Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ
 
 ある宗教団体に若い女性が集まっている─そんな情報を手にし訪れたエグリ=マティアス教を支配していたのは怨敵アラクネ盗賊団の大幹部 ロレンツだった。

 屈強な肉体と知恵、土に作用する魔法を兼ね備えたロレンツになんとか食い下がるアルジードだがさらなる刺客に劣勢を強いられる。
 そんな中、上空から彗星のごとく現れたジャスミン・パーラーによって戦局は大きく変化する…



82話 這い寄る悪意

「私の名前はジャスミン・パーラー!王都騎士団の名の下に、アラクネに鉄槌を下しに参りました!!!」

 

 自ら穿った深さ2メートルほどの縦穴から飛び出し、堂々たる姿勢で名乗りをあげるジャスミン。決まった!とでも言いたげな表情の彼女に対し、アルジードの反応は冷ややかであった。

 

「だからバカ正直に名乗るなって…」

 

「そ、そうでした!素性を隠しておかないと他の部隊に共有された時厄介なことになる、でしたよねアルジード君!…あっ」

 

(とんでもない場所から降ってきたように見えたけど…このコは王都騎士団?ボウヤを助けに来た?)

 

 アルジードが王都騎士団ではないという推理には自信がある。全身の暗器やそれを隠すための服装といった、騎士団らしからぬ装備を使い込んでいることは所作を見れば明らかだし、子供の排除を躊躇しない倫理観は現代の"甘い"彼らとはまったく異なる。

 

 だがそうなるとジャスミンなる女性が"今"介入してきた事に説明がつかない。かつての王国軍ならともかく、騎士団が民間人を斥候に使うような作戦を立てるはずがないからだ。

 

「お嬢さんほど賑やかなコ、うちの見張りが気付かないとも思えないのだけれど…どうやってここまで来たのかしら」

 

「見張りの皆さんは優秀ですが詰めが甘いですね!真正面からやってきたアルジード君へ意識が集中している間にダムまで跳躍し、瞑想で息を潜めていました!このように…」

 

 ジャスミンが長めに息を吐き、眠るように目を瞑ると…先ほどまでの騒がしさが嘘のように気配が消え失せた。その極めて静かかつ緩やかな気配は周囲と同化し、視界に捉えていてもなお認識に集中を要するほどに。

 

 これほど両極端な状態へ即座に移行するのは容易ではない。単純かつ才能に溢れたジャスミンだからこそできる芸当ではあるが、1人では決して至れない領域である。

 ジャスミン越しに見る師匠の存在、そしてふたつの若き才能に高揚するロレンツに冷や水をかけたのは、いつの間に拘束を脱したスマリットだった。

 

「よくもオレを吹っ飛ばしてくれたなァ…声のでかいバカ女」

 

「こらっ!確かに私はお勉強が苦手ですが…人に向かって"バカ"などと言ってはいけませんよ!それにアルジード君!"子供"に手を挙げるとは何事ですか!」

 

「…!」

 

 "子供"─その言葉を聞いたスマリットの拳に力が入る。そんな事はつゆ知らず、ジャスミンはバツが悪そうにするアルジードをまくし立てていた。

 

アラクネの根城(ここ)で襲ってきたんだから敵だろ…それに加減はしてるぜ」 

 

「だとしてもです!"子供"は守るべき存在!いかなる理由があっても傷つけてはなりません!」

 

「おいバカ女…いい加減にしろよテメエェ!」

 

「ですから軽々しく"バカ"などと言っては…ッ!」

 

 飛びかかってきたスマリットの両手首を振り向きざまに正確に掴み、追撃の足払いも弾いて無効化するジャスミン。まだまだ余裕といった彼女の態度は、異常なまでに剥き出しの敵意と"あるもの"を目にして急変する。

 瞳の奥に宿っていたのはアルジードが初めて目にする感情…深い怒りであった。

 

「…アルジード君、こちらは引き続きお願いしてもよろしいでしょうか」

 

「言われるまでもないが…どうした」

 

「その話はまた後ほど。さあスマリットくん!私を倒したければ追いついてみなさい!」

 

「待ちやがれクソ女ァァァァ!!!」

 

 大量の土煙を巻き上げながら駆けていくジャスミンとそれを追うスマリット。2人が山の中へ消えて行くのを見届けたアルジードは、再びロレンツと向き合った。

 

「行かせて良かったのか?あのガキがいれば簡単にオレを殺れたぜ」

 

「言ったでしょ?久しぶりの喧嘩は大事に使いたいの。調子も上がってきたことだし…ねっ!!!」

 

 飛ばされた土飛沫の硬度と数に回避が不可能と判断したアルジードは木の幹に身を隠す。背中へ伝わる衝撃が間近になると鎖を使って離れた木へと飛び移るのを繰り返すが、ロレンツは攻撃の手を緩めない。

 防戦一方の立場に甘んじているのは対処の難しい局面というのもあるが、相手の手の内を探るためでもあった。

 

「ロウンちゃんは頭が良くてねぇ…新しい道具の使い方もすぐに覚えたわ。真面目すぎて変なギャンブルに興じ、悪ぶる変な癖はあったけどね」

 

「っ…なんの話だ!」

 

「マビンはまぁ…お世辞にも褒められた人間ではなかったわね。それでも組織の中ではそこそこのアガリを収めていたの。分かる?」

 

「盗賊の人間性に優劣なんざあるかよボケナス。テメェら全員クソ野郎だぜ…っ!」

 

 舌戦に乗りつつもアルジードは策を練っていた。

 

 土系魔法の使い手はこれが初めてではない。現在ルルと行動を共にしているアーサーも土に関する魔法の使い手であり、何が出来るかはおおよそ知っている。

 もっとも彼の場合、魔法の使い手は奇妙な剣なのだが…触れた土を操る・質量を増やすといった芸当を持つ彼らに対し、ロレンツは「掬って飛ばす」に終止している。

 

(これは妙な武器と人間の違いなのか?それとも─)

 

「ダメじゃないボウヤ…話の途中に他のことを考えたら」

 

 体は声を認識するよりも早く回避を優先した。反射に近い反応速度でアンカーつきの鎖を射出・離脱すると、コンマ数秒前にいた場所が薙刀によって薙ぎ払われる。

 凶刃が未だこちらに向けられているのを視認したアルジードは再び火薬玉を撒き散らすと、両者の間に壁を作った。

 

「困った時は爆弾で仕切り直し、それがボウヤの癖なのね?」

 

 しかしロレンツは予想打にしない行動に出る。不敵な笑みを浮かべながら柄を握り直すと、爆発寸前の火薬玉の弾幕に向かって突っ込んできたのだ!そして─

 

 薙刀を大きく横薙ぎにすると、すべての火薬玉を弾き飛ばした。それも1つも爆発させずに、である。ロレンツは爆風を味方につけさらに加速しつつ、野生に満ちた表情で薙刀を振りかぶった。

 

(まだ奴の間合いじゃねえ。ここに来て焦ったな)

 

「ボウヤの洞察力は本当に見事よ。部下たちに任せられないと思えるくらいに。でもね…」

 

「まだまだ青いわよ、アナタ」

 

「…ッ!?!?」

 

 アルジードの体は吹き飛ばされた…間合いの外から放たれたはずの横薙ぎによって。

 

──────────────

 

 煌々と輝く明かりが道を照らし、夜にも関わらず多くの人が往来する道を歩く男女がいた。

 男どもは色めき立ち、香水の混ざり合った匂いがしきりに鼻を刺激する不慣れな環境に男─エイジャーは眉をひそめる。

 

 傍らに控えるアリッサは野良猫の如き警戒心を剥き出しにしながら、苛立った様子で唸っていた。

 

「予想はしてたけど本当にイヤな場所…お金で恋を買うなんて信じられない」

 

「彼女たちが選んだ道だ、他人の生業をそう邪険にするものじゃないよ」

 

「だとしてもです!さっきもエロ親父にナンパされるし…これで4人目ですよ?」

 

 アリッサの腹の虫は収まらないようだ。彼女の故郷はエリートだけを集めた閉鎖的な集落、このような俗っぽい街を嫌悪するのも無理はない。

 エイジャーも街の雰囲気を苦手に感じているため、それ以上の言及はしなかった。

 

「あなたを誑かす悪い虫はあたしが追い払いますから、安心してくださいねダーリン!」

 

 ふんす、と鼻を慣らして気合い十分のアリッサ。他の女性を追い払わんとする彼女の言動にどこか懐かしいものを感じたエイジャーは、困ったように頬を掻くのだった。

 

 2人が足を踏み入れた街の名はゲンゼ。淫奔な欲望が渦巻く夜の街─

 

 

「にしてもパイセンほんと忙しいよな〜。みんな押し付けすぎじゃね?」

 

「大変なのはみんな同じだよ。ネイル、急に連絡して悪かったね」

 

 それは遡ること数日前…魔族の除去に区切りのついたエイジャーはイソーの拠点を訪れていた。

 とある宗教団体に集まる女性と赤カビ病の繋がり─アルジードが調査の末に導き出した推察と、事実確認の片方を任せたいという連絡。

 

 かつてのエイジャー小隊は魔族の討伐が専門であり、人里の位置や特徴にはやや疎いところがあった。それが王都から離れた土地であればなおさらである。

 そのためこの辺りの地理…特に花街などの浮ついた場所に詳しそうなギャル軍団を訪ねてイソーへ戻ってきたというわけだ。

 

「お礼はアゲハちゃんに言ってやってよ。こんなものまで作ってくれたんだぜ?」

 

 エイジャーは差し出されたレポートに目を通す。無駄にカラフルな配色や落書きは目立つものの、花街の場所や噂について非常によくまとめられている。

 ノブリスが追放されてからのアゲハは王政が関わっていた不正などを必死に調べており、今回のレポートもそのついでに作成してくれたとのことだった。

 

(ゲンゼという街にチェックがついている。この辺りでは一番規模の大きい花街、有力者が出入りしやすい分怪しいかも…か)

 

「ゲンゼはとんでもねー美人が揃ってるんだと。パイセンもたまには遊んできちゃうとかどう…よ…」

 

「ダーリンがそんな場所で…鼻を伸ばすように見えるわけ?」

 

 いつの間にか入ってきていたアリッサの凄まじい圧─もとい熱波にあてられ、それ以上の言葉を噤むネイル。向けられている殺意の恐ろしさは、蛇に睨まれた蛙のような様子から一目瞭然である。

 部屋の温度もみるみる上がり、ネイルの冷や汗が衣服を染め始めた頃。エイジャーは2人の間へ飛び込み、視界と熱波を遮った。

 

「ネイルは俺が根を詰めすぎないように気を遣ってくれたんだ。本当はそんなこと考えてないよ。ね?」

 

 ネイルは猛烈な速度で首を縦に振る。そんな2人の様子を見て怒りが冷めたのか、アリッサから放たれる熱波はようやく収まった。

 しかし彼女の表情は未だ晴れない。どうしたものかと思考を巡らせていると─アリッサはぽんと手を叩き、ある事を決めたのである。

 

「ゲンゼとかいう街の調査、あたしも手伝います!」

 

・ ・ ・

 

・ ・

 

 

(副団長への交渉とグルーノイさんからの許可…俺が出ている間にみんな取り付けるとはなぁ)

 

 寄生体の除去という同行理由が消えた今、商会の預かりであるアリッサを無闇に連れ歩くことはできない。それでも着いていきたいという本人の強い希望はそれぞれの責任者を根負けさせ、同行の許可を掴み取るに至る。

 街が街である、それとなく諦めてもらおうと考えていたエイジャーだったが…そこまでの熱意を見せられては無碍にするわけにもいかない。

 

 それに女性を連れている方が動きやすいという彼女の言も一理あった。遊女と一夜を過ごす気はないが、いちいち声をかけられては調査にならないだろう。

 事が片付いたらきちんとお礼をしよう…そんな事を考えていると、傍らのアリッサがそういえば、と話を切り出してきた。

 

「検問に立ってたダイガロンの連中、はじめは絡んできたのに急に通してくれましたよね。紙を見せてましたけど…あれは何だったんですか?」

 

「ああ、それはね…」

 

 複雑な表情のエイジャーが取り出した紙には"検問通行証"の文字とイソーの支部隊長であるガルタの名前、本人を証明するためのサインが記載されていた。

 その他にも文書の持ち主がエイジャー・グラム本人であることや検問を免除すること、有事の際は協力するよう求める内容が書き連ねられている。

 

 どうやらガルタの名は相当な力を持っているようで、武器を持ち歩くエイジャーに突っかかってきた傭兵たちは驚くほどあっさり通してくれた。

 

「確か襲撃の時に助けたんでしたっけ?偉いようには見えなかったけど…そんなヤツに貸しを作るとはさすがダーリンです!」

 

「うーん…むしろ口実に利用されたというか」

 

「?」

 

─こいつがあればウチの連中をこき使えるぜ。この間の礼さ

 

─お礼だなんて…こんなすごいものは受け取れませんよ

 

─謙虚だねぇ…まああれだ、返しすぎだと思う分はどこかで埋め合わせしてくれや。な?

 

─…それはつまり?

 

─あんちゃんとのケンカを諦めてねぇってことさ。"返しのカエシ"楽しみに待ってるぜ?ヘッヘッヘ…

 

 

(絶対に逃さないって顔してたな、ガルダさん…かなりの手練れと聞くしどうしたものか)

 

─そこのお兄さん難しいカオしてますね〜。私と遊びませんかっ?

 

 エイジャーの脳裏に浮かぶ顔は菓子をねだる子供のような声と、左半身への衝撃によって上書きされる。グレーがかった髪の女性はあっという間に腕に絡みつくと顔を覗き込み、にっこりと笑顔を浮かべる。

 いくら考え事をしていたとはいえ、接触されるまで気付けないのは異常だ。警戒心を剥き出しにしていたはずのアリッサも反応できておらず、不意を突かれているようである。

 

 女性はこちらの困惑など気にする様子もなくさらに詰め寄ると、エイジャーの腹を服の上からなぞり始めた。

 

「あ、お兄さんけっこう鍛えてますね〜戦士のカラダって感じです。わたしと一晩どうですか?安くはできませんけどその分たっぷり─」

 

「それ以上ダーリンに触れたら燃やすからね」

 

 からかうように身体をつつく腕はアリッサによって止められた。桃色の髪は赤く染まりつつあり、体表は熱を帯び始めている。

 単なる脅し文句でないことを理解したのか、女性は降参の仕草をしつつ、軽い足取りでエイジャーから離れた。

 

「残念、サクッと寝取っちゃおうと思ったのに。お兄さんも喜んでくれないし…もしかしてわたし、魅力ないですか?」

 

「こういう街に慣れてないんだ。君は十分魅力的だと思うよ」

 

 慰めの言葉は決して出任せではない。やや幼い顔に艶のある髪…スタイルも他の遊女たちに引けを取っていないし、それを惜しげもなく武器にする積極性もある。

 

 今のようなアプローチをされて靡かない男はそういないだろう。ただ相手とタイミングが悪かっただけなのだ。

 そんな思いが通じたのか女性は少し機嫌を良くすると、威嚇を続けるアリッサを無視して再び顔を覗き込んできた。幼い顔を活かした上目遣いが彼女の必殺技らしい。

 

「えへへ、嘘が下手そうなお兄さんの言葉を信じます。わたしはシンシア、あなたは?」

 

「エイジャー・グラム。糧になれなくてすまないね」

 

「じゃあ代わりに道案内を。この街で寝泊まりするなら青い屋根の建物へどうぞ。普通の宿として商いをしているのでまだ(・・)静かだと思いますよ〜」

 

 そう言ってシンシアは周辺の宿と飯場をピックアップした地図…とカラの手のひらを差し出してきた。アリッサに客取りを邪魔された分の補填を要求しているようだ。

 幾らかの貨幣を握らせると満足そうに口角を吊り上げる。そうしてまたアリッサの怒りを買わぬよう足早に離れると、くるりと一回転の後におじぎをした。

 

「お兄さんとはまた会える気がします。それじゃ、調査頑張ってくださいね〜!」

 

 そう言ってウインクを1つ寄越し、人混みの中へと消えていくシンシア。彼女の姿が完全に見えなくなってようやく警戒を解いたアリッサは、強張っていた肩をガクンと落とすのだった。

 

「まったく油断も隙もない!ああいう女に騙されちゃダメですよダーリン…どうかしましたか?」

 

「あのシンシアって子、最後に"調査頑張って"って…そんな話したかなと思ってね」

 

「うーん?女の勘でそこらのスケベ親父とは違うって分かるのかも。ほら、剣を持ち歩いてるし」

 

「なるほど…」

 

 アリッサの推測は一理ある。密室で客を相手する商売、いくら検問や店が篩にかけるとはいえ危険は多い。身を守るために観察眼が鍛えられていても不自然ではないだろう。

 だが先ほどの身のこなしと、気取られることなく接触できる隠密術が妙に引っかかる。敵意は感じられなかったが… 

 

「それより宿を探しませんか?今日はもう遅いですから」

 

「…そうだね、本格的な聞き込みは明日にしようか。確か青い屋根の建物だったね」

 

─ところでダーリンと同じ部屋がいいなあって…あっ違いますよ下心とかはないんですけどほらこういう街で不安ですし

 

─うーん確かに…また俺の手足を縛っておけばいいか…

 

─そこまでしなくてもいいのに…

 

(噂には聞いてたけど…想像よりもお人好しって感じ。この街に来たってこと、ボスに教えておかなくちゃかぁ)

 

 雑踏に消えて行く2人を見守るシンシア。彼女の目的は如何に…

 

──────────────

 

 一方こちらはエグリ=マティアス教の敷地から少し離れた山道─援護に駆け付けたジャスミンは謎の子供 スマリットを戦場から引き離しつつ、その攻撃を捌き続けていた。

 

「ちょこまか逃げやがってクソがァ…やる気あんのかお前!!!」

 

「先ほども言ったでしょう!私は子供を傷つけたりしません!」

 

「またガキ扱い…!いつまでも余裕こいてんじゃねえぞ!!!」

 

 肉食獣のような分厚い爪による引っ掻きは木々に深い跡を残るほどの威力を誇る。だがその爪がジャスミンを捉えたことは一度もなく、募るのは苛立ちばかり。  

 そんな凶暴な少年の攻撃を躱しながら、ジャスミンはどう対処すべきか悩んでいた。

 

(これだけがむしゃらに攻撃しているにも関わらず息があがっていない…スタミナにはかなり自信があるようです)

 

「威嚇につきお許しを!壱の手『罪爆打』!」

 

 ジャスミンは地面目がけて拳を振るった。魔力と拳圧によって起きた衝撃は前方に凄まじい風圧を発生させ、巻き込まれた土砂ともどもスマリットを覆い尽くす。

 だがこれでも十全な威力ではない。煉獄心拳が完成していればという心に湧き上がる悔いが拳を鈍らせているからだ。

 

「そんな事できるなら当てりゃいいじゃねえかよ」

 

「!?嘘っ…」

 

「さっきからオレのこと舐めやがって…どうだ?本気出さないと死ぬぞ?」

 

 爆発とほぼ同時に土煙から姿を現したスマリットに思わず慄くジャスミン。またも引っ掻きを止める構図となった2人だが、その表情は先ほどとはまるで違っていた。

 

「っ…こんな事は止めましょう!キミはあの人たちに騙されているのです!」

 

「騙されてる?何が?恵まれてる奴が分かったような口をききやがって…!!!」

 

「キミの事情は知りません!そこは謝罪します!ですがその腕…そんな状態を放置している大人たちが正しいはずないでしょう!」

 

 怒り、体勢の不利、心の迷いによって思うように力を出せないジャスミン。なんとか持ち堪えているものの、凶悪な爪は少しずつ迫りつつある。

 それでも反撃を選ばない。いや、選べなかった。それは相手が子供もいうのもあるが…ジャスミンは迫りくる腕に浮かぶ"何か"にもう一度目をやると、必死の形相で叫んだ。

 

「キミの腕に浮かぶ赤い痣…それはいま多くの人々を苦しめている奇病なのですよ!?」

 

 




また話が複雑になってきたので 読んでる方が忘れないうちに投稿したい
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