―――その日、極致の背を追う少女は運命に出会う
――『おい、あのプレイヤーじゃないか』
――『あれがウェザエモンを倒した、声掛けてこいよ』
――『辞めとけって。隣に居るのAnimaliaだぞ。例の話、知ってるだろ』
第八の街、『エイドルト』。その町中を歩く一行が存在する。レインとAnimaliaである。
町中を歩いて時折聞こえてくるのは、自分への噂話や好奇の視線。あまり気持ちいいものではないと思っているので、それを完全にレインは無視している。それに、今は心強い友人も居る。
ちらり、と隣を見れば威嚇するようにして周囲に目を光らせている友人が居る。
『旅狼』と『SF-Zoo』の同盟。その情報は瞬く間にシャンフロ内に広まった。というのも、意図的に情報を流したからだ。ペンシルゴンの伝手によってその情報は情報屋に拡散され、一気に広まったのだ。その結果として、『黒狼』を始めとするトップクランが先を越されたと歯噛みするのだが、そこにAnimaliaから追撃が入る。
『覚えておいて。『旅狼』と事を構えるってことは、ウチとも事を構えるってことだから。……その意味、わかるよね』
情報を得ようと接触してきた『黒狼』のメンバーに対して、丁度居合わせた彼女が言った言葉がこれだ。その言葉によってその接触してきたプレイヤーは顔を真っ青にして下がっていった。
『SF-Zoo』は戦闘や攻略を目的としたクランではない。だが、その戦力は計り知れない。つまり、もし事を構えたら最後。今後、何かしらの理由でクランに力を借りようとしても絶対にできなくなる。『SF-Zoo』のタンクやバッファー、デバッファーはシャンフロ内部でもトップレベルだ。その協力が得られなくなるというのは致命的である。そして、Animalia本人との関係を悪化させるのはもっと最悪だ。
彼女は相手の無力化という点においてはたった一人で、『黒狼』一軍を遥かに上回る力を持っている。それが何を意味するかと言えば、もし『黒狼』がユニークモンスターと事を構えた時、援軍が必要の場合彼女の助力は得られくなる。それだけは『黒狼』としては絶対に避けなければならなかった。
他のトップクランも同様だ。ガチクランではないが、トップランカークランでもある彼女達との関係悪化。それがどれだけ不味いことか理解していた。その結果として、『旅狼』メンバーにちょっかいをかけようとするプレイヤーは極めて少なくなった。
「本当色々ありがとうね、あーちゃん」
「気にしないで。私達だって、護衛みたいな形でレインや『旅狼』の人達には助けてもらってることあるんだし。いやー、本当大助かり!うちってアタッカーが殆ど居ないから、戦闘面では壊滅的なの。でもこうやって同行してくれるお陰で、今までなんともならなかったことも解決して調査とか色々一気に進んだよ。感謝するのはこっち。PKにもあまり絡まれなくなったしね」
レイン達としては、とても大きな後ろ盾なのだが、Animalia達にとってもメリットがある。それが、アタッカー不足の解消。そして、PK対策である。
実は、レインはPKKとしては既に有名になっていた。同盟後、『SF-Zoo』が情報を独占していると言い張ってPKを仕掛けてくるプレイヤーや、『SF-Zoo』は戦闘向きクランではないから今話題のクランをPKしてしまおうなどと、理由は様々ではあるが多方面から戦闘を仕掛けられたことがある。そして、特にそれが多かった日。同盟の翌日あたりで、『SF-Zoo』の活動に同行していたレインがその全員を容赦なく鏖殺した。
現在のレインはウェザエモンの後を継ぐ継承者としての力もさながら、本人のプレイヤースキルもウェザエモンとの戦いを通して飛躍的に上がっていた。例えるなら、擬似的なウェザエモン状態である。そんな相手に対してPKが喧嘩を売ればどうなるか。
もれなく全員胴体が真っ二つか、首が飛ぶ。
返り討ちにした結果、キルした相手やそれを見ていたプレイヤーから掲示板に情報が拡散。ウェザエモンを撃破した一人が『SF-Zoo』と一緒にいるという情報が拡散し、我こそはとレインをPKして名を上げようとするプレイヤーがお祭り騒ぎで続出したのだが、
結果。生まれたのは騒ぎに便乗した大量のPKの屍で築かれた山だった。
誰一人攻撃すら当てることはできなかった。それどころか、レインは一度もスキルを使用せず純粋なプレイヤースキルの刀捌きだけで全員の首を叩き落とした。結果、他の掲示板にも情報が拡散し『シャンフロの島津』や『白刀姫』などと呼ばれていた。
なお、PKの中には変わった者達も居たようで。『レインちゃんとAnimaliaちゃんの間に挟まれ隊』や『ゴミを見るかのような目で斬られ隊』というような集団も存在した。前者については容赦なくレインは斬った。後者は出会うと同時ドン引きするようなことを言われたので、とても嫌な顔をしながら斬った。なお、後者はPKKされる瞬間とても幸せそうにして散っていったという。あまりにも気持ちが悪い集団だったので、今後同じような集団が出た場合は行動不可能にしてモンスターの餌にしようとAnimaliaは決めた。クランにもそう周知した。
「いやー、良かったねぇ……モルサビ。あんなモルモットみたいな見た目してて、すごい俊敏に動いたり飛んだりするのもう最高……はぁ……」
「すごくかわいかった。最初すごく警戒されて、モルモットの見た目で走り回ったり木を登るようにして走ったかと思えば飛んだり。警戒解いてくれて触った時はもふもふしてて気持ちよかった」
「うんうん。実はモルサビもちょっとアクティブモンスター多めの森林地帯に生息してるから今まであんまり行けなくてね。レインが居てくれたから今回は行けたんだ。非アクティブの中では絶滅危惧種で、日に日に数は減ってるって報告はあったから焦ってたんだけど……今回保護できて良かったよ」
今回、レインが同行している理由は護衛とあるモンスターの観察と保護を行うためだ。『SF-Zoo』では、動物の観察だけではなく生態調査からの絶滅危惧種についての保護活動も行っていた。最近、クランの拠点をとても莫大な広さを誇る、設備や施設が揃った私有地に移したたため、そこで研究や保護活動を行っているのだという。
保護された動物は事前に調査観察され、問題がなければクラン施設の中で元々の生息環境に似た区画に放される。テイムモンスターについて制約があるのではないのか?という疑念もあったが、あるクランメンバーが運営に問い合わせた所
『テイムはシステムの話ですよね。世界観を重要視しているシャンフロで、まさか動物やモンスターに関わることが杜撰になっているなんてこと、ないですよね?』
『現実と同じような生態環境や本当に生きているかのような再現を……? できらぁ!開発の底力見せたろうやないかい!』
そんなやり取りが昔あったそうだ。
「確か現時点でのテイムは犬と猫だけだけど、保護してる動物はテイム扱いではなくても触れ合えるんだよね」
「うん、できるよ。システム的にはテイムはプレイヤーと対象の契約みたいなものだけど、保護モンスターはあくまで生きている状態で懐いてくれたりしているだけだから、テイムではないね。 ……実は昔、うちのリアル獣医の人が運営を徹底的に問い詰めたら運営が折れた」
「流石に運営も専門職の人には勝てなかったんだね」
歩きながら今日の活動についての話をする。次はどんな動物を予定しているのか、などとそんな話をしていると。
突然。フレンドからのメッセージが届いた。
「……ん?」
「どうしたの、レイン」
「ペンシルゴンから連絡。なんか慌ててるみたい。 えっと」
『レインちゃんごめん、やらかした。本当にごめん!話の流れでつい、レインちゃんのこと話しちゃって。ちょっと面倒なのに絡まれるかも……!ごめん、今度埋め合わせと謝罪はする!』
随分と慌てていたのか、そんなメッセージが来ていた。何があったのか、と返信しようとした時だ。
「見つけた……!見つけたよ、ウェザエモンを打倒した刀使い……白刀姫!」
人通りが少なくなってきた通りで、突然そんな言葉を投げられた。
二人が振り返ると、そこには一人のプレイヤーが居た。
長い黒髪に、着物のような服装。白い首巻き。そして、獲物と思われる刀。
名前は、『京極』。知らない名前だな、と思っていると。
「元『阿修羅会』所属のPK、京極!? ……一体何の用よ。まさか、あなたもレインにちょっかい出しに来たの?」
「これはこれは、『SF-Zoo』のクランリーダーの園長さんじゃないかい。ご明察だよ、色々と気になる話を聞いてね。いてもたってもいられなくなって、飛んできてしまった」
「また面倒な奴に……! レイン? あっ、これ不味いかも」
レインが一度目を伏せて京極を見た。だがのその目はとても冷たく、まるで刃物のようで。一切の慈悲すら感じさせないものだった。
「あーちゃん」
「あー……不味い。ペンシルゴンさんに連絡だけしないと……。 えっと。予想はついてるけど、何?」
「マークでも確認してるけど、一応聞きたい。あの人は、PK?」
「うん、この前壊滅した『阿修羅会』に昔所属していたPKで、今はフリーで活動してるって聞いたことがある。ちょっと変わったPKでね、PKする対象に必ず宣戦布告をしてから戦いを挑むってやり方が有名だった」
「そっか。正々堂々とした人なんだね ――でも、PKだよね?」
とても不味い、とAnimaliaは思ったがもうどうしようもない。レインは弱者をいたぶる傾向にあるシャンフロのPKが嫌いだ。それも、極度に嫌っていると言っていい。彼女はペンシルゴンから聞いたことがあるのだが、以前自分が人質を取られてPKされそうになっていた時には相当怒っていたようで、曰くそれが原因の一つで間接的にではあるが『阿修羅会』に地獄以上の何かを作り出したのだという。
「PKは私の敵、生かしてはおけない」
「ん?え、ええと……?」
何やら雰囲気がおかしい。それを感じ取った京極もまた何やらとても嫌な予感がしていた。
「――街中だと不味いよね? 外に出ようか。 そして、その首を置いていって」
大慌てで関係各所にメッセージを打つAnimalia。本当にまずいことになった、これはただのPKとの戦いではない。明らかに大事になる。
自分だってPKは嫌いである。しかし今回ばかりは、京極に同情した。とにかくすぐに誰かに来てもらわないと、街の外へと移動しながらそう思いつつこの事態を収めてくれる誰かが来てくれることを祈った。
で も P K だ よ ね (要約:首を置いていけ)
『レインちゃんとAnimaliaちゃんの間に挟まれ隊』の構成員は全員が『見守り隊』の連中に処された。慈悲はない。
なお、レインに襲いかかったPK連中の一部は幸せそうに斬られた後、PKを辞めて隠密ビルドや忍者系統ジョブになってこっそり見守る御庭番衆みたいな集団になった。必殺仕事人みたいなこともやるわりと強い元PK集団。後々ペンシルゴンにも都合よく使われるけど色んな意味で驚かれる。
モルサビはシャンフロ内部の独自モンスター。モルモットみたいな見た目してムササビみたいに隠した羽で俊敏に森を飛んだりはねたりする小動物。絶滅危惧種。今回SF-Zooに保護された。
今日中にもう一話行けたら良いなとかお考えてるけどちょっといけるかが不明。