「くーちゃん、ジンねぇ」
「レインー!身体はもう大丈夫?痛いところとかない?まだどこか痛かったりしたら私が看病するよ?むしろ看病させて! ――あいったぁ!割れるぅ!頭が割れるぅ!ジンさんそれ下手したらプレイヤーキルだよぉ!」
「ちゃんと加減してるから安心なさいな。クゥ、レインちゃん困ってるから自重しなさい。でも、本当に大丈夫なの?倒れたって聞いた時は気が気じゃなかったわ」
サンラク達三人は唖然とした。今、この『JIN』。ジンというプレイヤーはクゥというプレイヤーに対して拳骨をしたのだが、そのモーションが全くもって見えなかったのだ。まるで、拳骨を叩き込まれたという結果だけが残っているような速度。それによってクゥは涙目になっていた。
このなんとも個性的な二人が、レインのライバルであり友人。『ダークネス・アヴェンジャー・オンライン』においてのトップランカーである【魔弾】と【神拳】なのだ。
「うん、もう大丈夫。元気だよ。ありがとう、ジンねぇ」
「わたしもー、私も心配してたよー!倒れたって聞いた時は頭真っ白になってさー……どうにかなりそうだったよー……」
「ごめんね、くーちゃん。心配かけて。ありがとう」
「あっむりすき結婚しよ」
「私もくーちゃんも女性だよ」
「私は一向に構わんッ! ――ごめんなさいジンさん落ち着くので笑顔で拳構えるのはやめてください」
無言で拳を作り見せるようしてみせたそれに対して全力で逃げるようにしてレインの後ろに隠れるとクゥは慌ててそう言った。
ため息を付いたジンは視線をペンシルゴン達に移す。
「騒がしくてごめんなさいね、この前は色々慌ててたから改めて挨拶させてちょうだい。私はジン。そうね、レインちゃんから聞いてるなら【神拳】と名乗ったほうがいいかもしれないわね」
「じゃあ私も改めまして。私はクゥ。ジンさんに習って言うなら、【魔弾】って言えばいいのかな?シャンフロは初心者です!よろしくお願いします!」
どの口が言うか、とサンラク達は思う。それはもう先日のPKKは酷かったのだ。サンラクからの要請でフレンドワープにより現れたサイガ-0も見ていたが、ドン引きしていた。このジンという人物はまだいい。圧倒的な力で叩き潰すというシンプルなものだった。問題はクゥのほうだ。
まるで、何もかもが手のひらの上、相手の動き全てが彼女に操作されているかのように錯覚する戦場とでも言うのか。とにかく戦い方がえげつなさすぎた。ドン引きの原因の大半は彼女にあると言っても過言ではないほどの、容赦のない戦い方だった。ペンシルゴンの弟、オルスロットの心を完全にへし折ったのは何を隠そう彼女なのだ。
這いつくばって震えながら逃げようとするオルスロットに
『あははっ!心を折る、くらいじゃだめだよねぇ……それじゃ、くっついて元通りだもんねー。じゃ、粉々にしちゃおっか!そしたら元通りにはならないよね!』
『それじゃあまず、トラウマからはじめよっか!』
『ほら頑張れ男の子ー。がーんばれ、がーんばれ!』
などと満面の笑顔で、それこそ状況を知らない人間が見れば天使の笑みとも言えるそれでそんなことを言っていたのだ。挙句の果て、本人曰くレインから阿修羅会の下っ端が何をしたのかを聞かされていてブチギレしていた。彼女もまた、動物好き。家では猫を三匹に大型犬を飼うほどの動物好きである。
具体的に何をこのクゥがしたかといえば、延々とオルスロットを嬲り、倒れそうになれば強制的に回復させまた嬲り、本人が自害しようとすれば部位欠損させてそれを封じた。何を言おうが喚こうが一切容赦なく、レインが心配ですぐにログアウトしたオイカッツォは知らないが、サンラクとペンシルゴン。そしてサイガ-0は、20分近く嬲られるオルスロットを見ていた。
「さて、えーっと……クランについての話、だったわね。ちなみに、どこまで話は進んでいるの?」
「クラン名とリーダーは決まった所だよ、ジンさん」
「あらそうなの。……ところでカッツォちゃん。例のあれ、もうすぐだけど調整はいいの?なんなら、私も手伝うけど。練習相手位にはなってあげられると思うわ」
「……!それは、ぜひ頼みたいね。ジンさん」
好戦的な笑みでそんなことを言うオイカッツォ。何のことだ、と首を傾げるサンラクとペンシルゴンだが、そんな二人に対して、ジンは『ああ、ごめんなさいね』と言って。
「さて、それじゃあ。ペンシルゴンちゃん、今回の話についてなのだけど」
「あーっとその前に、ひとつだけ、どうしても確認したいことが」
「……?私に?」
「ええと、そう。じゃなくて、はい」
何やらペンシルゴンの様子がおかしい。しかも今までに見たことのないような焦り方だなとサンラクは思う。
「とても変なことを聞きますが……その、どこかでお会いしたこと、とかありません?」
「あらやだ、随分と古風な口説き手口ね。そうね、初対面だと思うわよ? 私、レインちゃんがシャンフロ始めるまでずっとダクアヴェやっていたし」
「あ、あははー……、そう、ですよね。ごめんなさい、その……リアルで似た人を知っていたので」
「あら、そんな偶然があるのね。ほら、そんな固くならないでいいから、クランリーダーなんでしょ?シャキッとしなさいな」
苦笑いしながら『じゃあ、改めて』とペンシルゴンが続ける。
なお、ここで心当たりがついたのはオイカッツォだけである。今いるメンバーの中で、ペンシルゴンのリアル。そしてジンのリアル両方を知るのはオイカッツォのみである。そんな彼は、少し考えるようにして『あっ……まさか』と予想をつける。
恐らくだが当たっている可能性があった。もしそうなら、ペンシルゴン。リアルでの『天音永遠』としては、間違いなく頭が上がらないのだろうなと推測し、そっとその推測を胸にしまった。
「レインちゃんから話は聞いてるわ。私達のクラン、『旅狼』の目的はユニークモンスターを追うこと。そして、この世界……シャングリラ・フロンティアの真実を探すこと。そのために世界を旅をしていくのが方針。こんなクランだけど、是非二人にも仲間になってもらえると嬉しいんだけど、どうかな?」
「おーいいね!こういうのだよ、こういうの!ずーっと対人に明け暮れてたから、冒険とかいろんなことしてみたかったんだよねー!それに、いいじゃん。ユニークモンスター。聞いてるし調べたよ、すごーく強いんだってね。いいね、そういうのと戦えるのはゾクゾクするよ」
「そうねぇ、私もクゥと同意見ね。冒険に未知の体験って、すごくワクワクするわ。 ……そのユニークモンスターや、もしかしたら居るかもしれないそれ以上の相手に、私の拳がどこまで通用するかとっても楽しみだわ」
「ちょいちょいジンさん、こういうゲームは協力プレイも醍醐味だよー。その強い奴らにみんなで挑んでボッコボコにしてやろうよ!」
「あら、いいわね。理不尽なレイドボスをみんなでボコボコにする。それも楽しそうねぇ」
サンラクとペンシルゴンは同時にレインを見た。すると、キョトンと首を傾げているが、思う。こいつら、レインと同類だと。性格はそれぞれ異なっているが思考の方向性が完全に似ているのだ。冒険を楽しみたいのはわかる、協力プレイはMMORPGの醍醐味だからそれもわかる。だが、ユニークモンスターと聞いて『とりあえずボコる』という発想が真っ先に出てくるあたり完全に脳筋だ。
「と、いうことで!お世話になりまーす!」
「すごく面白そうなクランね。是非仲間に入れて欲しいわ」
ペンシルゴンは思う。なんだかとんでもないことになってしまったと。サンラク、オイカッツォというだけでも間違いなくトップランカークラスのプレイヤースキルと才能の持ち主二人だ。そこに、レインという直感型の天才。そして、今そのレインと同等かそれ以上の二人が仲間になってくれた。
正直、とんでもない戦力だと思う。間違いなくユニークモンスター相手でも戦えるほどの戦力だろう。そんな人物達のトップが、成り行きとはいえ自分なのだ。責任感はあるつもりなので、真面目にしっかりとクランリーダーとしての職務を遂行するつもりだが、胃薬だけは用意しておいたほうがいいだろうかと考える。
「カッツォくん」
「ん、どしたよ」
「もし私が激務で限界が来たら、1日レインちゃんを貸して。そうすればまた立ち上がれるわ、私」
「えぇ……どうした急に」
「管理職の辛さが分かった。今度から業界のそういった人達にはもっと優しくしようと思う……」
突然こっそりと言葉をかけられ、そんなことを言われ。どう言葉をかけていいかわからなかったため、オイカッツォがレインにとりあえず話を持っていき『ペンシルゴンが激務の時、手伝って欲しいだってさ』『ん、いいよ。私が手伝えることならいくらでもやるよ』と話している。それを聞いたペンシルゴンは思う。『うちの忠犬系後輩が天使すぎる』と。
ともかくとして。無事にクランが結成されたのだ。ペンシルゴンは今後、色々な意味で胃を痛めることになるのだが別の話。クラン『旅狼』。シャングリラ・フロンティアの中で、様々な意味で有名となるクランがこうして誕生した。
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「同盟を結ばないかって話よ、要するに」
「ちょっと待って一旦整理させて」
そしてペンシルゴンに早速の仕事がやってきたのは翌日のことである。やはりと言うべきか、サンラクやオイカッツォは町中で他のプレイヤーから接触を図られそうになったらしい。サンラクは無事逃げ切り、そしてオイカッツォとレインは知人の所で匿ってもらったのだという。
その知人というのが、今ペンシルゴンの目の前に座っているプレイヤー。『Animalia』である。
レインから、クラン『SF-Zoo』と繋がりがあり、園長。Animaliaと仲が良いということは聞いていた。とてつもない後ろ盾だと思ったものだ。
「S」hangri-la 「F」rontier 「Zoo」。通称、動物園。そしてAnimaliaはクランリーダーであることから園長と呼ばれる。活動方針は、動物好きが集まり動物を愛で、時には動物型モンスターの観察や撮影を行う。もっと細かく言えば、生体の研究や考察。友好的なモンスターの保護活動や、生息地域の保護活動を行っているクランである。
その性質は、新規プレイヤーや中堅層からはトップクランやガチクランではないと思われることが多いが、大間違いである。
シャングリラ・フロンティアのモンスターは全てが友好的というわけではない。当然、アクティブモンスターも存在している。動物型のアクティブモンスターについての研究や考察など、活動方針に沿ったことをするにはレベルと装備。そしてプレイヤースキルが必須なのだ。
加えて、動物についての知識も必要となる。そういった理由から、所属メンバーの大半はトップクランに引けを取らないほどのレベルと装備。そして、プレイヤースキルに加えて動物の知識や専門知識を有している。もっとも、バトルスタイルはデバッファーやタンク、バッファーが殆どのクランである。
Animaliaはデバッファーの中でもトップレベルと言っていい存在であり、モンスターの弱体、拘束においてはトップランカーでさえ敵わないというほどなのだ。それこそ、レインと出会った時のようにモンスターを人質に取られたりして手を出せない状況にならない限り、彼女を止めることは極めて難しい。
「前にプレイヤーキルされかかったのは、まあいいわ。あの時はそっちを道連れにできたし。それにレインから聞いたけど、もうプレイヤーキラーじゃないんでしょ? ……大事な友達から、『もうPKじゃないから話を聞いて欲しい』なんて言われたら、断れないし」
「あーちゃん、あーちゃん。ペンシルゴンはいい元プレイヤーキラーだよ。 ……もう辞めたからいい人、かな」
「まあ、『
「あー……それ言われると思うこと色々あるんだよねぇ最近。なんかどうにも、とんでもない仲間が多くて……うん……」
この忠犬系後輩や個性的な挨拶をする彼女の友人。そして、やたらとリアルの頭が上がらない人物を思わせる、オネエ口調の人物がそうである。
「――ごめん、もう一度聞きたいんだけど。何だって?」
「だから。私達『SF-Zoo』と、そっちの『旅狼』で同盟を組もうって話よ。 ――ま、ちょっと特殊な同盟だけど」
やはり聞き間違いではなかった。ああ、念の為にリアルで胃薬を用意しておいてよかったとペンシルゴンは思った。
外道指数とヤバイ奴指数がやたらと高いのが空ちゃん。ナチュラルに外道なこととか普通にやってくる。身内に対しては自分の癖を全開にしてるのでよく尊みが溢れている。
空のコンセプトは『制圧と支配』。バトルスタイルの要約だけすると、擬似的なヤンマーニタイムに似たことをしながらガン=カタをやる。狙撃武器でも似たようなことやって致命部位に必中させにくる。なおこの時点でシャンフロ内部で銃は見つけてません。なので、改造したボウガンとか弓で似たようなことをやってくる。
策を弄しようが正面から行こうがそんなものは関係なしに相手の策略も戦術も、何もかもを真正面から叩き潰しに来るタイプがジン。本人のやることはシンプルで、真正面から相手の攻撃に立ち向かい最速で、最短で、まっすぐに、一直線に相手へと全力の拳を叩き込んで来る。しかもこの人、近接戦が無法の強さな上に戦い方が投げキャラであり掴みキャラ。台パン間違い無しのクソキャラみたいなこともしてくる。どうしようもない。
後、今回でインベントリアを更新しました。慧と玲の枠とは別で1つ作成してそこに二人以外のものは随時更新していく予定。
幕間についてもご意見をたくさんいただき、ありがとうございました。犬好きvsリリカオーンと魚臣慧は屈しないが強かった。のうきん!も中々。とりあえず、魚臣慧は屈しないを幕間に挟んで他はGGC編の後に挟む予定にしています。
クソゲーレビューというか、もしレインがクソゲーをサンラク達と一緒にやったらどうなるかという一例としては、例えばユナイト・ラウンズならペンシルゴンが善王にならざる得ないことになってユナイト・ラウンズの治安が改善される。だいたいレインからの信頼に耐えられなかったペンシルゴンが折れた。忠犬系後輩に『ペンシルゴン、いっしょにがんばろう』と無邪気に言われたらもうやるしかなくなった。