Regain Journey   作:G-ラッファ

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前回までのあらすじ

 人工地底湖で長きに渡り繰り広げられた戦いは、アリッサの潜在能力を引き出したエイジャーの勝利に終わった。生前のわだかまりを無くし、人間として逝かせることでジェイルの魂をも救って。

 だが困難はまだ消え去っていなかった。ゲンゼの街に訪れる突然の嵐、そして謎の影の正体とは─!?


93話 蒼の騎士

「まずは相手の出方を見る。アリッサはここで待っていてほしい」

 

「ダーリン…無茶はダメですからね!」

 

 突如としてゲンゼを襲う嵐と"黒い雷の使い手"を求める謎の影。それが自身であることを察したエイジャーは満身創痍の体を引きずりながら影との接触を試みる。

 待ち構えていたのは蒼の鎧に身を包んだ騎士。エイジャーよりも一回り大きな体躯と強靭な尾、兜から後方へ突き出た角が人外であることを物語っていた。

 

 これまで出会ったどの種族とも違う、しかし魔族とも言い切れぬ存在との距離を測りかねていると、騎士はおもむろに右手を挙げる。すると2人を隠すように雨足が強まり、外のみんなと分断されてしまった!

 

(どう見てもあの人の動きに呼応してる…まさか天候を操れるのか?)

 

「俺が"黒き雷"の使い手です。あなたは一体…ッ!?」

 

 騎士は何も答えぬまま得物を抜いた。太刀に似たそれは鱗を重ねて象られ、刃にあたる部分は向こうが透けて見えるほど研ぎ澄まされている。

 生物としての純粋な格差から来る威圧感は幾度となく死線を超えてきたエイジャーの心すら折りかねない、最も単純かつ絶対的なものだった。

 

 この男、とてつもなく強い。しかし何かが引っかかる─

   

「思い上がるな。貴様は推し量る立場にない」

 

 地面が抉れるほどの脚力で接近し、横薙ぎで吹き飛ばす蒼の騎士。先の重症で踏ん張りが利かないとはいえ、大人を石ころのように吹き飛ばせる腕力は異常である。

 

「立て、そして足掻け。ここで死にたくなければな」

 

 追撃の兜割りを横っ飛びで回避するエイジャー。細身な太刀に見合わぬ剣圧に吹き飛ばされながらも、なんとか受け身を取る。

 今の衝撃で傷が開いたのか、包帯からは血が滲みつつある。一撃食らえば死ぬ相手だが、防御に回っていても長くはもちそうにない。

 

(魔力は枯渇中、雨のせいで連携も取れない。この状況、どう切り抜ける…?)

 

「貴様は…」

 

「!」

 

「貴様はこの地で黒き雷を使わなかった。何故だ」

 

「…あいつ(ジェイル)の事情を知りたかったのが1つ。誰しも最期は満たされているべきという個人的な信条が1つ」

 

 蒼の騎士からの反応はない。暴風雨の中でも互いの声だけははっきりと認識できるので、聞こえなかったわけではないと思うが…

 攻撃の手が止まっている間に立ち上がり、体勢を立て直すエイジャー。ナイフ1本でどう仕掛けるかを思案し始めたその時─騎士から放たれる威圧感が再び膨れ上がった。

 

「嘘だな」

 

「ぐっ…!?」

 

 繰り出される柄打ちを防御するエイジャー。その威力は先ほどよりもさらに高く、一撃にして掌の感覚を奪い去り、ナイフを持てぬほどの強い麻痺を押し付ける。

 

黒き雷(それ)は破壊を司る原初の力だ。今の(・・)人間が簡単に発現できるものではない」

 

「貴様は奴らを憎んでいる。それとも万能感から来る驕りか。どちらにせよ偽善は身を滅ぼすだけだ」

 

 静かな怒りを孕んだ口調で蹴り、鞘打ち、尻尾での殴打と容赦ない追撃を見舞う。満身創痍の体にそれらを受け切るほどの余裕はなく、攻撃のほとんどを直に食らってしまう。

 全身の傷が開き、赤に染まるエイジャーを見下ろす蒼の騎士。太刀を振り上げ、いよいよトドメを刺そうとしたその時─

 

 どこからともなく現れた刀剣が割って入り、騎士をわずかに退かせる。それはギャングスタ・トキシゲイトとの戦いで共闘し、行方不明になっていた黙醢剣オメルタだった。

 

「ネロ!?」

 

─あんたの力になれと頼まれてね。動きをサポートしてやるから指示よろしく

  

 独りでに動き、会話までする武器に面食らう騎士。集中力を欠いたせいか、2人を囲う雨も少しだけ弱まり始める。

 

「…それをどこで手に入れた」

 

「倒した男に託された。確かに魔族は憎いし立場上殺すしかないけど…通じ合える部分があるなら模索したいと思っている」

 

 身の丈よりも大きなオメルタを軽々と構え、水を迸らせるエイジャー。満身創痍の人間ではあり得ない挙動に彼の言が嘘ではないことを悟ると、騎士は自らの武器を鞘に収めた。

 

「…その甘さが命取りになることを忘れるな。奴の気まぐれで生かされていることも」

 

「奴…魔族の長を知ってるんですか…ッ!?」

 

 騎士の身体を雷が包む。瞼越しでも焼け付くほどの稲光が収まった頃にはその姿はなく、代わりに現れたのは蒼鱗の龍。

 龍は驚愕で固まるエイジャーを睨みつけると─首の珠から電撃を放った!

 

「ぐっ…あぁぁぁ!!!!!」

 

『…!不相応な力に頼りすぎるな。生きて奴に辿り着きたければな』

 

 龍はそれだけ言い残し雷雲の中へ消えてしまう。荒れ狂う暴風雨に打たれながら、限界を迎えたエイジャーは意識を手放した…

 

─────────────────

 

「本当に大丈夫ですか?ダーリン」

 

「平気だよ。ありがとうアリッサ」

 

 蒼の龍騎士による襲撃から2日後…エイジャーはアリッサ、グノスを連れ再び地下街を訪れていた。

 先んじて調査をしていた傭兵たちが人質のいる扉をなんとかこじ開けたものの解放は不可能と判断、妙な力と珍品に詳しい3人に白羽の矢が立った、というわけである。

 

 地下街を管理していた男を捕縛し、G・Tもあるべき場所へと還った。敵対する存在などいないはずのこの空間でエイジャーが感じる圧力は他でもない、隣にいるアリッサからのものだった。

 

「…ほんとーーに大丈夫ですか?」

 

「へ、平気だって。そんなに心配しなくても…」

 

「そ れ で 倒 れ た か ら 言 っ て る ん で す !」

 

「ハッハッハ!エイジャー君は尻に敷かれるタイプだな!」

 

 静かな通路にアリッサの怒号が響き渡る。対等な関係を約束してからというものの、彼女もなかなか容赦がない。こちらへの敬意はそのままに、姉さん女房的成分が追加された形だ。

 

 とはいえエイジャーも空元気で答えたわけではない。龍騎士の電撃は傷口を焼いて塞ぎ、枯渇していた魔力を満たしたのだ。

 物理攻撃も致命傷を避けており、怒りこそあるものの殺意はない⋯意図や素性も不明の存在に、いずれ来る再会の時を予感せずにはいられなかった。

 

「…そろそろ例の部屋だ。君なら彼女らを解放できると信じているよ」

 

 向かう先には扉が開きっぱなしの部屋がひとつ。かなり難航したようで、あちこちに力を加えた跡が刻まれている。

 グノスがかざした灯りに複数の人影が浮かび上がる。数にして10人、仮面をつけたアルフ族が両端の椅子に縛りつけられていた。

 

「そんな…皆さん大丈夫ですか!?」

 

「ウゥ…」

 

「みんな意識はあるそうです。かなり衰弱してますが…」

 

「廊下のランタンにはマゴイライトという、魔力で光る石が使われている。そこから伸びている管が仮面と繋がってるようなんだ」

 

 状況から見て仮面から吸い上げた魔力を管で送っているのは間違いないだろう。アルフ族は魔力の貯蔵量が多く、搾取するにはうってつけだ。

 詳しい経緯や仕組みを考察している暇はない。解決策を見出すべく、エイジャーは装具を調べ始めた。

 

「ダイガロンが管の切断を試みたが失敗している。腕っぷしで解決するものではないらしい」

 

「力ずくが通用しないとなると…従属呪文でしょうか?」

 

「だと思う。仮面も固定具なしについてるし、無理に外してはいけない気がする」

 

 仮面は吸い付くように顔に密着しており、隙間すらない。そこから伸びている管はよくしなり、超硬度の金属というわけでもないようだ。

 従属呪文そのものの無力化─ここまで考えたところで、エイジャーは背負っているものの存在を思い出す。

 

「…ネロ!起きてるか?」

 

─これからは"オメルタ"でいいぜ〜ネロとしての使命は終わったから。何か用?

 

「君の魔力を相殺する水、まだ出せるだろうか」

 

─あ〜…理由は分からないけど力が弱まってるみたいなんだ。前ほど強力なのはたぶん無理

 

 エイジャーも薄々感じていたことだが、ギャングスタ・トキシゲイトに刺さっていた時と今ではオメルタから感じる力は確かに違う。

 龍騎士の電撃を浴びたせいなのか、ジェイルの自壊を止めるという使命を終えたからなのかは不明だが…そう簡単にはいかないようである。

 

「仮面と管に何か…たぶん従属呪文がかってるから、それを無力化したいんだけど…どうしたものか」

 

─ヒトを電源として、プログラムを動かすための動力をケーブルで流してるわけか…案外なんとかなるかもしれないぞ

 

「プログラム…?」

 

─管を流れる魔力から潰すんだよ。元を断てばいぺるぶ?も止まるんじゃないかな

 

「道具を強固にしてる従属呪文はみんなの魔力で動いてる…そうか!」

 

 何かを閃いたエイジャーはナイフの切っ先を仮面と管の間に突き刺した。指輪の石は青白く輝き、力の発現を待っている。

 

「カッチン、君の力を信じるぞ…『フラウズンパーロスト・ブライニクル』!」

 

 冷気を放つカッチンの血統秘術をさらに発展させ、深部への凍結に重きを置いたブライニクル。これならば管の中に流れる魔力を凍らせ、止められるのではないかと考えたのである。

 

 エイジャーの思いつきは功を奏し、内部の魔力が凍りついていく。他者の魔力を変質させるなど前例のない現象ではあるが、"以心電心"で自他の境界に作用する術を知っているからこその奇跡だろう。

 

「これで供給を絶てたはず…グノスさん、外のランタンを!」

 

「…彼女に繋がっている分は消えたようだ!」

 

「オメルタ。いけるか?」

 

─了解だ兄弟。『沈黙の流水(オメルタ・アークア・コレンティ)』…なんてね

 

 相殺の水…改め沈黙の流水を纏いし刀身が管を切断する。ネロの推理通り、供給を断たれたことで物理攻撃が通じるようになったようだ。

 少し遅れて仮面からも嫌な空気は消え去り、手で外せるようになる。ようやく露わになった顔はかなり疲弊しているものの、アルフ族らしい整った顔立ちだった。

 

「遅くなってすみません。どこか苦しいところはありませんか?」

 

「ぅ、少し眩しいですが…悪夢から醒めた気分です。わたくしは平気ですので、みんなを…」

 

「オレは人を呼んでくる、後は任せてもいいかな」

 

「分かりました。アリッサ、無力化した道具の回収と調査を頼む」

 

「は、はい!」

 

 こうして地下街に囚われていたアルフ族たちは、エイジャーと新たな相棒オメルタの力によって解放されるのだった…

 

──────────────

 

「運び出した連中は隠してあるぜ。外部への通信は相変わらず出来ねぇが」

 

「ありがとうございます。騎士団には伝書鳩を飛ばしておきました」

 

「まったく迷惑な話だぜ。定時報告が遅れると姐さんが怖ぇのに」

 

 その日の夕方…エイジャーはゲンゼにあるダイガロンの拠点にいた。地下街に関する事後処理の相談と、なし崩しになっていた協力の件で詰めなければならないからだ。

 

 保護したアルフ族たちはひどく衰弱しており、治療が必要なもののゲンゼで行うには不安が残る。

 そこで一度ホスピナスへ移送し治療、その間に近隣の集落と連携して故郷を探すよう手紙で提案したのである。

 

 エイジャーがG・Tと戦い始めてから今日に至るまで、街の通信器はすべて不調をきたし、外部との連絡が取れなくなっている。

 天候すら操る龍騎士が関係しているものと思われるが…考えてもどうにもならないのが現状だ。

 

 報告書類を一通り書き終えたところで、ウーノがしびれを切らしたように口を開いた。

 

「…にしても、だ。どデカい化け物に意思を持つ武器、人質は幻の種族ときた。まるでガキに読み聞かせるおとぎ話だな」

 

「天候を操るヘビが抜けてるぜ。アレも魔族なのか?」

 

「私も詳しいことは…これまで出会ったどの種族とも違うのは確かですが」

 

「それについて少し気になる事があったんだ。いいかな」

 

 手を挙げたのはグノスである。外部との連絡が取れず宙ぶらりんの彼は、一連の事件を知る者としてダイガロンに保護されている。

 

「地下街を改めて調べたんだが、ランタンの施行跡はかなり古い。壁なんかと同じ時代からあったものだと思う」

 

「つまり…大昔から搾取が行われていたと?」

 

「いや、管の施行跡は新しかった。奴ら、本来の動かし方が分からずになんとか間に合わせたんじゃないかな」

 

「あそこを作った連中の技術力は今よりすごいってこと?間に合わせの管も正体不明だし…」

 

 推測の域は出ないが、と断った上でグノスは頷いた。

 

 オメルタやキシャルシオン、地下街で見つけた道具たち…これらの遺物は謎が多く、解明も進んでいない。

 そしてそれらは王都壊滅後に露見し、行く先々で見つかっている。何らかの意図で接触してきた龍騎士といい、偶然とは思えない。

 

 垣間見た記憶の中に出てきた見知らぬ組織や銃について、エイジャーもネロに尋ねてみたのだが…"喋らない方がいい気がする"として躱されていた。

 

「我々の先祖は高い技術力で魔族に対抗していたのかもしれない。だとすればこれからの戦いは…」

 

「ご先祖サマのお古を拾い集めろ、ってか。いよいよおとぎ話だな」

 

 ウーノは脱力したようにもたれかかる。多くの領土を持つ王都騎士団や、その隙間で商売をする傭兵ですら知らなかった遺物、そう簡単に見つかるものではない。

 

「この先も戦うエイジャー君にとっては死活問題、まずは助けたアルフ族に聞くのもいいかもしれないな」

 

「そうですね、そのためにも早く治療を受けてもらわないと…」

 

「治療で思い出した!坊主、今回の化け物退治はすげえ大変だったよな?」

 

 突然元気になり迫るウーノ。笑顔にやや下衆たものが混じっているせいか、間に入ったアリッサは警戒心を剥き出しにしている。

 

「報酬はこっちにも出てる、タカりゃしねえから安心しろよ。大義名分が欲しいってだけだ」

 

「?それはどういう…」

 

「"英雄 エイジャー・グラムと親睦を深めるため"つって慰労費を引き出すのさ。オレたちゃ羽を伸ばせてお前はタダ酒が飲める、最高だろ?」

 

 つまり遊ぶ口実のために名前を貸せと言いたいらしい。先ほどまで"姐さん"なる人物を恐れていたような気もするが、恐怖に勝るがめつさはさすが傭兵といったところか。

 

 "英雄"などと呼ばれるのは気分が悪いが彼ら無しでは勝てなかったのも事実、それで礼になるなら必要な譲歩だろう。

 エイジャーは渋々承諾すると、隣にいたドゥースが部屋を飛び出し仲間に声をかけに行ってしまった。

 

「2日後の夜"ラビットガーデン"に集合だ!久しぶりに遊ぶぜぇ〜!」

 

「オレもしばらく暇になる。どうせだしご一緒するかな!」

 

「あはは…」

 

 先ほどまでの真面目な空気はどこへやら、浮足立つ男たちを見てアリッサは確信した。

 

 ラビットガーデン─絶対にロクな店ではないと。

 

────────────────

 

「〜で!オレらの連携に化け物は手も足も出ないってワケよ!」

 

「さすがダイガロンの傭兵さん頼りになる〜!強い男の人ってぇ…大好き♡」

 

「うはー!!!」

 

(やっぱりロクでもない店じゃない!!!)

 

 2日後…先の戦いを労い親睦を深めるため、とは名ばかりの羽伸ばしの日。一等地に構えるクラブ"ラビットガーデン"の店内で、一際羽振りのいい団体がいた。

 

 胸元と足を惜しげもなく露出した、黒くタイトなスーツに身を包んだキャストが膝に乗る。適度に締め付けられる事でより強調された女の武器を当てられて、口角が上がりっぱなしのドゥース。

 他の傭兵たちもいかに自分たちが強く、金払いがいいかをアピールし合っている。淫奔極まりない盛り上がりを見せるテーブルの片隅で、エイジャーは借りてきた猫のように縮こまっていた。

 

「聞いたよ〜化け物退治の主役はお兄さんだって。それに外では英雄って呼ばれてるんでしょ?アピールすればモテモテなのに」

 

「勝利は彼らあってのもの、英雄と呼ばれた経緯も組織の尻ぬぐいですから⋯大した事はしてませんよ」

 

「謙虚〜!⋯というかさっきから天井見てるけど大丈夫?気分悪い?」

 

「いやぁ…」

 

「…………」

 

 左には警戒心を剥き出しにしたアリッサがおり、右のキャストはお構いなしに身体を押し付けてくる。正面は往来する尻が次々と入れ替わっており、どこを見ても気まずい状況⋯安全地帯は天井にしか存在しないのだ。

 

「見られるのもお代に入ってるし、そのために鍛えてるんだから遠慮しなくていいのに。ね?」

 

「ダーリンは紳士なの!!!」

 

─シケた面してんなぁ坊主。もっと楽しそうにしやがれ

 

 声をかけてきたのはウーノ。手には見るからに高そうなワイン、頬にはキスマークがばっちり刻まれており、大いに楽しんでいることは一目瞭然だ。

 

「ちょいと代わってくれるか?あっちのグノスって奴、いい酒頼んでるぜ」

 

「しょうがないな〜⋯アタシはカリナ。今度こそメロメロにしちゃうからまた来てね♡」

 

 そう言ってカリナは投げキッスをひとつ飛ばすと奥へと消えていく。ウーノはいくらか居心地の良くなった席に深く腰かけると、ボーイに適当な酒を頼んだ。

 

「でけぇ仕事を終えたんだぜ。いつまで張り詰めてんだ」

 

 魔族を倒して関係者を確保、搾取されていたアルフ族たちも解放し地下街の闇を暴いた。以降あの場所で犠牲者が出ることはなく、ひとまずの解決と言っていいかもしれない。

 

 だがギャングスタ・トキシゲイトに"処理"された遊女は帰ってこないし、首謀者の正体はおろか目的すら不明である。

 此度の事件に関連する、アラクネ大幹部のアジトへ調査に向かったアルジードと連絡が取れず、別行動のルルも何をしているか分からない。とても浮つける状況ではない。

 

 …そんな内心がよほど顔に出ていたのかウーノは大きくため息をつくと、指を1本立てて目の前に持ってきた。

 

「世の中を生き抜く術その1"強引にでも区切りをつけろ"。常に気ぃ張ってる奴はいざって時に全力を出せねぇもんだ」

 

「⋯その2は」

 

「"報酬は実利のあるもので"だ。高潔な大義ほど一度揺らぐと弱い。最後に残るのが癒えない怪我だけなんざ笑い話にもならねえよ」

 

 ウーノの助言は殺生でいかに利益を生み出すかを問われる傭兵の矜持だが、その考え方には大いに理がある。高い成果を安定して出し続けることは、救える人数にも関わってくるからだ。 

 

 "周囲に頼る"をようやく取り戻したものの、自分の消耗については未だ疎かといっていい。異なる立場からの鋭い指摘に、エイジャーは考え込んでしまった。

 

「何を背負おうと自由だが、溜め込んだモンが崩れて面倒被るのは他の誰かだ。それが嫌なら足元くらいは気ぃ遣っとけ」

 

「…そうですよね。強大な魔族を引き受けるなら、なおさら倒れていられない」

 

「偉大なる先達からのアドバイスだ、無下にすんじゃねえぞ?」

 

「先達⋯?まさかあなたは元 国王⋯」

 

 ウーノは問いを遮るように立ち上がると周囲を見渡し─最も衆目を集められるであろうタイミングに合わせて叫んだ。

 

「ラビットちゃんのみんな!ここにいるのは王都騎士団のエイジャー・グラム!外ではちいっと名の通った英雄サマだ!」

 

─なんだなんだ?

 

─あれダイガロンの隊長さんじゃない?

 

「詳しくはまだ言えねぇが⋯ゲンゼを命懸けで救ったってのにシケたツラして縮こまってやがる。ここがどんな街かを知ってるのに、だ」

 

「ウーノさん?一体何を⋯」

 

「腕が鳴るよなぁ極上のラビットちゃんたち⋯費用はオレ持ち、こいつに"男の遊び"を教えてやれ!」

 

 ウーノの扇動を受けたキャストたちの視線が一斉に向けられる。その目に宿るはラビット(草食獣)とは名ばかりの、英雄を狩らんとする捕食者の眼光。

 どれだけ強大な魔族を前にしても戦意を喪わないエイジャーも、無数の欲望を前に怯えるしかなかった。

 

─言われるまで気付かなかったー!もしかして気配を消すってやつ!?

 

─顔の傷すごいね!もっとよく見たいから乗ってもいい?

 

「それは困⋯痛ぁッ!?まだ怪我が癒えてなくて⋯!」

 

─そうだよエイジャーくん疲れてるんだから!ねぇ、あたしが膝枕してあげよっか!

 

─じゃあ私は抱きしめてあげる。この店で1番大きいんだよ⋯?

 

「ちょっ⋯ダーリンから離れなさい!こらぁエロ親父!逃げるな!!!」

 

「ヘヘッ知ーらね。英雄なら自力で切り抜けろ」

 

(あんなのが最前線を張るとは時代も変わるもんだ。その青臭さが擦り切れねぇよう、せいぜい頑張んな)

 

 空虚な大義を背負わされ、いいように使われていた時代を思い出すウーノ。クーデターに乗じて仲間とともに上官を殺し、無法者として流れ続けた日々。

 

 これからは骨を折った分いい思いをさせてやる─自分たちをねじ伏せ引き入れた、創設者にして国王軍の元参謀 ビアンカの言葉は今でも記憶に新しい。

 

(にしてもあの坊主、誰かに似てる気がすんだよなぁ…)

 

─あのっ…まずはお話からしましょう!だから一旦スキンシップを止め…あぁぁ…!

 

「…気のせいか。さぁてと!今夜は遊ぶぜ〜!」

 

 世の中を生き抜く術その1"強引にでも区切りをつけろ"─有言実行したウーノは詮索をやめ、男の楽園へと再び身を投じるのだった。

 

 

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