ちょっと短め。大体最終決戦中盤くらい。
「……ほう!」
最初に動いたのはレインだった。左手を腰の刀。『天征』の鞘へ。右手を静かにその柄へと触れるようにした瞬間。音もなく。しかし、静かに大気を震わせて、『刹那』の時間の後、ウェザエモンの懐に踏み込んで居合の構えをしていた。
それに対して彼もすぐに対応する。しかし、彼の取った行動は迎撃ではない。スペックだけで言えば、その暴力的な性能だけで攻勢に移ることも出来るだろうと推測される彼が、後ろに引いた。
剣戟を選ばず、後ろに退いたのだ。
「【雪風】」
横一文字の一閃。それが、大気を切り裂く。
真剣な目。今まで以上に集中しているのは外から見ても明白であり、そして今まで以上に無表情な。無機質で、冷たい刃のような声で彼女はスキルを使用した。
これまでに一度たりとも使用することのなかったスキル。正確には、"今まで刀特有の戦闘系スキルを使用できなかった"彼女がそれを行使したのだ。
そのスキルの効果は明確に現れる。一閃された空間。そこに、白い冷気のようなものを発生させる、空間の亀裂が生まれている。その亀裂は発生してから2秒ほどで消滅し、何事もなかったかのように元の空間に戻った。だが、サンラクは見ていて理解する。
ウェザエモンは、それを避けたのだ。直撃しないように。
「サンラク!」
「おう!」
だが、思考するのは後だとサンラクは自分に言い聞かせると攻撃に移る。いくらウェザエモンとて、システム的なメタを言えばスキルや行動後の硬直は必ず発生する。それがどれだけ短いものであったとしても、『硬直』というのは、いわばこの世界の摂理でありルール。
ならば、そこを突く。まともには恐らく打ち合えない。であれば、僅かでも自分が有利な状況で攻撃を行う。
ザッ、と。ウェザエモンが後方に下がったと同時にサンラクは追撃に移る。
しかし、相手もまたそれを良しとはしない。
「……【断風】」
「ッ!くそっ!」
第一と第二フェーズではまだモーションを見て判断できるだけのものがあった。だが、今は違う。もうモーションで何処を狙っているのかは判断できない。なぜなら、今のウェザエモンは後方に下がるというアクションをしながら【断風】の発動モーションに入っていた。
つまり、極めて人間に近い動き方。例えるならレインと似たような動き方をしてくるのだ。そうなると、今までのフェーズでの甘さというのは存在し得ない。
問題はまだある。サンラクはNPCのウェザエモンについてのスキルを話として聞いていた。その中にあるのは、【断風】は連射を可能とするものであり、最大5回連続で使用してくるということ。
ならばどうするか。対策はひとつしかない。ありったけのバフとスキル、そして極限まで研ぎ澄ました集中力でそれを捌き切るしかない。恐らく、開幕で自分が叩き斬られたのは、その速度に自分が対応できなかったからだ。
ならば、対応できるようにすればいい。無茶をしてでも捌けばいい。そして忘れてはならない。シャングリラ・フロンティアとは設定や世界観考察が攻略の糸口になる。相手はとんでもなく強敵ではあるが、ベースとしての動き方は人間そのものだ。
1度目の【断風】、限界まで集中させた己と、ペンシルゴンによる一時的なステータスブーストによる補正。それを最大限まで駆使して、僅かに見えた。その太刀筋。刃の軌道はフェーズ1と2で見た覚えがあるもので。
胴体狙いの中段。そう判断して、無理矢理姿勢を低くした。
風切の音が頭上を通過する。しかし、すぐさまウェザエモンが同じ構えをするのが視界に映る。
「サンラク、跳んで!」
レインの叫び声が聞こえる。どういうことかと考える必要はない。きっと彼女は何かを感じ取った。そしてそれを自分に伝えた。ならば、仲間としてそれを疑うことはない。
「こ、のッ!」
咄嗟に跳んだのは正解だった。サンラクが空中へと跳躍した瞬間、 恐らくは首狙いの【断風】が先程まで居た場所を通過する。もし、レインが跳べと言ってくれなければ自分は体勢を立て直していた。つまり、今の直撃を受けていたことになる。
続く3発目と4発目。今度の狙いはレインだ。空中から状況を見ていたサンラクは、瞬きほどの時間に繰り出される2発の【断風】を、バフの重ねがけと限界まで集中した視界の中確認した。
「【月光】、【花車】」
対して、レインはそれを回避することなく。正面から迎撃した。それだけでも異常事態なのだが、サンラクはここで気になることが一つ。
今、レインにスキル硬直が発生していて動けない状態ではなかっただろうか。
だが、そんなことを考えている余裕はない。最後の5発目、その対象は自分だった。
「【スケートフット】!」
空中からの着地を狙われた。なのでサンラクは【スケートフット】により、無理矢理後方へと下がることで回避した。
「……マジで攻撃のチャンスがねぇ。それにこれ、多分もう時間経過系じゃないよな」
「うん、勝利条件は時間経過じゃないと思う。サンラクも気がついてるよね、鎧の崩壊が止まってる」
「ああ。ならつまり、撃破するしかないってことだな。まあ、最初からそのつもりだったけどな」
現時点で、ウェザエモンの鎧の崩壊の進行は完全に停止していた。鎧に罅などは確かに見られるが、それ以上の崩壊が進行していない。
つまり、勝利条件は撃破しかなくなっているのだ。
「正直、まともに戦える気がしない。さっきの【断風】だってレインが叫んでくれたからなんとか捌けたようなもんだ。……くそ、どうしたら」
「――サンラク。私とサンラクは、まだ知り合ってそんなに日が経ってない」
「ん?どうしたんだよいきなり」
「それでも、私を信じれる?」
急に言われた言葉。だが、レインの視線は己を見ており真剣で。
そしてそんな彼女に対しての言葉など、既に決まっていた。
「レインは真面目で、あいつらみたいに外道的なこともしないしカッツォの大事な奴だってのも理解してる。それに……その実力だって疑う余地もない。ああ、信じてるさ。だって俺達は仲間だろ。まだ付き合いは短いかもしれないけど、一緒に馬鹿やって、楽しんで。そうやってきた仲間だ。そいつを信じないなんてことは、あり得ない」
「……ありがとう。じゃあ、サンラク。あなたの命、私に預けてくれる?此処から先は一度の被弾も許されない。一度のミスも、許されない」
「ははっ、大きく出たな。いいね、ワンミスでゲームオーバー。そういうのもゲームの醍醐味だしゲーマーとしての血が騒ぐってもんだ。今以上に集中しろってことだな、面白い。やってやるよ。 ……ああ、持っていけ。何をする気かわからんが、この状況を打破するために必要ならそれぐらいの代償なんて払ってやる」
力強くレインが頷いた。そして、
「じゃあ、行くよ。ここからは極限の戦い」
――理の色。『原初』にありて、『頂点』を超えし獣。
――その想いは過去の情景。されどそれは、未来にて果たされる。
――目覚めよ、天を征する獣よ。
世界を震わせるその言葉。その存在が抱いていた想いが、祈りが世界を書き換える。瞬間、レインとサンラクの体力が『1』に固定される。同時に、サンラクが見たことのないようなバフが幾つも自分に付与される。
そのどれもが目を疑いたくなるようなもので、強力かつ危険性が伴うものだった。
「……そうか。あの獣は。いや、彼女もまた願ったのか。未来を」
ウェザエモンの言葉には、安堵だけがあった。
そして、バフの付与が完了すると同時。
「……ああ。お前は、そこに居るのだな」
――『ルイン』
ウェザエモンが何かを呟いた後、再び三人は対峙する。
「覚悟はいい?サンラク。私の背中は預ける」
「ははっ……これは責任重大だな。ああ、任せろ。そんで、俺の背中も預けるぞ」
かつて、未来を願った獣が居た。
いつの日か、自分とともに在る存在が現れることを願って。その獣は自分を封じた。
ウェザエモンの願いが。刹那の願いが叶ったように、その獣もまた未来で共に在るという願いが叶った。
総てを滅ぼしかねない獣。されど、獣でありながら未来を願った心優しい少女。
天を征する名前のない獣。されど、人により名を与えられし、心優しき獣。
その祝福を受けた二人が、窮極に立ち向かう。
最終フェーズ後半戦が開始される。
雪風、花車、月光と来ればつまり……。
作者は長い事ヒカセンをやっています。メインジョブは忍者と侍。
レインちゃんの容姿とかスキルとか諸々は作者の癖を詰め込みました。何が混ざっているか分かれば君も同士だ。素敵だ……ご友人……。
刀の中に居る、通称獣ちゃんは、要約すると『神代滅ぼしそうになった』『本人はそれを望んでなかった』『その力が時代に適合しなかった』『ウェザエモンや刹那、人が大好きだった』。
時代が変わり、開拓者はマナを制御できるようになって世界も変わりました。刀自体も刹那が最高傑作として作ったのでとんでもなくヤバいけど、その中に居る存在も滅茶苦茶ヤバかった。それらを全部受け入れたレインちゃんでやっと最終決戦のウェザエモンと戦える状態。