目が集まる。そして彼の言う通り寄生体は今も人々を蝕んでおり、猶予もないことを突きつけられた役人たちの反対の声は小さくなっていた。
「さて…ここで兄さんを治せれば君たちの信頼はいくらか戻るよ。失敗すればその逆だけどね。おふたりさん、どうする?」
「私はエイジャー君に託します。我々騎士団の信頼を」
「え…!?」
予想外の即答に思わず振り返るエイジャー。不完全な個人の技能に騎士団の信頼を託すことにしたグレナルドの表情に迷いはなく、むしろ予め決めていたかのように堂々としていた。
「君はこれまで幾度となく魔族の脅威を退けてきた、適性を疑う余地はありません。少なくともこの場においては唯一の存在だ」
「ですが副団長、失敗すれば─」
「あの日生き残った意味を示し続けなさい。エイジャー・グラム」
食い気味に放たれた立ち止まることは許さないという言葉に反して、グレナルドの表情は信頼と慈愛に満ちている。
それでも反論しようとするエイジャーに対し、無言でただ頷く。言葉すらない一瞬の、しかし無数の意味を含んだ動作は彼の意思が変わらない事を表していた。
(鱗粉を吸った人は他の町にもいる、早く取り掛からないと間に合わない。…だが失敗したら?俺はまた救えないかもしれない。そうなれば─)
─もー!エイジャーはめんどくさいこと考えすぎ!
深みにはまっていく思考を引き上げたのは脳裏によぎるルルの声。この世の誰よりもエイジャーに近づき、内面をよく知った人物からの率直な苦情は、自分の立っている場所をいま一度振り返らせた。
(自覚はあるんだ…それでもじゃあ意識を変えます、なんてできるほどみんなは軽い存在じゃなかったんだ)
大勢の命が失われたあの日、エイジャーという人間を構成するあらゆるものが歪み、壊れてしまった。その影響は深刻で、怒りや殺意といった衝動さえも無意識下で封殺してしまうほどに。
だが無意識よりもさらに深い場所に触れ、感情のタガが外れつつある今のエイジャーだから進むことのできる道もある。
(今の俺がやるべきこと…理不尽に奪われる命を1つでも救う。そしてノブリスをあいつらに…ようやく見つけた居場所に返してやりたい)
(そう、その目だよエイジャーくん。懐かしいな…兄さんもきっと同じでしょ?)
様々な葛藤を抱えながらも責務を果たそうとする横顔に懐かしく、しかしもう戻れない日々を思い出すボッシュ。エイジャーはそんな彼の視線には気付かず、アインをソファに横たわらせると、軽く握った拳を腹部へと押し当てた。
「まずは寄生体の位置を特定します。ヒバァさん、力を貸してくれ…『レプトルソナー』!」
エイジャーの呼びかけに呼応して指輪が土色に輝く。瞼を閉じ、真っ暗なはずの視界には人体を模した立体図が浮かび上がっており、胸のあたりに寄生したデコイが赤いゆらぎとして表示されていた。
「胸のここ、薄い膜の向こうに1匹…臓器の内側に巣食っているようです。繊細な場所だ、刃物を入れるのは危険かと」
「拳を当てただけで?奇妙な力だ…構わない、続けてくれ。君が正しく力を扱える者だということを私に証明してみせろ」
「…分かりました。今から魔力でお互いを繋ぎます。記憶や感覚にも作用しますが落ち着いて、できるだけ動かないように。皆さんは少し離れて…『以心電心』!!!」
2人の体を優しい稲光が包み込む。そして繋いだ手を通して流れ込んできたのは、若き日のアインの記憶だった…
─────────
─あれから今日で10年経った。約束通り聞かせてもらうぞ母さん
それはある日を境に二度と会えなくなった父親について、真実を話すとかつて約束を交わした日。当時幼かった2人の心を守るため…という理由で先延ばしにしていたが、これは母自身も気持ちの整理をつけるために必要な期間であった。
2人の父親は賢い人だった。読み書きができない者も多い小さな町で生まれた彼は肥料や道具を次々に開発し、町の収穫量や生産量に大きく貢献した。おかげで生活には少しずつ余裕が生まれ、人々は彼を"先生"と呼び親しんだという。
だが当時の領主は彼を快く思わなかった。単純作業と重い税によって学習の機会を奪う愚民化により支配を強固にしていた領主からすれば、必要以上に賢い男を脅威に感じるのは当然のことだろう。
そして領主の懸念は的中することになる。余裕が生まれた人々は読み書きを習うようになり知能水準が上昇。結果、これまでの扱いの悪さを自覚してしまったのである。
領主は父親を捕らえた。彼の功績を認めてアドバイザーとして招待するふりをして。暴動を計画していたとか、外の勢力と文書のやり取りをしていたとか…正確な罪状はもはや誰も覚えていないが、とにかく"賢すぎる罪"に問われたのである。
「この町で起きた2度の暴動の中で、お父さんに関するものはほとんど消失してしまったの。残っているのは…これだけ」
そう言って母親が取り出したのは黄ばんだ粉で半分ほど満たされた小瓶…彼の功績を認めていたひとりの役人が廃棄命令に背いて保管し、密かに届けていた遺灰。
ずいぶん小さくなってしまった父親を目にしたアインは気がつけば机を叩き、吠えていた。
─親父が何か悪いことしたのかよ!?あんなに皆のためにやってきて、その末路がこんな!こんな…!
父親の死を知った人々が暴動で領主を処刑し、その後新たな領主が来るも王国を巻き込んだクーデターによりまた混乱…二度の激動の末に残されたわずかなそれに、胸の奥から湧き上がるドス黒い感情を抑える気すら起こらない。
母は感情のままに椅子を投げ、壁を殴るアインをただ見ている事しかできないでいた。
─ッざけんなよォあの反知性のサル野郎…!!!奴の墓はどこだ!死に逃げなんて許すかよ、掘り起こして愚弄してやる!!!
「領主様のお墓はないの…暴動の中で"誰が誰のか分からなく"なっちゃったからみんなまとめて…」
─じゃあそのごちゃ混ぜの墓だ!討たれた連中は皆同罪なんだ、いっそ…
「もうやめよう兄さん。見苦しいって」
気の抜けた調子で諌めたのは幼き日のボッシュ…今とほとんど容姿が変わらない彼は兄の刺すような視線をものともせずに続ける。
「臆病な領主は何も残せなかったけど父さんはここに…いや、この町に生きた証が根付いてる。だから父さんの勝ちだよ」
─そんな淡々と…悔しくないのかよ!?お前はいつもそうだ!人のことに興味がないような…
「ムカついてるに決まってるでしょ」
─っ。
「誰も復讐するなとは言ってないよ?落ち着けって言ってるの。墓荒らしなんて人を焚きつければ勝手にやってくれる、僕たちだけのやり方で完遂してこそ復讐でしょ」
そう言いながら席を外したボッシュは自分の部屋から大量の本を持ってくる。古ぼけたそれらの本…亡き父親が遺した研究書の存在に、2人は驚きの声をあげた。
「ボッシュ、これは!?みんな燃やされてしまったはずじゃ…」
「それは偽物。父さんはあいつらが精査もなしに焚書することまで予想してたのかもね。本物は屋根裏の謎解きで入れる小部屋に逃がしていたんだ」
─屋根裏にそんな秘密が…だがそれと復讐になんの関係があるんだ
「ぼくたちで作るんだよ、優れた頭脳を存分に活かせる町を。噂は各地へ伝わりさらに優秀なものが集まる。そして各地から集まった技術や知識を正しく管理し、皆に還元することで嘲笑ってやるのさ。お前が講じた策はなんの成果もなかったんだってね」
─驚いたな…まさかお前がそこまで…だがそんなに上手くいくのか?今から町を作るなんて
「王政という基盤が崩れた今なら放棄された町や施設跡があちこちにある。それにこれだけ大規模なクーデターの後で玉座に座れるのは民衆に寄り添える男だけ…上手くやれば利用できるかもよ」
狡猾な展望を語るボッシュは真意が読めない話し方も相まって恐ろしく見える。だが彼の言うことにも一理あると感じたアインから激情は消え、代わりに興味が支配し始めていた。
─あいつの生き方を否定し国をも利用するか…お前の復讐を叶えるためには何をすればいい?
「政治の勉強と"優れたものを評価する"感性の徹底を。ぼくはここに書いてある理論をもとに発明するよ。もうほとんど頭に入ってる」
─否定した男の子供たちが、最も恐れていた世界を作る…か。アイツを嘲るには確かにそれが1番だな。分かったよ、お前の案に乗ってやる!
立派になった息子を見せるように小瓶を撫でる母親をよそに、2人の目には少しの野心と無数の興味に満ちるお互いの目だけが映っていた…
───────────
(2人も復讐者だったんだ。それでも激情に任せるのではなく弔う人の生き様を継いで、正しさを証明するという道を選んで…)
「情けは無用だ、それより…手早く済ませよう。この痛みは長く味わいたいものでもないからな」
以心電心で繋がっている間はお互いの考えていることも伝わってしまう。呻きに近い声をあげながらもどこか穏やかなアインに催促されたエイジャーは再び集中し、電気に変化させた魔力を患部へと向かわせる。
そしてレプトルソナーで得た位置情報と照合しながら体内を駆け巡り…以心電心で繋がっていない異質な存在、寄生体の元へとたどり着いた。
(問題はここからだ。流している電気をそのままリリースすれば内臓まで傷つけてしまう。寄生体だけを攻撃する方法…くそっ、直接手掴みでも出来れば早いのに!)
(…手?)
エイジャーはここである策を思いつく。それは電気として体内に流した魔力を他の形…たとえば掌に変えて寄生体を包み込めないか、と。これならば臓器に触れる面積が減る分、損傷は少なくて済む。
だが電気変換、無害性と2つの命令を与えているところにさらなる要素を増やせるのかは未知数…このまま続行すべきか迷っていたところ、アインの意思が流れ込んできた。
(より良い方法が思いついたようだな。上手くいけば負担は格段に減る…試してみろ)
(しかし…)
(この奇妙な魔法を通じて君のことはある程度理解し、その上で力を正しく使えると判断した。それに…私は技術都市の長だ、未知の技術が確立される場に立ち会いたい)
彼の言葉に嘘偽りはない。20年かけて植え付けた"優れたものを評価する"という感性はいつしか本心になり、騎士団への不審と拮抗するほどまでに成長していた。
それは面従腹背の両方を本心として飼いならしていたブラヒムの二重思考に近いものの、自分のためだけに使う彼とは対照的である。
連日の練習によりルルから受け取った莫大な魔力も尽きる頃。試行錯誤をするなら最後の機会…エイジャーは体内へ流し込んだ魔力に"形の変化"という新たな命令を与えると、一直線に繋がっていた電気がアメーバのように枝分かれを始める。
エイジャーはそれを最大限の集中と魔力の補強で形を整えると、電気の手で寄生体を包みこんだ。
(よし…内臓には触れていない。上手くいってくれよ…!)
─バチンッ!!!!!
2人を繋ぐ魔力の中の、電気の掌に変化させた部分にかけた無害化の命令のみを解除すると、その身を焼かれた寄生体はアインの口から霧散していく。
果たして上手くいったのか…会議室にいた全員の視線が集まる中、目を覚ましたアインはすくっと起き上がると軽く咳き込んだ。
「おはよう兄さん。どんな感じ?」
「軽い倦怠感と口の奥に焦げたような臭い…だが肉体の損傷はほぼ感じない。そして急速に生命力を奪われる感覚も消えている」
「それってつまり…」
「人体に関わることだ、1日経過を見たい。だが今のところは…彼の魔法による除去は成功と言っていいだろう」
─おおおおーーっ!!!!
魔法に馴染みのない者からすれば奇跡、身近な者からしても高度な技術の成功に会議室が沸き立つ。アインはソファから起き上がると、傍らでへたりこんでいるエイジャーに手を伸ばした。
「エイジャー君、技術都市イソーの長として君を頼りたい。人々を救うため力を貸してほしい…って大丈夫か?」
「すみません、安心したら力が…」
「ああ、君の緊張は伝わってきたよ。すまないが私も少し疲れた…今日の会議はここまでにさせてほしい」
そう言ってアインは役人たちの合意を取り、再び視線移すと"早く大事な人に会いに行ってやれ"とでも言いたげに片目を閉じた。
「残りの議題は明日以降、ホスピナスへの連絡は私からしておく。2人の処分はAPFの尋問結果が出揃ってからとする、それまでは独房で丁重に扱ってやれ。では解散!」
「予定より早く終わるってならこの後ちょっと残れるか?あんたと一度話をしたいと思っててな。…他意はないからそう睨むなよ兄ちゃん」
ガルダはエイジャーの視線に気付くと軽く手を振って誤解を解く。組織の長、そして元王国軍という共通点を持つグレナルドとの密会となれば不穏なものを感じるのは無理もない。
「エイジャーくん乗っていきなよ。自分でも使い勝手を試しておきたいしね」
解散を聞いた役人たちが次々と部屋を出ていく中、いつの間にか"ダイダル01-P"を着込んだボッシュが近づいてくると、背中の荷台を指を差す。
ここから拠点は少し遠い。好意に甘えて乗り込もうとすると…横にいたアインが制止した。
「その前に。君は私に言いたいことがあるのだろう?助けてもらった礼として意見を許そう。これは議事録にも残らない」
「あはは、すべて共有されるというのも考えものですね…ではお言葉に甘えて」
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「本当にかますとは思わなかったぜ。意外と度胸あるよなあの兄ちゃん。ヘッヘッヘ」
会議からしばらくして、ここは行政ブロックにある通りの一角…機器を痛めないよう取り決められた喫煙スペースの1つには、頭を抱えるグレナルドを笑うガルダがいた。
『自分やグレナルドがこの街にやってきたのはノブリスへの嫌疑が浮上したからであり、防衛リソースを呼び込んだという意味では彼の功績といえるのではないか』…解散後の会議室にて放ったエイジャーの主張は、その場に残っていた者の目を点にした。
確かにクレイヴモスや内部に侵入したアラクネを殲滅した2人とその仲間がいなければ対処が追いつかなかったのは事実である。だが所詮は怪我の功名でしかなく、手柄と呼ぶには無理がある。
アインはその言葉が出るのを知っていたかのように笑っていたが…部下から飛び出した突飛な主張にグレナルドは気が気でなかった。
「さっきの話も合わせて他人の事になると人が変わるタイプだな。オレらの時代じゃ入隊試験で弾かれてたろうよ」
「彼の困ったところです…他者の犠牲に対する拒絶は元から強いですが、王都壊滅を経てさらに悪化してしまった」
王都壊滅の生き残り…噂に聞いていた存在がエイジャーであるという事実に彼の言動や魔族とのやり取りに合点がいったガルダは手を打つと、どこか遠い目をしながら葉巻を弄び始めた。
「魔族のお気に入りなんだって?あんなん続けてたら近いうちに死ぬぞ…なんて、都勤めのエリートだったあんたには言うまでもねえか」
「ご忠告痛み入ります。…ところあなたも元王国軍だそうで。配属はどちらに?」
「入ってすぐマフモ族とのシマ争いに駆り出されたよ。金払いは良かったしずいぶん鍛えられたから恨んじゃいねえけどな」
マフモ族…集落で細々と暮らす他種族と違い広大な国土を持つ彼らは、ある事件をきっかけに人間と争いを繰り返していた。ガルダはその国境沿いで剣を振るう軍人だったのである。
体中に刻まれた爪で裂かれ、牙で穿たれた跡をさすりながらガルダは続ける。
「軍を抜けたのは新しい王サマとシュミが合わなかったからだ。心にもねぇ大義は太刀筋を鈍らせる、だったら金で動く犬の方が気が楽だってな。ウチの姐さん…ビアンカはそんな奴らに声をかけてダイガロンを立ち上げたのさ」
ビアンカ…その名を聞いたグレナルドが目を見開く。かつて王国軍の参謀候補として切磋琢磨した彼女は組織の変遷に伴い脱退、その後の消息が掴めなくなっていた人物だったからだ。
「酔った時の昔話によく出てくるんで気になってたんだ。昔はもっと冷徹でいい男だったとうるさくてよぉ…確かに昔話とは雰囲気が違うかもな。へへへッ」
「…フ。案外そうでもないかもしれませんよ?ビアンカが指揮していると聞いて私も踏ん切りがつきました。彼女になら任せられる」
「ん?一体なんの話を…」
「不始末に対する賠償ですよ。今の我々には金銭的な余裕がありません。であれば他の方法で利益を補填する必要がある…違いますか?」
ガルダはまあな、と返す。
傭兵は対価を捻出できない者を守らない。とはいえ小さな村や集落を放棄すれば犯罪組織が増長し、傭兵業が成り立つ程度の治安すら失われる恐れがある。
そういった人々も守る騎士団の必要性はガルダも承知しており、干からびるまでせしめるつもりは無い。だがビジネスとしての落とし前を有耶無耶にするのは組織のメンツにも関わるため塩梅に悩んでいるところだった。
「だがどう埋め合わせする気なんだ?肩叩き券なら間に合ってるぜ」
「ふむ、なかなか手厳しい…ではこれはいかがでしょう?あなた方に─」
グレナルドが提示してきたある補填案…それを聞いたガルダは驚きのあまり煙を肺まで吸い込んでしまい、むせた。
「…おいおい本気か?下手すりゃ金払うより大事になるぜ」
「あくまで仮案です。まだノブリス君の罪も確定していませんから。ですが今の我々には必要なことでもある…皆は少し驚くかもしれませんがね」
「…色んな意味で姐さんが聞いたら喜びそうだ。やっぱりあんたは王国軍の参謀だな」
「もしそうなった時は私からビアンカに話をつけましょう。…それでは」
一瞥し、踵を返して去っていくグレナルドを眺めるガルダの口角は吊り上がったまま戻らない。立て続けにやってくる久しぶりの争乱は、腹に負った傷の痛みも忘れさせるほどに彼の心を躍らせるのであった…