「悪いな、レイン。ちょっと内密な話でさ」
「いいよ、どうしたの?」
ある日。GGC当日が近くなってきたある日にゲーム内でレインはサンラクに呼び出された。どうにも、ユニーク絡みで内密な話があるということらしい。
シャングリラ・フロンティアにおいてユニークに関わる情報は特別高い価値を持つ。現在トップクランが血眼になって『旅狼』と接触を図ろうとしているのがいい例だ。オンラインゲームとは、ガチ勢からすればリソースの奪い合いでもある。その中でも特別貴重なリソースとなれば、トッププレイヤーの多くは躍起になる。
それはサンラク達も例外ではない。確かに、サンラクペンシルゴンやオイカッツォとは付き合いが長い。だが、それだけ貴重なリソースをタダで渡す訳もなく、できるだけ秘匿したいのが実情だ。そんな中、サンラクがユニーク関係の話を持っていったのはレインだった。
「と、その前に。あー、リアルのほうの話なんだけどさ。カッツォのやつ、やっぱり忙しいのか?最近、ログインまったくしてないしさ。やっぱりGGC関係か?」
「うん、忙しくしてるね。でも、元気だよ。……ちょっと切羽詰まった感じはあるけど」
「やっぱりか。まあ、GGCってデカいイベントだからなー……」
「正直に言うと、ちょっと心配はしてる。最近、ちょっと無理してるし」
「……あの馬鹿。何を焦ってるんだ、あいつらしくもない」
サンラクからしても、オイカッツォ、魚臣慧という人間は勝負事で焦ったりするような人間ではない。データを集め、突き詰めて、相手を崩す。プロゲーマーとしての調整を怠るような人間にも思えない。なのに、焦っている。らしくない、と思ったのだ。
「本番は近いんだし、無理しないで欲しいもんだな ……それじゃ、本題なんだが。実は、俺が出会ってるユニーク絡みのNPCがレインに会いたがっててな」
「私に?えっと、なんで?」
「そこなんだが、俺にもよくわからん。ただ言えるのは……ペンシルゴンにウェザエモンが不死属性を持つというヒントを与えたのは、そのNPCの発言によるものからなんだ。恐らくだが、ウェザエモンの知り合いである可能性が高い」
「それは……。確かに重要そうな存在だね。でも、なんでそのNPCが私のことを知ったの?」
「――本当に申し訳ございませんでした」
「えっ?」
突然、サンラクが土下座した。それも、極めて美しいジャンピング土下座である。
その場でスキルにより一度空中に飛ぶと、そのまま空中でくるりとひと回転。着地と同時に両の手を地につけ、頭をも地につける。採点するならば10点中10点の、極めて美しく競技点数の高い土下座だ。
思わず『おお……』と言葉を漏らしてしまうレインだが、すぐに慌てる。何せ、仲間から突然土下座をされたのだ。それは困惑するだろう。
「えっと、サンラク?と、とりあえず頭を上げて?」
「……すまん。レイン。原因は俺にあるんだ。ウェザエモンとの約束に従って、俺はそのNPCに報告をしたんだ。その時に、ついお前のことを話しちまったんだ。そしたら、随分と興味を持たれてしまったようでさ。色々聞かれるものだから、情報が得られるかもしれないと思ってお前のことを話した。本当にすまなかった」
「いいよ、それぐらい。……なるほど。つまりそのNPCが私のことを知って、会いたいという話が出た。その結果として、ユニークシナリオ絡みの話を渡しに持ってくることになったと」
「まあ、そんなところだ。別にそのNPCはレインを害そうだとかそんな気はないらしい。むしろ、力になりたいと言ってた」
「なるほど」
レインは思案する。サンラクの話には乗るべきだろう。上手く行けば、セツナの言っていたバハムートや他のことについての情報は得られる可能性が高い。他のメリットも考慮しても、受けるべきだろう。
ただ、問題があるとすればクロだ。
「やあやあサンラク。すごいねさっきの……ドゲザ?ってやつ。思わず魅入っちゃった。 それでなんだけど。その話、私にも詳しく聞かせてくれないかな?」
「おわっ!?び、びっくりした……。お前、本当いつも突然現れるな、クロ」
やはり、何か知っている。レインは思った。
クロの正体、そして神代時代におけるその強大さを考えればなにか知っていもおかしくない。よくふらり、と非戦闘時でも出てくるクロではあるが、今回ばかりは少し雰囲気が違う。
どこか、殺気立っている。飄々とした態度に笑顔。だが、その内側にあるのは――別のなにか。
「クロ、だめだよ」
「いやいやまだ何もしてないし言ってないよ!? ――まあ、その予感は大体当たり。サンラク、聞きたいんだけどいい?」
「ん、おう。なんだ?」
「そのシロを呼んでる相手ってさ、この前のエムルって子の関係者?」
「……ああ、そうだ」
「そ。なら、多分あいつかなあ。サンラクが認識片持ってたし、なんかそんな予感してたんだよね。 ……ってことは、多分他にも居るか」
最後の言葉はサンラクには聞き取れなかった。だが、その言葉に含まれるものが少なくとも友好的なものではない、ということは理解できた。
そして、クロがクスリ、と笑った。その笑みはとても冷たく、まるで『許さない』と言っているかのようだった。
「大丈夫だよシロ。少なくとも私は、第一にシロの味方。そして第二に開拓者の味方だよ? いきなり会ってドンパチなんてしないって。それに、今の私はただの旅人でシロの同伴者。『名のない獣』ではないよ。 ……それに、あいつはシロを害さない、って約束したんでしょ?なら、あっちがその約束を守る限りこっちも敵対はしない。あいつが約束を違えるとも思えないしね」
恐らく、クロにとってはよく知る相手なのだろう。そう考えていると、サンラクもまた少し考えるようにした後。
「どうする?断るか?向こうからは提案してきてるだけだし、最悪断ってもいいと思うが」
「ううん、受けるよ。クロ、思うことはあるかもしれないけど暴れたら駄目だよ」
「それはわかってるよ、シロ」
わかった、とサンラクは言うと時間を改めて連れていきたいと告げる。
そして、レインもまたそれを了承した。
かつて世界を滅ぼしかけた、黒い星渡の鳥と、灰色兎の邂逅は近い。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……やっぱり。ああ、やっぱりあいつかあ。ま、運がいいと言うかなんというか。まだ話が分かる奴で良かったかな」
「クロ?」
「んー、なんでもないよ、ただの独り言」
数時間後。レインとサンラクは殆どのプレイヤーが入ったことがない場所。ラビッツにある『兎御殿』を歩いていた。そして、二人と一緒に居るのがクロ、そして案内役のエムルだ。
エムルに案内され、ラビッツへと訪れたレインは驚いた。見渡す限りのヴォーパルバニー。まさに兎の国という言葉が似合うその光景に目を奪われた。友人であるAnimaliaからラビッツの存在については聞いたことはあった。そして、色々と彼女がやらかしてしまったことを。
彼女は友人である。しかし、どうにも動物のことになると熱くなることがある。最近は自分や京極が同行することが多いのでストッパーになることが多いのだが、以前はかなり暴走していたと『SF-Zoo』のメンバーから聞いたことがある。
ラビッツは比較的有名なエリアだ。初心者にとっておいしいクエストも多く、情報も多い。そんなラビッツに足を踏み入れたAnimaliaは、なんと動物好きが転じて居座ろうとしたのだ。それも、クエストを完全に無視してだ。その結果、ラビッツから国外追放されて二度と入国できなくなったとか。
「少々お待ちくださいですわ」
歩いて兎御殿を進むと、大きな襖の前に到着した。どうやら目的地はここのようで、エムルが待って欲しいと告げる。
暫くの時間の後、どうやら準備ができたようで奥へと通される。
そこに居たのは
「……っ」
思わず、身体に力が入る。
そこに存在したのは、絶対的な力。だが、その力を言い表すことができない何か。
隻眼の片目に、極道を思わせる風貌にキセル。
もしも師であるウェザエモンと出会っていなければ、間違いなく気圧されていただろう。それほどの得体の知れなさ。それが、そのNPCからは感じ取れた。
そして。レインがその人物。ヴァイスアッシュと対面した時、動きを見せる存在が居た。
「クロ!?」
クロが動いた。レインと同じ構え。姿勢を瞬時に低くし、左腰の刀へと手を当て。
彼女は、加速した。
突然の出来事にすぐ反応できたのは、レインとサンラク、そして当の本人。ヴァイスアッシュだけだろう。エムルやお付きの兎は、そもそもクロが動いたことにすら気がついていない。
次の瞬間。エムル達が何が起こったか理解した瞬間には、
「――やあ、久しぶりだねウサギちゃん?」
「……ああ、間違いねぇ。その気迫、やっぱりお前か。『名のない獣』、いや。あえてこう呼ぼうか。『黒い星渡鳥』」
座するヴァイスアッシュの首元に、その首めがけて横薙ぎの刃を寸止めしたクロが居たのだから。
「クロ!暴れないって約束、」
「大丈夫だよシロ。これぐらいならただの挨拶。久しぶりに、ああ本当に久しぶりに永いこと会ってなかった知り合いに会えたからちゃんと挨拶しないとって思ってね」
突然の出来事に流石のレインとサンラクも動揺する。そして、エムルやお付きの兎たちは大慌てして、どうすればいいのかというようにあたふたしている。
それを制したのはヴァイスアッシュだ。首元に真紅の刃を持つ刀を突きつけられているにも関わらず、落ち着けというように右手を翳してみせた。
「やっぱりな、話を聞いた時にありえないと思ったが……やはりお前だったか。なんで生きているのか、なんてのは聞かねぇ。だがな、ひとつだけ聞かせろ。 ――俺等の首を獲りにきたいのかい」
「そうだね、それはいいね。ウサギちゃんがあの頃から何も変わっていなければ、そうしたかもね」
『だけど』、とクロは続け。そして、刃を下ろし、刀を鞘へとしまった。
「どうやら、キミも色々と変化があったようだ。それに、今の私は旅人。そして、シロの味方だ」
「安心しろ、俺等はお前さんの主に何かしようとする気はねぇんだ」
「うん、それが直接聞きたかった。だって、もしシロに何かする気なら本気で私は怒るし、その時は今みたいな挨拶じゃ済まないからね」
「相変わらず、恐ろしいやつだ。なら、もし敵対すればお前さんは世界を滅ぼすのかい?」
「いいや、違うよ。私はシロと開拓者の味方。その時はそうだね。"世界さえも敵にするよ"」
相変わらず恐ろしい相手だ、そうヴァイスアッシュは内心で思う。同時に思うのだ、自分を含めた中でウェザエモンを除いて最初に彼女に出会ったのが、ある意味では自分で良かったと。もし、別の奴が最初に接触していたらどうなっていたことか。
踵を返し、何事もなかったかのようにクロはレインとサンラクの下へと戻っていく。それを見送りながらヴァイスアッシュは、
「クロ」
「あー……えっと、ごめんねシロ、サンラクも。ちょっと挨拶をね?」
「今日のご飯抜き」
「ごめんなさいやりすぎました!それだけは勘弁してシロぉ!」
「反省して。じゃあ今日は保存食ね」
「サ、サンラクぅ……反省してるからキミからも交渉して……!」
「判決、ギルティ」
がくり、と。クロが畳へと崩れ落ちた。『ごはん、わたしのたのしみ……今の世界のごはん……』と、この世の終わりのような顔をしてそんなことを呟いた。それを見てサンラクは『世界滅ぼしかけたやつが飯のことでそんなに世界滅びそうな顔するか……?』と思った。
クロは元々神代の存在、しかも極めて特殊な存在だった。だからこそこうして世界を自由に歩けるようになった彼女の楽しみの1つは、食事だった。
原則として、実体がある状態でも今のクロはシロ。レインの周囲でしか行動できない。そして彼女の食事代、見方を変えると元々は獣だったわけなので餌代を支払っているのはレインである。つまり、食事という点。その生殺与奪はレインにある。
流石に少しかわいそうになったが、今回はレインは心を鬼にした。よって、本日の食事は保存食。硬いパンと、食えなくはないが生臭い魚の瓶詰め、干した肉である。慈悲はない。
そんな光景を見ていたヴァイスアッシュは唖然とした表情をしていたが、すぐにそれはもう心の底から楽しそうに笑った。まるで、今のクロに対して本当に良かった、とでも言うように。
「中々面白そうなことになってるが、そろそろ俺等の話をさせてもらってもいいかい」
中々愉快な光景だ。そう思いつつも、ヴァイスアッシュは本題を投げかけた。
なお、最初に接触したのがヴァイスアッシュか特定のやつじゃなかったら割とヤバかった。
クロのユニークモンスターに対する好感度的なものはこんな感じ。
リュカオーン:座ってろ駄犬、シロに何かしたら許さない(好感度中の下)
ヴァイスアッシュ:まだ話が通じる。シロを害さない限り信じてもいいくらいには思ってる(好感度高)
クターニッド:話を聞いてやらんこともないがシロに手を出したら許さん(好感度並)
ゴルドゥニーネ:喧嘩売ってきた瞬間全力で殴り返すよ(好感度)
ジークヴルム:シロと気が合いそうだね、ドラゴンさん?(好感度高)
オルケストラ:もういい、もういいから休んで(好感度高)
ウェザエモン:最大の恩人にして、信頼できる数少ない人間二人の内の一人(好感度最大)
最初の内にエンカの可能性があるものだと、ジークヴルムと接触すると再会を祝した後に殴り合いをしてなんか仲良くなってるのでパーフェクトコミュニケーション。リュカオーンなら、レインに手を出された瞬間『そういう対応とるんだ、わかった』と言って戦闘開始。
理想はジークヴルム。こいつだけウェザエモン除くと一番クロから好感度が高く、レインとも性格的な意味でも相性がいい。ヴァイスアッシュは本来ラビッツを訪れてかつ条件達成しなければエンカしないが、好感度的にはジークヴルムに次いで二番目。