ウェザエモン戦、決着。
「が、ふっ……」
明確な致命傷。それが、ウェザエモンへと叩き込まれたレインの太刀による結果だった。
二度の致命傷へと繋がる斬撃。それを受けたウェザエモンは後方へと吹き飛ばされるが、無理矢理空中で姿勢を制御。数メートル離れた位置で体勢を整える。
しかし、変化は明確だった。胴体に直撃させたレインの斬撃は、多量のダメージエフェクトと共に彼の鎧の胴体に巨大な罅を発生させていた。そして、ウェザエモンも立て直したものの、致命傷。それによって、膝をつくことはしなかったが獲物である大太刀を地面に突き刺し、それを支えにするようにして立っていた。
「……はは。ああ、見事。見事だ、レイン」
それは、掛け値なしの称賛。そして、感謝だった。
今の彼女は己の窮極に至った。否、それだけではない。
彼女と、『名のない獣』。二人は己の窮極すら超えた。
ウェザエモンは前を向く。そこには、刀に手を当てながらもこちらを見る己の弟子の姿。
そして。幻かもしれない。幻視かもしれない。彼女の後ろに、寄り添うようにする存在が見えたのだ。
黒い長髪と、紅玉の瞳の少女が。
ふと。ウェザエモンが周囲を見れば、状況は変わっていた。
遠くには、息を切らして今にも倒れそうになっているが、こちらを見守る人の姿。そして、己の愛馬である【騏麟】の姿はどこにもなかった。ああ、あの二人も強者。そして、強者故に愛馬を相手に勝利という形で踏破したのだなと思う。
少し離れた場所には、同じように。こちらは膝をついて、息も限界と言った状態だが、眼の意思だけは強く灯っており。その強い眼は、己を見ていた。そして、己の生み出した【墓守】の姿は、何処にも無かった。
どうやら、長い時間彼女と剣を交えていたようだ。周囲の状況が見えなくなるほどに。それは本来ならばあってはならないのだろう。戦場で状況判断ができないなど、言語道断だ。だが、しかし。
『……はは』、と。小さく笑ってウェザエモンは無理矢理立ち上がる。そして、地面から大太刀を引き抜くと今一度構える。
それほどまでに、楽しかったのだ。嬉しかったのだ。
己と相対する相手。それ以外が見えなくなるほど、本気だった。
そうしなければならないほどの相手だった。
明確な致命傷。それを受けて悟る。決着の刻だろうと。
「……レイン。次の一太刀が最期の一太刀となるだろう」
「うん。師匠の窮極、一度も私が超えられなかった窮極の一太刀」
だけど、と。彼女は続けた。
「私は、約束したよ。師匠を、あなたを超えるって。私の覚悟を示すって」
「……それで善い。 ――征くぞ。我が窮極は世界すらも断ち切り、天をも斬る窮極なり!【晴天大征・神威】!」
轟、という音と共にフィールドが震え、ウェザエモンへと光の粒子が、事象の残滓が集まっていく。世界が塗り替えられる。理が書き換えられる。それは、次の刃が相手には回避できないというもの。
レインは避ける気など一切ない。この窮極を打ち破らなければ、彼を超えることなど不可能だからだ。しかし、彼女は驚いたようにした。それは、彼の今の状態を見たからだ。
「なっ……!師匠、神代の存在であるあなたにとって、それは……!」
そう。『天征』を創り出し、『名のない獣』をその中に封じ、生まれ変わらせたのはウェザエモン・アマツキ、そして天津気刹那である。その存在を知っているからこそ、二人が知らないわけがないのだ。レインが行使した、その権能のことを。
しかし、それは神代の存在にとっては劇毒だ。それも、間違いなく破滅に繋がる毒。マナとは、即ち毒だ。それも、最上級に危険な毒。制御を誤れば取り返しのつかないことになるほどのものなのだ。
神代の存在には生身でそれを制御する術はほぼない。ウェザエモンの使用している【斉天】には外付けで制御できる機構は備わっているが、それでも限界がある。無制限のマナの制御など不可能だ。
だが、それでも。彼は今限界を超えたマナを己へと取り込んだ。『名のない獣』の権能を模倣した、刹那が世界を救うためにと触れてみたが、あまりにも危険すぎると厳重に封じ込められていた鎧の機能を行使して。
その覚悟が。その想いが。レインもまた理解していた。
だから。一度目を伏せて、息を吸う。
「【天衣無縫】」
その覚悟に応えるため。
己の覚悟を示すために。
彼女もまた、切り札を行使した。
互いに相対し、構える。お互いの距離はそれぞれの間合いである。
その状況をサンラク達も息を呑んで見守る。間違いなく、次の一撃が決着となると確信して。
「……レイン、お前という弟子に会えて本当によかった。礼を言う」
「私も、師匠のお陰で強くなれた。 ――大事な気持ちに気が付かせてもらえた。まだ、よくわからないけど」
「……ああ、悩み、考えろ。俺と刹那も最初はそうだった。その想い、大切にせよ」
静かな時間が過ぎる。数秒の静寂の後、互いに同時。それぞれの得物を抜く姿勢に入った。
中央にある桜の花。その花びらが舞い、二人の間にゆっくりと落ちた瞬間。
「……【天晴】!」
ウェザエモンの窮極。理を書き換え、世界をも斬り割く回避不可能の一太刀。
直撃すればいかなる存在であろうと地に伏す、窮極の一太刀。
それに対してレインもまた、迎え撃つ。
自分と、もうひとりの窮極を以て。
「――【天征】ッ!」
与えられたその名は天を征する者。
理を超え、世界を超え、天を征し窮極へと至る。
それは、天を征する刃。窮極の一太刀。
ウェザエモンが踏み込み、レインがそれに対して応えた。
互いにゼロ距離の状態での停止。だが、その結末は既に決まっていた。
「……ああ、見事。よく、俺を ――超え、た」
「――うん。"私達"の勝ちだよ、師匠。初めて勝てた」
ウェザエモンの刃は、あと僅かでレインに届くというところで停止していた。
対して、レインの放った刃、居合の一閃は、ウェザエモンの胴体を一閃していた。
「く……はぁっ……」
そしてその直後。レインが呼吸を乱し、膝をついた。
「レインッ!」
叫んだのはオイカッツォだ。その表情には不安と心配、焦りが浮かんでいた。
極限の集中状態。それが永続的に続くことは有りえない。今は落ち着いているが、サンラクが似たような集中状態で【墓守】を倒した直後、疲労によって暫く動けなくなったように、レインにも負荷が襲いかかる。特に彼女については、自分の限界に加えて第六感まで総動員しての極限集中状態。その身体への負荷は計り知れないものであった。
「だい、じょうぶ……まだ、やれる」
無理に顔を上げる彼女は、そのまま目前のウェザエモンを見据える。だが、その焦点は時折途切れており、無理矢理意識を保っている状態だった。
そして目前にはウェザエモンが居る。【天晴】が停止したとは言え、まだ彼は立っている。今の状態では、レインにこれ以上の継戦は不可能だった。
「……俺の負けだ。先の一閃、それによって勝敗は決した。こちらもまた、限界だ。 レイン、勝者が膝をついていては、格好がつかないだろう。立てるか」
静かに刀を下ろしたウェザエモンは、満身創痍。体中のヒビはいつのまにか進行しており、鎧全体の所々に亀裂が入っている。そして、複数の直撃を受けた胴体は今にも砕け散りそうな、巨大な亀裂が生まれていた。
彼は、そのままレインへと手を差し伸べる。彼女もまたそれに手を伸ばすと、ゆっくりと手を引かれ、再び立ち上がる。
立ち上がったレインに対して、ウェザエモンは見下ろす形で彼女の表情を見る。
そして、よくやったというように静かに頭の上に手を置いた。
「……本当に、見事であった。確かに見せてもらった。お前と、彼女の窮極を」
そうして、頭の上に置いた手を離すとウェザエモンは一度、全員の姿を視界で確認する。己の愛馬を打ち破り、【墓守】となった自分をも倒し、そしてただ未来を望んだ己自身すらも超えてみせた。
ああ、これでは完敗だ。だが、それはとても気持ちがいいもので。安心できるものだった。
「……晴天転じて我が窮極の【天晴】、言葉は移りて祝に転ず。天晴である」
この場にいる全ての人間。『二号計画』の末裔である開拓者達へとウェザエモンは告げる。
そして、静かにレインへと背を向けると、中央の桜の木。墓標の下へと歩みを進めていく。
思わず、レインは手を伸ばしそうになった。『待って』と。
だが、思い留まった。彼は、託して終わることを望んだのだ。なら、自分が引き留めてはならない。
自分は、彼の『窮極』と刹那の想いを継承する者なのだから。
「……我が、身……朽ち果て……眠、る」
ゆっくりとした足取りで、墓標へと進むウェザエモンがそう呟く。
その声は既に限界を感じさせるもので、足取りすら安定していなかった。
「……我が、想いは、継承される。我が窮極、は……次の世代に、受け継がれ、未来へと……進む」
「……刹、那。お前の願いも、未来……へと。託さ、れた」
遂に、墓標の前。満開の桜の木の下へと辿り着いたウェザエモンは、手にしていた大太刀を桜の近くの地へと突き刺すと、そのまま墓前に祈るようにして膝をついた。
「――永い間、待たせてすまない。今、俺もそこへ征く」
限界だった身体で、彼はその言葉だけははっきりと言いきった。
最後にそう言って、彼の身体が崩れていく。頭からまるで灰となるように崩れ、崩れ去った残滓は風と、桜の花に抱かれるようにして空へと消えていった。
未来は託されれた。ウェザエモンよ、安らかに眠れ。
向こうで刹那に怒られ、今度こそどうかずっと一緒に、幸せに。
キリがいいところで切ったのでちょっと短め。多分もう一話くらい月曜中に投稿するかもしれない。
後1~2話くらいでウェザエモン編の話は終わるので、それが終わったら原作に習って玲とか慧、その他諸々の紹介ページでも作ってみようかなと画策中。多分作者の癖とか脳内設定ぶちまけるので、読まなくても問題のない場所に設置する予定。