Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 ついに見つけたアラクネ盗賊団の根城。エグリ=マティアス教を支配していた大幹部ロレンツとの戦いの最中乱入してきたジャスミンとスマリットは森へと入り、それぞれの戦いに分かれる。

 病気を植え付け広めていたこと、子供にすら手を挙げる卑劣漢たちへの怒りでついに煉獄心拳を開花させたジャスミンはこれを打ち破り、対等な立場で殴り合うことでスマリットの浄化に成功する。

 一方、アルジードとロレンツの戦いは不穏な方向へ傾いており…




84話 ままならぬ

「チッ…!」

 

 ジャスミンたちの戦いに決着がつく少し前、宿舎ではロレンツの猛攻に苦戦するアルジードの姿があった。服には無数の切り傷が刻まれ、頬から滴る血を拭う暇もない。

 

「避けているのに被弾する」という不可解な状況に消耗するアルジードに対し、調子が上がってきたロレンツの攻め手は過激になる一方であった。

 

「逃げてばかりじゃ勝てないわよ?あまり退屈させないで頂戴な!!!」

 

 何度目かも分からない薙ぎ払いをバックステップで躱すものの、届いていないはずの刃から伝わる衝撃に表情が歪む。

 不可視の攻撃はやや威力が低いため鎖で防げるが、それは鎖を用いた反撃に移れないことも意味していた。

 

(攻撃の軌道を読んで鎖で受ける、死なない立ち回りは見つけたが…次の一手が見えてこねぇ)

 

 不可視の斬撃はすべてロレンツの動きに追従しており、ノーモーションで飛んでくるようなことはない。つまり刃に何かを纏わせていると考えるのが定石だろう。

 風の魔法を疑いたくなるがこの男は土魔法の使い手である。自分が知らないだけで、複数の力を使える者がいないとも限らないが…

 

(まるで団長じゃねえか。まあ、あの人が使うのは魔法だけじゃないけど…な…)

 

(魔法じゃ…ない…?)

 

 既存の土魔法とは違う挙動。

 

 お門違いな不可視の斬撃。

 

 そして火薬玉を起爆させず"包み込むように"排除した妙技。

 

 これまでに感じていた違和感が1つの仮説を浮かび上がらせる。まだ確信を持てるほどの判断材料は揃っていないが─アルジードはいくらか軽くなった身体を起こすと、憎らしげな表情で指を差した。

 

「盗賊如きがあり得ねぇと除外していたが…さては従属呪文(イペルヴ)を使ってやがるな」

 

 指摘を受けたロレンツは少し面食らった後、どこか嬉しそうに顎をしゃくる。

 

「従属呪文という呼び名は知らないけれど…ただの魔法じゃないというのはたぶん正解ね。これを看破されるとは思わなかったわ♡」

 

(たぶん?何も知らないまま会得したってことかよ)

 

 従属呪文は魔力に直接命令・変質させることで幅広い効果を持たせることができるという、魔法とは別の技術体系である。

 副団長グレナルドが古い資料を見つけたことで広まったものだが、その使い手は極端に少ない。ド・フィスなど概念を知らぬまま会得した例もあるらしいが…

 

 いや、今の状況において経緯は関係ない。そう言い聞かせたアルジードは怯むことなく追及を続ける。

 

「オレの知る土魔法とは違う挙動、それにあの斬撃とくれば察しがつく。おそらく実体化した透明な魔力を纏わせてるんだろ」

 

「お見事!常識をも疑う素晴らしい推理力だわ。アタシの力はそうね…あえて名付けるなら『見えざる手』かしら」

 

「見えざる手…」

 

「この世には見えない力が動いているの。自分にはどうにもできない、決められた結末に戻される力…それが見えざる手よ」

 

 薙刀を突き刺し、空いた手を恨めしそうに眺めるロレンツ。ここまで常に"動"の感情のみ発露させてきた彼が初めて見せた"静"の一面に少し驚いていると、再び余裕の笑みを浮かべ、構えた。

 

「ボウヤさっき言ったわよね、なぜ女の子たちを売らずにわざわざ囲っているのかと…それはアタシの"趣味"だからよ!」

 

(…っ!?)

 

 適性がないアルジードに魔力を感知する力はないが、第六感が危険を警告し続けている。

 ようやく掴んだ"見えざる手"の攻撃範囲よりもさらに遠くへ飛び移ると、そこには薙刀による一振ではあり得ない複数の、深い爪痕が地面に刻まれていた。

 

 不可視の攻撃はさらに範囲が拡大され、地面に刻まれた爪痕はとても防御できる威力ではない。回避も防御も限界と察したアルジードが取った行動はというと─

 

「…で?逃れられない運命とあの女ども、テメェの趣味がどう関係あるんだよ」

 

 会話だった。

 

 ロレンツは無防備な体勢に驚きつつも、こちらも戦闘態勢を解く。それは自分が始めた話を完遂すべきという律儀さでも、稼いだ時間で何をしてくるか見定めたい期待でもあった。

 

「あの子たちがこのまま楽しく暮らすことはないわ。最後は目的のために利用する…ボウヤの言う通りにね」

 

「その割にずいぶん懐かれてるじゃねえか。そこがテメェの趣味とやらに関係してんのかよ」

 

「ええ。嫌な環境から逃げた先で得た安寧、いつまでも続くと思っていたそれが突然牙を剥いたら…ああ、人生というのはままならないものよね」

 

 吐き出される下種な言葉とは裏腹に、表情には歓喜や恍惚の姿はない。むしろ諦めのようなものが浮かんでいる。

 アルジードが訝しみつつも割り込まないのを確認すると、さらに続けた。

 

「あの子たちは何も知らないまま、自分の意思で地獄へ進んで行くの。最も、己の立場を知ってからの苦しみはそう長くないけれどね」

 

「絵に描いたような外道で安心するぜ。用済みになった女は殺す、いや…勝手に死ぬように仕込んでるんだろ」

 

 目を細めるだけで答えを返さないロレンツと、反応から確信を得たアルジード。それ以上の詮索は不要と判断した両者は再び構えると─第二ラウンドの火蓋が切って落とされた!

 

 先ほどの爪痕から攻撃範囲を割り出し、大きく距離を取り続けるアルジード。こちらの回避に合わせて来ないあたり、"見えざる手"の範囲は瞬時に切り替えられるものではないと推測する。

 

 しかし回避の度に無駄な消費を強いられるため、やはり劣勢には変わりない。会話で時間を稼ぎ、捻り出した策も実行しているようには見えず、状況は何ひとつ好転していなかった。

 

「さあ反撃していらっしゃいな!『大地のささくれ(スケッジア・ディ・テッラ)』!!」

 

 ロレンツが刃を突き立てると、無数に隆起した土砂が追いかけてくる!

 腕にも似た形のそれが迫る姿はアルジードを捕まえ、引きずり込もうとしているように見え。まるで彼の持論が具現化したかのようである。

 

 厄介なのはそれだけではなかった。これらの攻撃には若干のラグがあり、連発するほどに次の一手を打つ余裕が生まれるのだ。

 不可視の斬撃と足元から迫る腕の波状攻撃はより神経を削り取り、消耗させていく。

 

(奴の動きは読めてきたがこれ以上好きにさせたらオレが死ぬ。アレ(・・)、やるしかねぇな)

 

 腹を括ったアルジードの服の中で、ガチャリと何かが作動する音がした。

 

──────────────

 

 突如降ってきた女がスマリットを引き剥がしてからしばらく…仕切り直したアルジードとの戦いを一言で表すなら"防戦一方"だろうか。

 鍛え抜かれた筋肉の前に体術は不利と判断し、従属呪文と呼ぶらしい魔法のカラクリを見抜く観察眼は見事であったが…そこから反撃に移る様子はなく、ただ逃げ回る姿に膨らませた胸は萎みつつある。

 

 独自の戦闘スタイルを確立するセンスとアジトを突き止め、乗り込んでくるほどの気概を持った極上の獲物。それがまだ20にも満たないであろう青年とあらば滾らないわけがない。

 2つの攻撃を躱し続けてきた青年の顔には疲労が浮かんでおり、限界が近いことを教えてくれている。今の状態ならば即戦力として迎えられるのだが…あの恨みようではそれも叶わない。

 

 ここまで持ちこたえ、何発か入れてきただけでもよくやっている方である。だが当初感じた期待は裏切られてしまった─己の審美眼も衰えたものだと、ロレンツは小さくため息をついた。

 

 ロレンツには嫌いなものがある。それは自らの足で進むことを放棄した愚か者。

 撒いた噂に飛びついてこの地に集まり、惰眠をむさぼる愚かな女たちなどその最もたる例だ。他にも理由はあるが…彼女たちが悲惨な末路を辿ることに、私情が混じっていることは否めない。

 

 一方で理不尽に打ちのめされても立ち上がり、どれだけ汚れても進もうとする者は好感が持てる。だから目の前の青年─アルジードとはサシでぶつかったし、引き入れようとしたのだ。

 

 だがそれは叶わなかった。人生とはままならないものである。

 

(本当に残念…でもお見事よ。ボウヤの事は忘れないわ)

 

「アタシにも立場があるの。そろそろ終わりにしましょうか…!」

 

 ロレンツは刃に大量の魔力を纏わせると大きく振り被り、削ぎ取るように足元を抉る。巻き上がった土は凝固し礫として、支配下に置いた地面は無数の腕となりアルジードへと襲いかかった!

 

 これまで分かれていた攻撃が同時に、それも強化されて放たれる総仕上げの一撃。さすがのアルジードも回避が追いつかず、礫が細身の肉体を激しく打ちつける。

 鎖によって直撃は免れているものの、衝撃まで無効化することはできない。そして今の彼にとっては衝撃すら大きな負担となることは両者ともよく分かっていた。

 

 だが手札はこれだけではない。現在使っているのはあくまで"土に干渉する"という部分のみ…本命である不可視の斬撃を残しているのだ。

 

(いくら賢くても追い詰められれば思考が鈍る…斬撃が頭から離れた瞬間が最期よ)

 

 無数の攻撃を回避し、時にあえて受けつつもこちらとの距離を保ち続けている。未だ警戒心を解かない彼を揺さぶるべく、ロレンツは軽い調子で呼びかけた。

 

「そういえばボウヤの事を思い出したの!かつてボージャンが仕留め損ねた…確かトゥアンという町の、金属器を扱う工房の子供。違くって?」

 

「!!!テメェさてはあの場に…死に晒せクソがぁ!!!」

 

 声を荒げ顔に鬼が宿るアルジード。今の彼を見た誰もが激昂し、冷静さを失っていると判断するだろう。トラウマを刺激され、見え見えの罠にかかってしまった、と。

 

 だがロレンツはそう捉えていなかった。数多の人間を扱い、光と影を渡してきた者としての勘が小さな引っかかりに気付かせたのだ。

 

(挑発を耳にした瞬間は確かに激昂したわ。だけどその直後に瞼が細まった…一度ブレーキがかかったように見える)

 

 怒り狂った人間は動きが単調になり、処理できる情報量も極端に少なくなるのが定石だ。被弾を恐れず突っ込むのが関の山で、複数の攻撃を捌くなど不可能である。

 

 だが激昂しているはずのアルジードは相変わらず致命傷を避け続けており、立ち回りは一貫して冷静である。

 戦いのセンスでは片付けられない不自然な状況。考えられるとするならば─

 

(策に乗ったフリをして、アタシを策に嵌めようというわけね)

 

「死ね!!!!!」

 

 ならばこちらも嵌め返せば良い─アルジードはロレンツがわざと生んだ攻撃の隙をついて接近すると、ありったけの火薬玉をばら撒いた!

 

 すでに使用した分も含めて隠し持てる限界量、誰がどう見てもやけっぱちの一撃。だが注意深く観察すると、その不自然な配置が見えてくる。

 無造作に撒かれたように見える火薬玉はロレンツの両脇を挟むように配置されており、退路を前後のみに絞っているではないか。

 

(さすがのアタシも爆弾は避けると知っている、それを踏まえた上で次に来る攻撃は…!)

 

「『駝鳥蹴撃』!!!」

 

 アルジードは両手いっぱいの棒手裏剣を放り投げると、ロレンツ目掛けて蹴り飛ばした!筋肉がつかない顔面への、逃げ場を塞いだ上での一撃。明確な有効手段すら囮にした大胆な策は見事としか言いようがない。

 

 だがそれは虚を突いた場合の話…ロレンツは爆傷も恐れずその場で構えると、薙刀を振るって棒手裏剣たちをすべて叩き落としてしまった。

 

「何重にも裏をかく戦略性は見事!だけどまだまだ青い!」

 

「クソッ…!」

 

「ボウヤの脅威性に敬意を評して…一撃で葬ってあげる…っ!?」

 

 突如足がもつれ、視界がふわりと浮かぶ。

 

 躓いた。この大一番で?

 

 あり得ない。そんなミスを犯すなど。

 

 毒を使われた?否、撃ち落とした鉄釘は乾燥していた。

 

 では何故─

 

(足に…針!?)

 

「ままならねえもんだよな、人生ってのはよ」

 

───────────────

 

「…で、ここが療歩という点穴です。いかがですか?」

 

「痛みはない、が…見ていて気分のいいもんではねぇな」

 

 それは遡ること少し前…アラクネの痕跡を調査する中で、ジャスミンから点針術の手ほどきを受けていた時のこと。

 点針術は魔力を使わずに怪我や疲労の回復を早めることができ、アルジードにとっては非常に魅力的な技術だった。

 

 今夜は足の負担が集中しやすい点穴"療歩"について施術を兼ねた実演を受けている。深々と針が刺さっている光景にさすがのアルジードも引き気味であり、ジャスミンも釣られて苦笑いを浮かべた。

 

「確かに。正確な力の行使によって初めて有益となる点針術は煉獄心拳に通ずるものがあると、師匠もよく言っていました」

 

「なるほどな…ちなみに点穴の位置や深さを間違えたらどうなるんだ?」

 

「そうですね…療歩であれば足に力が入らなくなるとか、限界が早まるとかでしょうか」

 

「へぇ…要するに逆の効果が現れるってことか」

 

 考え込むアルジードの顔をジャスミンが覗き込む。得意分野ということもあって勘が冴えているのか、目には疑いの感情が色濃く現れていた。

 

「…悪用してはいけませんよ?」

 

「ああ、有効に使わせてもらうさ」

 

「不穏なものを感じるのは気のせいでしょうか…いいですか?これは人を救うための技術ですからね!」

 

・ ・ ・

 

・ ・

 

 

(案の定悪用しちまったわけだが…バレたら面倒だな)

 

 バツが悪そうに鼻を鳴らすアルジードの眼下にはロレンツの姿が映っている。

 針が刺さった両足は小刻みに震え、放り出されている。薙刀を支えになんとか体を起こしている彼の表情にこれまでの余裕はなく、何が起きたのか飲み込めていないようだった。

 

「歩く上で要となる点穴を突いた。足をぶっ壊してやるつもりだったが…筋肉に助けられたらしいな」

 

「アタシの攻撃を躱しながら特定のポイントに針を…!?賭けにしても分が悪すぎるんじゃなくって?」

 

「油断させるのには苦労したぜ。ムカつくほどに頭が回るのを利用しなきゃならねえんだからな」

 

 点針術を使った無力化についてはロレンツの肉体強度を把握した時から思いついていた。

 だが彼が指摘した通り動く標的の点穴を突くのは不可能に近く、一度でも手の内を晒せばさらに難易度は跳ね上がる。

 

 そこでアルジードは一方的な展開で優位を確信させ、仕上げの一手…復讐のためにやってきた自分を追い詰める精神攻撃を誘発させたのである。

 

「オレの正体に何度か気付きかけていたからな、ここぞという時に煽りを入れると睨んでたんだよ」

 

「意外と冷静ね…トラウマはもう克服したとでも?」

 

「お生憎様、あの煽りは"2回目"でね」

 

 正体を看破しつつ過去を掘り起こされるのは今回が初めてではない。イソー襲撃に失敗し拘束、尋問を受けていたロウンという男がすでに口にしていたことである。

 当時は咄嗟に手を挙げるほど激昂したアルジードだったが。ある程度時間が経った今は冷静になり、己の弱点として向き合っていた。

 

 本来であればここでロレンツが油断し、トドメの大振りな一撃を放つ。それに合わせて足を無力化するはずだった。

 だがこちらの心境を見抜かれたことで作戦をさらに変更し、保険として残していた火薬玉と棒手裏剣のカードまで切る羽目になったのである。

 

 策に嵌ったフリでお膳立てし、本当に嵌められてようやく油断したロレンツという男─その難攻不落な策士としての才能は、アルジードも認めざるを得ずにいた。

 

「トラウマすら餌にするとはね…本当に恐ろしいコ。この喧嘩はアタシの負けよ」

 

「…テメェに聞きたいことは山ほどある。まずは拘束して─」

 

 次の瞬間、肩に強い衝撃が走る。少し遅れて爆発音と─硝煙の臭い。

 

 撃たれた事を理解した頃には身体は硬直しており、そのまま地面に叩きつけられる。なんとか頭を持ち上げた先には笑みを浮かべるロレンツの姿があった。

 

「喧嘩はボウヤの勝ち。だけどアタシはアラクネの大幹部で、ここは根城…これで終わりなワケないでしょう?…ほら」

 

 ロレンツが指し示す方角から足音が聞こえてくる。振り向く事はできないが数はふたつで片方は妙に重い…どうやら人間ではない者のようだった。

 

「コイツがお前を出し抜いたっていうガキか?ロギン」

 

「ああ。…まったく肝が冷えましたよママ。立てますか?」

 

「しばらく動けそうにないわ。その子を任せたわよ」

 

「了解。お前が置かれている状況を見せてやる…起きろ!」

 

 ロギンは髪を掴んで持ち上げると、盗賊たちが見えるようにぐるりと一回転した。中にはライフルを持つ者すらおり、半端な抵抗が無駄であることを視界に刻み込む。

 そしてもうひとつの声の主…ガルフィン族の男に身体を押し付けると、装備品を改め始めた。

 

「おぉすげぇ、こんな数の道具を仕込めるものなんだな」

 

「感心するなブルー・ギルズ…ちゃんと抑えていろよ」

 

 さすがは犯罪組織というべきか、ロギンは踵に仕込んだ刃までも見抜き、破壊していく。みるみる反撃のチャンスが失われていくがブルー・ギルズの拘束は極めて強固、抜け出せそうにない。

 

 暗器を粗方無力化され、いよいよ鎖も破棄されるという段階に突入。万事休すかと思われたが─ここまで鮮やかだった作業が初めて止まった。

 

「外し方がわからねぇのか?…そういや弾も防いでるな。この鎖、何で出来てんだ?」

 

「メニィさんのところにいる研究者たちに解析させてみるか。おい!自分で外せ」

 

 どうも長年かけて編み出した鎖の装備方法だけは手をつけられないらしい。これはチャンスだ。

 だが他の暗器はすべて取り上げられており、無数の武器がこちらを向いている。先ほど撃たれた箇所は打撲しており、強行突破は難しい。

 

 せめて彼らの注意を逸らす何かがあれば─そんなアルジードの願いを叶えるかのように、大きな地響きが起きた。

 

─なんだあっ地震!?

 

─かなり近かったぞ!

 

─森の方を見てみろ!ありゃあ…噴火ぁ!?

 

「ここは火山じゃない!落ち着け!」

 

 どうやらジャスミンが向かった方角で何かが起きたらしい。詳細は分からないが、盗賊たちの意識が逸れているのは事実。

 

 一か八か…アルジードは両肩を外して"遊び"を作ると、ブルー・ギルズの股を踵で蹴り上げた!

 

「ぐぅっ!?」

 

(拘束が緩んだ!周りが気付くまでにラグがあるはず、その隙に─)

 

「…っと危ねぇ!本当に油断も隙もねぇガキだぜ」

 

 ブルー・ギルズは逃げるアルジードの足を掴むと地面に叩きつける。

 宙吊りにされて見えるのは銃口たちが再びこちらに向き直る景色。先ほど肩を外してしまっため腕も使えず、さらなる劣勢に陥ってしまった。

 

「ガルフィン族の急所はそこじゃねえんだわ。ここにきて焦ったな」

 

「ママ、やはり殺しましょう。このガキは危険すぎる」

 

「もう片方は大した情報を持っていなさそうだけど…仕方ないわ」

 

「「了解」」

 

 ロギンは腰の鞘からナタを取り出す。赤黒く染まった柄は吸ってきた血の量を物語っており、次の贄を待ちかねているようだ。

 柄とは対照的に曇りひとつない刀身は鋭く、軽く当てられただけで皮膚が裂ける。血が登っているせいか、首を伝うそれは通常よりも多く流れ出ていた。

 

(気付けたはずだ、肉ダルマが素直に倒されるワケねぇってことくらい。あんたのお人好しが移っちまったせいだぜ、団長…)

 

「首を落としてもしばらく動く奴がたまにいるんだ。お前はどっちだろうな」

 

「…考えるまでもねぇ。最期まで暴れてやるよ」

 

「そうか。それは…楽しみだなッ!!!」

 

 ロギンが大きく振りかぶったところで目を閉じるアルジード。風を切る音がすぐそこまで迫り、そして─

 

 ─パキン、と硬いものが折れる音がした。

 

(…なんだ?痛くねぇ。それに今の音は…)

 

「増援も呼ばずに乗り込むとは青いのォ…ほれ、目を開けんか」

 

 何者かの指示通りに瞼を持ち上げるアルジード。そこに広がっていたのは砕けたナタを驚愕しながら見つめるロギンと、見覚えある老人の後ろ姿であった。

 

「あんたジャスミンの…!」

 

「王都騎士団大隊長"鉄拳法廷"ド・フィスとはワシのこと…裁きを受ける準備は出来ておるか?小童ども」

 

 




今年の更新はこれで最後だと思います。来年こそ折り返しまでいきたいですね…
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