戦いから数日が経過したイソーの街で副団長ブラヒム・リッチ率いる魔族の置き土産を精算していくエイジャーたち。そんな中もう1人の副団長グレナルドが皆に告げたのは、主を失った王都騎士団の再建計画だった。
性急にも思える対応や部隊の特性もあり一時は拗れたものの、共犯の罪で投獄中のノブリスからの手紙で事なきを得る。
大幅な足止めを食らう一行の元に新たな助っ人が現れて…?
─ドオォォン!!!
「ヤベェぞダイガロンの連中だ!なんでここがバレんだよ!?」
ここはとあるアラクネのアジト…来客などあるはずもない場所にやってきた手荒な訪問者たちに、偵察班の1人が血相を変えて駆け寄ってくる。外ではずいぶんと派手な破壊工作を行っているようで、終焉を告げる足音はアジトを小刻みに揺らしていた。
「誰かが口を割りやがったんだクソッ!ここは終わりだ、荷物も学者も置いて…行…」
裏口から逃げるため踵を返した男は柔らかい何かにぶつかり尻もちをつく。目の前にそびえ立つ者は両手を腰に置き背筋を伸ばすと、この状況に似つかわしくない元気な声で呼びかけた。
「初めましてアラクネの皆さん!あなた達の逃走経路は潰したので無駄な抵抗はやめましょう!」
「なんだァ…女?オメーに構ってる暇はねえんだよ消えな!!!」
苛立つ男はクローを展開しながら飛びかかる。進路を塞ぐ者が瞬きひとつの怯えも見せず拳を構えると、体を包む空気の膜が揺らぎ始めた。
「忠告を無視するならば仕方ありませんね…あなた達が重ねてきた卑劣な罪の数々、この拳で打ち砕かせていただきます!『煉獄心拳』─!!!」
「くぁ…」
太陽が頂点を目指す時刻、人々が慌ただしく往来する中で気怠げな欠伸をついたのはアルジード・ナルム。アラクネ構成員の尋問に熱が入り泊まり込みが続いていた彼は、久しぶりに拠点へ戻ろうとしているところである。
(たまに顔出さねぇと団長がうるさいからな。そういや寄生体の除去やってるとか聞いたけど…どうせまた無茶してんだろうなぁ…ん?)
─ドォン!!!
─大変だ!人が建物から飛び出していったらしいぞ!
突如として街に響く砲弾のような音と野次馬たちの声。2つの指し示す方角が自身の進路と同じ事に気付いたアルジードは全身の暗器を準備し臨戦態勢に入る。
「おい人が建物から飛び出したってどういうことだ?兵器庫でも吹き飛んだのか?」
─分からない!先に向かった知り合いが…上を見ろ!人が落ちてくる!
野次馬の1人が指差す先には、高速でこちらへ飛来する人の姿があった。
「はぁ!?てかこのままだとやべぇ…『アイアンメイデン』!」
アルジードは飛来する人物目掛けて鎖を巻き付け地面との接触を緩和しつつ、勢いを削ぐことで落下死を防ぐ。度重なる戦いで限界を迎えつつある鎖の悲鳴が泣き止んだ後に駆け寄ると、そこには見知った顔が映っていた。
「団長がなんで吹き飛ばされてんだよ!?敵か!?」
「た…助かったよアル。これをやったのは俺の知り合いなんだけど…拠点に戻りながら話そうか」
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「おほん、えーこれより裁判を始めまーす。被告人は前へどぞー」
「ご覧の通り動けそうにないです…ねぇルル、そろそろ降りない?」
「はい口答えしなーい!反省の色がないとして厳罰化しちゃうぞー」
─BOOBOO〜
それはアルジードの元へ飛来する少し前のこと…拠点の会議室を使って開かれている裁判にて、ギャル軍団に囲まれるエイジャーの姿があった。
困ったように触れる首には赤い跡─キスマークがついており、これが裁判ごっこの発端である。裁判長を務めるランヅキは机をバシバシ叩いて傍聴席を黙らせると、わざとらしく声のトーンを下げて迫る。
「えー被告人にはルルちゃんにエロいことを教えた容疑がかけられてまーす。弁護士のケインさん、何か言うことはありますか?」
「はい!何も知らない子にマーキングさせるとか性癖エグすぎ死刑だと思います!」
「弁護役が後ろから刺すのか…本当に教えてないんだってば」
─見苦しいぞパイセーン!
─グラセンのムッツリスケベー!
ギャル軍団の容赦ないヤジがエイジャーを襲う。といっても本気で非難するつもりはなく、彼らにとって耐え難い苦痛である謹慎生活に舞い降りた特ダネにはしゃいでいるだけである。
「はい静粛にー!被告人が罪を認めないのでルルちゃんに確認です!ぶっちゃけ首にチューするのは誰から教わりましたか!?」
「教わったっていうか…エイジャーと奥さんがいっぱいしてるのを見たから嬉しいのかなーって」
「んー…?ルルちゃんとサヤ師って会ったことなくない?」
─以心電心はお互いの記憶が一部混濁する…その時に覗いた記憶を参考にしたんじゃないかな
頭を捻るランヅキに補足したのはアーサーである。実際に以心電心を体験した彼がその仕組みを解説してやると、第三者の証言ということもありギャル軍団は納得する。
だが過去の夫婦生活を暴露されたエイジャーからすれば地獄に変わりはなく、その顔はどんな激闘の後よりも疲れ切っていた。
「ま〜よく分かんないけど…ルルちゃんが何も知らないのをいいことに仕込んだ訳じゃないのね。てかそんなにしょっちゅうマーキングしてたのグラセン」
「俺からはほとんどしてな…もう裁判ごっこ止めないか?」
「皆さんおはようございます。昨日はよく眠…この状況は?」
囲まれた机の中心で死んだ魚のような目をしたエイジャーを見て、くだらない遊びに付き合わされていたことを察したグレナルドは一言労うと、咳払いをして気を取り直した。
「みなさんにいい報せを届けに来たのですよ。アラクネの残党狩りに合流していた部隊が戻ってきました。ジャスミン君、こちらへ」
「押忍!皆さん初めまして!今日も気持ちの良い1日ですね!!!」
ジャスミンと呼ばれた女性は鉄の棒が溶接されているかと疑うほど背筋を真っ直ぐ伸ばし、素早くも制動の効いた十字切りを披露する。
防音処理が施された拠点でもよく通る声と見るからに暑苦しいキャラクターにギャル軍団が気圧される中、ジャスミンは唯一の知り合いであるエイジャー…の膝に乗っているルルと目が合った。
「エイジャー君…なぜ女の子を膝に乗せているのですか?」
先ほどとは打って変わって声色はいやに落ち着いており、琥珀色の瞳はバッチリと開かれたまま動かない。これはまずい─経験則からこの後の展開を察し弁明を図ろうとするエイジャーだったが、先に口を開いたのはルルの方だった。
「私たち愛おしい同士なんだよ!むふふ」
「イト…?愛し合ってるということですか…!?」
─カタカタカタカタ…
(な、なんか部屋揺れてね?地震?)
(地震なら横にグラグラ〜っだべ?これ縦じゃん。あとあの子からオーラ?出てんだけど)
「エイジャー君…奥様を失って1年も経たないうちから何をしているのですか…?それもこんな年端もいかない子に…」
無風の室内にも関わらず、緑のメッシュが入ったジャスミンの黒髪がふわふわと浮き上がる。彼女の全身から湧き出るオーラのようなものはみるみる濃くなり、肌を突き刺すような感覚を抱かせるまでになっていた。
「目につくすべてを守らんとする、高潔な思想を持つ貴方を尊敬していたのにこのような不貞行為を…私を騙したのですか!?」
「まずい…!ケインは入口の扉を開けてきてくれ!ランヅキはルルを頼む!他のみんなは物陰に隠れて!早く!」
「"鉄拳法廷ド・フィス"の一番弟子、ジャスミン・パーラーの名において!貴方の罪を打ち砕きます!」
「この感じまさか…待ってくれジャスパー!ここだとみんなを巻き込─」
「言い訳無用!煉獄心拳・壱の手『罪爆打(シンバタ)』!!!」
逃げるエイジャーに一足で追いついたジャスミンは全身を包むオーラを右腕に集中させ、前方へと解き放つ。余波だけでも突風の如き圧力を持つそれを直に向けられたエイジャーは、空気が爆ぜる音とともに空中へと射出されるのであった…
─────────────
「…で、砲弾よろしく空をかっ飛ぶ羽目になったと。オレが通りかからなかったら団長の奴死んでたぞ」
「嫌い!!!」
「うぅ…面目ない」
ジャスミンは拠点に戻ったアルジードとルルに睨まれ小さくなっている。その傍らでは怪我を負ったエイジャーがベッドの上でうつ伏せになり、老人の施術を受けていた。
「ジャスミンは才能こそワシを凌ぐが思慮が足りん。煉獄心拳は悪を打ち砕くためのもの…重い責任が伴う故、判断は常に冷静でなくてはな」
施術をしている老人の名はド・フィス…"鉄拳法廷"の異名を持ち、王都騎士団の大隊長を務める強者である。その階級に恥じぬ高い実力を持ち、体術において彼の右に出るものはいない。
そんな彼は人体にも精通しており、今はエイジャーの身体についた傷を検めながらジャスミンに説教をしているところである。
「あのエイジャー君がいたいけな少女を誑かしていたと考えたら周りが見えなくなってしまいました。彼女については私も聞いていたのに…申し訳ありません」
「いいんだジャスパー、君の怒りはもっともだから…むしろ殴られて少しだけ気が晴れたよ」
「つかあんたもその場にいたんだろ?なんで止めなかったんだよ」
「力を下手に逸らせば建物もタダじゃ済まん。それに反省を促すよい機会だと思ってな。なぁにエイジャーの頑丈さはよく知っとる、あれしきじゃ死にやせんわい」
フィスはケタケタと笑いながら道具箱を開き、中から取り出した鋭利な何かをエイジャーの身体に突き刺していく。細いピックのような何かを刺しているにも関わらず出血はなく、むしろ青アザが引きつつあった。
「お師匠様は針で人体を調整する点針術の名士でもあるのです。多少の不調ならば薬も使わずに治してしまうのですよ」
「今は患部に溜まった血を還元しているところよ。代謝を促す経脈も刺激したからすぐに元通りになる、むしろ飛ばされる前より調子が良くなるぞい」
「へぇ…なかなか使えそうだな。あんたらはそれで患者を回復させるために呼ばれたのか?」
アルジードの質問にフィスはNOを返す。聞けば彼らに期待された役割は点針術ではなく拳法…エイジャーを空の果てまで吹き飛ばした"煉獄心拳"なる技術の方らしい。
悪しき者だけを打ち砕くとするこの技術ならば、体の外側から寄生体を破壊することができるのではないか…そう睨んだグレナルドに急遽召集されることとなったのである。
「煉獄心拳の原理はグレナルドの従属呪文とさほど変わらん。最も…道を極めねばただの破壊拳でしかない危険な代物だがの」
そう言ってフィスはジャスミンに視線を移す。絶大な威力を持つ彼女の一撃はまだ不完全で、心拳を使うための心構えがなっていないとの事だった。
「人の善悪など生まれや時世によっていくらでも変わる、だからこそ何をもって悪とするかは慎重に決めねばならぬものよ。頃合いだと思いジャスミンにも教えたんじゃが…見誤ったかのぉ」
「…っ」
師に失望された悔しさから拳を握り締め苦悶の表情を浮かべるジャスミン。重苦しい空気を破ったのは部屋に入ってきたグレナルドだった。
「後始末についてじゃろう?このままでいいなら話を聞くぞい」
「ではお言葉に甘えて…ド・フィス氏のこの街での活動に許可が降りました。摘出が困難な位置に寄生された人々はエイジャー君がすべて対処しましたがこの数ではやはり厳しいと…どうか力を貸していただきたい」
「あい分かった。ジャスミンには任せん事になったから瓦礫撤去にでも使ってやってくれ」
「なるほど…次にエイジャー君。ボッシュ技長から魔道具の貸出許可が降りました。冷気を外に放出できるよう調律させたとのことです」
グレナルドが話しているのは冷凍庫…氷の魔法を応用して極低温を維持する保管用の魔道具である。本来はエイトの発明品だが現在は独房に入れられているため、責任者であるボッシュの預かりとなっていた。
「あのモノを冷やす箱か…そんなもの借りて何する気だよ団長」
「カッチンを頼れないかと思ってね。フリザ族は暑い場所が苦手でしょ?」
カッチンとはかつて出会ったフリザ族の子供である。共闘の中で目覚めた冷気を操る力は強大で、微細な氷の針を用いた冷却術はエイジャーが負った火傷のみを鎮めてみせた。これを寄生体除去に活かせないかと考えたのである。
しかし氷点下の環境に適応した彼らにとって外の世界は暑すぎる。そのため住環境を整えるために冷凍庫の借用を申し出た…ということであった。
「集落へは副団長の"大跳躍"を使うんですよね。いつ頃出発しましょうか」
「私は今回の件について各所を巡らねばなりません。話は先に通してありますが事が事ですのでね…代わりに人を用意しました。君もよく知る人物ですからご安心を」
「団長は後始末で足止めか。しばらくかかるならその間に別行動しててもいいか?」
アルジードの纏う空気から何かを感じ取ったエイジャーは核心に迫りつつある彼が焦って身を滅ぼさないか、そのままどこかへ消えてしまわないか心配でならなかった。
とはいえせっかくのチャンスを手放させるのは酷だし、自分の役目を投げ出すわけにもいかない。どうしたものか思案していると…蚊帳の外で凹んでいるジャスミンが視界に入る。
「大隊長、ジャスパーをお借りすることは可能でしょうか?彼に手を貸してあげてほしいんです」
フィスはアルジードに視線を移す。体格、立ち姿、そして目に宿るものを一通り観察すると、及第点と言わんばかりに鼻を鳴らした。
「危うさはあるが悪くないの。ジャスミンもたまには慣れない環境で磨かれるといいじゃろ。ついて行ってやりなさい」
「…!この拳がお役に立つなら喜んで協力いたします!」
「おいおい勝手に話を進めるなよ…オレはまだ何も言ってないぜ」
「アラクネの事で何か掴んだんでしょ?あれだけの襲撃をかけてきた男の上だ、探るにしても1人じゃ危険だよ」
エイジャーは口調こそ優しいものの1人では絶対に行かせないという風である。こうなると頑固なことを知るアルジードはしばらく睨み合った末に根負けし、肩をすくめた。
「はぁ…分かったよ団長、あんたに従う。ただしツレがいると目立つ場所は離れてもらうぜ。寄り道の中には騎士団を警戒するとこもあるんでな」
「決まりじゃな。それじゃジャスミン、お相手してあげなさい」
「…は?」
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─おぉ尋問屋のガキじゃねえか!相手の姉ちゃんは誰だ?
─大隊長の一番弟子らしいぜ。お前はどっちに賭ける?
「頑張れアルちーん!勝ったらキッス♡だかんね〜!」
「いらねぇよ!ったく、面倒増やしやがってあの爺さん…」
爺さんことド・フィスからの提案─それは2人で試合をすることだった。互いの戦闘力を知っておくことでバディ活動が潤滑に進むようにという理由からである。
ルールは簡単、相手が負けを認めるまで体術のみで戦い抜くこと。ジャスミンは魔力を、アルジードは暗器の使用が禁止というわけである。
(あの爺さん、オレが服の下に仕込んでるモン全部言い当てやがった…ただ者じゃねえ)
復興が手つかずの区画を利用した特設リングの周りには観客が集まってきており、傭兵たちに至っては賭け事を始めている。
またも見世物にされることに不服なアルジードに対し、ジャスミンは全力でウォーミングアップに努めていた。
「アル頑張れ〜!エイジャーの分もやっつけちゃえ!」
ヤジを飛ばすルルは相変わらず膝の上を陣取っている。今日は調子がいいようで動きも激しく、審判席のエイジャーは彼女が落ちぬよう抱きとめている。
振り回されつつもどこか嬉しそうな顔に呆れつつも脱力したアルジードは、改めて目の前の対戦相手に向き直った。
「どうやら圧倒的アウェーのようですね…ですがこの程度でへこたれるようでは継承者にはなれません!お互い実りのある試合にしましょう!」
「それではジャスミン・パーラーとアルジード・ナルムの練習試合を始めるぞい。試合…開始じゃあ!!!」
フィスの号令とともに仕掛けたのはアルジードである。距離感を掴ませぬよう低姿勢で駆け寄りつつ、体を捻って後回し蹴りを繰り出した。
(初手からハイキック!?脚技に自信があるようですね。素早い身のこなしは確かに見事。ですが…)
ジャスミンは瞬時に軌道を読むと頭部への一撃を防御する。角度や力みも計算したそれは腕への負担を最小限に抑えつつ、相手の力の向きをずらす効果もあった。
「蹴りは打点が高いほど不安定になります!相手に余裕のある内から使うのは感心しませんね!」
「だろうな」
アルジードは受けられた脚を畳んでホールドすると、回し蹴りでついた勢いを利用して飛び上がった!短い接点の中から彼女の人となりを推察したアルジードは防がれることを見越した上で、あえて初手にハイキックを繰り出したのである。
ジャスミンを支点に一周した上で膝による一撃を加えようとするも、強引に投げられたアルジードは宙を舞う。何事もなく着地して構えると、勝負は再び振り出しとなった。
(私の防御と油断を誘うとはなんとクレバーな…アルジード君、ずいぶん場数を踏んでいるようですね)
(あの体勢から腕一本で投げやがった。変に気ぃ使う必要はなさそうだな)
「ほほぉなかなかやるのう!あの坊主はお主が鍛えたのか?」
審判席からご機嫌で見守るフィスに対し怪訝な表情を浮かべるエイジャー。いきなり2人を戦わせたことに対してであると汲み取ったフィスは片目だけ視線を合わせると、少しばかり声のトーンを落として語り始めた。
「あの坊主、殺しをやってきたじゃろ。それも1人や2人ではないな…年の功というやつよ。所作を見れば分かるわい」
「アルは両親の仇を討つために1人でアラクネを追っていました。出会った頃は危ういところがあって…傍に置くことにしたんです」
「お主の判断は正しい。グレナルドが認めてるならこれ以上首を突っ込む気もないしの。じゃがジャスミンは正義に酔い融通が利かんところがある。あやつとはいつか衝突するかもしれん…だから今のうちに交わしておくのよ。拳をな」
「『壱の手・罪爆打』!!!」
「っと!正拳突きだけは目が慣れてきた…こっちの番だぜ」
アルジードは高速で突き出された腕を掴むと捻りを加えながら背負い投げの体勢に移る。捻り、曲げ、投げの3つの苦痛を与えることから投三苦(トサンク)と呼ばれているこの技はエイジャーから習ったものであり、極まれば片腕を封じることができる。
だがジャスミンがただやられるわけもなく、捻りに合わせて体を回転させダメージを無効化、勢いを利用してアルジードを投げ返した。
(クソッなんだこいつ…技が決まらねぇ!)
「落ち込むことはありません!投三苦は私も知る技術ゆえに対処も可能だっただけのこと!そろそろ体が温まってきました…行きますよ!」
短く息を吐いたジャスミンは床が抉れる勢いで地を蹴り一瞬で追いつくと、胸ぐらを掴んでさらに上空へと放り投げた!
一足先に地上へ戻った彼女は震脚によって再び地面を抉り体を固定しながら獲物を待ち構える。落下するアルジードを狙う掌は握られておらず、すべての指がまっすぐに伸びていた。
「そのまま落ちてきてください!煉獄心拳・禄の手『悪破昇掌(あっぱしょうしょう)』!!!」
ジャスミンは上空目がけて掌底でのアッパーカットを繰り出す。彼女の拳圧は空気の層を生み出して落下の衝撃を緩和させると、ふわりと浮いたアルジードを抱き止めてみせた。
「勝負アリ、でいいですよね!お怪我はありませんか?」
「あ、ああ。オレの負けだ…」
「…そこまで!勝者ジャスミン・パーラー!!!」
─マジかよ兄ちゃんに賭けてたのに!あの姉ちゃんすげえな
─掌底で人を浮かせてたよな…ガルダがいたら一戦やらせろと騒いでたな
「アル!大丈夫か!?」
「なんとかな…ここまでボロクソにやられて情けねぇが」
お姫様抱っこから降ろされたアルジードは気まずそうに視線を逸らす。対するジャスミンの顔は晴れやかで、まっすぐに腕を伸ばして握手を求めた。
「あなたの戦い方はノールールでこそ活きるもの!武器を禁止された今回の勝敗がすべてではありません!」
「だといいけどな…確かにオレの子守りにゃ十分すぎる強さだ。頼らせてもらうぜえっと…」
「ジャスパーでいいですよアルジード君!ともに頑張りましょう!!!」
ぶっきらぼうに差し出される手をがっしり掴み上下に振るジャスミン。弟子の新たな一歩を目の当たりにしたフィスはうんうんと頷くのであった。
─ィン…!
「…ん?なんか聞こえねぇか?」
─リイィィン…!
「確かに…こちらに向かってきているような?」
どこからか聞こえてくる女性の呼び声。その声は燃え盛る炎とともに、群衆を押しのけてこちらへ向かってくる。
未知の存在の接近にそれぞれが戦闘態勢に入る中、ようやく姿を見せた少女はエイジャーに衝突─もとい抱きついた。
「ダーリン!!!」
「…アリッサ!?」
燃え盛る炎のように赤く染まる髪の毛に翠色の瞳。記憶にある姿とは違うものの見覚えのある顔立ちに、驚いたエイジャーは叫ぶのであった。