有力者たちが集うという黄金夜会、その会場たる地下街には魔族がいた。
エイジャーは持てる限りの力をギャングスタ・トキシゲイトにぶつけるものの、その異常なまでのタフネスで討伐まで至らない。
魔法と従属呪文の合わせ技により致命傷を与えたことで記憶のトリガーを刺激し、人間だった頃の歩みを思い出すギャングスタ・トキシゲイト。彼の死に関わる人物 ネロの名を思い出したことで口に刺さっていた刀剣が引き抜かれたが…?
「ハァ…ハァ…アリッサ君待っ…日頃の不摂生が…」
息を切らしながら走っているのはグノス・カンティーヤ。"大峡谷"からの移民を受け入れた結果、目利き屋として頭角を現しつつあるグルーノイの友人である。
各地の名士や商人が集うという「黄金夜会」…その全容は未だ見えないが、欺瞞に満ちたものであることは確か。近年出回っている贋作事業の邪魔になるとして、グノスは始末されるところだったのだ。
地下街を脱出した2人はゲンゼに続く街道を走っていた。人工地底湖に潜む強大な魔族の対処を エイジャーひとりに押し付けて。
「早く戻らないとダーリンが危ないの!街までもう少しだから…!?」
急ぐアリッサの足を止めたのは5人の男…ゲンゼに雇われているダイガロンの傭兵たち。
街まではまだ距離がある、警備の範囲ではないはずだが…そこまで考えたところである可能性を察し、アリッサは傭兵たちを睨みつけた。
「…まさか尾けてたの?」
「あんだけうろちょろしてりゃ嫌でも目につくぜ。次からは上手くやんな」
男たちは小馬鹿にしたように、おおよそ紳士的とは真逆の笑みを浮かべる。両者に微妙な空気が流れる中、グノスは間に割って入った。
「ツケンサで商人をやっているグノスだ。彼女らには化け物から助けてもらってね…協力してやってはくれないか」
「化け物?魔族のことか…グノス殿、申し訳ないですがお断りです」
「何…!?」
「オレたちゃ傭兵、金のために武器握ってんですよ。割に合わないもん相手にするほどお人好しじゃないんでさァ。なぁ?」
リーダーと思われる男の発言に取り巻きも同調する。グノスは白状な彼らに小さくため息をつくと…さらに一歩踏み出し、わざとらしく肩を竦めてみせた。
「それは残念だ…この先の地下街で行われていた事には、汚い金が絡んでいそうなのだが」
ぴくり、と男たちの眉間が動いたのをグノスは見逃さない。彼らの反応と幾つかの噂話から背景を予想し、さらに揺さぶりをかけた。
「王都騎士団と組んでいるそうだが正規の契約ではないと聞く。見返りはそうだな…捜査の過程で見つけた、汚れた金の扱いではないか?」
先頭の男はほほぅ、と感嘆の声を漏らす。
グノスの推理通り、王都騎士団とダイガロンは協定を交わしている。手が足りない、あるいは立ち入れない案件を代行するという約束。
その見返りは捜査対象が溜め込んだ汚い金の押収権…騎士団としては扱いづらく、ダイガロンとしては嬉しい臨時収入である。
グレーな契約のため両者とも公にはしていないのだが…金に目敏い者が辿り着くのはそう意外な話でもない。
5人のリーダー ウーノは幾つかの逡巡の後、グノスの要求を飲みつつ遠ざけるのが最適と判断した。
「…ケント!このお方を街までお連れしろ。対処はオレたち4人でやる」
「待った!地下道の途中で誰かが捕まっているようなんだ。彼女たちも助けてやってほしい」
「そっちは化け物を片付けてからで。さぁ稼ぐぞ野郎ども!姉ちゃんはさっさと案内しな!」
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・ ・
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「にしてもいいのかウーノ?闇のフィクサー殿が俺らの雇い主だったら面倒だぜ」
「他所を巻き込むと分け前が減る。儲け話は即断がセオリーだぜ」
「悪事は女絡みつってたよな…薄幸美女ゲットのチャンスか!?」
「てめぇはまず痩せやがれ!」
「「「「ダハハハハ!!!」」」」
なんとも品のないやり取りを背に受けながら、連れてきたことを後悔しつつあるアリッサ。家出してから数ヶ月、各地を巡ってきたものの、王政の傘下にない町や組織はこういう輩が多い。
アストランデの王に謁見することはもはや叶わないが。彼がいかに優れた指導者であったか、死が大きな損失だったかを痛感するのだった。
「ここが化け物のいる部屋か。終わってると楽でいいんだがな」
「そしたら分け前もゼロじゃない?ただ走っただけだもの」
「なかなかキツい女だ、痺れるねぇ。さて、開けるぜ…!」
ウーノと呼ばれていた先頭の男が扉を開く。そこに広がっていたのは─
全身から煙が立ち昇るギャングスタ・トキシゲイトと、丸腰のまま跪くエイジャーの姿だった。
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(アイツ、さっきと様子が違う…?そんなことよりも!)
「ダーリン!大じょ…」
「ここから先はおふざけナシだ。姉ちゃんは引っ込んでな」
反射的に駆け寄ろうとするアリッサを傭兵たちが制止する。彼らの表情に先ほどまでの軽薄さはなく、鉄火場をくぐり抜けてきた者だけに宿る鋭い視線で状況を観察している。
先ほどまで口喧嘩をしていたアリッサも、本気の威圧感を前に反抗する気は起こらなかった。
「坊主生きてるか!?敵の情報を寄越せ!」
─ア゛アァァ?
ウーノの呼びかけに反応したのはギャングスタ・トキシゲイト。錆び付いたブリキ人形のような鈍さでゆっくり首を向けると、自由になった口から水弾を吐き出した!
「…っ!まずい…!」
水弾といってもごく小さな粒の連射、物理的に防げば問題ない─そう判断し盾を構える傭兵たちの前にエイジャーは飛び出すと、大の字になって彼らを庇う。
過剰ともいえる行動に眉をひそめる傭兵たち。だが彼が身を挺した理由は直後に証明されることとなる。
「ぐっ…あぁぁぁ!!!」
「…ドゥースは坊主を!化け物から目ぇ逸らすなよ!」
ドゥースと呼ばれた男はエイジャーを押し倒し、床の水で患部を洗い流す。被弾した箇所は焦げたような反応を示し、皮膚を
「刺激臭の原因はこれか。ありゃ毒…いや酸か?」
「分からない…あいつ自身も制御出来ないようで」
だろうな、と返しつつG・Tを見るドゥース。血走った目は焦点が定まっておらず、硬い鱗はいくらか溶けている。体液の原理は不明だが、本人すら傷つけるほど強力なものであることは間違いない。
わざわざ庇いに来たこと、腰に刺さった剣の損傷具合から金属にも作用することを察するドゥース。皮膚の侵食が収まったエイジャーを避難させるため動かそうとするが、途中で手を振り払われてしまった。
「あいつは…俺が倒します」
「無理すんな坊主。ちょっと遊んでりゃ自滅するぜ、あれは」
「あいつは死に方に拘ってたんです…自滅なんかで終わらせはしない」
傭兵たちは言葉を失っていた。気力だけでなんとか動いている男が、そうなった原因の化け物を弔うためにまだやると言うのだ。どうかしているとしか思えない。
だが一発貰えば致命傷なG・Tとの戦い方を最も把握しているのはこの男である。ドゥースは目線で判断を仰ぎ、ウーノの意図を読み取ると…大きなため息をついて2回、手を叩いた。
「オレとウーノ、トラインとフォウに分かれて援護射撃。化け物の注意を引き続けるぞ」
「「「あいよ」」」
「坊主がくたばったら任務失敗、爆弾でここを封鎖だ。そうなりゃ骨折り損のタダ働き…姐さんに殺されるな」
「「「そいつは困る」」」
「得物は坊主に貸してやれ。そんじゃお前ら…始めるぜ!」
号令とともに散開する4人の傭兵。互いの射線を避けつつ、しかしすぐカバーに入れる位置につくと、タイミングをずらしての射撃を行う。
鉛玉は体液によって溶かされてしまうが衝撃は伝わる。どうやら作戦通り、正気を失ったG・Tはターゲットを絞りきれずにいるようだ。
先ほどまでの軽薄な態度から一変、猛者らしい実力を見せつけるダイガロンの傭兵たち。そんな彼らを内心見下していたアリッサは、役に立てていない自分に怒りを抱く。
「アイツらは即座に作戦を立てて動いてるのに…あたしは…!」
「自分を責めるな…アリッサ」
エイジャーは握り拳を包み込み笑ってみせる。傷だらけの手で、痛みを押し殺しながら。
「君は何も悪くない…すべては巻き込んだ俺の責任だ」
「そんな…あたしがワガママでついてきたせいで…!」
「…状況が状況、この話は後にしよう。頼みたいことがあるんだ。この勝負を左右する、君にしか出来ないことを」
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ダイガロンが駆け付けたことで戦闘はさらに激しく、賑やかになっていた。たった4人でも射撃の手が緩まぬよう緻密に計算された動きにより、人工地底湖には絶えず銃声が鳴り響く。
「おらおら化け物こっちだぜ!」
─ウ゛オ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛!!
「…っと誰も撃てそうにねぇな。坊主!」
「G・T!これは俺達の喧嘩だろう?ゲホッ…よそ見をするな!」
それでも単発式の銃で間をもたせるのは厳しい。どうしても生まれる空白はエイジャーが担当し、装填までの時間を稼ぐ。
お互いが鉛玉と声で注意を引きつつ距離を保ち、体液を浴びぬよう注意を払う…即席ながらも息の合った5人の立ち回りは、犠牲を出さずにG・Tを釘付けにし続けている。
彼らよりもはるかに近い距離、一瞬でも油断すれば皮膚を焼かれる状況で、エイジャーは逆転の
「…っと!」
エイジャーは飛んできた飛沫を盾で受ける。ダイガロンから借りていたそれはジュウジュウと音を立て、あっさり破損してしまった。
(今のあいつには攻防どちらも無駄。まずは体液をなんとかしないと…)
雷魔法なら通用するはずだが魔力は完全に枯渇しており、今度ばかりは無理も通らない。
せめて水を操る事ができれば…エイジャーは先ほど引き抜かれ、床に刺さったままの刀剣に視線を移した。
(あの剣を抜いてから暴走した…ってことはまさか!)
傭兵たちが装填完了の合図を送ってくる。エイジャーは手で刀剣に向かう旨を伝えると、射撃に合わせて駆け出した!
状況から察するにあの体液こそがG・Tの本来の能力であり、相殺の水は外部…吻に刺さっていた刀剣のものだろう。
意外ではあるが前例がないわけではない。地裂宝剣キシャルシオンの存在だ。
アーサー曰く剣には意思があり、朧気ながら意思疎通が出来るという。エイジャーが声を聞くことはなかったが、戦いの直後から持ち上げられなくなってしまったのだ。
曰く蹴飛ばされたのが癪だった、とのことだが…とにかく意思を持ち、使い手を選ぶ武器は存在する。
(…G・Tは武器に"邪魔をするな"と言っていた。ネロという人名も…何か因縁があるのか?)
などと考えている間に刀剣の元へと到達したエイジャーは柄を握り、持ち上げようとするがびくともしない。
武器が応えてくれるならば物理的な重さは関係ないはず、つまり今は認められていないのだ。エイジャーは後方に注意しつつも、刀剣に呼びかけた。
「ネロ聞いてくれ!君の力が必要なんだ!」
「アイツ、なんか叫んでないか?それも剣に…」
「成否の基準は坊主の生死、イカれようが関係ねぇ…よっ!任せたぜフォウ!」
傭兵たちが釘付けにしている間も語りかけるがやはり動かない。G・Tを覆う鱗は完全に溶解しており、叫びもさらに悲痛なものとなっていく。
「君はあいつと知り合いで、水の力で自滅を防いでいた。違うか!?」
剣は反応を示さない。時間稼ぎを求める笛に振り返ると、G・Tがこちらに迫ってきていた。
"彼"を破壊されるわけにはいかない─エイジャーは棒手裏剣を取り出し、片っ端から蹴り飛ばして注意を逸らしていく。
「このままだとあいつは自分の…いや、魔族としての望まぬ力で死ぬ!そんな終わり方でいいのか!」
─アアァァアア゛!!!!
「しまっ─ぐうぅっ!」
「坊主!何やってんだあのバカ…!」
盾として使う武器もすべて溶かされたエイジャーはその身で刀剣を庇う。焼け爛れていく背中もそのままに、縋り付くように柄を掴み直すと、必死に声を絞り出した。
「ちゃんと終わらせてやりたいんだ…君にしかできない…だから…」
「目を覚ましてくれ、ネロ…!」
「─────!!!」
─ああ良かった、ようやく話の出来そうな子供を見つけたよ…なあ君、こんな場所から抜け出したくはないか?
見慣れぬ街並み、声をかけてくる初対面の男…突如として流れ込んでくる映像は、魔族を倒した際に起きる現象と酷似している。
これが刀剣に宿るネロのものだと理解するのに時間はかからなかった。エイジャーは流れてくるものに身を委ね、当時の彼の意識と同調する。
─名前がないのか…では今日から"ネロ"を名乗れ。いつ、誰に対してもだ
どうやら生前のネロは警察という組織に拾われたらしい。男はマフィアなるならず者たちを監視する役割を任されており、その密偵を探していたこと。
自分に声をかけたのはワイズマンファミリーの新たなボスが孤児を集めているため、子供の密偵を欲したからだった。
(路地裏じゃいつも腹ペコで、くそ野郎に殴られて…衣食住が揃ってんならどこでも天国に感じられたなぁ)
そして警察の思惑通り、ネロはファミリーに拾われることとなる。そこで出会い、同室に割り振られたのがジェイル─後のG・Tだったのだ。
「君もオヤジさんに拾われたんだ。よろしく頼むよえっと…」
─オレに名前はついてねェ。まあ、ジェイルを名乗れつってたしそれでいいわ
ジェイルは路地裏の王で、俺とは真逆の存在だったらしい。共通点は親から名前を貰えなかったこと…ろくでもないなぁ、この世界。
はじめの2ヶ月は読み書きと食材の切り方を叩き込まれた。まずは生きる力を身に着けろと。
ジェイルはだいぶ苦戦していた。こいつに取り入るのも悪くないと判断した俺が教えてやると、こんな雑魚に習うなんてとイライラしてさ…あの頃はまさしく野良犬だった。
だけど町の奉仕作業に出てからあいつは変わった。勉強はダメでも手先は器用だし、困ってるカタギを無視できない。環境が歪めただけで悪い奴じゃないのはすぐに分かった。
口では戦争をさせろ、こんなパシリはつまらねェと言ってたけど見逃してないぜ、案外楽しそうにやってたのをさ。
俺はそんなジェイルの隣でいつもサボっていた。夜にはファミリーの動きを記録し、情報を流さなきゃいけないせいで寝不足だったんだ。
そんな生活を何年も続けるうちに気が付いた。こいつは表の世界に戻るべきだと。
だけどジェイルは染まることを選んだ。いや、選んだ自覚すらなかったと思う。死に様なんてものに執着した結果、どんどん裏稼業が板についちゃったんだ。
オヤジに直談判したこともある。あいつを表に返すべきだと。だけどオヤジは本人が望まないのに放り出すわけにはいかないと…そうこうしている間に時は流れ、俺の本当の上司が変わった。
それが、終わりの始まりだったんだよ─"お節介さん"
独白に呼びかけられたのと同時、同調していた意識が切り離される感覚に陥る。エイジャーが眩い光に目を閉じ、現実に引き戻されると─
手には引き抜かれた刀剣が握られていた。
─そいつのことは…
「…!?!?!?」
刀剣…改め黙醢剣オメルタからの呼びかけに混乱するエイジャー。記憶の主、つまりネロの声は脳内に直接響いている。
─さっきは庇ってくれてありがとね。こんな姿でも人扱いとはとんでもないお人好しだね、あんた
刀身からほとばしる水が全身を包み込み、体液を洗い流していく。相殺の恩恵はエイジャーにも適用されるようで、焼けるような痛みも引いていく。
─俺をあいつに…ジェイルに突き立てれば暴走は止まる。だけど大人しく首を差し出すとは限らないぞ。勝てるのか?
「なんとかするさ。それよりも─あの後どうなったんだ」
─知り合ったばかりの相手に明かすにはちょっとヘビーな話だろ?決着をつけたら杯を交わそうぜ。兄弟になら教えてやれる
「…なるほど。それじゃ─改めてよろしく頼むよ、ネロ」
オメルタを構え、G・Tへと向かっていくエイジャー。その動きは身の丈より大きな武器を手にしているとは思えないほど素早く、同調が完璧であることを表していた。
迫りくる爪を躱し、浴びた体液を洗い流しひたすらに突き進む。目の前にいる男を止めたいという、至極単純な想いを乗せて。
「「お前を犬死になんてさせてやるか!目ぇ覚ませ!ジェイル!!!」」
腹に突き立てられたオメルタが全身を水で包みこみ、崩壊が止まっていく。痛みに狂っていたG・Tは次第に落ち着きを取り戻し、定まった焦点はエイジャーを捉えていた。
『オマエ…どういうつもりだ…』
「人として引導を渡すと言っただろう。それにネロも…あんな終わり方は望まないってさ」
G・T─改めジェイルは腹に刺さったオメルタを見る。刀身からは相殺の水が再び湧き出ており、自壊を阻止している。
すれ違った2人の間で意思疎通は叶わないがそこは腐れ縁、まったく意図を予想できないわけではない。ジェイルは再びエイジャーに視線を戻すと、特大のため息を吐いた。
『そこまでしてオレに執着する意味なんざねェのによ…言っておくが"止めてくれてありがとう!さあ僕を仕留めて!"なんてやらねェぞ?』
「分かってる。お互いの最高の一撃で、後腐れのない終わりにしよう」
『ずいぶんドラマチックなこった…待てよ、オマエ武器を持ってねェぞ?』
「はは…武器どころか魔力も尽きたよ。だけど大丈夫。もうすぐ最高のプレゼントが届くからさ」
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「あの野郎まさか…暴走を止めちまったのか!?」
常識外れな展開についていけず、行く末を外周から眺めていた傭兵たちは困惑する。巨大な武器を軽々しく振り回したと思ったらトドメを刺さず、むしろ治してしまうエイジャーの行動に。
だが作戦時に主張していた"俺が終わらせる"の意味を理解すると、困惑は呆れ顔に変わっていくのだった。
「わざわざ手間増やすたぁ…筋金入りのバカだなあいつ」
「オレたちの武器みーんなオシャカにしちまってんな…まさか殴り合いか?」
「さあな。あとは坊主次第、撤退の準備だけしておけ。ところで…」
傭兵たちは揃って後ろを向く。視線の先にそびえ立つ扉からは気合の入った声と、何者かの足音が絶えず聞こえてくる。実は先ほどから続いているのだが、4人ともそれどころではなかったのだ。
─…フッ!やぁっ!
「あの姉ちゃん、暇すぎて素振りでもしてんのか…?ちょっと見てこいよトライン」
「俺ぇ…?しょうがねえな…もうすぐ決着だぜ姉ちゃん!せいぜい見届けてやんな…って」
トラインは目の前の光景に瞬きが止まらなかった。アリッサの行動はあまりにも場違いで、しかしあまりにも真剣だったからだ。
「おい姉ちゃん、一体なにを─」
「ちょっ…まだ発動しちゃダメだってば!大事なものなんだから!」
「無視…!?おいアンタさっきからなんで─」
「このっ…あたしの言うことを聞きなさいよ!」
「…そんなとこで踊ってんだ?」