今回と次でウェザエモン戦は決着の予定。
「……なるほど。ここまで至るか」
その瞬間を誰もが見ていた。遠方で甲冑形態となった騏麟の相手をするペンシルゴンとオイカッツォも、そして、真正面からウェザエモンの刃を受け止めていたレインも。
赤色のダメージエフェクトが舞う。それは、明確にウェザエモンにダメージを与えたことを証明していた。
ダメージを通したのはサンラクだ。現在のバフに規格外のバフを重ね。リスクを幾つも重ねた状態での二人による連携。それにより、初めて至ったのだ。ウェザエモンへのダメージという境地に。
だが、ダメージを与えるに至るまでのあらゆる要素が重すぎる。現在の二人の体力は『1』、二人揃って極限の集中状態、レインに至ってはオイカッツォが辞めてくれと言うほどの無理をもしている。そこに、バフを重ね、名のない獣の祝を受け、初めてダメージを通せたのだ。
「サンラク」
「今度は俺の番だ、さあ仲良く斬り合いと行こうぜ、ウェザエモン!」
ダメージを通した直後、レインが一度後ろに退き、今度はサンラクがウェザエモンと正面から刃を交える。
通常の状態なら、今のウェザエモン相手に真正面から斬り合うのは不可能だ。せいぜい、レインが防戦一方の状態で受けるくらいしか出来ない。だが、今の二人にはそれを可能するだけのバフと祝福が掛けられている。
名のない獣の祝福による恩恵のひとつによって、サンラクの身体能力は大幅に強化されている。それにより、ウェザエモンの動作一つ一つを感知できるほどにまでなっていた。だからこそ正面から斬り合えるのだ。
そして、ウェザエモン相手にダメージを通せた理由がまだある。
「【雷鐘】」
ウェザエモンのスキル、【雷鐘】。だが、それを使用したのはウェザエモンではない。レインだ。
名のない獣を目覚めさせ、そしてあらゆるリスクを背負って極致に至った彼女は、ある力を手にしていた。ウェザエモンが望んだ未来。即ち、『晴天流』の継承者としての力だ。そして彼女は、発生する雷を自分自身の真上から落とした。
端から見れば正気を疑うだろう。攻撃を自分に対して使用。ましてや、今のレインの体力は1である。しかし、共に戦うサンラクは疑わない。仲間であり、命を預けると決めたのだ。ならばこそ、それは意味のある行動なのだと信じているからだ。
そして事実。彼女の使用した【雷鐘】は攻撃目的のためではなかった。落雷による閃光が晴れると、そこにはバチバチ、と。自身の周囲に雷のエンチャントを纏うようにするレインの姿があった。
そのまま彼女は姿勢を低くし、右手を左腰の刀。【天征】に添えたまま疾駆する。
向かう先は、サンラクと対峙するウェザエモンだ。
「――【雷切】」
電光石火。雷の如く相手の懐に飛び込み、雷を纏った刃にて神速の居合を叩き込む。
通常の相手ならば、反応すらも許されない。だが、相手は最強種にして神代の英雄。ウェザエモンもまた、迎撃してくる。
「……
目を見開いたのはレインだった。だが、彼女はそのまま押し通すように前へと進む。
電光石火の速度と、神速の太刀。それを迎え撃つのは、『刹那』の時間。殆ど同時に発生したと言っても過言ではない、三度の斬撃。
雷霆を纏う神速の一太刀と刹那の時間に生み出された三度の剣戟がぶつかり合う。
レインの攻撃がウェザエモンによって受け止められる。だが、今の彼女は一人ではない。
「貰うぞ、ウェザエモン」
レインの【雷切】は迎撃できても、すぐに行動に移せるほどのものではない。
そしてサンラクがその攻撃のチャンスを逃すはずもない。
武器を兎月【上弦】【下弦】へと持ち替えたサンラクの攻撃が、迎撃の姿勢を取らないウェザエモンに叩き込まれようとした時だ。
「……【分け身】」
視界の中、確かにウェザエモンがブレるのを見た。そしてサンラクはそれを一度見ている。
不味い、そう判断したサンラクの対応は早かった。結果として、それで命を拾うことになる。
加速状態からの無理矢理の【スケートフット】。それにより後方へと撤退しすぐさま武器を構え直した。後退までの僅かな時間の後、サンラクが少し前まで居た場所を見れば、そこには刀を振り抜いたもう一人のウェザエモンの姿があった。
「き、きったねぇ……!いや本当クソ強ボスがそんな技使うのアリかよ!?しかもなんかその分身オーラ纏ってないか!?」
思わず毒を吐くサンラクの意見はもっともだ。しかし、分身したのは一体のみ。第二フェーズのように合計5体まで増えているわけではない。
だが、言葉を話さない分身体はオーラのようなものを纏っており、明らかに異常としか思えないものだった。
「……正解だ、と言っておこう。その分身体は、俺自身。【墓守】としての道を選んだ俺自身を写したものだ」
「な……!ってことは」
そう。今此処に【墓守】としての道を選んだウェザエモン、そして未来への希望を願ったウェザエモン。その二人が顕現しているということになるのだ。
システム的に言うならば、本来『NPCのウェザエモンと遭遇せずに戦う想定だった【墓守】のウェザエモン』と、『NPCのウェザエモンとのイベント進行により出現するようになる、神代の英雄のウェザエモン』。その二体を相手取らなければならないのだ。
「ははっ……いいね、面白い。なら、俺が【墓守】のあんたを。そしてレインが【窮極】のあんたを倒せば勝ち、ってとこか?いいぜ、やってやるよ。レイン!こっちは任せろ!ちゃーんと【墓守】には引導を渡してやる」
「――うん、わかった。そっちは任せるよ、サンラク。私も、ちゃんと勝ってくる」
それぞれが相対すべき相手へと、刃を構えて駆け出した。
◆ ◆ ◆
白と白。長身の甲冑と、白いコートの少女が対峙する。
互いに獲物は同じ刀。一人は正眼に構え、一人は納刀したまま居合の構えを取っている。
ああ、と。ウェザエモンは心の中で呟く。
ここまで強くなってくれた。自分に至るほどに成長し、自分達の時代の価値観では成し得なかったことを成し遂げ。
かつての時代で、世界すら滅ぼしかねない。されどそれを望まなかった『
これほど嬉しいことはない。己の弟子と、そして彼女の仲間達になら未来を託せる。
自分は既に過去の亡霊なのだ。最愛の妻。刹那に対する贖罪と悲しみにより生きる屍となり。捨てきれなかった想いによって亡霊となった。
そのどちらもの己自身の願いと想いは果たされる。
ならばこそ、
「……言葉は不要だ」
「……うん。そうだね」
ならばこそ。未来ある世代達へ最大限の餞によって見送ることこそ、己にとっての最期の役目だ。
「征くよ、師匠。 ――私達の『窮極』で、あなたの『窮極』を打ち破る」
「……ああ。魅せてみろ。お前の。いや、お前達の『窮極』を」
◆ ◆ ◆
向かい合う二人が動くのは同時だった。それぞれが明確な意思を持ち相対する、最終局面。
互いに全力だ。ウェザエモンはNPCの時の本人の性能に加えて、今は【斉天】による強化も入っている。対して、レインもまた背水の陣。ありったけのバフに、極限の集中状態。自身の第六感をフル動員させた上で、世界の理を超越する祝福を受けている。
そこまでしてやっと到れるのだ、彼女は。超えるべき師の境地に。
「……【断風】」
「【断風】」
ウェザエモンの5連続で放たれる最大速度の【断風】。それに対してレインも、居合の構えから同じように5連続の【断風】で迎撃する。
既に極限状態でレインと同じバフが入っているサンラクでなければ動作さえ見えない速度での激突。5度続く刃と刃の剣戟がエリア全体に響き、副次効果で発生する風が吹き荒れ桜を揺らし、花びらが舞う。
「……【雷鐘】」
「【雷鐘】」
続けて空に暗雲が立ち込め、相対する二人それぞれに落雷が降り注ごうとする。
ウェザエモンの放つ、青い雷霆。
レインの放つ、紫電の雷霆。
しかし、発生する雷霆はそれぞれの対象を狙おうとする度に、相手の雷霆に阻まれて相殺される。その間も二人は剣戟を繰り広げる。そして、そんな中レインが動く。
意図的に下がって空へと跳ぶ。その跳んだ先は、二人の落雷が丁度相殺し合ったタイミングの場所であり。
「『天征』、行くよ」
瞬間。呼応するようにして、刀が周囲の何かを吸収する。
空間には、様々なものが残留する。それは発生する経験値。マナであったり、魔法や事象によって発生するそれに関連したものであったり。
レインの持つ刀、『天征』。どうしてそれをウェザエモンが封じていたのかと言えば、危険すぎたからだ。
神代において、その存在はあまりにも危険すぎた。例え、その力を持つ存在がどのような想いを持っていようと、世界を滅ぼしかねない危険を持っていたのだ。
その権能の一部が、『マナや事象の残滓の吸収変換』。そして、『事象の分解と再構築』という力だった。それが、『名のない獣』の力。神代の人類では扱うことが不可能だった力である。
だが、『二号計画』の末裔であるレイン達は違う。プレイヤー、即ち末裔達は想いを形にし、現実にする力を持っている。その力を以て、『天征』の力が行使される。空間に残留する雷霆の残滓。それを刃へとかき集め、吸収し、再構築する。
「
互いの【雷鐘】の打ち合いで、空間には大量の雷属性の残滓が存在していた。それら全てをかき集め、今一度力と成す。バチリ、と。過負荷の反応を起こすような青と紫のオーラを纏ったレインはそのまま、空中から一瞬でウェザエモンの懐へと飛び込んだ。
対して彼もまたそれを迎え撃つ。兜という仮面の下。そこに心底楽しそうに笑みを浮かべ。まるで子どものように楽しそうにしながら。
「………
それは、理を超越する剣戟。
己の最愛である存在の名を冠した、刹那に放たれる斬撃。それは直撃すればあらゆる防御を貫き、続けざまに相手を斬り伏せる刃。先程は三度だった。だが、今回はその上を征く五度の斬撃。その刃が、レインを迎え撃つ。
激突し、迎撃される。しかし、先ほどとは違う。
押されているのは、ウェザエモンだった。
「……ぐっ」
刹那に放たれた、同時に発生したような五度の斬撃。それが、青と紫電が混じった雷霆の太刀により砕かれていく。
そして遂に、全てが砕かれウェザエモンが体勢を僅かに崩した。
体勢を立て直そうとした次の瞬間。ウェザエモンの視界に写ったのは、目前。踏み込んで再度居合の構えを取る弟子の姿だった。
―――ああ、本当に。
笑う。安堵したように、納得したように。
そうしてレインもまた、全力だった。
わかっている。師である彼がとてつもなく強いことを。
だが、そうだとしても。"それが届かないという理由にはならない"。
劣っているならかき集めろ。届かないと言うなら至ればいい。
一人で足りなければ―――"二人で立ち向かえばいい"。
そうすれば、届かないという道理はない。
何故ならば。今此処にいるのは、『窮極』の継承者と『天を征する獣』なのだから。
「『刹那』に季節は流れ『永遠』に続く。されど世界は廻り、万象は『彼岸』へと至る ――【奥義:乱れ雪月花】』
彼が理を超越する太刀を持つように、彼女もまた理を超越する太刀を持つ。
それは、3つの居合術を使用することで発動できる【奥義】。
春には桜が咲き乱れ、花々が生命の息吹を告げる。
秋には空に月があり、夜闇の中にある大地を静かに照らす。
冬には雪があり、世界を白銀へと染め静寂をもたらす。
季節は刹那に巡る。廻り、時は遷ろい、続いていく。
されど万象とは永遠にあらず。盛者必滅、必ず終わりが訪れる。
そうして至るのは彼岸。季節と時は永遠に巡れど、命あるものは始まりていつかは終わる。
居合の太刀と、続けざまの一閃。2つの太刀をほぼ同時に発生させる、理を超える太刀。それは師と同じくあらゆる防御を打ち砕き、あらゆる加護や存在を斬り伏せる。
その刃が、ウェザエモンへと放たれた。
実は、ウェザエモンを最初見た時思ったのは『装甲悪鬼村正』と『ハクメン』でした。
( ◇)<俺を超えて、窮極へと至れズェア!
そんなこと考えたら笑いすぎて1時間位作業が進まなかった。
作者は現在、GGC編の肉付け作業をしています。ウェザエモン編はレインとウェザエモンの話でしたが、GGC編は色々と変化があった慧と玲の話の予定。男見せろよ魚臣慧。
後、ウェザエモン編後の幕間話みたいなもので幾つか用意していたので、ちょっとアンケートを置いてみるのでご意見いただければなと。最終的には全部の話をどこかで挟みます。